IS ーインフィニット・ストラトスー 〜英雄束ねし者〜
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
23話『破壊者』
四季の中にあるルーンレックスの情報は全てルーンレックスと対になるもう一つの聖機兵『聖機兵ガンレックス』の操者たる騎士GP01から聞いた情報に過ぎない。
真聖機兵を決める神の定めた戦いの敗者では有るが、土壇場でのガンレックスの第三形態への進化が起こらなければ間違いなく敗北し、真聖機兵へと至ったのはルーンレックスと言われているほどの力を持っている。
騎士GP01の前のガンレックスの操者であり、円卓の騎士の一人である『灼熱騎士F91』もまた、自分がガンレックスの操者で有ったら敗れてしまっていたかもしれない。とまで言っていた。
「一兄……デュノア……」
二人の騎士をして敗れていたかもしれないと言い切った相手……もう一つの聖機兵ルーンレックス。
「二人とも、逃げろ……」
「何言ってんだよ、お前だけを置いて行ける訳無いだろう!?」
四季はブレードを構えながらルーンレックスを見据える。目の前の相手は、既に真聖機兵になる資格を失っているとは言え、フォームシフトやゼロ炎に隠してある白炎の杖を使ってでも対抗しなければならない相手だ。
ルーンレックスが動いていないのは単純に先手を譲っていると言う事だろう。己のボディもかつての聖機兵と言う神の生み出した最強の体では無く、ISを使って生み出した紛い物の肉体。この場に居る全員を相手にするにしても、それで十分だと判断しているのだろう。
そして、ルーンレックスの狙いは四季一人であり、足元で倒れている秋八も一夏もシャルロットも眼中に無い。ただ真っ直ぐに四季だけに視線を向けている。
『非常事態発令継続! 来賓、生徒は速やかに避難する事、これより鎮圧のため……』
アリーナ内に放送が響き渡る。ルーンレックスが此処に現れた以上、既にトーナメントどころでは無い。神の生み出した聖機兵のボディこそ無く、それ以外の能力もISを材料にしている時点で大きく下がっていると考えられるが、並の相手であるはずが無い。
「オレがアイツを倒す、だから一兄とデュノアはあそこで倒れているのを拾って此処から離れてくれ」
「だから、お前を残して逃げられるわけが無いだろう!? ラウラだってあのままにしておけない、オレだって戦うぞ!」
「ちょ、ちょっと、何で二人がそんな事をするのさ? 先生達が来れば済む話じゃないか?」
シャルロットの言葉は確かに正論だろう。……正論だろうが、それはある意味に於いては正論ではない。一般的な状況ならばシャルロットの判断が間違いなく正しいだろう。
だが、相手はISを使用したテロリスト等と言う生易しいレベルの敵では無い。完全な状態では世界さえ滅ぼしかねない力を持ったロボット機兵。量産機の教師達のレベルで太刀打ちできるとは限らない……と言うよりも全滅する光景しか見えない。
「……代表戦の時のあの妙な空間と何か関わりがあるんだろう、こいつも?」
「ああ、出所は同じって言うのは間違いない。だけど、一兄はSEがもう殆ど無いだろう?」
専用機とは言え通常のISしか纏っていない上にSEが尽きる寸前の一夏を戦わせるのは危険だと判断して下がらせようとするが、
「お前だって、やらなくても状況は……」
「変わらないってか?」
ヴレイブの装甲の向こう側で四季は一夏の言葉に答えながら笑みを浮かべる。少なくとも、何処まで能力を再現できているかは分からないが、目の前に居るのは世界を滅ぼす事さえも可能な“可能性”を持っていた聖機兵、『ガンダム』と言う名を紛い也にも受け継いだ以上は、この場で危険なルーンレックスを放置すると言う選択肢は無い。
なにより、
「悪いけど……オレはオレがオレで有る為に退く訳には行かない」
そう、二人の友の象徴を宿し、詩乃の勇者になると誓った誓いに賭けて、此処で退くわけには行かないのだ。
「そう言う訳でオレは行かせて貰う」
ブレードを二本引き抜いて四季はルーンレックスへと向かう。
