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提督はBarにいる。

作者:ごません
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ながもんの仲直り大作戦!(後編)

 さて、カスタードを作ったら、お次はパイ生地の支度をしようか。

2.パイ生地の準備

・市販のパイ生地:230gくらい

・グラニュー糖:20g

 市販のパイ生地を広げて、麺棒で延ばしていく。縦横に厚みのムラが出来ないように、均等にな。最終的に縦28cm×横33cm位の長方形が取れる大きさまで延ばす。端は切り落として整えるので、余分に延ばすと綺麗な形に出来るぞ。

 ある程度延ばしたらパイ生地の表面にグラニュー糖をまぶす。これもムラにならないように気を付けてな。まぶしたらパイ生地とグラニュー糖が馴染むように、上から更に延ばしていく。ここで大きさを決めてしまおう。延ばし終わったらフォークで全体に空気抜き用の穴を開ける。そしたら後はオーブン用の天板に載せて、180℃に余熱しておいたオーブン(ファン付き)で10分焼く。

「ててて、提督っ!パパパ、パイ生地が膨らんでしまったぞ!?これは失敗じゃないのか!」

 慌てすぎだっての、長門。

「落ち着け、長門。このパイ生地はまだ生焼けだ。ここでガス抜きしてからもう一度焼くから安心しろ。」

「そ、そうなのか?よかった、てっきり失敗したかと……」

「しっかし、長門は戦闘やら執務以外となると慌てん坊だなぁ。いつものどっしりと構えた長門はどうした、ん?」

 少しからかってやりたい気持ちもあって、長門を茶化してみた。

「しっ、仕方ないだろう!?私は艦娘だ、戦う事こそ本懐なのだ!」

「つったってなぁ。戦争が終わった後の事も考えねぇと、苦労するのはお前だぞ?」

 そう。戦後は間違いなく軍縮の道を辿る。そうなった時に軍属として残れるのはごく少数だろう。その時の身の振り方を考えておかなければ、辛くなるのは当人だ。

「そうか……、戦後か。あの頃は考えた事も無かったからな。」

 恐らく今、長門は軍艦だった頃の記憶を辿っているのだろう。だが、今はそんな場合じゃない。

「うぉーい長門や~い、まだ作業は残ってるから戻って来ーい。」

「うぉっ!?そ、そうだったな、今はお菓子作りに専念せねば!」

 長門が戻って来た所で作業再開。生焼けのパイ生地の上にシリコン製のオーブンシートを載せて、更に天板をもう一枚。ここで上から軽く押して空気を抜き、重しを載せたままもう一度10分焼く。当然ながら押す時は力加減に注意。割れちゃうからな。こうすると平たくて凹凸の少ないパリパリサクサクのパイ生地が焼き上がる。後は余った部分の生地をカットしてやろう。普通の包丁ではなく、ノコギリ状の刃の付いたパンナイフでやると失敗しにくいぞ。端をカットしたら長方形を横長になるように3等分すれば、パイ生地の支度は完了だ。

「な、なぁ提督。端っこのパイ生地……貰っても良いか?」

 どうやら焼き立てのパイ生地が美味しそうで食べてみたいらしい。

「ほれ。」

 食べやすい大きさに割って、手渡してやる。口に放り込んだ瞬間、長門の目が輝くのが解った。よほど美味かったらしい。ほとんど味も付いてないんだがなぁ。





3.苺と飾り付けの準備

メインのカスタードとパイ生地の準備は終わった。後は飾り付けの苺とホイップクリームを準備して、仕上げるだけだ。

・苺:適量

・ホイップクリーム:50cc

・砂糖:5g

 今回は1切れに1個ずつまるごとの苺を載せるので、カットしない苺を6つ取り分けたら、残りの苺はヘタを切り落として4枚位になるようにスライス。これが中々に難しい。苺は柔らかい上に小さいのでスライスしにくいが、まぁ頑張れ。

 お次はホイップクリームと砂糖を合わせて泡立てておく。こいつは最後の仕上げ用だから、もう少し後でもいいぞ。




4.仕上げ
いよいよ準備は整った。ここからバラバラだった材料を一つの作品に仕上げていくぞ。

……おっと、その前に冷やしておいたカスタードを解さないとな。冷蔵庫で冷やしておいたカスタードを取り出して、ハンドミキサーで撹拌して固まっているのをドロドロの状態に戻してやる。本当は加熱終わった段階で裏漉しすればもっと滑らかなんだが……今回は面倒なので省略。これでも十分美味いしな。

解したカスタードは平口の絞り口の付いた絞り袋に詰めておく。ここからは材料を重ねて行くぞ。

まずパイ生地の上にカスタードを絞り出していく。平らに、隙間なくな。カスタードを敷いたらスライスした苺。これも一面に隙間なく整列させる。その上に再びカスタード。苺を覆い隠すようにな。そこに2枚目のパイ生地の登場だ。これで下の段は完成。後はさっきの要領でカスタード→苺→カスタード→パイ生地の順でミルフィーユの土台は完成。後はホイップクリームを丸形の絞り口で6ヶ所に等間隔に絞り出して、そこにまるごとの苺を載せれば……

