ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
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虚像-フェイク-part2/偽りの巨人
一方、ギーシュの悲鳴を聞きつけ、サイトたちも一斉に現場へと向かった。
ギーシュとモンモランシーを除く、全員がそれぞれのペアと組んだ状態のまま、各々の位置の木陰からマチルダや炎の空賊たちが集まっているのを見た。
「ギーシュたちったら、もう…」
ルイズは結果的に捕まってしまったギーシュたちに少し呆れを覚えた。そう思う一方で、無事でよかったとも思っていたが、なんにせよ別の手間が出てしまった。
「見たところ怪我まではしていないみたいだけど、どうもまずい状況だね」
アキナは木陰から、深く踏み込まなくても今の彼らの身に降りかかっている事態がかなりやばい状態であることをすぐに察し、どう手を撃つべきかを考え、ルイズに一つ提案を入れた。
「ひとまず見つからないように移動して、サイトたちと合流しよう」
「そうね。私たちだけ突撃しても意味はないわ。わかったわ、サイトたちと合流しましょう」
「どうなってるんだ?あの女性は確か、ミス・ロングビルだった土くれのフーケじゃ…?」
一方で、魔法学院の生徒であるということもあり、レイナールはクロムウェルと対峙するマチルダの顔に覚えがあった。だが、彼女だけじゃない。見たことのない人の顔もちらほらある。
「あの帽子に金髪の女の子、凄く可愛い子だな…どこかの貴族かな」
「こんなときに何言ってんだよ。今の状況わかってるのか?」
マリコリヌが、向こうにいるティファニアの美しい容姿を見て興奮したが、そんな彼に対してレイナールは呆れた。
「そういえばあのジュリオとかいう奴、今どうしてるんだ?上空から落下物を探すって言ったきり姿が見えない」
「言われて見れば…全く、怪獣使いだかなんだか知らないが、ロマリアの神官は暢気だな。女王様もよくあいつを頼る気になったよな…」
ふと、レイナールが自分たちの周囲を見て、まだジュリオが戻っていないことに気づく。彼の一言で、マリコリヌもジュリオがまだ姿を見せないままであることに不服を洩らした。
二人もその後、自分たちだけではどうしようもないので、一度他の仲間たちと合流することにした。
最初にギーシュの叫び声を聞きつけたサイトとムサシも、木陰に隠れて様子を見た。
「あの人達は…!」
「サイト君、彼らを知ってるのかい?」
ムサシは、サイトが向こうにいるマチルダたちを知っているような口ぶりをしたのが気になり、サイトたちに尋ねた。
「…知ってるも何も、会ったことがあります。あの女の子は…」
サイトは、以前魔法学院の宝物を盗んだフーケの事件のこと、アンリエッタから秘密裏に頼まれた任務でアルビオンに旅立ったときに訪れたウエストウッド村にて出会ったテファたちのことを簡潔に説明した。
「なるほど…そんなことがあったのか」
「一緒にいるあの男たちは、俺たちがアルビオンで出会った炎の空賊たちだ。たぶん、テファたちはあの人達の力を借りてアルビオンを脱出してきたんだ」
『じゃあ、アルビオンとラ・ロシェール間の上空で起きた爆発からの墜落物ってのは、あの空賊たちの船のことってわけか』
ゼロはこれまでの要素を組合わせ、たどり着いた結論を口にした。
「あの人達には世話になったんだ。何とか助けないと!」
「待って、サイト君。気持ちはわかるが、僕らもまた彼らと同じように人質を取られているようなものだ」
当時の負い目と恩から、すぐにでもテファたちも助けたいと思っていたサイトだが、ムサシが落ち着くように言う。
そうだ…今、テファたちは銀色のウルトラマンを…シュウを人質に取られている。彼女たちだけじゃなく、人質のシュウも助けなければならない。
「シュウ…!」
操られたウェールズとメフィストの手からアンリエッタを取り戻したラグドリアン湖の事件で別れて以来、ずっと連絡が取れないままだったシュウ。敵に捕まっていたから、今まで連絡が取れなかったのか?
