衛宮士郎の新たなる道
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第20話 復讐は止められない
時間をほんの少し遡る。
猟犬部隊の装備開発による技術力は目覚ましいものがある。
たとえ藤村雷画であろうとも、盗聴器を仲間の隊員に内緒で仕掛けても気づけないほどの物だ――――の筈だ。
(おかしい・・・。最新式の超小型盗聴器は私が造った筈なのに、どうも記憶があやふやだ)
その盗聴器を一から作ったにも拘らず、その自信が持てずにいた装備開発兼諜報員のアルマだったが、そんな心配をしている暇が途端に無くなった。
(リザさんと副長があの家に!?なら話は簡単だ)
「聞こえていたな?」
「勿論、御2人を助けましょう!」
後先の事も考えずに衛宮邸に侵入する4人。
勿論探知結界に気付いていなかったが、幸いな事にスカサハは今現在は藤村邸にて結界感知に集中しているので、音が聞こえていても他者に任せる態勢をとっていた。
それに警報音には二種類あり、侵入者に対しての魔力の有無により分けられているのだ。
そして彼女達は一切魔力など無かったのも幸いしたと言えよう。
勿論そんな事は知らずに行動する4人は、気配探知でリザとフィーネを早速見つけ出す。
「見つけた!」
「居場所が地味に離れているから二手に分かれましょう」
「「「了解!」」」
言葉通り、二手に分かれての救出作戦(独断)が始まった。
-Interlude-
丸一日で百代が目覚めると言う鉄心の予想はハッキリ言って非常識だ。
外部からの治癒があったとしても最低7日は掛かる。
しかし百代はその鉄心の非常識さを遥かに超えていた。
「此処は・・・・・・士郎の家か・・・?」
百代は半日と掛からず目覚めてしまった。
意識はあるが、まだ半覚醒状態。
「くっ!?・・・痛い。・・・・・・そうか。私は・・・負け、たの・・・か・・・・・・ッッ!」
負けた時の事。最早まるで興味なく、あっさり見逃された事を明確に思い出して行き、悔しそうに顔を歪める。
自分は常に強者だった。自分に勝てるものなど周りに居なくなって、寧ろ自分を負かしうる可能性を探している内に、一年前ぐらいから鍛錬も最低限しかやらなくなっていた。
しかしここ最近は士郎と鍛錬及び組手をするうちに、強くなる楽しみが戻って来ていた。
けれど、それがこのザマ。
これが悔しくて何なのか――――と慚愧の念に駆られている時に、隣の部屋から物音と誰かの声が聞こえて来る。
僅かな興味心に駆られて襖の隙間から覗くと、ティーネが誰かと言い争ってるではないか。
「誰だお前ら!」
これでも『誠』を好きな漢字と自称しているだけあって、百代は正義感に駆られて止めに入った。
「川神百代!?」
「何で災害認定が此処に居る!?」
「誰が災害だっ!」
「詮索は後だ。私が足止めするから、副長を頼む!」
「すまない!」
抵抗するティーネをあっという間に拘束した1人は、即座に部屋から出て行く。
「あっ、待て!」
「行かせる――――」
「邪魔するな!」
「ガッ!?」
ティーネを助けるべく動く百代は、襲撃者の足止め役を一撃で沈めてから即座に追いかけると、そこは庭であり、自分が追いかけていた1人以外にもう2人いた。しかもそのうち1人はリズを拘束して抱えていた。
「お」
「貴様ら・・・っ!!」
そこへ藤村邸側の塀を飛び越えて、百代に遅れて来たのは雷画だった。
「雷画さん!?」
「百代嬢ちゃん!?もう目覚めたんか!」
流石に百代が目覚めていたのは予想外だったのか、その隙をついて2人を拘束している襲撃者の2人は逃げて行った。
「「あっ!?」」
「行」
「!!」
「あぶぷぶぷ!?」
先の百代と同じく足止めに残った襲撃者Cが、雷画の本気の殺気を浴びただけで泡を吹いて気絶した。
「雷画さん、私が追います!」
「待て百代嬢ち」
『取り込み中悪いが、士郎達の所に例の自動人形の軍勢が現れた様だぞ?』
百代の制止を掛けようとした雷画だったが、嫌なタイミングでのスカサハからの念話が頭に響いた。