「で、出来た!」


 少し不格好になってしまった所もあるが、初挑戦にしては中々の出来映えだろう。後はこいつを陸奥に食わせてドッキリが上手く行けば万々歳だ。……それに、陸奥には個人的にも用があるし、な。



 そして、その夜。

「提督、私一人を呼び出すなんてどういう風の吹き回し?」

 怪訝そうな顔で店にやって来たのは陸奥。特に何という理由も話さず、ただ呼び出したのだ。

「いやな、今日の演習でお前の錬度が99になっただろ?」

「……あぁ、そういう事。でも、ケッコンカッコカリなら仕事終わりに執務室でも良かったんじゃない?」

 そう。長門と陸奥の仲直りと、ケッコンカッコカリを纏めてやってしまおうという腹積もりだったのだ、俺は。

「いやぁ……随分と期間が開いただろ?その…長門に比べて、さ。」

 長門の名前が出た瞬間、陸奥の顔が明らかに曇る。

「そのお詫びの意味も込めてな……新作デザートの試食をしてもらおうと思ってな。」

 そう言いながら冷蔵庫から1切れに切り分けた苺のミルフィーユを出してやる。

「あら、旬の苺じゃない♪私大好物なのよ~♪」

 やはり苺が好物だというだけあって、嬉しそうだ。

「さぁ、遠慮なく食ってくれ。」

「じゃあ……頂きます。」

 フォークを片手に、陸奥はまず一番上の苺に突き刺した。大きな口を開けてパクリと一口。

「ん~っ、この甘酸っぱい味!やっぱり美味しいわ!」

「そりゃあな。いい苺仕入れて作ったからよ。」

 長門の料理の腕が不安だったから、素材の良さで誤魔化そうとした、とは言うまい。続いて陸奥は、重なったミルフィーユを横倒しにする。勿体無い、と思う人もいるかもしれないが、これが出来るだけ綺麗にミルフィーユを食べる食べ方なのだ。

 固く焼けているパイ生地を上から押し付けてもグチャグチャに崩れるだけで、見た目にも美しくない。横倒しにして切り分けやすくして食べる方が見た目にもマナー的にも正しいとされている。(実際、フランスでも横倒しにして食べるらしい)

 フォークで切り分けて口に運ぶ。途端に笑顔に変わるその表情が、ミルフィーユの美味しさを物語っている。

「ふぅ……美味しかった。」

「満足したか?そりゃ良かった。」

「えぇ、とっても美味しかったわよ……長門姉ぇ。」

 げ、気付かれてたか。

「いつからバレてた?」

「当然よ。提督が作ったらもっと丁寧な作りの味だもの。料理を作り慣れてない……恐らくは、仲直り狙いの姉さんが作ったんでしょ?このミルフィーユ。」

「む……陸奥っ!この間は済まなかった!この通りだ!」

 控え室に隠れていた長門が飛び出して、陸奥に土下座した。瞬間、クスクスと笑い出す陸奥。

「いいわよ長門姉ぇ、許してあげる。……大体、こんなに美味しい物食べたら、怒ってたのが何でだか忘れちゃったもの。」

 はぁ。何とも馬鹿らしい決着だぜ。…さて、姉妹の問題が片付いた所で今度はこっちの問題だ。

「陸奥。」

 俺に呼ばれたのに気付いた陸奥が姿勢を正した。長門はキョトンとしている。長門にはケッコンカッコカリの事は伝えてなかったからな、当然か。

「お前で12人目のケッコンカッコカリになる。……当然、ジュウコンが気に入らないというなら断ってもいい。しかし、指輪を渡す限り俺はおざなりに扱うつもりはない。お前が求めてくれればその愛情表現には精一杯応えるつもりだ。よく考えてから答えをーー…って、おい!?」

 俺が台詞を全て言い終える前に、陸奥は左手の薬指に自分で指輪を填めていた。

「むっ、陸奥!?お前は本当にいいのか?」

「何よ長門姉ぇ、競争相手が増えるのがそんなにイヤ?」

 そういうと陸奥はカウンター越しに俺に抱きついてきた。流石は超弩級戦艦、大したボリュームだ。……って、重要なのは今はそこじゃねぇ。

「ほ、ホントにいいのか陸奥?てっきりお前は断るかと……」

「あら提督まで、失礼しちゃうわ。……私、金剛が相手でも一航戦が相手でも負けるつもりは無いわよ?」

 そういうと俺の頬にキスしてきた。……いやはや、陸奥はこんなに甘えん坊キャラだったのか、初めて知ったよ。

「む……陸奥ううううぅぅぅぅぅ!」

 嫉妬なのか寂しさからか、顔を真っ赤にして絶叫する長門を尻目に、陸奥は俺から離れようとしなかった。その後、陸奥が秘書艦の日にはべったりくっつかれるようになったのは言うまでもない。…あぁ、胃が締め付けられる。 
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