「シュウ…じゃあ、あれが…?」
ムサシが、サイトの口からシュウの名前を口にしながら十字架に張り付けられている巨人を見ているのを見て、もしやと思って問うと、サイトは頷いた。
「はい。前にムサシさんに話してた…俺以外の…もう一人のウルトラマンです」
サイトは視線をシュウに向ける。それにしてもまさか、あいつが捕まっていたなんて。同じウルトラマンなだけに、サイトはすぐには信じられなかった。
ちなみにあの巨人の正体を知らないままなのはマリコリヌとレイナールだけだ。しかし、十字架に貼り付けられている彼の傍らにいる怪獣ヤマワラワが、テファのかつての友人だったことを知るものはいない。
ムサシはネクサスを凝視する彼を見て、おそらく彼が友を助けたいという衝動を抱きつつあるのを察した。
「サイト君、僕も気持ちは同じだ。見覚えのある怪獣も確認した」
「…え?見覚えのって…」
ムサシの口から見覚えがあると聞いて、一度我に返ったサイトは目を見開く。今、十字架のネクサスと共に出現したあの毛むくじゃらの猿に似た怪獣のことを言っているのか。
「あれはヤマワラワ、僕の世界で妖怪伝説の元になった怪獣だ」
「よ、妖怪…?」
思わぬ単語が出てきてサイトは困惑した。いや、一応自分の世界の地球にも妖怪伝説となった怪獣の存在はあったが…どうやらどの世界でも異形の存在である怪獣は妖怪と同列に思われることは珍しくないようだ。
「けど、様子がおかしいな。僕が知るヤマワラワも狂暴になることがあったけど、それは友達を守るためかとかで、決して無意味に暴れたりするような怪獣じゃない」
少し見てみよう。ムサシは腰に下げていた銃器のようなものを取りだし、蓋を開いて小型モニターを展開した。
「ムサシさん、それは?」
「別に迂闊に撃つ訳じゃないよ。ヤマワラワの様子がおかしい理由を探るだけだから」
ムサシはそういって、特殊銃『ラウンダーショット』をヤマワラワに向ける。もちろん、誰にも見られないように気を配りながら。
この銃はムサシがEYESにいた頃に所有していた銃を、ムサシ自身の技術で再現した、通信・探索などの機能も搭載した万能銃だ。
照準を合わせると、モニターにヤマワラワの体内をサーチした映像が表示される。
「この反応は…!」
ムサシは解析結果を表示したモニターを見て、目を見開いた。まだEYESに所属していた頃に何度も見かけた結果だ。
「まさか…また…『憑りついている』のか…?」
「『憑りついて』…?何かがあの怪獣に取り付いてるんですか?」
奇妙な言い回しだが、なんとなくサイトとゼロは、ムサシが突き止めたヤマワラワの異変の原因が、何かがヤマワラワに憑依しているからだと認識した。
「ああ、この反応…間違いない。
『カオスヘッダー』が憑りついてるんだ!
僕たちの世界で、人類がカオスヘッダーと対立していた頃と同じように!」
「カオスヘッダーって…!」
ムサシとルイズの実家で初めて会って彼と話をしたとき、その名前をサイトは聞いたことがあった。かつてムサシの世界『コスモスペース』で地球怪獣に憑依し、怪獣の暴走を引き起こす光のウイルス。
「でも、カオスヘッダーがなんでまた…!」
そう言いかけたところで、サイトは思い出した。カオスヘッダーは確かに、ムサシやコスモスの活躍で正しい心を手に入れ、和解した。だが、ようやくつかんだ怪獣と人類の平和な世界に水を差すように、『怪獣バイヤー・チャリジャ』が現れ、怪獣たちを連れ去った。
本来は悪意のないヤマワラワの様子がおかしいのも、カオスヘッダーがチャリジャたちに捕獲された後で都合のいい存在となるよう洗脳・または改造をされたとしたら辻褄が合ってくる。
ムサシは怒りを覚えた。対立していた頃は卑劣な手段こそとることはあったが、本来カオスヘッダーが自分の世界で混乱を起こしたのは、元々純粋な悪意ではなく、彼らなりに秩序を生み出すための手段だった。それを、完全な悪意ある目的のために利用するなど、許せるはずがない。
…だが、今のムサシ=コスモスに変身できるだけのエネルギーがない。この世界に来るまでの間にほとんど切らしてしまっていたのだ。
「…サイト君、あの少女たちを助けたら、次はゼロと一緒に、ハルナちゃんにしてあげたように、一度ヤマワラワに光を照射してあげてくれないか?」
「ハルナにしてあげたように?」
言われてみて、サイトは記憶をたどってみる。光を…照射…?…あ!