己へと向かって来る四季の姿を目視したルーンレックスの記憶の中に浮かび上がるのは、出来損ないと蔑んでいたガンレックスの姿。操者と共に成長・進化し続けたガンレックスにルーンレックスは敗北した。
「貴様を葬り、完全な復活をとげ今度こそ『真聖機兵の戦い』に勝利して見せようぞ」
両手の掌から光の針を出現させヴレイブを迎え撃とうとするルーンレックス。元になったラウラのISの武装の『プラズマ手刀』に似ているが、掌だけに発生するそれは飛び道具にすることも可能な、ある種の万能武器といえるだろう。
「くっ!」
離れては不利だと判断した四季がブレードを振るうことでぶつかり合う四季の剣とルーンレックスの光の針。両手の針を二本のブレードで受け止め、頭部バルカンを撃つが残念ながら効果は無いように見える。
「ならばこれでどうだ? ルーンレックス破壊光」
「っ!?」
ルーンレックスの声が響くと全身の文字が輝き、全身から光線を放つ。それに気がついた四季がとっさにルーンレックスから距離を取る。流れ弾となった光線がアリーナを覆っていた特種防御シールドを突き破る。
「こいつは……」
危険を察知しアリーナ内を飛び回りながらルーンレックスの破壊光を避けるが、どこまで避けられるかは分からない。今はスピードと機動性能はヴレイブの方がルーンレックスよりも上なのが救いだ。
『あの攻撃は厄介だな。四季、オレの力を使うか?』
デュナスモンの力を借りた形態ならばブレス・オブ・ワイバーンで防御と攻撃を同時に行う事が出来るかもしれないが、
「いや、まだだ……切り札を出すべきと機じゃ無い」
『そう言って切り札を出す前に負けるなよ』
「分かってる」
デュナスモンの言葉に答えながら円を描く様な軌道で飛行しながら四季は少しずつルーンレックスとの距離を詰める。
(……使うべきか、ヴレイブのワンオフを)
「くそっ!」
「まって、一夏!」
ルーンレックスと戦う四季を見ながら秋八をピットの中に放り込んだ一夏とシャルロットの二人はルーンレックスの無差別攻撃に逃げられずに居た。
周囲からは悲鳴が聞えてくる。ルーンレックスの破壊光が特種シールドを破壊して外にまで影響を及ぼしているのだろう。
たまらずに飛び出そうとする一夏をシャルロットがとめる。
「離せよシャル!」
「どうするって言うのさ、君の白式はもうSEが無いのに!?」
「くっ!」
悔しげに表情を歪める一夏。そんな彼にシャルロットは微笑みながら次の言葉を続ける。
「だから、ないなら他から持って来れば良い。でしょ、一夏?」
「シャル…………?」
そんなシャルの言葉に思わず疑問の声を上げる一夏。
「ぼくの方も残り少ないけど、ぼくのリヴァイブならコア・バイパスでエネルギーを移せると思う」
「本当か!? だったら頼む! さっそくやってくれ!」
そう言って一夏が視線を向けるのは全身から放射するルーンレックスの破壊光の前に、少しずつ距離を詰めていく四季の姿。
「でも、あの戦いの中に飛び込むなら、エネルギーが満足に有っても無事じゃすまないよ。本当に良いんだね?」
「ああ、ここで引いてしまったらもうオレじゃない。織斑一夏じゃない」
(やっぱり、一夏にとってはやらなくちゃいけないことなんだ。自分が自分で居るために。他人に譲る事のできない……とても大切な)
例えそれが実の弟である四季であっても……。
(だから、ぼくは一夏に協力するよ。一夏はぼくがぼくで有る為に協力してくれたんだから、今度はぼくも一夏の力になりたいんだ)
頬を赤く染めながらシャルロットは柔らかく微笑む。
「けど! けど約束して、絶対に負けないって」
「もちろん……ここまで啖呵を切ったんだ、ここで負けたら男じゃない」
シャルロットの言葉にそう答える一夏。雪片を構えながらルーンレックスを見据える。
だが、一夏もシャルロットも……ルーンレックスと戦っていた四季もそれには気付かなかった。そんな一夏の姿を見て一人の騎士が満足げに微笑んでいた事に。
(織斑一夏、君の思いは見せてもらった。ならば、私は君の力になろう)
重厚な楯を翳しながら騎士は、
「我が楯に誓って、君のパートナーになろう」
