提督はBarにいる。
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提督と艦娘達の夏休み~縁日デートは危険な香り編・1~
エアコン無しの猛暑の中、アイスをかじりつつどうにか仕事をやっつけきった。ついでに明石も汗だくでエアコンの修理を終わらせた。ご苦労だったと風呂を使う許可を出し、俺も着替えに向かう。
金剛との相部屋に向かうと、非難がましい視線を向けてくる金剛に出くわした。鼻っ面が赤くなって目がウルウルしているのを見る限り、縁日デートの話を誰かから聞き付けたのだろう。
「ヘイdarling!デートとはどういう事デスか!?」
「どうしたもこうしたも……聞いての通りだよ」
「そーいう事を言ってるんじゃないデス!いつからdarlingはロリコンになったの!?」
……ハイ?何を言ってやがりますかねこの人妻は。
「オイオイ待て待て、なんでそんな話になる?」
「だって今日のデートの相手は駆逐艦だと聞きましたよ!?私に飽きちゃったデスか!そんなに若い娘がいいの!?」
いやまぁ確かに相手は村雨だから駆逐艦ではあるが。う~……と唸りながら未練がましい視線を向けてくる愛妻を、グッと胸元に引き寄せて抱き締める。
「お前ねぇ、俺に対して信用が無さ過ぎだろうよ。そりゃあジュウコンしてる奴等と浮名を流したりはするぞ?それはお前も了承してるしな」
「イエ~ス……それは私も納得してるデス」
制服に顔を埋めたまま、モゴモゴと喋る金剛。正直くすぐったいんだが。
「でもなぁ、ケッコンもしてない奴相手に一線を超えるようなバカな真似を俺がすると思うか?」
「そ、それはそうデスけど……」
俺だって村雨だってこの鎮守府のルールは理解している。それを破れば俺はともかく、村雨がどうなるかなんて想像もしたくない。
「縁日デートって言ったって、屋台を回って食べ歩きしたり遊ぶ位の健全なデートだぞ?チューくらいはされるかも知れんが、変な事にはならねぇよ」
「う、うん……」
「それとも何か?お前と嫁艦連中で飲み歩くのに乱入してやろうか?」
俺が知らない筈の予定を口にした事で、金剛が( ゚Д゚)←こんな顔になって焦っている。
「だ、darlingなんでそれを……」
「俺の諜報能力を侮ってもらっちゃあ困るなぁ~んん~?」
ニヤニヤと笑いながら形勢が逆転した事を確信した。これは赤城からスイカを食べながら聞いたのだが、ケッコンしたての娘も増えたので改めて親睦会をしようと金剛が発起人で企画されたらしい。恐らく半分以上は女同士でしか出来ないような生々しい話になるのだろう。
「の、ノーよ!絶対に来ちゃダメだからね!?」
「なら、こっちも黙って送り出して貰わないとなぁ?」
金剛がガックリと項垂れる。舌戦を制したのを勢いにして、俺は縁日デート向けの服装に着替える。村雨とは縁日会場の神社で待ち合わせだ。本人曰く、
『鎮守府から一緒だと、デートって言うより提督が引率者みたいじゃない?』
だそうだ。中学生か。
街の中程にある神社から、祭り囃子と提灯の仄かな届いてくる。少し駆け足だが問題ない。……さっきからこっちに向かってくる人々に避けられているような気がしないでも無いが、気にしないでおこう。
「すまん、待たせたか?」
朱塗りの鳥居に寄り掛かるようにして待っていた村雨に声を掛けた。
「ううん、予定より30分も早いよ提督。焦りすぎだってw 」
少し苦笑いが混じったような気がしないでも無いが、まぁそれは置いておこう。それよりも村雨に聞きたい事が出来た。
「なぁ村雨、縁日デートだって言ってたよな?」