確か、ハルナがまだ闇に囚われていて、その正体を知った直後の戦い。そこで彼は一度、ハルナに説得を試みながら、ゼロの浄化の光を浴びせた。そうしたら、サイトの心からの言葉と相乗効果を起こし、ハルナの本来の意識が戻りかけた。
『ムサシ、言っておくが…コスモスほど俺は浄化光線に特化してないぞ?あの時も、サイトの精神と俺の光が同調し、それがたまたまコスモスの浄化光線と似た効果を持った技になっただけだ』
サイトがあの時、ゼロとして使った浄化技〈ウルトラゼロレクター〉。確かに闇に囚われたハルナの主人格を呼び起こすことができた。しかし、あの技はゼロにとってぶっつけ本番で編み出した、つたない技術同然の技だ。ハルナが自我を取り戻し、もう一人の自分であるアキナと心を一つにし光の力でファウストに再び変身したことと同じように、奇跡に近い。
「…ゼロ、やろう」
『サイト…』
サイトは立ち上がってゼロに言った。
「ムサシさんは俺たちの恩人だ。この人にしてもらった分、俺たちも返してあげなくちゃ。それに…あの怪獣には本来悪意がないんだろ?だったら、それを助けてあげるのもウルトラマンの使命って奴じゃないのか?」
『そうだな…その通りだ』
ゼロもサイトの言葉に後押しされ、やってみることを決断した。またもう一度同じことができるかどうかなんてわからない。だが、求める結果に近づくためなら、しくじることなんていちいち考えて足を止めるわけにいかないのだ。
「じゃあ、ムサシさん、もしルイズたちと合流したら、その時は話を合わせておいてください」
「わかった。浄化が終わった後は、僕がヤマワラワと話をしてみる」
ウルトラゼロアイを取り出すサイトに、ムサシは頷いた。
サイトは再び視線を、木陰の向こうにいるティファニアたち、そして十字架に張り付けられたネクサスと、ヤマワラワに傾けた。
シュウも、テファたちも、空族たちも、ヤマワラワも…
(待っててくれ、みんな…俺が助けて見せるからな!)
いざ、ゼロアイを装着し、変身しようとした時だった。
『ん…まて、サイト』
ふと、ゼロがサイトに変身を留めさせてきた。
「ど、どうしたんだゼロ。いきなり…」
『サイト、あのウルトラマンをよく見てみろ』
なんだろう。言われてみて、サイトは目を凝らしながら、シュウの…ウルトラマンネクサスの姿を見る。
(…いや、待てよ…あれは)
じっと十字架のネクサスの姿を観察する内に、ゼロと同じように何か妙な違和感を覚えた。
「ッ!まさか…!」
何かに気付いて、サイトは驚きを露わにしながら顔を上げた。
「サイト君、ゼロ?」
ムサシが、二人が何かをつかんだことを察し、それを尋ねてきた。
「…ムサシさん、これはヤマワラワやテファたちを助けるだけじゃすまないかもしれない」
サイトはそのように答えてきた。
「シュウ…!」
テファやマチルダが、イエス・キリストのように十字架に貼り付けられた銀色の巨人を見て、絶句した。
目に光を宿さずにぐったりしている。まるで死んでいるように見えた。
「ではティファニア嬢、我々の元に来ていただきたい。あなたの虚無の力を、我々レコンキスタのために使ってほしいのだ。そうすれば、彼らを解放してやってもいい。
安心したまえ、あの巨人は力尽きかけているが、まだ生きているぞ」
テファたちはクロムウェルの要求に喉をつまらせた。なんて卑劣な取引を持ちかけてきたのだ。こいつが神聖皇帝?笑わせるな、こいつはもはや只の外道だ!
