真田十勇士
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巻ノ六十九 前田慶次その十一
「国の両輪となれた」
「まさに」
「治部は宰相の器じゃが」
「それでもですか」
「あ奴は平壊者じゃ」
前田も石田のこの難点を指摘した。
「あ奴自身にも言ったが」
「それでもですか」
「なおらぬ、正しいと思えばな」
そう思えばというのだ。
「あ奴は止まらぬ」
「誰に対しても」
「言う、場所も考えずにな」
「それが正しくあろうとも」
「人は言われたい時もあればじゃ」
「そうでない時もありますな」
「あ奴がそれがわかっておらぬ」
それが石田の難点だというのだ。
「何度言ってもな」
「正しいことは正しいですな」
「あ奴はな」
「そうした方だからですな」
「宰相の器でもな」
石田は確かにそれだけの人物だというのだ、だがその難所故にというのだ。
「あ奴をその場で止められる者が必要じゃ」
「そしてそれが」
「刑部じゃったが」
「その義父上がですか」
「病になってはのう」
「難しいですか」
「何かとな、どうしたものか」
前田は難しい顔のまま述べた。
「これからの天下は」
「治部殿だけでは危うい」
「平壊者故にな」
「しかし関白様がおられますし」
「いや、関白様の世にそのままなればよいが」
「と、いいますと」
「世の中何が起こるかわからぬ」
前田もこう言うのだった。
「だからな」
「若し関白様に何かあれば」
「太閤様の後が危うくなる」
「関白様にご子息がおられても」
「まだご幼少じゃ、まだ天下は幼君ではな」
「治りませぬな」
「そこまで至っていらぬ」
天下が統一されて間もないが故にというのだ。
「だからな」
「関白様でないと」
「関白様のお歳と資質なら問題ないが」
「関白様に何かあれば」
「次が危ういのう」
「では関白様を何とか」
「御主は大抵都におる」
このことから言う前田だった。
「だからな」
「関白様を」
「何かあれば頼めるか」
「わかり申した」
幸村は前田に確かな声で答えた。
「関白様の御身は」
「御主がおればじゃ」
幸村の腕を知っての言葉だ。
「頼れる、だからな」
「わかり申した」
「ではな、あとわしはじゃ」
前田はさらに言った。
「内府殿と共に大坂におる」
「前田殿は」
「うむ、そのうえで太閤様をお助けする」
「唐入りにはですな」
「行かぬ」
はっきりと名言した言葉だった。
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