「……うん、言ったわよ?」
「何で女子が1人から4人に増えてんだ?」
俺の視線の先には、
「提督がいっちばんおっそーい!」
「女の子を待たせるのは失礼っぽい!」
「まぁまぁ、僕たちが早く来すぎたんだよ」
彼女の姉妹艦である白露・時雨・夕立が、それぞれ浴衣をバッチリ着込んで待ち構えていた。
「いや~……出る時に見つかっちゃって」
苦笑いを浮かべたままの村雨の両肩を、時雨と夕立が片方ずつ掴む。
「抜け駆けは許さないよ?」ギリギリ
おい夕立、っぽいはどうしたぽいは。そして眼のハイライトさんが息してない。
「そうだよ……それに村雨はまだ錬度87だろ?ケッコンなんて当分先の話だよ、すっこんでろよ」ギリギリ
そして時雨よ、いつもの丁寧な口調はどうした。そしてこっちもハイライトさんが息してない。
「あら、提督が言い出しっぺのデートなのよ?お邪魔虫は今からでも帰ったら?」
村雨よ、お前もか。村雨の眼からもハイライトが消え失せて、3人の周りにはどす黒いオーラのような物が見える(気がする)んだが。どうすんだよコレ、こんな美少女3人に好意を向けられるなんて願ったり叶ったりだが、全員ヤンデレは勘弁願いたい。
「あーもう、提督さんが絡むといっつもこうなんだから……」
白露は至極面倒くさそうに、溜め息を吐いている。え、これ日常茶飯事なの?
「ど、どうすりゃいい?」
「あ~……提督さんがケンカは止めろって言ったら止めるんじゃない?皆提督さん大好きだし」
「そ、そうか…。おいお前ら、ケンカするなら俺はこのまま帰るぞ?」
勿論帰るなんてのは冗談なのだが、3人に立ち込めていたどす黒いオーラは瞬時に引っ込み、
「ご、ごめんね提督。もうケンカしないから帰らないで~?」
「もうケンカしないっぽい~!仲良くするっぽい~!」
「僕たちもはしゃぎすぎたんだ、許してくれるかい?」
と口々に言いながら抱き付かれた。腰の辺りに当たる6つの柔らかな感触が俺の不安も和らげてくれるようだ。……だが、この3人は要注意だな。今後も。
しかし、改めて4人の浴衣姿を観察すると、それぞれの性格によく似合っている。
白露……白地に向日葵の染め抜き
時雨……黒地に赤い椿
村雨……薄い紺に朱牡丹
夕立……白とグレーのチェックに金魚
「……うん、皆よく似合ってるな」
「「「「ホントに!?」」」」
そう褒めてやるとさして興味の無さそうだった白露も嬉しそうだ。やはりそういう所は女の子してるんだな。……え、俺の服装?俺は浴衣じゃなくて甚平だが。
提督……上下黒地に龍の染め抜き、丸レンズのサングラス、雪駄
「ちょっと、厳つい……よね?」
白露がそう言って口火を切ると、
「う~ん、知り合いじゃなかったら近寄りたくないかな?」
村雨に追撃され、
「迫力が3割増、って感じだよ」
時雨に瀕死に追い込まれ、
「う~ん、ヤクザさんっぽい?」
夕立にトドメを刺された。そこまでボロクソに言わなくてもいいと思うんだが……orz
「まぁまぁ、気を取り直して縁日を楽しも?提督」
ムニュッという嬉しい感触が左腕に。
「僕たちも楽しみにしてたんだ、ちゃんとエスコートしてね?提督」
今度は時雨が右腕に。こちらも柔らかい。
「夕立も抱き付くっぽい~♪」
夕立は背後からムギュッときた。白露はその状況を冷めた目で見ている。
「はいはい、さっさと行くよー」
サバサバした感じの白露を先頭に、遠目から見ると騎馬戦の騎馬に見えなくもない奇妙な姿で俺達5人は縁日の喧騒の中へと歩を進めた。
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