「閣下、いくらなんでも破廉恥極まりない!こんなことを閣下自らが下したとなれば、悪名を後世に残すだけです!」
ヘンリーは臣下として警告を入れるが、クロムウェルは澄まし顔だった。
「皇帝である余に逆らうと?ずいぶん偉くなったものだな。たかが末端の兵ごときが」
本性を露にした自分の主君に対し、ヘンリーは心の奥底から灼熱するような感覚を覚えた。杖を向けようとも考えたが、クロムウェルの「いいのか?」の一言と、奴が視線をテファに向けているのを見て、く…と歯軋りする。自分がもしクロムウェルに逆らったりした場合、テファが要求を呑まなかった場合と同じ結果が訪れる。どうやらテファはあの怪獣に対しても思い入れがあり、あのウルトラマンとも関わりがあるようだ。尚更自分の判断で行動を起こせなくなった。
「さあ、娘よ。どうするのだ?君がもし条件を飲まなかったら…あの巨人とこの場にいる空賊…そして、君たちが後生大事に保護している子供たちも…ただの肉の塊となるやもしれんぞ?」
もはやクロムウェルは神聖皇帝としての姿を見せていない。浮かべた笑みは、下種な悪党のそれに変貌していた。
「テファ、聞くんじゃないよ!これは絶対罠だ!」
マチルダはテファに警告する。こんな手口を考える奴が罠を張らないはずがない。が、彼女は自らの視界に映る二人から目を離せなかった。あの二人が危機に陥っている。目に映る状況が、彼女の頭から平静さを奪い始めていた。
「お姉ちゃん!!」「テファ姉ちゃん、マチルダ姉ちゃん!」
すると、まだ戻ってこないテファたちを心配して、村の子供たちが集まってきてしまう。
「みんな…大人しくしろって言ってただろ!」
「ごめん、マチルダ姉ちゃん…でも、誰も戻らないから…」
集まってきた子供たちと、それを叱るマチルダを、テファは見て憂い顔を浮かべた。
きっとまた、自分のせいで、またこの場にいる皆が傷ついてしまう。
(これじゃ…シュウに足手まといと言われても仕方がない…よね)
マチルダも、ヤマワラワも、村の子供たちも、空賊の人達も、ヘンリーも…
…そしてシュウさえも。
ハーフエルフだから、虚無の担い手だから…狙われてきた。そして自分を守ってくれる人達を巻き込み続けてきた。自分に対して一種の失望感を抱くテファは、クロムウェルの前に一歩踏み出した。
「……わかり、ました…」
「テファ!?」
「ごめんなさい…姉さん。やっぱり、これ以上私のせいで誰かが傷つくのは見たくないから…」
驚愕するマチルダに一言詫びを入れ、彼女はクロムウェルの方へ歩き出す。
「ヘンリー君、君には空賊どもの邪魔が入らないように見ていたまえ。邪魔が入ると面倒だからね」
「…」
ヘンリーは不本意と不満を覚えたが、逆らうことができず、杖を引き抜いてマチルダや空賊たちに向けた。
「駄目だテファ!行くな!」
「動くな!下手に動けば…君たちもただでは済まされないぞ」
「ぐ…ヘンリー…!」
マチルダが惹きとめようと声を上げて惹きとめようとするが、命令どおりヘンリーは杖を向けて警告を入れた。テファや村の子供たちの安全を最優先に考えるマチルダにとって、ヘンリーの選択はその余地がなかったとしても宣戦布告のように受け取れた。
「若いの…結果的に主を連れ出してしまったのがわしらとはいえ、それでよいのか?」
ガル船長はヘンリーに、険しい表情と視線を向ける。
「おい、そこの君!もしやティファニア嬢をそのような無粋な輩に差し出すというのか!」
ギーシュも深い事情までは踏み込めていなかったが、少なくとも美しい女性が聞きに陥っていることをわからないほどKYではなかった。
「……」
ヘンリーとて、貴族の…紳士としてのこだわりがある。一人の少女に心身ともに痛みを与えるような選択などとるべきではない。だが…テファが究極の選択肢を迫られているのと同じように、立場上主君に当たるクロムウェルに逆らうこともまた許されない状況だった。もし逆らえば、テファが守りたいと願っているあの巨人が、怪獣の手にかかってしまうことになる。真の平和を心の奥底で願っていたから、婚約を破棄してでも国を守ろうとしたヘンリーにとって、ウルトラマンは見捨てることができなかったのだ。
