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提督はBarにいる。

作者:ごません
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6月第3日曜日・final

 量が多いコース料理を食べている様だったこのパーティも、いよいよデザート2品を残すばかりとなったらしい。席に戻ると椅子にぐったりともたれ掛かる金剛がいた。

「まったく、どんだけ飲んだんだか……」

 呆れたように俺が呟くと、

「金剛さんは那智さん達に捕まってましたから、許してあげて下さい」

 と、後ろから抱き付かれながら声をかけられた。それと同時に頭にのし掛かる柔らかな触感。

「……何してんだ雲龍」

「…あら、お嫌でしたか?提督はおっぱいが好きだと伺ったので喜んで貰えるかと……」

「雲龍姉さん!自重してください!」

 妹の天城が若干青冷めて叫んでおり、更にその下の妹の葛城は白目剥いて固まってしまっている。その位雲龍型三姉妹の長姉・雲龍はぶっ飛んだ性格をしている。着任した頃から常時眠たそうな表情で喜怒哀楽が読み取り難く、俺を好いてくれているのか他の正規空母の嫁共に負けず劣らずくっつきたがる。しかもボリュームも負けず劣らずの上に露出は圧勝してるモンだから堪ったもんじゃない。

「だから言ってるだろ?そういう事したいならケッコンしてからにしろ」

 前々から言ってある通り、ウチではケッコンすればそういう関係になるのは吝かではない。寧ろこれだけ複数の異性に好かれているのだから喜ぶべき状況だ。……だが、やはり一定のボーダーを設けないと示しが付かない。その為のケッコンがボーダーラインになっている。先日ケッコンを果たした陸奥も、めでたく(?)そういう関係になっている。

「あら、私は今錬度98ですよ?もうすぐですからフライング位……」

「それは許されないわ、雲龍」

 止めに来たのは意外や意外、加賀ではなく瑞鶴だった。

「金剛さんというちゃんとした奥さんがいても、提督さんは私達の気持ちを尊重してくれてるの。だからこそ提督さんが決めたルールは守らないと行けないの。解る?」

「それに、貴女一人の暴走で今のルールが白紙になったら……貴女どうなるか保証出来ないわよ?」

 瑞鶴がそう言った瞬間、此方に飛んでくる殺気を孕んだ視線を感じ取った。正確な数は解らないが、かなりの数だ。ケッコンしている艦だけではどう考えても数が足らない。他にも此方を……というより雲龍を睨んでいる奴がいる。成る程、俺が好かれていると言っていたビス子の発言は正しかったらしい。……好かれ過ぎていて正直怖いんだが。

「……そうね、命あってこその物種だし。ここは先輩方の顔を立てておくわ」

 そう言って雲龍は俺に預けていた体重を除いた。

「けれど、私略奪愛って嫌いじゃないので」

 そう淡々と語る雲龍の目には、迸るような炎が見えた気がした。





「そ、そんな事より私がデザート作ったんです!し、試食お願いします!」

 殺伐とした空気を変えようとしたのか、無理に声を張って皿を差し出して来たのは葛城だった。心なしか緊張が伺える表情だ。

「何を緊張してるんだ?葛城ぃ」

「だっ、だって私あんまり提督と接する事がなかったから……」

 そういえばそうだったか、と思い返してみた。国産の空母としては最後発で着任した葛城は、空母連中皆の妹分のような扱いで何くれと空母の連中が世話してたっけな。……そりゃ自然と触れ合いも減る訳だ。少し反省。

「そりゃ悪かったな。しかしお前も店に顔出せば良いだろ?」

 そういう交流の場としてもあのBarを活用していたんだ、俺は。そういや葛城はウチの店に来た事が無かったように思う。

「だ、だって私あんまりお酒飲めないから…!」

「んな事気にすんな。ウチの店にゃ飯が目当ての奴等も来るし、ノンアルコールのドリンクも豊富だ。その内姉ちゃん達と来ればいいさ……それより、とっととその美味そうなミルクレープ俺に食わせてくれ」

