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聖闘士星矢 黄金の若き戦士達

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734部分:第百十話 薔薇の毒その五


第百十話 薔薇の毒その五

「今敗れたな。その三つの薔薇だ」
「黒薔薇は出すまでもありません」
「それでは貴様にはもう手はない」
 アフロディーテ自身にこのことを告げてみせた。
「薔薇はもうない」
「確かに薔薇はもうありません」
 アフロディーテ自身もそれは認めることだった。
「ですが」
「ですが、か」
「私の技は薔薇だけではありません」
 ミシェイルを見据えながらの言葉だった。
「それは申し上げておきます」
「聖闘士の中でも随一の美貌を誇り」
 ミシェイルの言葉がここで変わった。
「その貴様の象徴である薔薇を使わない技か」
「意外でしょうか」
「確かにな」
 その通りだという。ミシェイルもだ。
「それはその通りだ」
「左様ですか」
「だからこそ余計に見たくなる」
 こう言ってであった。小宇宙をさらに高めさせてきてだった。
「私の最大の技で敗れるか」
「私がその技を出すかですか」
「その勝負だ。見せてもらう」
 今まさに赤い小宇宙がさらに沸き起こる。
「貴様のその最大の技」
 そしてだった。
「薔薇を使わない技をだ」
「かつてこの技を使った時は」
「今の貴様ではないな」
「そう、過去の私です」
「しかも私と闘った時ではない」
 彼等もまたその時の記憶を持っているのだった。より正確に言えば思い出したのである。これまでの戦いの中で己の力をさらに高めてだ。
「それは」
「先の聖戦です」
 その時だという。
「あの時でした」
「ハーデス様との戦いか」
「それから出すことはないと思っていました」
 アフロディーテ自身はそう考えていた。しかしであった。
「ですが」
「そうはいかなくなったな」
「はい、その通りです」
 まさにそういうことだった。思いも寄らぬことにだ。
「しかし今こうして」
「あの聖戦での貴様の名前は知っている」
「それはなのですね」
「だがどうして戦ったまでは知らない」
「それはですか」
「ミーノスだったか」
 相手の名前も知ってはいた。
「冥界三巨頭の一人、天貴星グリフォンのミーノスだったな」
「そう、彼でした」
 アフロディーテもこのことを思い出していた。その先の壮絶な闘いのことをだ。
「私は彼と闘いました」
「そしてお互いに倒れたのは知っている」
「ミーノスとのお知り合いでしたか」
「知らぬ訳ではない。アーレス様とハーデス様は近い」
 アーレスの数少ない理解者がハーデスなのだ。オリンポスで孤立し認められることのなかった彼にとっては何よりも喜ぶべき存在なのだ。
「だからこそ我等狂闘士と冥闘士もだ」
「知り合っているのですか」
「仲がいいとは言えないが」
 そこまではいかないのだという。
「仕える神はそれぞれ違う。そこまではいかぬ」
「あくまで仕える神は、ですか」
「それにミーノス自身も好かぬ」
 ミシェイル自身の好き嫌いも存在していた。
「あの様に他の者を操りいたぶることによって悦に入る者はだ」
「好きになれませんか」
「貴様に倒されてのも道理」
 冷たい言葉だった。
「所詮その程度だったのだ」
「そう仰るのですね」
「だが。私は違う」
 彼はだというのだ。
「貴様を私自身の力で倒す」
「御自身の力で」
「しかもだ。苦しませたりいたぶることもしない」
 それもないのだという。確かな言葉だった。
「楽に死なせよう」
「それは有り難き御言葉。しかしそれは」
「それは?」
「私もまた同じこと」
 アフロディーテもなのだというのだ。
「貴方を苦しませることはありません」
「それは趣味ではないか」
「美しくありません」
 その行為自体について言ったのだった。
「ですから」
「そうか。だからか」
「では。今から」
「どちらの技が上か。勝負だ」
 こうして二人の最後の応酬がはじまった。彼等の戦いもであった。


第百十話   完


                2010・4・5
 
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