「ったく…シュウ!あんた…そこで何を寝そべってるんだい!早く起きてテファを助けなよ!」
十字架に張り付いたまま動かないままのウルトラマンネクサスに、マチルダは八つ当たり気味に怒鳴り散らす。藁にも縋る思いからの願いでもあったが、それは届かなかった。
「いいの、姉さん。もう…いいから」
テファはマチルダの方を振り返り、悲しげに笑みを見せた。同じだ…しばらく空賊たちの援助を得ながらこの森で暮らすことになったあの時も、彼女はシュウから足手まといといわれたショックであのような悲しそうな表情を浮かべていた。その表情に言葉を失うマチルダ。
気がつけば、テファはクロムウェルとヘンリーの前に来ていた。
「…ふふ、よく来てくれた。現代の虚無の担い手ティファニア嬢。我々レコンキスタは貴殿を歓迎いたそう」
クロムウェルは勝ち誇った笑みを浮かべ、ティファニアへ手を伸ばす。薄汚い手で愛する義妹に触れようとするクロムウェルに、マチルダは腸が煮えくり返りそうになった。
「これで、皆を見逃してくれるんですよね?」
「あぁ、彼のことも解放してあげよう」
クロムウェルは指を鳴らす。すると、十字架に貼り付けられていたネクサスの呪縛が解け、ネクサスは地上へ落ちて倒れる。
マチルダたちは意外な事態に衝撃を受けた。まさか本当に、人質を解放してくるとは思いもしなかった。この男は確かに卑劣な輩だが、それでも約束を守る男なのだろうか?
「シュウ!」
テファはすぐに駆け寄ろうとするが、ガシッとクロムウェルがその肩を掴んで引きとめた。
「あなたはこちらに身を置くと決めたはずだ」
「……」
そうだ。自分はもう、村の皆と共に過ごすことなどできない。これ以上みんなの足を引っ張り続けるくらいなら…テファは大人しくクロムウェルに従った。これで、ヤマワラワもシュウも、自由になれるはずだ。
しかし、ネクサスを解放したその時点で、誰もが油断していた。
この男…オリバー・クロムウェルが、亡き本物もこの擬態した個体も、目的のためならばどれほど卑劣な手を下すこともいとわないことを、忘れていた。
「これで他の者たちに用はない」
「え…!?」
すると、ヤマワラワの傍らで倒れていた巨人…ウルトラマンネクサスが目に光を灯し、立ち上がったのだ。
「シュウ…」
やっと立ち上がってくれたのか。待ちくたびれた思いと、彼が戻ってきたことを喜ぶ思いが高まる。
「シュウ兄、テファお姉ちゃんを助けて!」
村の子供たちの一人であるエマがネクサスに叫んだ。彼ならきっとこの状況をなんとかしてくれるはずだ。悪い奴に捕まったテファも、ヘンリーも、空賊のみんなも救ってくれると信じて疑わない。
しかし、その希望は無惨にも裏切られた。
立ち上がったネクサス。次の瞬間…
「デュ!」
「グオオオオオオオオオ!!!」
次の瞬間だった。ヤマワラワが赤く染まった邪悪な眼光を放ちながら雄叫びを上げ、地面に向けてその豪腕を突っ込むと、土の中から巨大な岩を掘り起こし、それを投げつけてきた。
そしてさらに、ネクサスの手から放たれた一発の光弾もまた……
クロムウェルが見逃すと約束したはずの…空賊団の船に向けて放たれた。
岩の礫と光弾はまっすぐ森の中に隠れていてアバンギャルド号に飛んでいき、その場所に落下と同時に、爆発した。
「ッ!」
ネクサスとヤマワラワの突如の暴挙に、テファたちは何が起こったのか、一瞬理解できなかった。
「…シュウ…どう…して…!?」
なんでヤマワラワに続きシュウが…ウルトラマンまでが自分を助けようとしてくれた空族たちの船を狙った…?頭の中が、真っ白になり始める。
なぜシュウが、ヤマワラワと共に、自分たちに向かって攻撃するんだ?
