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最高のご馳走

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第三章

「どうにも」
「そうですか」
「何故かな」
 食べつつ首を傾げさせる。
「これは」
「謎は解けました」
 田中はくすりと笑ってだ、菊池に答えた。
「今しがた」
「あっ、わかったんだ」
「明日は他の方と一緒に食べられてはどうでしょうか」
「太田君が作ったものをだね」
「はい、そして出来れば」
 さらに言う田中だった。社長室で今は食事の話をしている。見れば社長室としての機能は充実していて簡素だ。菊池も他の会員も食道楽だが他の贅沢には興味がないのだ。こうしたところも美食倶楽部である。
「同じメニューを」
「僕が今食べている」
「そうされてはどうでしょうか」
「味付けもだね」
 菊池は太田に問い返した。
「そのままだね」
「はい、そうです」
「織田信長と違って」
「信長は味付けを変えていましたね」 
 都である料理人に料理を作らせた逸話だ、料理人は最初都の味にしたが信長は水っぽいと怒った、だが次の日田舎風の味にしたら美味いと言ったのだ。
「ですが」
「それでもだね」
「味付けの仕方もです」
「今日のままだね」
「はい、田中さんにそうして作ってもらっては」
「そうだね」
 太田の言葉を聞いてだ、菊池は頷いた。
 そしてだ、秘書である彼にこう言ったのだった。
「じゃあ田中さんにはそうしてもらって」
「お一人でなく」
「誰かと食べてみるよ」
「それでは」
「田中さんの腕は確かだよ」
 このことにはだ、菊池は絶対の信頼を置いていた。だからこそ雇い入れているのだ。
「しかし何故か今一つ物足りない」
「今日はそう感じられましたね」
「その物足りなさの答えは何か」
「私の考えが正しければです」
「明日の昼にその答えが出るね」
「そうなると思います」
「それじゃあね」 
 菊池は大田の言葉に頷いた、そしてだった。
 彼はその夜も美食を楽しんだ、料亭に入り懐石料理を楽しんだ。その時は他社の社長とビジネスの話をして一緒にだった。
 食べた、そして次の日の朝は妻と二人の息子と生まれたばかりの娘と食べたがだ。その時はだった。
「あれっ、美味しいな」
「普通のお粥よ」
 今朝は妻の萌が作った、当然ながら料理上手だ。もう三十代だが肌はまだまだみずみずしく顔立ちは人形の様だ。
「日本風の」
「よく食べている」
「そうよ」
「そうだね、けれどね」
「普段通り美味しいっていうの」
「いやいや、この前は皆忙しくて一人で食べたね」
 彼一人での朝食だったというのだ。
「その時はね」
「こんなに美味しくなかったの」
「君が作って同じ食材だった」
「お粥でも」
「それでもね」
 こう言うのだった。
「今日は余計に美味しいね」
「そうなの」
「君も料理上手だがね」
 だからこそ結婚したふしがある、菊池の美食は本物で家庭の料理にも向けられているのだ。その関心を。 
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