提督はBarにいる。
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今からでも遅くない!大人のBar使いこなし講座・その1
「何ぃ?Barでのレディな飲み方を教えろだぁ?」
事の発端は暁が姉妹と共に飲みに来た折りにそんな相談を受けた事だった。そもそもの意味が解らんが、まぁそんな相談を受けたんだ。
「そうよ!私もだんだんBarのお酒に慣れてきたし、そろそろBarのマナーを覚えてレディとしての階段をもう一段上がる時だと思うの!」
えっへん、と胸を張っている暁のグラスの中身はダミー・デイジー。氷と木苺が浮かぶ見た目華やかなカクテルだが、当然の如くノンアルコール・カクテルだ。まぁ、Barでの綺麗な飲み方を覚えて、綺麗な酒を覚えてくれれば此方としては文句はない。ウチの鎮守府には反面教師にするべき奴等が多いからこそ、早い内に教育するのも手か。
「そうね、私達もこういうお店でのマナーは知らないから知りたいわ!」
「なのです!」
同意するように雷と電にも頼まれる。まぁ、物は試しだしやってみるか。
「おっ?何だい何だい、随分と楽しそうな話をしてるじゃないか」
そう言って暁姉妹の話に食い付いて来たのは隼鷹だった。今宵は酒盗と冷奴、それに焼き鳥の盛り合わせで『賀茂鶴』の大吟醸・天凛の一升瓶をもうすぐ空けようとしている。……おいそれ、1本3万するんだぞ?も少し味わって飲めよ。
「何言ってんだい提督ぅ!高くて旨い酒だから、スルスル飲めて早く無くなるんだろ!?」
うーん……間違ってるような、間違ってないような。まぁいい、それよりも今はBarの飲み方講座(仮)の事だ。
「なんだよ隼鷹、お前が手伝ってくれんのか?」
「別にいいぜぇ?あたしゃ酒飲みが増えて飲み仲間が増えて楽しい、提督は儲かる、おチビ達はお勉強になる、いい事ずくめじゃん!」
「えぇ~……?隼鷹さんがぁ?」
疑ってかかったのはロリお艦こと雷。まぁ、普段の飲み方質の悪さを見てるからな、Barでのお洒落な飲み方など出来るのだろうか?といった具合の疑念だろう。残念ながら当然の疑問だわな。
「寧ろ教えて貰う側じゃないのかしら?ねぇ響」
暁も疑いの眼差しだ。しかし常連であり『教え子』の響は、事情を知っているだけにクスリと笑いながら、
「さぁ、どうだろうね?」
とだけ返した。まぁ、ビックリさせてそのリアクションを楽しむのも一興か。
「まぁ解った。お前ら以外にも募集するから、今週の金曜の夜だな。それまでに準備はしておく」
てなワケで、週末に『第一回 提督主催のBar飲み方講座』が開かれる事になった。
「じゃあ私達はそろそろ帰るわね。響はどうする?」
「私は飲み足りないから、もう少し飲んでから戻るよ」
「暁ぃ、寝る前にはトイレ行っとけよ~?にししw」
そう言って手をヒラヒラ振りながら見送る隼鷹。
「なっ、何てこと言うのよ隼鷹さんのバカァ!」
そう叫ぶと暁は駆け出して行ってしまった。
「あ、待ちなさい暁姉ぇ!言われてる事は事実でしょ!」
「なのです!おねしょはもう勘弁なのです!」
……なんだろう、このワチャワチャしたコントを見ている感じは。
「さぁて、提督。今回はどういうシチュエーションで教えるんだい?」
先程までの酔眼はどこへやら、隼鷹の目は至って真面目だ。
「あれま、本気だったのか?お前。てっきり酔った上での冗談かと……」
「アタシもね、たまにはお洒落してゆったりと酒を飲むのも悪くないと思っただけさ。気紛れだよ、気紛れ」
まぁいい、手伝うってんなら有り難くその手は使わせて貰う。
「まぁ、一般的なBarのイメージの代表格……カウンターバーでの飲み方から教えようと思ってるけどな」
「いいと思うよ、司令官。姉さんのイメージしているBarは、オーセンティック(伝統的)なBarの筈だ」
響は飲んでいたグラスを干すと、席を立った。
「それで?お前は参加しないのか?」
「今更私は勉強の必要性は無いさ。それに私に教えた先生がいるんだ、それでじゅうぶんだろう?」
じゃあお休み、といって響は去っていった。
「……だとさ?」
「いやぁ、参っちゃうなぁ。そこまで期待されるとさぁ……」
だはは……と笑う隼鷹。お気付きの方もいるかもしれないが、響にBarでの酒の嗜みを仕込んだのは隼鷹なのだ。俺も少しは手伝ったが、ほとんどは隼鷹仕込みだ。
前にも話したが、航空母艦・隼鷹の前身は豪華客船。普段の飲兵衛な姿からは想像できないが、社交界などのマナーには明るい。今回のような場合にはうってつけなんだ。
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