「次から次へとッ!!」
先程から逃げられてばかりの雷画は、虚空に向けて吐き捨てた。
-Interlude-
また少し時間を遡る。
アヴェンジャーは襲撃者を巻いてから、ヒカルを探して川周辺に居た。
「チッ、念話さえ通じれば・・・!」
天を忌々しく見上げるアヴェンジャーの視線の先には、スカサハの結界があった。
英霊になってから多少の魔術を使えるようになっているアヴェンジャーは、今念話が使えないのは街を覆う結界が原因だと理解することが出来ていた。
勿論自分の宝具を使えば、燃え盛る拠点を脱出した時と同じようにこの結界外へ出られるが、それでも念話が通じることを意味しない事は理解していた。
しかも皮肉な事に、憤怒の力をヒカルが必死に抑えているので、それを当てに探す事も出来なくなっていた。
「こうなれば、結界を張っている術者を探し出すしかほかに手は――――」
『――――ご安心を。ヒカルたちの所在地については調べが付いていますので』
無様に焦っているアヴェンジャーを嘲笑う様なタイミングで、ライダーの顔が移った通信映像が彼の前に現れた。
しかし嘲笑っているとは思えぬライダーの顔を見たアヴェンジャーは、逆に苛立つ。
「ずいぶんと手回しが速い様だが、援軍とやらは如何した?」
『ちゃんと来てますよ?ただし、貴方方と合流するかどうかの判断は任せましたが』
「貴様っ!」
『何をその様に、いきり立つのですか?』
「いけしゃあしゃあと、よくぞほざけたものだな・・・!しかもヒカル達をアレ呼ばわりだと?食いちぎられたいのか・・・ッッ!?」
何所までも冷静に対応するライダーに対して、アヴェンジャーは嫌悪むき出しにしている。
そのアヴェンジャーにライダーは嘆息する。
『以前から思っていましたが、貴方は余分が過ぎるのではありませんか?』
「何だと?」
『今までもそうでしたが、今回の事だけでも言えば彼女から憤怒の力と適合した血液の採取と言う目的は完遂した筈です。であれば、彼女たちの結末がどうなろうとあなた方の組織がこれ以上関わり続けるメリットなど無いように思えるのですが、私の考えは何か間違っていますか?』
「・・・・・・・・・・・・」
『その無言はそれでも関わり通すと言う事ですか?』
ヤレヤレと、態と肩を竦めるライダー。
「理解したのなら早くヒカル達の居場所を教えろ」
『・・・・・・そこから二キロ離れた地点の一般市民の住宅に匿われていますよ。如何やら彼女の元々の知り合いの用ですね。匿った住人は』
「ほぉ」
拠点は失ったがまだ運が尽きたわけでは無いと再確認したアヴェンジャーだったが、改めて拠点を用意させるように促そうとした時、ライダーが先に口を開く。
『ただ家の外には、赤い外套の暗殺者が潜んでいるようですね』
「それを先に言えっ!」
それほどに重要な問題だったので、アヴェンジャーはライダーの通信画面に対して黒炎を当てて掻き消すように怒りをぶつけて、そのままヒカルの下へ急いだ。
それを、八つ当たり同然に黒炎を放たれた映像通信の向こう側に居るライダーが深い溜息をつく。
「復讐者と言うのはどのクラスよりも余分が過ぎる。価値観が合わない者と行動するのは苦痛の極み。そうは思いませんか?アサシン」
丁度タイミングよく現れたアサシンと呼ばれた黒子は、何時も通り興味なく返す。
「その質問を私(仮称)にすこと自体が余分ではないのか?」
「これは失礼しました」
表情を見えない相手に恭しく謝罪するライダー。
このライダーをよく知る相手が見れば、今の謝罪は確実に相手を小馬鹿にしているモノだが、黒子はまるで気にしない。
「テロリストに協力・・・・・・か」
「彼に報告しますか?」
「特に必要に感じない。お前がどれだけ疑われようと貢献しようと、懐を許す程の信頼は絶対に得られる事は無い」
「ですが修復不可能になれば私の立場も流石に――――」
「そもそもお前は誰にも信用されていない。そして信用を特別欲していないだろ?」
黒子はライダーの顔を一切見ずに話している。