その聖騎士型デジモンはそう宣言するのだった。
(持って一撃。外れれば良くて重症、最悪即死。だけど、一撃を当たられれば四季が反撃する隙を作れるかもしれない)
「行くぜ、人形野郎!」
眼中にない一夏を無視して四季へと意識を向けているルーンレックスは一夏の声に反応を示していない。全身から放つ破壊光は確かに攻撃だけでなく、相手の攻撃に対する防御にもなっている。だが、何事にも例外は存在する。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」
瞬時加速を使い一気にルーンレックスとの距離を詰める。一夏は流れ弾とは言え破壊光を避ける技量が己に無いのは理解している。ならば、相手が自分を狙っていない隙に己の間合いへと近付く事を選択した。
(必要なのは速度と鋭さ。素早く振りぬける洗礼された刃)
一夏の意志に白式が答える。今の雪片は正に光の刀。構えは四季のそれと同じ……見様見真似の回羅旋斬モドキ。同時に振りぬく瞬間に零落白夜を発動させる
―斬―
一夏の降りぬいた刃が、渾身の一撃がルーンレックスへと叩き付けられる。
ルーンレックスの片腕が空中を舞う。一夏の一閃がルーンレックスの片腕を奪っていた。
「どうした、人間。腕を斬った位ではルーンレックスは倒せんぞ」
「いや、腕を斬った事が勝利へと導いてくれる」
零落白夜の一閃によって破壊光によって守られていたルーンレックスの守りが一瞬だけとは言え解かれる。
「七星天剣流……飛槍突斬!!!」
一瞬の好機を逃さず四季の一撃がルーンレックスに突き刺さろうとするが、
「っ!? しまった……」
四季のブレードがルーンレックスの槍によって切り裂かれて宙を舞う。
「残念だったな、我がニードルは二つある」
ルーンレックスの動きに気付き、とっさに四季は一夏を掴んでその場から離れる。その場で回転を始める姿は小規模の竜巻となる。
「くらえ! トルネードニードルビーム!!!」
回転しながら無差別に放たれる針状の光線。ルーンレックスのニードルなのだろうが、まともに直撃したら無事ですまないのは明白だ。
「一兄、悪いけど、自力で逃げてくれ!」
「ああ、けど、お前はどうする気だよ!?」
「……あいつの攻撃は完全に無差別だ。放っておいたら被害が学園中に広がる」
狙いが四季である以上、下手に此処から逃げたら、四季を追ってルーンレックスも動き出すのは明白だ。ここで戦って、倒す以外に選択肢があるわけも無い。
(特に教師部隊が出てきたら余計な犠牲者が増える)
ゼロ炎を使おうと思うが、残念ながら今のゼロ炎は武装強化のために手元に無い。
新しいセンサー類を強化された頭部パーツ、デュナスモンの協力と先日保護したブレイドクワガーモンのデータで僅かながら精製に成功した人造クロンデジゾイドによって作られたブレードと、白炎の杖を核とした武器を追加したゼロ炎の強化形態なのだが、それの完成の為に一度DEMの方でゼロ炎を預ける必要が有った。
その為に一撃の攻撃力ではヴレイブ以上の物を持つゼロ炎が使えないのが現状だ。……まあ、トーナメントでは攻撃力の高さ故に使えないと判断して預けていたのだが、今回は完全に裏目に出た様子だ。
「っ!?」
四季は咄嗟に一夏を投げ捨て、突き立てられたルーンレックスのニードルをブレードで受け止める。
「しまった!?」
「ふふ、これで我が攻撃を防ぐ事は出来んぞ」
元々ヴレイブは獣騎士ベルガ・ダラスの様なスダ・ドアカワールドのモンスターとの戦闘さえ想定しているが、ルーンレックスクラスのとんでもない相手の線等は想定されていない。
……当然と言えば当然だ。そう簡単にコロコロ現れては世界が危険になるレベルの相手なのだから。辛うじてISを素体にして作られたと言う点で弱体化している事でブレードで防ぐ事は出来ていたが、ブレードを失ってしまった以上、
「くっ、フィン・ファンネルが!?」
続け様にバックパックのフィン・ファンネルにニードルビームが直撃し、使用不可能となる。