なぜ…どうして!!?
「兄ちゃん…なんで…!?」
子供たちにも絶望が心を染め上げようとしていた。
「ははははは。さすがにこればかりは予想外だったようだな。虚無の娘」
クロムウェルはより深い絶望を覚えるテファをあざ笑ってきた。
「あんた、シュウにいったいどんな小細工をした!?」
マチルダもシュウがこんな蛮行に及ぶとは思えず、いったいどういうことか説明を求めてきた。
「見ての通りだ。彼も余の理想に共感し、友達となったのだ」
クロムウェルはまるで詫びれもしないでそう答えた。
「ふざけんな!あいつがこんな馬鹿な真似をするはずがないだろう!!」
彼は人を守ることに必死過ぎるほどの使命感と責任感があった。少なくとも、人の命を蹂躙することをよしとするような奴ではなかった。マチルダはクロムウェルの言葉を一蹴した。
「シュウ、ヤマワラワ……お願い、止めて!」
両手を広げて叫ぶテファだが、ネクサスは耳障りといわんばかりに、さらにもう一発、今度はマチルダたちに向けて光弾を撃ち込んだ。
「ウワアアア!!」
巨人の攻撃はすべてが人間にとって強大すぎた。ネクサスの〈パーティクルフェザー〉は直撃はしなかったもの、足下で爆発した。
「……!」
テファは彼からの予想外の非情な裏切りに、より深い絶望を抱いた。
「ふん、バカな娘だ。どこまでも現実を見すえないとは。
余や彼らのような優れた生命体が、下等生物共にあわせいわんばかりにる義理などない。むしろ、この程度のことも見破れなかった自分の浅はかさを呪うがいい」
今のクロムウェルは、この場の誰よりも上の立場にいる。わざわざ立場の弱いテファの頼みを聞く必要もない。寧ろいずれ、テファを取り戻すために邪魔をしに来るかもしれない者たちを生かす気はなかった。
「次は確実に当ててくるぞ。ほらほら早く逃げたらどうだ空賊ども?逃げるのは得意だろう?」
ヘンリーはクロムウェルを見て、わかり始めていたとはいえ、主君の醜悪な一面を見て嫌悪感を懐いた。
「閣下…それが、あなたの本性なのか」
それを見てクロムウェルは悪意を孕んだ余裕の笑みを浮かべた。
「もはや共犯だと言うのに、そんな不快な目を向けてよいのか、ヘンリー君?余に逆らえば君はアルビオンに帰れなくなるのだぞ?それに…」
「きゃ…!」
クロムウェルは新たな人質のつもりか、テファを逃がすまいと、ガシッと捕まえた。
「テファ!」
思わず体が動きそうになったがマチルダは足を止める。
「これたまたまチェックメイトだな、空賊共。自由にこだわる貴様らにとって、この娘のことも無視はできんだろう?」
「…自由を汚す下衆が」
ガル船長はクロムウェルの脳天に、今すぐに鉛弾を撃ち込みたい衝動に駆られる。
いや、まだ自分たちには手札がある。まだギルとグル、そしてまだ船に残っているクルーたちがいる。彼らもこの騒動を聞き付けないはずがない。にもかかわらず姿を未だに見せていないのは、どこかに隠れているからだ。
ギルやグルたちにとっても思わしくない状況だが、姿を隠している今の状況を利用してくれるはず。
「まだ余裕を隠しているようだな、空賊」
まだ平静さを保っているガル船長を見て、クロムウェルは一瞬面白くなさそうな顔を浮かべる。
「もしや、余が貴様の隠し玉ともいえないネズミに、気づかないと?」
「なに…?」
「そこの森の中に、他のクルー共が隠れていて、この娘を奪還しようと狙っているのだろう?」
「ッ!」
ガル船長が今の悲鳴を聞いて、初めて取り乱した様子を見せた。
「見事な諦めの悪さだな。空賊。だがやはり無意味だ。たとえこの娘を奪還できても、余の虚無を利用すれば」
当然虚無など嘘だ。だが、今のクロムウェルはそうでなくても、こちらからすれはあまりにも脅威であることにかわりない。
「シュウ…ヤマワラワ」
テファは、クロムウェルに捕まれている手を振りほどきたくても、相手の力が強すぎて振りほどくことができず、ただ敵となってしまったシュウとヤマワラワを哀しげに見上げるだけだった。
どうして、彼はこんなことをしたのだ?理由はいったいなんなのだ?
