非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜
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第45話『絶望への誘い』
前書き
前半は晴登パート、気になるユヅキパートは後半です。
頬を撫でる不穏な空気。
晴登はそれを感じながら、己の失策を悔やんだ。
「無理してでも上を行くべきだったか…」
いくら言い訳しても後の祭り。
目の前には唸りを上げる、10頭を超えるウォルエナの小さな群れがあった。ちなみに、その全ての標的は晴登である。
こんな事態に陥った背景としては、大通りを移動していたからである。魔力の温存を兼ね、屋根の移動を避けた結果だ。
頑張って避けてたつもりだったが、こうもあっさりと襲われるとは思わなかった。正直、切り抜けられるかは微妙なところ。
「そんなこと言って、死んじまったらどうしようもねぇだろ。どうすれば・・・」
辺りを見回すも、特にヒントは見当たらない。選択肢は、戦うか、上手くかわすか、だ。
「結局、魔力を使うことに変わりはないんだな!」
晴登は前者を選択し、先手として強風を展開。ウォルエナがその勢いに怯んだ瞬間を見計らって、
「初めてだけど、やってみるか!」
晴登は手刀を構えて魔力を込め、横に大きく振るう。
すると、空気が歪み、三日月型の風の刃が現れる。それは次の瞬間、多勢のウォルエナに襲いかかった。
直撃──そして貫通。
一見、奴らに被害はない。
「と見せかけて・・・」
しかし晴登が不敵に笑うと、ウォルエナはバタバタと倒れ伏せた。
血の一滴も出すことなく、静かに相手の息の根を止める。それが、晴登が編み出した技、
「その名も、“鎌鼬”だな」
マンガからインスピレーションを得て完成させた、少々残酷な技。対人には憚られるが、対獣なら遠慮はしない。生き残るためだ。
「ユヅキ! どこだ!」
晴登はウォルエナを飛び越えながら、大通りを駆ける。
視界に広がる街の景観はさっきよりも更に悪化しており、紅い血の色が目立った。
とにかく死体には目を向けず、晴登は前進し続ける。
「そういえば、アランヒルデさんはどうなったんだろう」
ふと、恩人の姿が頭をよぎる。最強と呼ばれる彼ならば、あの状況を脱するのも、ウォルエナを殲滅するのも容易いだろう。なんだ、思ったより状況は悪くない。
北方の大討伐を行ってる騎士だって、いずれは王都に戻ってくるはずだ。
「希望・・・見えてきたぜ」
晴登は薄ら笑いを浮かべ、尚もユヅキを捜した。
*
「手間が掛かるぜ、全く。他の騎士が弱すぎるんだよ」
愚痴を吐きながら、路地裏から大通りに出てくる1人の男性。
赤い髪を乱暴に掻きながら、彼は街の惨状に顔をしかめる。
「あーあーこんなんになっちまって。結構気に入ってるのによ」
歩を進めながら、男性は大通りを見渡す。
その姿は無防備そのものであり、今ウォルエナの狩り場となっているこの大通りでは格好の獲物だった。
もちろん、そんな獲物を逃がすはずもなく、数頭のウォルエナは彼に集う。
「おいおい、群がってくんなよ。何も持っちゃいないぞ?」
両手をヒラヒラとさせ、危険はないと表明する男性。
しかし魔獣にとっては、その行為は本来の意味を持たず、威嚇としか捉えられない。
男性はそれを察しると、手を下ろしてため息をついた。
「ったく、後悔すんのはお前らだってのによ」
男性は臆することなく、群れの中へ足を踏み入れた。
殺意と、黒笑と共に。
*
「さて、ユヅキはどこだろう…?」
物陰に潜みながら、大通りを彷徨くウォルエナの様子を窺う晴登。その間も、ユヅキを捜す算段を模索中だ。
「大通りだけだったら単純で捜しやすいけど、路地裏にいるとなると・・・マジで厳しい」
この王都の土地面積の内、路地裏は約7割を占めるという。
もしそんな所にいられては、捜す行為自体が億劫だ。いざとなったら行くけども。
「ユヅキのことだから、きっと心配してるんだろうな・・・ん? 心配、してくれてるよな…? え、してくれてるよね?!」
思いがけない疑心暗鬼。それに釣られて、無意識の内に声が大きくなってしまう。
今まで2日間を過ごした仲だ。心配くらいはしてくれるだろうと、何とか自分で納得してみる。
だが一瞬洩らしてしまった大声は、とある災厄を引き寄せた。
「グルッ…」
「あ、やべ!」
晴登はその災厄に気づくや否や、猛ダッシュで逃げた。だが魔術は一切使っていないため、すぐに追いつかれる。