「そんな事はありませんよ。少なくとも―――――の“王”からの信頼は一定値以上はキープしないといけませんからね。貴方もそうでしょう?アサシン」
「それも必要に感じない。“ヤツ”が何時動こうが私には関係のない話しだ」
「なるほど。貴方らしい感想ですね。――――ところで、指令の少女の居場所なら判りますがお教えして差し上げましょうか?」
「それこそ必要に感じない。確かに指令が下されたので来はしたが、あくまでも私(仮称)は保険に過ぎない。令呪で強制されているワケでもないのでな。それに少女自身が心から望むなら、例え地球の裏側に居ようと見つけ出すことが出来る」
「フフ、そうでしたね」
黒子の話に相づちを打ちながらライダーは、あの街を眠らせた時に出現させた自動人形の軍勢を士郎達が待ち構えている場所に出現させた。
「報告しないと判ったら開き直るとはな」
「何か問題が?」
「問題は無いが他で騒ぎを起こして、眼を向けさせないようにする必要はあるだろう」
黒子は街に右腕を向ける。
「その状態からでも出来るのですか?」
「これだけはな」
アサシンの第一宝具。
静寂よ此処に。
ランク:C++、対人・対軍宝具、レンジ:1~50、最大補足100。
対象を一時的にアサシン自身が決めた一定時間の間、強制的に眠らせるだけ。
ただし、ランク:B以上の対魔力があれば防げる上、ランク:B以上の魔術や気を操る壁越えレベルの武術家であれば、外部から起こす事が可能。
掌から眠りの神秘を地上の何処かに打ち放つ。
それをランダムに何度も繰り返して行くと、直に放たれた地点で大なり小なりの混乱と騒ぎが起きる。
「助かります」
「それ以前にお前のオートマタを各地に配置すればいいのではないか?」
「その場合、ステルスを解除しなければならないのですよ。それに破壊されれば、効果も消えますからね」
「あとは高みの見物か?」
「ええ、私自身が前線に出る必要はないでしょう」
そのまま2体はアクションを起こそうとはしなかった。
-Interlude-
ヒカルはモロが洗面所に行くことを確認してから、外に出ようとする。
これ以上長居しても迷惑を掛けるだけだからだ。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・」
何とか憤怒の力を最後まで抑えきって外に出る事が出来たヒカル。
しかし――――。
「ひかるっ!」
「ぇ・・・」
「チッ」
今のは偶然だった。
アステリオスはヒカルよりも先に出ており、モロの家に向けてお辞儀をしようと振り向いた先にヒカルの背後から赤い外套者が彼女目掛けてナイフを振り降ろそうとしている光景を視界に入れることが出来た。
アステリオスは即座に霊体化を解き、片方のラブリュスを力任せに暗殺者目掛けて横薙ぎした。
暗殺者は偶然という不運に舌打ちをしつつ、バックステップでラブリュスを躱しながら銃弾の嵐をかます。
「ウォオオオオ!!」
アステリオスは躊躇なくヒカルの前に出て、銃弾を防ぐ盾となる。
いくら宝具扱いとなった銃でも、神秘も低い上にアステリオス自身の耐久値も高いので、小石の雨をぶつけられているのと変わらない。
勿論それは撃ち続けている暗殺者も解っている。
暗殺者の狙いは銃弾を浴びせると同時にさりげなく転がせた手榴弾である。
狙いは勿論アステリオスでは無く、マスターであるヒカルだ。
聖杯戦争におけるアサシンの基本戦術は、他のサーヴァントと正面から戦う事に非ず。
影からの奇襲不意打ち騙し討ちに徹して、マスターを殺す事によって勝利をもぎ取る戦法だ。
まあ中には基本から外れて、真っ向からセイバーと鍔迫りあったりするアサシンや、浮遊移動要塞を足として使うアサシンが存在するが、この暗殺者は基本から漏れ出てはいない様だ。
(あと、2秒)
時間を稼ぎつつ、足元の手榴弾近くに釘付けにさせる為、直もマシンガンによる銃弾を討ち続ける。
(あと、1びょ)
「――――ォオオオオオオラッッ!!」
ヒカルの足元に手榴弾が爆発する直前、ギリギリのタイミングで駆けつけて来たアヴェンジャーが手榴弾を蹴り上げる。
そして蹴り上げられた上空で爆発、辺り一帯を余波と光が広がった。