『貴様と俺は、所詮血の匂いでまみれた者同士』
いつぞやの、闇の巨人ダークメフィストに変身するメンヌヴィルが言った言葉が蘇る。奴はシュウが、自分と同じ血に飢えた戦士だと語っていた。じゃあ、その本性が露わになったと?それまでの彼が、自分や子供たちに見せたかすかな優しさは…嘘だったのか?
その時だった。
「騙されるな!テファ!!」
森の中から叫び声がテファたちの耳に聞こえてきた。それと同時に、テファを捕まえているクロムウェルの手に、緑色の閃光が突き刺さる。
「ぐおおお!!?」
腕に走る激痛から、クロムウェルはテファを離してしまう。
「っ今だ!」
さっきのネクサスの攻撃による爆風のダメージを意に返さず、マチルダはすぐさまテファのもとに駆けつけ、彼女を奪還した。
「ぬ、しまっ……」
目的だったテファを奪い返され、クロムウェルは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。
「大丈夫か、テファ!?」
「あなたは……サイト!?なんで……」
今の閃光を放ったのは、ウルトラガンを持ったサイトだった。思わぬ援軍に、テファもマチルダも驚いた。
「ええい、逃がすか!」
「そこまでだ!」
クロムウェルはもう一度テファを捕まえようと、彼女に向かって行こうとしたが、サイトの後に続いてきたムサシもラウンダーショットを向けて現れたために阻まれた。
「もはやあなたに約束を守る気概がないのなら……」
同じタイミングで、ヘンリーもついに意を決してクロムウェルに杖を向けていた。テファとの約束を簡単に破り、彼らを傷つけた以上、臣下として私心を殺して仕えることに意味はなかった。
「サイト!」
さらに彼らの後に続き、別行動をとっていたルイズとアキナ、レイナールとマリコルヌのペア、さらにこの場に巻き込まれたギーシュとモンモランシーも集まった。
「貴様ら……!」
クロムウェルはこのタイミングで入ってきた邪魔者たちを睨み付けた。
「ルイズも…どうしてここに」
「話は後よティファニア、一先ず私たちと一緒に避難するわよ」
さらに、上空からリトラの背に乗ってきたジュリオも姿を現し、サイトの傍らに着地した。
「やれやれ、タイミングを逃したな。僕としたことが。僕があのタイミングで助けに入ったら、彼女は僕に惹かれてくれたかもしれないのに」
「なにやってたんだよジュリオ」
さっきから姿を見せなかったジュリオに、サイトは微かに睨みを利かせた視線を向けた。
「酷いなあ、彼女たちがそこの神聖皇帝気取りと話してる間、リトラたちにあの空賊の船を守らせてたんだよ?もしかしたら、怪獣を使って攻撃してくるかもしれないからね」
実は合流する直前まで、ジュリオはアバンギャルド号を見つけていたのだ。念のため、船が破壊されないように怪獣たちを護衛においていたのである。
「…そういうことなら早く言えよ」
「言うタイミングを逃したんだ。許してくれよ」
「さらりとテファを口説こうとしたくせによく言うぜ」
やっぱりいまいち信用にかける感が否めない奴だと思ったが今はこいつの信用性を図る暇などない。
「まあいいや、ジュリオ。一旦任せたぜ」
「わかった。ゴモラ、来い!」
ジュリオはバトルナイザーを掲げ、ゴモラを召喚した。
「キシャアアア!」
「か、かか…怪獣!?」
