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提督はBarにいる。

作者:ごません
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卵料理……食べりゅ?・3


 さて、前回サラダに使ったドレッシングを勿体ぶって紹介しなかった。今回はそのドレッシングのレシピを紹介する所から始めようか。

《提督特製・ビアドレッシング》

・ビール:大さじ2

・オリーブオイル:大さじ1

・砂糖:少々

・生クリーム:大さじ2

・レモン汁:大さじ1/2

・塩:適量

・胡椒:適量


 上記の材料を混ぜるだけで出来る簡単なドレッシングだが、なんと言ってもポイントはビール。大さじ2と全体的な分量から見ると少な目だが、その苦味と仄かな酸味がいいアクセントになる。発泡酒や第3のビールだと美味く出来ない。そこはケチらずにちゃんとしたビールを使おう。残ったビール?飲め。

「はぁ~……、ビール使ったドレッシングなんて初耳やわ。」

「まぁな。でも、肉料理のソースなんかにもワイン使ったりブランデー使ったりするだろ?それと同じだよ。」

 シャクシャクといい音を立てながらサラダを食べる3人と会話を交わす。

「でも、ああいうソースってアルコール分を飛ばして使うんじゃ……。」

「そうだよ、けどお前ら一滴も飲めねぇ訳じゃねぇだろ?ならいいじゃねぇか。」

 流石に一滴も飲めない娘には出さねぇよ(狙ってじゃない限り)。それにアルコール分って言ったって微々たるモンだ、問題ねぇよ。と、そんな会話を交わしているとチン♪とオーブンがキッシュの焼き上がりを告げた。焼き立てをオーブンから天板ごと取り出して、食べやすい大きさにカットする。サクリ、サクリとパイ生地がいい音を立てて切れる音を聞く度に生唾をゴクリと飲み込む音が聞こえる。

「へいお待ち、『ほうれん草のキッシュ』だ。熱いからな、気を付けろよ?」

 それぞれ皿を受け取ると、フォークで食べやすい大きさに切り分けて一口。途端に頬を紅潮させて弛んでいくのが解る。

「ん~♪やっぱりチーズと卵の相性って最高!」

「せやなぁ、ほうれん草とかハムとか、他の具材とも合うしなぁ。」

「お酒にもピッタリね!」

 各々嬉しそうにキッシュを食べての感想を語る。こういう顔で食べてもらえるってのは、作った側としても甲斐があるってモンだ。




「ね~ぇ~、ていとくぅ。」

 大分酔いが回っているのか、若干呂律が怪しい瑞鳳。元々舌っ足らずな喋り方なのに、それに拍車がかかっている。

「づほ、だし巻きが食べたいなぁ。」

 だし巻きか。多少手間がかかるが酒のツマミにはうってつけだ。それに、酔っ払いを適当にあしらい続けると後々めんどくさい事になる。

「解った、ツマミにうってつけのだし巻き、作ってやるよ。」

 ただのだし巻きじゃあつまらない、変わり種のだし巻き2種類、とくと味わってもらおう。まずは居酒屋にありそうなメニュー《明太チーズだし巻き》から。

《酒肴にピッタリ!明太チーズだし巻き》※分量2人前

・卵(Lサイズ):4個

・明太子:1/2腹

・クリームチーズ:30g

・だし汁50ml

・薄口醤油:小さじ1/2

・きび砂糖:小さじ1

・粗塩:小さじ1/4


 まずは中に入れる具材の下拵え。明太子は皮を取り除いてほぐし、クリームチーズは1cm角位の大きさに切り揃える。

 卵を溶き、だし汁と調味料を加えてよく混ぜたら準備完了だ。

「随分とだし汁の量が少ないのね、鳳翔さんのお店で作り方を見た時はもっと沢山入れていたと思うのだけれど。」

「あ~、普通のだし巻き作るなら全然足りねぇよ?ただ、このだし巻きは具入りだからよ、あんまりだし汁入れて柔らかく出来ねぇのよ。」

 大鳳の疑問に答えながら、焼く準備を整える。純銅製の卵焼き器に薄くサラダ油を敷き、卵液を薄く流し入れて明太子とクリームチーズを乗せて巻いていく。コツとしては具材を端に寄せずに少し余裕を持たせて置く事。そうする事で巻きやすくなるぞ。

「よっ!ほっ!」

 手首の返しを使ってクルクルと巻いていく。

「おぉ~!中々上手いやんか!」

 俺の手際を見て素直に感心する龍驤。対して瑞鳳は気にくわないのか少し膨れっ面だ。残った卵液を再び薄く注ぎ、巻く。卵液が無くなるまでこれを繰り返したらまな板に乗せて食べやすい大きさにカットすれば完成だ。

「はいお待たせ、『明太チーズだし巻き』だ。もう1種類もすぐ支度するから、それ食って待っててくれ。」

 少し甘めの卵にチーズの塩気と明太子の辛味とプチプチ食感が口の中で渾然一体となる。そしてこれがまた酒に抜群にマッチする。そしてもう1種類は俺の地元の名産品を活かしただし巻きだ。




 俺は卵を6つ、ボウルに溶くとそこにオレンジ色の液体を牛乳ビンらしき容器から50ml量って卵に入れる。

「てぇとくぅ、なぁにそれぇ。」

 瑞鳳はほとんどカウンターに突っ伏したような格好で此方に聞いてきた。

「あぁ、これか?これはな、『かぜ水』ってんだ。」

「風邪水ぅ?なんやけったいな名前やなぁ。」

 違う違う、その風邪じゃねぇ。

「かぜ、ってのは俺の地元のウニの呼び方……ま、要するに方言でな。さっきのお通しで出したイカの塩ウニ和え、あれに使った塩ウニを作る時の副産物でな。」

 生ウニってのは取れ立てだと瑞々しくて甘味が強く、その反面足が早い(悪くなりやすい)。だから塩漬けにして保存が利くようにするワケだが、その時に塩の浸透圧で絞り出されたのがかぜ水だ。その時にウニのエキスも一緒に染み出してるから、いわばウニの濃縮エキスってワケよ。

「へぇ、始めて聞いたわ。」

「中々地元以外じゃ出回らねぇ代物だしな。」

 今度はそのかぜ水入りの卵液を卵焼き器の中に。後は普通の卵焼きの要領で巻いていけば完成だ。

「ホレ、俺の一番自信のある卵料理……『かぜ水の卵焼き』だ。」

 3人が箸でつまみあげ、口に運ぶ。6つも使ったお陰で卵はフルフルと柔らかくて口に入れるとほどけていく。そして広がるウニの持つ磯の香りと濃厚な旨味。そして絶妙な塩加減。何度食べても飽きない、俺が考える最強の卵焼きだ。

「美味しいぃ~~~!」

 瑞鳳は目を輝かせて夢中になっている。

「な?美味いだろ。」

「うん、とっても!」

 その無邪気な笑顔が見られただけでも、俺にとっちゃあ御褒美だぜ。……あぁ、かぜ水は卵焼きだけじゃねぇ。刺身の醤油がわりに、炊き込みごはんに、使い方は様々だ。もし興味が湧いたら買って使ってみる事をオススメするぜ。 
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