「ガウッ!!」
「うお! …鎌鼬っ!!」
跳びかかってくるウォルエナを、新技で何とか撃退。
だが、状況は一向に好転していなかった。
「また囲まれた…!」
「「「グルル……」」」
逃げる際に大通りに飛び出したせいで、全包囲をウォルエナに囲まれてしまう。
まさに自業自得。自分に甘え、声を張るのを許してしまったのだから。
しかしこうなった以上、突破するしか道はない。晴登は再び手刀を構え、新技の準備をした。
──だが、
「ガウッ」
「痛っ!!」
魔力を溜めようと気を逸らした刹那、1頭のウォルエナに左脚の太股を食らい付かれる。牙が深々と突き刺さり、脳天に痺れるように痛みが伝わった。
晴登は表情を歪めつつも、自分の脚に喰らい付くウォルエナを睨むと、
「こ、のぉ!」
痛みを堪え、必死な思いで魔力を振るう。
何とか齧っている奴は引き剥がせたが、晴登は絶えず襲う激痛に絶叫した。膝をついて蹲り、ひたすらに耐える。
そんな隙だらけの晴登を、ウォルエナが逃す訳もなく、残りのウォルエナ全てが晴登に襲いかかった。
「く…ああぁぁぁ!!」
まさに火事場の馬鹿力。過去一の勢いで巻き上がる暴風がウォルエナを四方八方に吹き飛ばす。
吹き飛ばされたウォルエナは、地面や壁に思いきりぶつかり、鈍い音を立てて動かなくなった。
荒い呼吸を繰り返して、晴登は己の生存を確認。
なんとか九死に一生を得た晴登は、左脚を引きずりながらウォルエナから離れるように走った。
「あ、あぁ…」
もはや歩くのと同等のスピードになってしまったが、晴登は全力だった。
今まで味わったことのない痛み。それが一歩を踏み出す度に電撃となって頭に伝わる。
ついさっきまで状況を楽観していた自分が馬鹿らしい。油断すれば一瞬で痛みを味わうのが、この理不尽な世の中の理だというのに。
「ゆ、ユヅキは…?」
だが、痛みによって頭が冷やされた。
この惨状がどれほどまでに危険なものか。それを改めて思い知らされたのだ。
未だにどこに居るのか不明だが、早くユヅキと逃げなければならない。
しかし、運命は非情であった。
晴登の真横の路地裏から、1頭のウォルエナが槍の如く飛び出してくる。突然の事態に、咄嗟に左腕で攻撃を防ぐのがやっとだった。
「あぁぁぁぁ!!!」
人間の腕1本、奴らには木の枝と変わりない物だろう。牙が二の腕辺りに突き立てられ、2度目となる激痛が頭に伝わった。グリグリと、牙で抉られる感覚を味わう。
「は、放せぇ!」
腕をもがれる前にと、後先考えない渾身の"鎌鼬"。
それはウォルエナの身体を両断し、胴体だけが地面に虚しく墜ちた。
逆に、変わらず意識の消えた頭部が、晴登の二の腕に喰らい付き続けている。
「はな、れろ…!」
右手を使って何とか引き剥がす。牙が抜けた瞬間にも、痛みが走った。左脚の痛みも合わさり、晴登は再び膝をつく。
その際、屍と化したウォルエナの残骸が目に入った。
「うぇ…」
右手で口を覆いながら、何とか嘔吐を堪える。
今まで意識しないようにしていたが、ここまで様々と見せつけられれば、さすがに気持ち悪さを感じた。
マンガとかで散々こんなシーンを眺めてはいるが、いざ実際に見ると変な想像が頭に働くのだ。自分が死ぬ瞬間とか・・・
「やめろ、考えるな…」
晴登は大きく深呼吸し、何とか意識を保つ。
だが依然と荒い呼吸は収まらず、何度も深呼吸をする羽目になったが。
「行かなきゃ…」
朦朧とする意識の中、晴登は立ち上がる。
無論、捜索を再開するためだ。
ユヅキが王都の外か避難所かどうかは、この際知らない。
こんな地獄に独りで閉じ込められている可能性、それがあるだけで『自分だけ逃げる』なんて選択肢は消えていく。絶対に、置いてはいけないから。
痛みを堪え、右脚だけで身体を支えるのは至難の業。
だが、やらなければならない。そしてこのまま、進まなければいけないのだ。
「おいっ…どこだよ、ユヅキ?!」
そして晴登は、絶望へと一歩を踏み出した。
「残念だよ」
その背後から、氷柱が飛来してきたことにも気づかずに。
*
「何を…言ってるんですか?」
数秒前にされた質問の内容を反芻しながら、ユヅキは言った。反芻といっても、一切の理解はできていない。
「おっと、直球過ぎたかな。でも、そのままの意味だよ」
仮に質問を受けるなら、答えは否。
しかしそれ以前に、彼の発言の意図をユヅキは一切掴めないままだった。
