提督はBarにいる。
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トマトと女殺し
陽炎のお陰で1週間程部屋に閉じ籠っていた不知火が漸く出てきた。俺も悪い事をしたと思ったのでお詫びの印に店にご招待差し上げた……というのは、動機の3%位。要するに建前だ。本音を言えば、『あのデレデレの不知火を生で見てみたい!』と思ったのだ。嫁艦連中にばれたら袋叩きに遭いそうだが、それと天秤にかけても十分にお釣りが来る。
「何かご用でしょうか、不知火はお酒を飲むつもりはありませんが?」
戦艦クラスの眼光で俺を睨み付けてくる不知火。あの恥ずかしい映像を見られたせいで、俺にもご立腹らしい。
「だぁから、悪かったって謝ってんだろ?そのお詫びの印に料理をご馳走しようと思ってな?」
不知火はムスッとしてそっぽを向いてはいるが、耳がピクピクと動いている。どうやら料理が気にはなるらしい。
「陽炎から聞いたんだが、トマトを使った料理が好きらしいな。」
「まぁ、確かに好物ですが。」
数日前ーーー……
『不知火の好物?』
『そうそう、今度この間のお詫びにご馳走しようとおもってさぁ。』
この間の一件以来、ちょくちょく飲みに来るようになった陽炎に相談をぶつけておいた。
『う~ん……あ、あの娘トマトを使った料理が好きよ。』
『トマト料理、ねぇ……。』
シンプルにサラダとか、素材の味を活かした料理か。
『あ、でも生のトマトはダメよ?不知火って加工したトマトは食べられるけど、生のトマトは食べられないの。』
あぁ、そういうタイプか。たま~にいるよね、そういう人。
『なるほどねぇ、じゃあホールトマトとかを使った料理か。』
『そうそう、そんな感じ。あとケチャップなんかもいいかもね。あの娘ケチャラーだから。』
なるほど、マヨネーズ好きはマヨラー。ケチャップ好きだからケチャラーか。
「そう聞いて色々と仕度はしていたんだが……そうか。呼び出して悪かったな、戻って良いぞ。」
「ま、待ってください!」
そう言って顔を見せない為に後ろを向いた。言うて不知火は生真面目な娘だ、謝罪の意を示したのに蔑ろに出来る娘ではない。正直笑いだしたいのを堪えながら、不知火の方に向き直る。
「どうした?無理に食ってくれ、なんて事は言わないぞ。」
「いえ、あの……折角準備して頂いたのに食べないのは失礼ですし、その…」
瞬間、不知火の腹がグウゥ……とその意思を伝えてきた。
「食べるか?」
「は、はい。」
顔真っ赤にしちゃってまぁ。可愛いなぁコイツ。
とりあえず、その喉を潤して貰おうか。普通の飲み物に見せかけたカクテルを飲ませて、知らず知らずの内に酔わせてしまおうという計画だ。ケケケケケ、今日の俺の中には悪魔が棲んでるぜ。
「とりあえず、アイスコーヒーでも飲んで待っててくれよ。 」
そう言って俺は仕度を始める。ベースリキュールはウォッカ。ジャガイモや大麦、小麦などを原料に作られる無味無臭の強いアルコール度数を誇る、ロシアの国民酒とでも呼ぶべき酒だ。響の大好物。それを氷を入れたタンブラーに注ぐ。そこにカルーアを追加してやる。比率としてはウォッカを2、カルーアを1。そして生クリームを浮かべれば完成。これが『ホワイト・ルシアン』というカクテルなのだが、今回は生クリームを多めにしてアルコールの風味を誤魔化してある。
「手早く作っちゃうから、それ飲んで待っててくれ。」
不知火は疑う様子もなく、ゴクリと一口。
「クリーム多めでまろやかな口当たりですね。」
「ブラックコーヒーより飲みやすいだろ?」
俺は会話を交わしながら、茹で玉子を作っている。最初はサラダとスープを振る舞うつもりだ。
《ミキサーで簡単!ガスパチョ》
・トマト(生):1個※今回はホールトマトを1缶
・きゅうり:1本
・玉ねぎ:1/2個※新玉ねぎや紫玉ねぎがオススメ!
・ピーマン又はパプリカ:ピーマン1個分くらい
・フランスパン:市販のバゲットの半分※パン粉1カップで代用可
・水:6カップ
・ビネガー(できたらワインビネガー):1/2カップ
・オリーブオイル:1/4カップ
・にんにく:7片
作り方は超簡単。ミキサーやフードプロセッサーで全部の材料を細かくして混ぜ合わせるだけ。食感を楽しむには具材を全て細かい角切りにして混ぜ合わせればいいが、今回は滑らかな口当たりにしたいので全部をフードプロセッサーにぶちこんで回す。具材が細かくなったら完成だ。
「まずはスープからだ。スペイン・アンダルシア地方の名物料理『ガスパチョ』だ。」
皿に盛り付けたガスパチョとスプーンを手渡してやる。
「これは……塩などは入っていないのですか?」
「フランスパンからの塩分だけだな。後はビネガーの酸味とトマトから出る旨味がほとんどよ。」
トマトは野菜の中でも旨味成分が豊富だ。味の素の創始者がトマトから旨味成分のグルタミン酸を発見したのは有名な話だな。そのポテンシャルを十分に活かした料理と言える。
「ビネガーの酸味とトマトの風味、それににんにくのスパイシーさが食欲を引き立ててくれます。」
「しかもパンと大量の野菜も入ってるからな。冷製スープだし、夏場の食欲落ちてる時なんか最高だぜ?」
そんな会話を交わしながら、サラダの仕上げに入る。と言っても、固茹でにした茹で玉子をざく切りにして、そこにこの間のサルサソースを和えただけなんだけど。
あのサルサソースは意外と色々な料理に使える。それに冷蔵庫で3~5日は保存が効くから週に1度くらいは大量に作って置いておく常備菜になっている。今回はそれを多用する事になるだろうな。
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