「せ、先生っ!」
「あヴぇんじゃー!」
「無事だな、2人と」
「何今の爆発音は!?」
アヴェンジャーとの合流を喜ぼうとしたところに、流石に騒ぎが大きすぎたのか、モロが慌てて家から飛び出して来た。
「師岡君!?」
「ヒカルちゃんって、誰この人達!?」
いろいろ独創的な格好の面々に驚くモロ。
彼らから無意識に発せられる殺気やプレッシャーに物怖じしないのは、百代と一緒に居る事でその手の事に感覚がマヒしているからである。
しかし驚いているモロに対して、当人たちは関与する気は無い様だ。
アヴェンジャーはヒカルに携帯機器を投げ渡す。
「これは?」
「そこにマップがある。それを辿ればお前の標的たちが今集められている場所に行けるはずだ」
「え?」
「行け。コイツは俺が始末する」
「行かせるとでも?」
モロと言う一般人の前で躊躇なく銃弾の雨を浴びせかかる暗殺者。
それをアヴェンジャーはヒカルとアステリオスの前に割って入って、黒炎で全て蒸発させる。
「貴様の相手は俺だと告げたはずだが?暗殺者っ!」
アヴェンジャーは拳に顕現させた黒炎を撃ち放つ。
それを暗殺者は躱し続け、最後の黒炎目掛けて手榴弾を投げ放つ。
勿論両方がぶつかると同時に爆炎と煙が両者の間を包む。
暗殺者はそれを目晦ましに、あくまでもヒカル達を狙う。
しかしその狙いにアヴェンジャーが気付いていない筈も無く、高速戦闘を得意とするので、いつの間にか暗殺者の後方に回り込んでいた。
されどそこは気配を探知するのも上手い暗殺者。
振り向きもせずに自分の後ろに向けて、今度はピンを外して手榴弾を投げ打つ。
だがアヴェンジャーは手榴弾が爆発する前に手の甲で宙に打ち上げる。そのまま爆発に気にも留めずに暗殺者に向けて蹴り放つが、それをガードで防がれる。
しかも暗殺者は蹴りの衝撃を利用してヒカルを狙おうとするが、両者の間に出現した黒炎の壁に気付いて無理矢理足を止める。
「これは・・・」
両者の間に出現した黒炎の壁は上と左右に一瞬にして燃え広がり、暗殺者とアヴェンジャーのみを包み込む即席のバトルフィールドとして顕現した。
「先の煙、何のために俺が直線で突っ込まずに回り込んだと思っている?このデスマッチを造りだし、確実にお前を逃がさないためだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「抜け出す方法は複数あるが、この黒炎を消すだけの火力がアサシンである貴様に果たしてあるのか?あの手榴弾では話にならんぞ」
暗殺者を嘲笑う様に不敵な笑みを浮かべるアヴェンジャー。
しかし自分への嘲笑を気にもせず、銃を向ける。
「なら即座に貴様を始末して、あの少女の追跡を再開するだけだ」
「上等っ!!」
此処に、守護者と悪の死闘の火ぶたが切って降ろされた。
そして黒炎リングの外ではアステリオスがヒカルを促していた。
「ひかる。いまのうちに、いこう」
「でも先生が・・・」
「あヴぇんじゃーはいちどきめたら、ぜったいにやめないよ。ひかるなら、わかるでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・うん。わかった」
決心したヒカルを自分の肩に乗せるアステリオス。
しかし彼らを制止する声がまだ残っていた。
「待ってヒカルちゃん!」
「師岡君。これ以上私に関わらないで」
「え・・・」
「私と関ったら師岡君は絶対不幸になる」
「そ、そんな事――――」
「それに私は復讐を止められないの。だから――――」
「だったら僕も手伝」
「貴方はもう、必要ない。行って、アステリオス」
少年の制止も空しく、ヒカルの言葉に従うアステリオスは夜闇に溶け込むように駆けて行く。
そして――――。
「・・・・・・わけ、そんな事聞けるわけないっ。見なかった事になんてできる訳無いよ!」
少女の思いも空しく、モロは追いかけるように駆けだした。
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