そんな無反応なユヅキがつまらないのか、青年は困ったように頭を掻く。
「無言、か…。僕だって、こんなことを冗談で訊いている訳じゃないんだよ?」
「じゃあ、どうして…?」
ユヅキが問うと、彼は肩をすくめて語り始めた。
「──僕はここに来る間に、たくさんのウォルエナを見た。まさか王都に大量のウォルエナが出現するなんて、悪夢にも思わなかったね。さて、そこでだが・・・」
青年はそこで言葉を切る。どうやら、ユヅキの反応を窺っているようだった。
もちろん、ユヅキは無理解ゆえに無表情だが。
「…僕は察したんだ。このウォルエナの群れは、人為によるものだとね」
「え!?」
ようやく見せたユヅキの驚きに、青年は初めて薄く笑みを浮かべる。そして、すぐに話を続けた。
「自然にウォルエナが王都に出没するなんてありえない。確かに餌である人間が集まってはいるが・・・所詮は小心の獣だ。好んで入ろうとは思わないはず。だったら話は簡単さ。誰かが裏で奴らを操作してるとすると、この惨状は辻褄があうだろう?」
「・・・で、その操作している黒幕がボクだと…?」
「察しがよくて助かるよ。まだ推測の段階ではあるけどね。けど、証拠はあるよ」
「!?」
彼の発言に、再びユヅキは驚愕の色を隠せない。
証拠? そんなものが自分にあるはずがない。身に覚えはないし、そもそも自分だって被害者なのだから。
しかし余程の自信があるのか、彼は余裕の表情を崩さなかった。
「…何せ君の魔力と、ウォルエナの『首輪』の魔力は、全く同じものだからね」
「首輪…?」
「『首輪』というのは、魔獣に対して付ける主従の証だ。普遍的な魔法じゃないから、知らなくても当然だろう。簡潔に言えば、『人間が魔獣を従えさせるための魔法』だよ」
「そ、それがボクと一緒っていうのは…?」
「『首輪』といっても、所詮は魔法。魔力の造形さ。だったら、『首輪』の魔力とそれをかけた人物の魔力は等しい、そうだろう?」
『首輪』の話は理解できた。だが青年の問いに、ユヅキは素直に頷けない。
もし頷けば、それは自分が元凶だと認めることなのだから。
「僕は魔力が視れる、というのは言っただろ? だから、君のもウォルエナのも僕には見えたんだ。そして、両者も全く同じ質なんだよ。・・・あぁ言い忘れていたけど、人によって魔力の質は変わるものなんだよ。個性、といえるくらいにね。だからこそなんだろうけど、時間じゃ質は変わらない。魔力の質というのは、いわゆる『永久的な一点物』なんだ」
ここまで話を聞いたユヅキは、自分の疑いを否定しきれなくなった。
もし、この人がデタラメを言っているのならばそれでいいが、これが本当の話だとしたら、自分とウォルエナに何らかの主従関係があったということになるのだ。
けれども、ウォルエナと何か契約をした記憶はないし、身に覚えもない。
──強いて言って、魔獣との関連性は1つだけ有るのだが。
「・・・ここまで説明すれば君ならわかるよね? 僕が君のどこを疑っているのかを。別に僕は君をどうこうしようというつもりはない。けどね、街をこんなにさせられて黙っていられる訳もないんだよ」
彼は所々に怒りを込めて話していた。
その敵意は、全部自分に向けられたものだろうか。
「じゃあ、もう一度訊くよ」
ユヅキは、次の言葉でトドメを刺される気がした。
多分、彼は知っている。自分と魔獣の関係を。
ラグナにも、もちろん晴登にもそれは伝えてはいない。そして、日常生活でもそれに感付かれないよう振る舞った。
だけど……この人はわかっているんだ。
「君はこの惨状に心当たりはないかい? 白鬼よ」
後書き
晴登パートは前半、ユヅキパートは後半に入れると言ったな。だが、アランヒルデパートを途中に入れないなんて、誰も言ってないぜ?(←ゲス顔)
…正直な話、晴登パートが長続きしなかったから、字稼ぎで入れたまでです(笑)
さてさて、やりたかったことの大半を終えました。
後は終局に向かうだけです。
え? どうやって終わらせるのかって?
・・・そりゃ、何か起こすに決まってんじゃん(黒笑)
お気づきかと思いますが、今回で晴登はあのシーンに追いつくことになります。この後にわざわざあのシーンを書くかどうかは、迷っている段階ですけども…。
…まぁ、上手くやるとしますか。
ユヅキのカミングアウトも合わさり、次回は楽しくなりそうです。
また会いましょう。では!
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