真田十勇士
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巻ノ七十 破滅のはじまりその四
「上手くいくものではないからな」
「だからですか」
「太閤様も諦めておられる様じゃ」
秀次は幸村に難しい顔で述べた。
「何度かわし自身太閤様にお話しておるが」
「お子をもうけられる様にと」
「いつも太閤様に言われる、それは務めておるが」
「それでもですか」
「出来ぬとは、笑って言われる」
「左様ですか」
「まことに子のことは難しい」
授かることはというのだ。
「どんどん生まれる場合もあれば」
「そうでない場合もありますか」
「だからじゃ」
それでというのだ。
「わからぬ」
「そうですか、では」
「太閤様も同じじゃ、どうにもな」
「お子を授かりませんか」
「そういえば御主もじゃが」
「それがしも」
「まあ中々出来ずともな」
それでもというのだ。
「諦めるでないぞ」
「はい、それがしもまた」
「ましてや御主は若い」
それだけにというのだ。
「まだこれからじゃ」
「では」
「そして子が出来れば大事にせよ」
幸村にこうも言った。
「よいな」
「はい、文武の両道と」
「人の道をじゃな」
「教えたいと思っております」
「ではその様にな」
「子が出来ればそうします」
「ではな、それと実はな」
ここでだ、秀次は幸村にこうしたことも話したのだった。
「先日大坂に行った時に叔母上に言われた」
「北政所様に」
「太閤様が変わられたとな」
「言われましたか」
「どうも勘気を起こされるとな」
それがというのだ。
「止まらずしかも極端だとな」
「その様にですか」
「変わられたとな」
「そういえば」
その話を聞いてだ、幸村はすぐに察して言った。
「利休殿のことは」
「あのこともじゃな」
「それになるでしょうか」
「あの時はわしも不思議に思った」
「太閤様の為され様にしては」
「あまりにも酷だと思ってな」
器が大きく無闇な殺生は殺さない秀吉であるがというのだ。
「わしも妙に思っておった」
「ですか」
「わしもお止めしようとしたが」
「それが、ですな」
「出来なかった」
難しい顔での言葉だった。
「このことは今でも無念に思っておるが」
「その勘気がですか」
「年を経るごとにな」
「酷くなっていますか」
「大和の叔父上とじゃ」
秀長のことである。
「大野政所様が隠れてからな」
「そうなられましたか」
「その様じゃ、それでわしも気をつけよと」
「北政所様に言われましたか」
「うむ」
実際にというのだ。
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