人間が怪獣を呼び出した光景に、また新たな脅威が自分たちに降りかかったと思った子供たちが怯える。行きなり現れた別の怪獣には、マチルダたちも動揺を示した。
「大丈夫、彼は僕の友達だ。安心して、僕たちであの悪い奴らを倒してくる」
ジュリオは彼らの元に来て優しげな口調で彼らに言った。
「待って!彼らは…」
それを聞いて、テファは思わず引き留めてきた。確かに彼らは…ネクサスとヤマワラワはクロムウェルの意思に従い、マチルダや村の子供たち、空賊の皆に対して殺意を向け、攻撃してきた。だが、今では敵にこそなっているが、彼らはテファにとって大切な友達のままだった。
しかし、サイトはテファに向かって強く言い放った。
「テファ、あれはウルトラマンじゃない!」
「え…!?」
テファは、サイトの言った言葉をすぐに理解できなかった。マチルダや村の子供たちも同じように困惑した様子を見せた。
「よく見てみろ。あいつの体を」
サイトがネクサスを指差す。言われた通り、テファたちや他の面々も、自分たちに向けて身構えるネクサスの体を確認する。
「…ん?」
よく見ると、腰を中心に、奴の体中になにか奇妙なものが張り巡らされているのが見えた。拘束具?いや、プロテクターというべきか。そのような者が両腕の腕輪『アームドネクサス』の手前の位置にある手首と、腹の周りにそれがつけられている。
さらにいえば、サイトはゼロと一体化したために透視能力を手に入れている。あのネクサスの体内に…
『純粋な生物が持つことのない無数の無機物』がぎっしり詰め込まれていたのだ。
「あれは……サロメ星人が作った偽物だ!!」
「偽物…!?」
その一言に…ルイズたちUFZの仲間たちも、炎の空賊たちも驚いた。
そう、シェフィールドは以前、メンヌヴィルによって捕獲されたシュウを実験に懸けた際、彼のウルトラマンとしてのエネルギーデータを手に入れた。そのデータをもとに、彼女はテファを騙し、そのあとで邪魔となる空族たちを排除するための駒として、
偽のネクサス…
『ロボット超人・にせウルトラマンネクサス』を作り上げていたのだ。
「…余計なことを口走りおって」
クロムウェルはサイトを憎らしげに睨みつけたが、サイトからすればこの男の方が何倍も許しがたい。ウルトラマンの姿を利用し、悪意のない怪獣をも利用し、一人の少女の心をも踏みにじる卑劣な男…クロムウェル。
「お前みたいな宇宙の悪は…俺が倒す!」
デルフを引き抜き、サイトはクロムウェルに対して力強く宣言した。
「人間ごときが、種を突き止めたくらいで調子に乗るなよ」
自分に対して挑戦状を叩き込んできたサイトに対し、クロムウェルはそういうと、彼の体がどす黒い闇のようなオーラに包まれる。奴は自らそのオーラを払うと、クロムウェルの姿はそこになく、畏敬の姿をしたエイリアンがそこに立っていた。
「うわ!?なんだこいつ!!」
人間の姿から、おぞましさをあらわにした異星人の姿に、サイト・ジュリオ・ムサシ以外の面々が驚愕する。
「やれ…にせウルトラマンネクサス!ヤマワラワ!邪魔者を皆殺しにして虚無の担い手どもを回収しろ!」
正体を露わにしたクロムウェル…『変身怪人アンチラ星人』は自分の僕であるウルトラマンの模造品と異世界の妖怪に向けて命令を下した。
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