提督はBarにいる。
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提督と艦娘達の夏休み~浜遊び編・1~
さてさて、夏休みも4日目。折角の機会だからと俺は金剛に半ば引きずられる様にして近くの浜辺まで遊びに来ていた。
ちなみにこのブルネイに限らず、海水浴場やビーチというのは軒並み使用不可能になっている。まぁ、深海棲艦が襲ってくるかも知れない海辺で遊ぼう、なんて奴は余程の馬鹿か胆が座りすぎている奴だけだと思うが。一応ウチの連中が警戒しているので使える事は使えるのだが、それでも近寄る人間はほぼいない。さながらプライベートビーチ状態だ。
「おい金剛、2~3質問があるんだが?」
「Oh,私の今日の水着の色デスか-?」
「聞いてねぇよ、そんなもん。まず1つ目、ウチの連中何人来てるんだ?」
「エ~ト……ほぼ全員ネ」
金剛の言う通り、砂浜の賑わい方を見ていればウチの鎮守府に所属する艦娘の殆どが集結しているのが解る。
「じゃあ2つ目、鎮守府の警備体制はどうなってる?」
「そっちもぬかりないネー。明石と夕張が作った警備システムがネズミ一匹逃がさないヨ!」
内容を聞くのが恐ろしくなるから、中身は聞かないでおこう。どうせろくでもねぇ。
「じゃあ最後の質問……なんで海の家ができ上がってんだ、あぁ!?」
俺の指差した先には、木造の情緒溢れる海の家が2軒建設されていた。その内1軒の看板には『海の家 間宮』と書かれており、もう1軒の看板には『Bar Admiral出張所』と書かれている。
「しかも何で勝手にウチの店が出張する事になってんだコラァ!」
俺は絶叫しながら金剛の頭にアイアンクローを決め、ギリギリと締め上げる。
「ヘ、ヘイdarling!?頭の中から変な音がしてるヨー!ミシミシって……潰れる!潰れちゃうネー!」
ギャアギャア喚く金剛を無視し、更に締め上げる。最近嫁さんだからと甘くなってたからな、少しこの辺でシメておいた方がいいだろう。そもそも、俺に無断でこんな事をしている時点でアウトだろう。
「これに懲りたら俺に無断でこんな事はしない事だな」
「イ……イエッサー…」
失神寸前で金剛を解放してやり、フンと鼻を鳴らす。金剛は荒く息を吐きながら涙目のまま蹲っている。
「提督~、待ってたよ~♪」
声のした方に目を向けると、真新しい水着を着た鈴谷達が手を振っている。そういえば、新しい水着買いに行ってきたって言ってたっけな。鈴谷は白のビキニにエメラルドグリーンのパレオ、熊野と最上はそれぞれピンクと水色のビキニで、胸元のボリュームに自信がない為なのか、ティアードフリルと呼ばれる何段ものヒラヒラを付けてボリュームを出している。四姉妹の中で一番際どいのは三隈で、制服の上着に近い色の水着……というか紐と見紛うばかりの水着を着けている。一応大事な局部は隠れているが、数ミリずれただけでポロリしそうな際どさである。
「へっへっへ~、どうどう?ムラッときちゃった?ねぇねぇ」
ニヤニヤと笑う鈴谷の顔は、からかうようなエロ親父のそれだ。
「あのなぁ……彼氏持ちにいちいちムラッと来てたら俺は最低野郎じゃねぇか」
俺だって恋人がいる奴に手を出さない位の分別はある。大体毎度毎度の事だが、彼氏持ちのクセに俺を誘惑して何がしたいんだ鈴谷の奴は。
「む~、そういう態度だからからかいたくなるんだってばぁ!」
「はいはい、可愛いよ鈴谷。他の連中も殆どが水着だな」