片腕を失って弾幕は薄くなっているが、それでもヴレイブのスピードでは回避しきれるものではない。フィン・ファンネルを含めて一瞬でも攻撃を止められればと思っていたが、手持ちの武装……シールドキャノンとビームライフルだけでは遠距離での打ち合いは完全な不利となる。
「ぐわぁ!」
尚もルーンレックスへと突撃しようとした一夏の白式が穴だらけになる。再び使い始めたトルネードビームニードルの嵐に曝された結果だ。
「一兄!?」
咄嗟にブレードの刃の部分を切り離しビームサーベルを展開する。ビームサーベル単独での使用はブレードの本体が破壊されても、まだ十分にできる。
「ふふ、そんな貧弱なビーム等防ぐ必要も無いわ」
「くっ!」
片手でビームサーベルを受け止めると言うマネをしてくれるルーンレックス。だが、これで攻撃は止まった。
「まだだ!!!」
空いた手にシールドバンカーを取り出してそれを叩きつけようとするが、それは寸前で交わされてしまう。
「ふふふ……万策は尽きたようだな」
「それは……」
素早く交わされたシールドバンカーを逆手に持ち変え、振り下ろす形でルーンレックスへと叩き付ける。
「ぐっ……」
「くっ……」
通常、腕部の装甲に固定して使っている武器を固定せずに手で持った状態で使う以上、安定性は損なわれる。流石にパイルバンカーの衝撃に負けて弾かれてしまうが、それでも初めてルーンレックスに対するダメージを与える事に成功する。
「今だ! 来い、アメイジング・レヴ」
ブレイヴの前方に出現したアメイジング・レヴDがヴレイブの背部に合体し、デュナスモンのデータと四季のヴレイブの力が一つとなる。
「行くぞ、デュナスモン」
「応!」
「Hi-νガンダム・ヴレイブ……アメイジング、D!!!」
獣騎士ベルガ・ダラスを倒したヴレイブの姿……デュナスモンの力を借りた姿へとモードチェンジすると、背中の翼を広げ一直線にルーンレックスへと向かう。
「ドラゴンズ……ロア!」
ルーンレックスのニードルビームと四季のドラゴンズ・ロアが相殺する。だが、一夏の一撃によってルーンレックスは片腕を失い、四季のドラゴンズ・ロアもまた両手で使うことが出る気。故に……
「ぐぁ!」
連撃の形で放ったドラゴンズ・ロアがルーンレックスへと直撃し、その体を揺らす。
「己……己ッ!!!」
片腕を奪われ、圧倒され始めていると言う屈辱に苛立ったような声を上げるルーンレックス。一夏の一撃によって切り落とされた腕が再生していく。相手はガンレックスでもない……人間が作った道具を使って戦っているだけの人間だ。己の肉体も意思以外聖機兵だった頃の物では無いが、それでも屈辱である事に変わりない。
「壊れよ、消えよ、世界よ!!!」
憎悪を込めて叫ぶルーンレックスの全身から破壊光を放つ。大地を溶かし世界さえも作り変えようとしたその力は貫くのではなく、アリーナ全体を溶かしていく。
「っ!? 拙い!」
長期戦はアリーナだけでなく、学園全体を危険に晒してしまう事を察した四季は目の前で破壊光を撒き散らしているルーンレックスを危険視し、長期戦は拙いと判断する。
『確かに、これは拙いな……四季よ、一撃で決めるぞ!』
「ああ、ブレス・オブ……ワイバーン!!!」
全身に巨大な龍の様な光を纏って四季は一直線にルーンレックスへと飛翔する。光のワイバーンとなった四季と全身に破壊光の光を纏ったルーンレックスがぶつかり合った瞬間、その激突に敗北し弾き飛ばされたのは、
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
四季の方だった。とっさに機体の体制を整えようとするが、そのままアリーナのシールドへと激突する。破壊光によって解けていたシールドは四季を受け止めることが出来ず、そのまま観客席にヴレイブを纏った四季は叩き付けられる。
『人間よ、お前の負けだ』
まだ生徒の避難が完全に終っていない観客席へとルーンレックスが入り込んでくる。悲鳴が上がる中、ルーンレックスは四季へと手のニードルを向ける。
「敗者の骸を曝せ!!!」
そんな叫び声と共にルーンレックスのニードルが四季へと振り下ろされるのだった。
ページ上へ戻る