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提督はBarにいる。

作者:ごません
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出撃・礼号作戦!~決戦、重巡棲姫~


 単冠湾泊地との協議の結果、翌朝夜明けと同時に出撃する事が決まった。それまでは待機となってしまったので、ジリジリと焦れてくるような気持ちになるがこればかりはどうしようもない。皆ピリピリと緊張感を保ったままそれぞれに休息を摂り、身体を休めた。そして、その夜。

「んん~……テートクぅ…」

「今日はじゃれついて来ても駄目だ。押し倒したりしねぇからな。」

「な、なんでデスか~!?」

 同じベッドに入った金剛が絡み付いてきて、色々とヤバいです、主に理性と愚息が。

「明日は出撃だろ?お前とシてると燃え上がり過ぎちゃって朝までコースじゃねぇか毎回。」

 明日は互いに失敗の許されない立場だ。体力の消耗と寝不足は避けた方がいい。

「Uh……わかりまシタ。でもテートク、テートクは抱き枕にさせてもらいマース!」

 そう言うと金剛は先程よりも引っ付いてきて、色々と当たって来るわけですよ、柔らかいモノが。脚なんか身体に絡み付けて来ちゃったりして。もうね、こっちからしたら地獄ですよ。ある意味天国だけど。

『やれやれ、こりゃ眠れないかもなぁ……。』

 そんな事を考えながら、悶々とした夜を過ごした。




 翌朝、結局一睡も出来なかった頭を覚醒させようとコーヒーを飲みに行くと、既に先客が居て作戦概要の資料を眺めながらコーヒーを啜っていた。

「お早う、酷い面だな。どうした?まさか一晩中嫁とまぐわっていた訳じゃあるまいな。」

「まさか。サカリの付いた猿じゃあるまいし、その位の分別はついてますよ教官。」

 そう俺が言うとくつくつと喉を鳴らして笑う三笠教官。

「いや、すまんな。どうにも教え子だった頃のクセが抜けなくてな。若造扱いしてしまうんだ、許せ。」

「まぁ、教官と教え子の関係は変わりませんからね。心配されても無理はありませんよ。」

 熱く湯気の立つブラックコーヒーを、胃袋に流し込む。豆の苦味と酸味、そして熱気が寝惚けていた頭を叩き起こしてくれる。

「さて、それじゃあ教え子の成長した手際、見せてもらおうか。」

「ははは、くれぐれもお手柔らかに。」

 そう言って同時に立ち上がった。

 制服を着替え直し、出撃前の港湾部に着くと、既に準備を整えた24人の艦娘が待機していた。

「俺から言う事は何もねぇ。出来るだけの準備、させられるだけの訓練はしてきた。後はこなすだけだ、行ってこい。」

 手短に出撃前の訓示を済ませ、指令室にむかう。ウチの艦隊が急造の補給基地に辿り着き次第、作戦開始だ。静寂に包まれた指令室の中、到着の報を待つ。そして、見送ってから1時間後、通信が入る。

『こちら長門だ、補給基地に到着。燃料を少し補給したが準備は万端だ。』

「了解、では作戦開始だ。叩き潰してこい。」

 俺が静かに作戦開始を告げると、一気に指令室内も慌ただしくなった。




 最初の打ち合わせでは艦隊はまず東南東に向かい、海流が二手に別れているポイントに到着したら連絡が来る手筈だ。

『こちら長門、ポイントJに到着した。』

「了解、打ち合わせ通り南に進んでくれ。」

 今回のルートの選択は、艦隊の構成を考えての事だった。海流から見てそのまま東方向に向かうルートと、南に向かった後で東に向かうルートだ。東に向かうと潜水ソ級flagshipを旗艦とした潜水艦部隊が待ち構えている。ウチの構成だと潜水艦を相手にするのは厳しい。それを踏まえての南ルートだった。しかし、此方にも問題がない訳ではない。

『敵艦隊の反応を探知!旗艦は……報告通り戦艦棲姫だ!』

 南進した艦隊から通信が飛び込む。報告には聞いていたが、やはり姫級が道中にいるというのは肝が冷える。

『マタ……キタノネ?ガラクタドモ!』

 通信機から響く戦艦棲姫の怨み言。これほど出会す度に厄介さと強さを感じさせられる敵艦がいただろうか?

 戦艦棲姫が初確認されたのはアイアンボトムサウンドと呼ばれた作戦の最深部だ。大和型を超える重装甲と大口径砲。そこから繰り出される砲撃は、直撃すれば戦艦でさえ一撃で大破させられてしまう。

「棲姫はまともに相手しなくていい、随伴艦を沈めて脇腹を食い破れ!」

『了解!』

 交戦状態に入った事で一旦通信は途切れる。誰かが損傷するか戦闘状態が終われば通信が入る。こちらからは無事を祈ってやる事しか出来ない。もっと細かく指示を出せば良いとも思うのだが、現場での直感に勝る物は無いと思っている。現場は現場に任せるのが一番いい。その為の訓練はしてある。




 再び通信が入ったのは30分後だった。

『こちら長門、戦闘終了だ。損害は特に無し……このまま進撃する。』

「わかった、ご苦労。」

 フーッと息を吐き出す。どうにか無傷で切り抜けてくれた。この先も油断は出来ないが、取り敢えず1つの山は超えた。そんなに心配ならばもっと細かく指示を出せば良いとも思うのだが、現場での直感に勝る物は無いと思っている。現場は現場に任せるのが一番いい。その為の訓練はしてある。

