| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

提督はBarにいる。

作者:ごません
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

末っ娘の涙と提督の祝福


 父の日の騒ぎの翌日から、早速艦娘寮の増設工事が始まった。とは言っても俺の無茶振りのお陰(?)で建物を建てるのはお手の物になっていた妖精さん達。工事は1週間程で終わるとの事だ。まぁ、暫くはこの懐かしい鎚音を聞きながら仕事をするのも良いだろう。

「Hey、darling?」

「あん?なんだ金剛、藪から棒に」

 少し酒の残った頭で書類仕事をやっつけながら、久し振りの秘書艦に就いた金剛の言葉に対応する。

「一昨日言ってた3つめの会議の内容ってなんなんデス?」

「3つめ?3つめ……あぁ、アレか。お前だけいても話せない話だっつったろ?」

 金剛が内容を言うように迫っている話は、当事者がいなけりゃ意味のない話だ。

「どうしても聞きたけりゃあ霧島を呼んでこい、この話のキモは霧島だからな」

「じゃあ行ってきマース!」

 そう叫ぶや否や、執務室を飛び出して行きやがった。あいつめ、まだ仕事も残ってるってぇのに……。

~数分後~

「司令、何かご用でしょうか?お姉様から重要なお話があると伺ったのですが……」

 うわぁ、マジで連れてきやがったよあの暴走系長女。はい、そして困惑してる霧島の背後でドヤ顔して胸張らない。そんなgoing my wayな嫁は放っておいて、困惑したままの霧島に1つの封筒を手渡した。

「本当は業務の後に霧島一人だけ呼び出して渡す予定だったんだがな。文句言うなら金剛に言ってくれ」

「私宛に大本営から……?開けても宜しいですか?」

「当然。お前宛の書類だ」

 そう俺に促されて、霧島は封筒を開ける。中身の書類は俺も事前に確認しているが、霧島の事だ、感動のあまり泣いてしまうかもなぁ。

「『艦娘と陸軍兵士との婚姻に関する覚え書き』……?まさかコレって!」

「まぁ、そういう事だ。この間の会議の発端はお前さんの彼氏君だったんだよ、霧島」




 事の発端は今霧島がお付き合いしている若き憲兵君……橘 慎二君がきっかけだった。付き合い初めから結婚を前提に…と話していた橘君、当然ながら上司であるブルネイの憲兵隊の司令にも報告したらしい。そこの司令は俺もよく知っているが、中々情の厚い出来た人だ。二人の事も全面的に応援する立場だったらしいのだが、何せ海軍の『秘密兵器』である艦娘と陸軍の……それも憲兵との結婚なんてのは初の事態だったろう。憲兵の司令殿が本土に報告した所、憲兵隊の本部からNOが出た。それをどうにかするのを手伝って欲しいと頼まれ、本土に向かうのは遠すぎる、との事で中間位の距離の鎮守府での会談が決まった……というのがこの間の顛末だ。

「いや~、随分骨折りだったぞ?本土の憲兵の石頭共を何とかするのは」

 俺はそう言いながら会談の様子を思い出し、苦笑いを浮かべた。そもそも奴等はハナから結婚など認めるつもりもなく、ギャアギャアと喚き立ててこの会談自体を反故にしようとしていた。前例が無い、海軍は陸軍へのパイプを築いて陸軍の内政に干渉しようとしている、このような越権行為は認められない、だからこの話も無しだ、等と訳の解らない理論武装をしており、全く話にすらならなかった。

「では、どうやってこの書類を引き出したんです……?」

 霧島よ、既に鼻声だから我慢しろとは言わないがせめて顔は拭けよ?色んな液体でぐちゃぐちゃだ。

 まずは前例が無いからこそ作る物だ、という話から始まった。既に艦娘との婚姻は法律として認められているし、ウチにも妙高という前例がいる。貴殿方憲兵隊は日本の法律に定められた事を遵守しないというのか?と責めると、少し勢いが弱まった。そして海軍は陸軍へのパイプを築くつもりなどハナからなく、そもそもが同じ国防の任に就いているにも関わらず陸軍は海軍との協力関係を否定するのか、と言うと顔色が赤くなったり紫になったり目まぐるしく変化した。

「そしてトドメと言わんばかりに言ってやったのよ。『陸軍の使う資源を運ぶ船舶を護衛している艦娘を、貴殿方は真っ向から否定すると言うのですな?それならば私の裁量で、今後一切の陸軍関係の護衛任務は断らせて頂く』ってな」

「ちょ、darlingそれは流石にやり過ぎなんじゃあ……!?」

 金剛の突っ込みも当然な事で、そんな無茶は通らない。流石の俺でも、んな事したら首が飛ぶ。ある程度の裁量が認められているとはいえ、流石に護衛拒否、なんて真似は出来る筈もない。いわばコレはブラフ……相手の自爆を誘ったミスリードだ。

「案の定引っ掛かってくれてな。『艦娘など人の姿をしたバケモノではないか!その様なモノと我が勇猛なる陸軍兵士との婚姻など認められる訳がなかろう!』と憲兵隊の総司令殿が自爆してくれたよ。即座に総司令は捕縛、今頃軍事法廷じゃねぇのかなぁ~?」

 思い出すだけでニヤニヤが止まらなかった。その憲兵隊の総司令は、元々艦娘否定派の急先鋒ではあったものの、立場が立場で手出しが出来なかった。そこで俺が元帥のジィさんと共謀して一計を案じ、結果敵さんはノコノコと落とし穴に落ちた訳だ。無論、陸軍の公式見解は海軍との協力関係は必要不可欠であり、艦娘は人権を認められた立派な「海軍兵士」である。海軍の兵を愚弄し、その人権まで否定した憲兵隊総司令の罪は重い。極刑以外は認められないだろう、と自らの総司令を捕らえた憲兵はそう語っていた。その胸中は知るべくもないが、これで少しはまともになってくれればなと思う。




「ってな訳で霧島よ、お前さんとあの憲兵君の結婚は正式に海軍・陸軍両方から認められた。これは史上初の事だぞ?名誉な事だ、胸を張れ」

「はい…ありがとう…ございます……!」

 霧島はボロボロと泣いて肩を震わせていた。その背後では金剛も、霧島に負けず劣らずぐちゃぐちゃになっていた。

「さて、善は急げだ。6月ももう残り少ないからな、ジューンブライドを挙げるなら急ピッチで式場抑えないとな」

「え? え?」

 混乱する霧島をよそに、電話を手に取る俺。電話をかける先はブルネイの憲兵隊庁舎だ。

「まずは新郎新婦が面突き合わせて打ち合わせせんとなぁ?」

 俺はそう言ってニヤリと笑い、電話番号を入れる。さぁて、忙しくなるぞ。

「ちょ、待って下さいよ司令~!」

 と絶叫している霧島は、とりあえずシカトする事にした。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