見ればビキニやワンピースタイプが多いが、スク水……は潜水艦の連中か。それに競泳用の水着を着てる奴もいる。中でも蒼龍が競泳水着を着ている姿は圧巻で、どこがとは言わんが前と後ろがパッツンパッツンで、ちょくちょく指でポジションを直している手つきが妙にエロかった。他にもデカいのやら形が良いのやら小さくてもすべすべな奴もいたりと、選り取りみどりだった。桃源郷かここは。
「さぁさぁ、darlingも着替えるネー!」
アイアンクローのダメージから漸く復帰したらしい金剛に背中を押されつつ、妖精さんが突貫工事で建てたらしいロッカールームに押し込まれる。
「んな事言ったって俺は水着なんて持ってきてねぇぞ?」
「No problem!ワタシが準備しといたヨー!」
嫌な予感しかしないんだが。ずらりと並んだロッカーを見ると『テートク用』と書かれたロッカーがある。開けてみると、中には
・黒のTシャツ(龍のプリント付き)
・青のパーカー
・ビーチサンダル
・ブーメランパンツ
が入っていた。
「なんでだよ!」
思わず突っ込みを入れてしまった。なんなんだよ、なんでブーメランパンツだよ。罰ゲームか何かかコレ!?何が悲しくて四十過ぎのオッサンがブーメランパンツはかにゃならんのじゃ。……ん?よく見ると奥の方にビニール袋がある。中身を見るとメモと一緒に波のプリントが入ったトランクスタイプの水着が入っていた。メモには、
『金剛さんが選んでいた水着があんまりだったので、コッソリ入れておきました 鳳翔』
ナイスだ鳳翔。そうじゃなければ俺はこのままロッカールームに籠城する所だった。そそくさと着替えて外に出ると、期待の眼差しで待っていた金剛が、俺の海パンを見てあからさまに落ち込んでいた。
「あぁ……折角ワタシが選んだのにぃ!」
「あんな恥ずかしいの履けるかバカ野郎!」
そう言って突っ込み代わりの飛び蹴りをかますと、吹っ飛んでいく金剛。まぁ、下は砂浜だし大きい怪我はしないだろう。最近自重しねぇからな、アイツ。さっきのアイアンクローと合わせていい薬だろう。どうせ期待されてるんだろうし、海の家とやらを覗いてみますかねぇ。
出入り口をくぐると、中は俺がいないせいか誰も居なかった。4人掛けのテーブル席が6、カウンターが8つ。最大30人くらいは入れる計算か。
「冷蔵庫に、酒の棚に……ガスコンロがねぇな。料理は間宮の方に丸投げ、って事か」
つまりは俺にドリンク類の方を頼みたいってトコだなこりゃ。フルーツも結構揃ってるし、客が来たら振る舞ってやるか。
「あれ、提督?いらしてたんですか」
「あぁ、榛名か。お前も遊びに来てたんだな?」
「えっ、えぇまぁ……折角新しい水着を買ったので…その……」
新しい水着を買ったと言ってはいるが、その上から白のパーカーと白いパレオで完全に覆い隠してしまっている。恥ずかしがり屋の榛名らしいといえばらしいが、実に勿体無いと思う。金剛に負けず劣らずのナイスバディなのに……っと、それはそれとして。
「もしかしてドリンク飲みに来たのか?だとしたら生憎だがまだ準備中だぞ?」
「いっ、いえ!そうじゃないんです!榛名はあまり暑いのが得意ではないので……よければ、ここで提督のお手伝いをさせて頂けませんか?」
上目遣いでもじもじしながら尋ねて来る榛名。こんな風にお願いをされて断りきれる男が何人いるだろうか。断れるのは余程の朴念人か女に興味がない奴だと思う。
「あぁ、構わんぞ。ちょうど人手も欲しいと思っていた所だしな」
「あ、ありがとうございます!榛名、一生懸命がんばります!」
「いや、別にそんなに気張らんでもいいからな?」
ちょっと姉2人に似て空回りしそうな雰囲気を感じつつ、俺は『Bar Admiral』の出張所をオープンさせた。
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