 その後は飛行場姫が飛ばしてきた爆撃機の空襲をやりすごし、戦艦タ級flagshipを旗艦とした艦隊を殲滅して、いよいよ最深部に待ち受ける艦隊と遭遇しようかと言うタイミングだった。




 通信を繋いでいた長門の通信機から、砲弾が着弾したような音が響いた。

「どうした!?」

『ほ、砲撃だ!戦艦の砲弾よりも小さいようだが、射程が戦艦のそれだ!』

 まさかとは思っていたが、やはりか。

「それは敵の手に堕ちたZaraからの砲撃の可能性が高い!初速が早いから気を付けろ!」

『了解!同航戦に持ち込む!加賀、索敵機を!』

『もう飛ばしてあるわ。』

 流石だ、要求されるであろう事を先読みし、先回りして行う。この辺りの配慮はまだ瑞鶴や翔鶴には出来ない熟練の味だ。

『敵は報告通りの編成ね。旗艦が見慣れない奴だけれど…』

「映像はこっちに回せるか?加賀。」

『難しいわね、相手が既に砲撃戦の準備をしています。』

『バカ…メ……ヤクタタズドモ…メ……マタ…シズンデシマエ……。』

 相手の旗艦、仮に『重巡棲姫』と名付けられたソイツは、喋るのに馴れていないように覚束無い口振りだ。まさか、改造されてまだ間もないのか?……であれば、まだ助けられる可能性はある。

「全艦、戦闘準備!敵の旗艦を倒しきれればまだ救い出せる可能性がある!」

『了解、まずは制空権を奪います。』

 加賀、扶桑、山城から艦載機が発艦していく音が通信機越しに聞こえる。しばらく機銃の音や対空砲火の音が響いていたが、

『制空権確保!だが、時雨が小破、夕立が中破した!』

 これは痛い。当初の予定では昼の砲撃戦の内に敵の随伴艦を潰し、夜戦で重巡棲姫を叩くプランだった。その為に対空火力の減少を考慮しても、夜戦の得意な者を第二艦隊に組み込んだのだ。

『ハーイ、私の仲間を傷付けたオトシマエはキッチリ付けてやるネー!』

『ほいほーい、仇は取るよ~!』

『ナメた真似すんじゃないわよ、雑魚の分際でぇ!』

 金剛達の支援砲撃と大井、北上コンビの魚雷攻撃が疾る。通信機越しにも轟く轟音、炸裂音。

『随伴の駆逐艦2隻は撃沈、空母棲姫は飛行甲板が炎上中だ!』

 これはデカい。それでは空母棲姫は艦載機が飛ばせないから置物同然だ。残るは戦艦棲姫2隻と重巡棲姫のみ。

「砲撃開始!叩き潰せぇ!」

 長門が切り忘れた通信機から、続けざまに響く砲撃の音。鼓膜が破れそうになってこちらから一旦通信を切った。時刻は夕暮れ……間も無く夜の帳が降りてくる。

『敵の随伴は大破……重巡棲姫は中破しているが?』

「勿論夜戦に持ち込む!神通、任せたぞ!」

『了解、探照灯照射!第二艦隊、突撃します。』

 第二艦隊の戦法は至ってシンプルだ。旗艦の神通が探照灯を照射しながら突撃し、後続の艦娘が砲撃と魚雷を叩き込む。被弾のリスクも高いが、こちらの攻撃の成功率も高い。ハイリスクハイリターンな戦法だが、神通なりの勝算があっての事だ、口出しはしない。

『当たって……!』

 神通の砲撃。何かに当たって爆ぜたような音がする。

『砲塔を1つ潰した!けどまだ動いているぞ!』

 長門が実況してくれている。現場で見られていないのが少し歯痒い。

『オノレエェ!』

 重巡棲姫からのお返しと言わんばかりの砲撃。神通に被弾したらしく悲鳴が響く。

『神通大破!だが探照灯は取り落としていない。』

 流石は神通、普段から鬼教官と呼ばれて教え子を鍛えていない。己の気迫も大した物だ。

『残念だったね…!』

 時雨の魚雷攻撃。炸裂した場所が良かったのか、断末魔のような悲鳴が聞こえる。

『重巡棲姫の動きが止まった!けれどまだ止めは……あ、おい夕立!』

 あの狂犬め。相手の懐に飛び込んで零距離射撃で止めを刺すつもりか。見えなくても何となく解ってしまうから困る。

『苦しまないように、一発で仕留めてあげる。』

 ぽいも何もなく、そう言い放つと同時に砲撃音がして何かが水面に崩れ落ちる音がした。

『重巡棲姫、沈黙……。』

「了解、残った敵も出来るだけ沈めて帰投しろ。」

 さて、夕立の蛮勇ぶりにも困った物だ。強いのは間違いないんだが、いかんせんやり方が荒っぽ過ぎる。注意すべきか長所を伸ばすべきか。悩み所ではあるが……。

「随分と手を焼いているようだが、中々いい運用をしている様じゃないか。」

 珍しく、三笠教官に褒められた。今くらいハチャメチャな方が楽しいかも知れん。小利口に纏まられ過ぎても扱いに困るしな。俺はそう思いながら、独りで苦笑した。 
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