 さっきから会話に夢中になっていて、目の前でトレイに置かれたままのミルクレープが気になって仕方が無かったのだ。

「わ、忘れてたっ!はいどうぞっ」

 そう言って置かれたミルクレープは、クリームとクレープ生地だけの物に比べると相当に分厚い。

「成る程、中にフルーツが挟んであるのか」

「そ、そうですっ!クレープとクリームだけだと味気ないかと思って…」

 上手く出来ていれば十分その2つだけでも満足できるとは思うのだが、他の人への気遣いが伺える。

「んじゃ早速……」

 フォークで切り分けようとするが、フルーツが入っている分しっかりとしていて少し切り分け難い。力を込めて無理に切り分けると、少し形が崩れてしまったがこれはご愛嬌って奴だろう。切り分けた一口分を口へ運ぶ。

「……うん、美味いじゃないか」

 クレープ生地も焦げる事なく焼けているし、フルーツが入っている分クリームをさっぱりさせて調整している。挟んであるフルーツもイチゴに缶詰の黄桃、緑のは……キウイか。酸味と甘味のバランスがちょうどいい。食べていて飽きの来ない、食べやすいスイーツに仕上がっている。

「ほ……ホントにホントですか!?」

「俺は味に関して嘘ついた事がねぇのが自慢なんだ、疑うなっての」

 実は葛城のスイーツ作りの腕前に関してはある程度聞き及んでいた。瑞鶴が自慢気に話してくれていたからな。しかし大したもんだ……大戦末期のあの辛い時期を経験しながらも、ここまでの物を作れるようになるとは。




「提督さん!次は私達の番だよ!」

 大トリは発案者でもある睦月型という訳だ。ガラスのボウルに入っているのは……トライフル、か?

「しかしまたマイナーなスイーツを選んだモンだな。トライフルとは」

「あら?提督は知ってらっしゃったんですか?」

「一応な。イギリス発祥だし、金剛が一度作ってくれたよ」

 金剛は結婚する前から、午後の休憩のお茶の時間にはかなり力を入れていた。俺としてはコーヒーに軽い軽食かお茶請けがあれば十分だったんだが、妹達や手の空いている艦娘に手伝って貰いながら毎日のように豪勢なお茶の時間を仕立てていたのだが、そんな中でトライフルが供された事があった。

「金剛が作った奴は本格的に自作したスポンジやらゼリーやらカスタードやら使って手間が掛かってたが……」

 睦月型の娘らが作ったトライフルを見ると、よく見馴れたお菓子類が小さくカットされたり形を崩したりして使われているようだ。

「スポンジはカステラやケーキ、カスタードはプリンで代用か」

「う、うん。僕達お料理には自信無かったから……」

「で、でも如月お姉ちゃんがクリーム作ってくれたんだぴょん!」

 取り分けて貰ったトライフルの表面を彩っていたクリームを一口。サワークリームよりは甘いが、ホイップクリームよりかは爽やかな口当たり。

「ヨーグルトクリームとは考えたなぁ、如月」

「あら?もうバレちゃった……つまんないの」

「いや、でもこれはいいアイディアだ。市販の甘い菓子類に合わせる為の工夫だろ?」

 料理は手間暇掛ければ良い、という物でもない。そりゃあ手間暇掛ければ美味い物は出来やすくもなるだろうが、そうとは一概に言い切れない。要は結果的に美味い物が出来上がるかどうかが問題だ。その為に一見手抜きにも見える工夫は、個人的にはアリだと思っている。

「出来ないなりの創意工夫は見事だったよ。そういう工夫は大事だからな」

 戦闘でも創意工夫は重要だ。火力の低い駆逐艦でも、仲間との連携や戦略で戦艦や空母を墜とす事が出来る。戦闘以外の事を学べ、と俺が常々言っているのは戦後の為だけでなく柔軟な発想を産み出すキッカケにもなり得るからだ。

「提督さん、いつも私達を優しく扱ってくれてありがとう!」

「んな事ぁ上に立つモンとして当たり前の事だ。寧ろ俺の方がお前らみたいな小さい女子供に戦わせて、申し訳無いと思ってんだ」

 睦月が述べた感謝の言葉に、俺は日頃抱いている思いを載せて返し、頭を撫でてやる。最初はむずがるように身を捩っていた睦月だったが、しまいにはえへへとはにかみながら大人しく撫でられていた。

「あ!睦月ちゃんばっかりズルい!」

「提督、私達も撫でてよ!」

 遠目に眺めていたのだろう、他の駆逐艦達も撫でてもらおうと俺に殺到してきた。やれやれ、ホントに親父になった気分だぜ。

「わかったわかった、順番に撫でてやるから並べお前ら」 
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