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日本酒が苦手なアナタに送る・2
さてさて、お次はお手軽なツマミを1つ。まずは大葉とネギをみじん切りにして、そこにおろししょうが。量はお好みだね。そこに足すのは鯖の水煮缶。味噌煮缶でも出来るかもしれないけど、味の調整がめんどくさくなるかもな。水煮缶を空けたら、まな板の上で薬味とよく混ざるように叩く。ある程度混ざったら味噌を大さじ1位。量は自分のさじ加減で変えてくれ。味噌を入れて更に叩き、よく混ざったら器に盛り付け。円形に整形して真ん中を少し窪ませる。仕上げにその窪みにウズラの卵黄を落としたら完成。
「お待ち、『サバ缶なめろう』だよ。」
少し塩気の強いツマミをチョイスしたからな。続けてだが甘口の物を薦めさせて貰おう。
「割りと大手の酒造メーカーだけど、『月桂冠 鳳麟(ほうりん)純米大吟醸』。これも中々飲みやすいよ。」
またグラスに注いでやり、中将と翔鶴さんに差し出す。
「凄い……フルーツみたいな香りですね。」
「本当……まるでメロンみたい。」
それが属に言う吟醸香って奴だな。精米歩合50%を超えた酒造好適米の糖度はメロンにも匹敵するほどだ。それを熟成・発酵させることでまるでメロンのような香りが立ち上る。
なめろうを口に運び、その味を十分に噛み締めてから鳳麟を口に含む。
「鯖の味が強いからくどくなるかと思いましたけど……」
「凄くさっぱりしますね。味噌との塩っ辛さも絶妙に……」
二人は美味しそうに黙々と食べている。他の席の空母達も、美味い美味い、と舌鼓を打っている。
さて、お次は辛口の酒を紹介しようか。っと、それに合わせるツマミを1つ。
用意するのは鶏のささみ。観音開きにしたらラップで包み、すりこぎなどで叩いて薄く伸ばしておく。お次はささみでくるむ具材の下拵え。
梅干しは……ささみ200gに対して3つ位かな?種を取り除いて叩いて梅肉を作る。大葉(2枚くらい)は千切り。これを納豆1パックに加えて、濃口醤油小さじ1と練り辛子少々を加えてよく練っておく。
お次は衣。薄力粉1/3カップに、卵と水を混ぜた卵液を1/3カップ。そこに隠し味の豆板醤を少し入れて混ぜ、衣の完成。後はささみで梅納豆を巻き、衣を付けて揚げるだけ。簡単だろ?
「先ずは酒からだね。『日高見 純米山田錦』。さっきの2つとは違って辛口の日本酒だよ。それと、『水戸風鶏揚げ。』相馬中将が茨城出身だって言うから、少し作ってみたよ。」
まずは日高見を単品で味わってもらう。
「最初甘いですけど……後からピリッと来ますね。」
「うん。俺は辛口の方が好きだから、このくらいの方がいいかも。」
そこに鶏揚げを一口。サクサクとした天ぷら風の衣に、梅肉の酸味と鶏ささみのサッパリとした旨味。そこに顔を覗かせる納豆の風味。一風変わった揚げ物だが、酒肴としては面白い一品だろう。
「揚げ物にも合いますねぇ。」
「揚げ物にはビール、って感覚だけどこれはこれでアリかも。」
喜んで貰えたようで何よりだよ。少し酔ってきたのか、頬が紅潮している翔鶴さん。相馬中将に少し寄り添うようにくっついている。
「お、おいバカ、恥ずかしいって……。」
「あら、良いじゃないですか少しくらい……♪」
うわぁ。何て言うか、うわぁ。他人のイチャイチャ見るのってこんな気分なのか。俺達ももう少し自重しよう。それを見た加賀が不貞腐れたような顔をしている。
『どうした?妬いてんのか?』
料理を持っていきながら加賀に小声で尋ねる。
『……別に、いつも通りです。羨ましくなんてありません。』
いや、完全に嘘だよねソレ。握ってるグラスがミキミキって悲鳴上げてるんですけど。
『…解った、明日の晩は相手するからよ。それで機嫌直してくれ。』
『やりました、赤城さんも一緒にお願いします。』
俺、死なないよな…?
「お待たせしました~!」
鳳翔さんが土鍋を抱えてパタパタと入ってきた。どうやら調理まで済ませてきてくれたらしい。
「いやぁすいませんね鳳翔さん。」
「いえいえ、お鍋でしたからさほど手間ではありませんでしたよ。」
そう言いながら鍋をガスコンロにかける。ほどなくクツクツと中の汁が煮立って来た音が聞こえる。湯気からはふわりと味噌と魚介のよい香りが漂ってくる。
「今日のスペシャルメニュー……『あんこう鍋』です。」
具材は白菜、ネギ、豆腐にエノキ、椎茸に鮟鱇を使ったつみれ。それに鮟鱇の身と内臓を入れて、味噌で味を整えたシンプルにして最高の一品。これに合わせるなら、酒も特上のを出さないとね。
その酒瓶を取り出した瞬間、飲兵衛共がざわついた。無理もない、それくらい珍しい『幻の銘酒』と呼ぶに相応しい一本だからな。
「『十四代 黒縄 大吟醸』。今日出せる日本酒の中で最高の一本です。…どうぞ、味わってくれ。」
まずはゲストの二人に一杯ずつ。後ろから生唾を飲み込む音が聞こえるが、我慢しろお前ら。ゆっくりと味わうように口に含む。
「なんだろう、甘口なんだけど……凄く力強い。」
「上手く表現できませんけど……凄く美味しいです!」
だよなぁ。俺も『十四代』を初めて飲んだ時は味の感想が浮かばなかったもんな、凄すぎて。ただただ、美味いとしか表現できなかった。そのくらい段違いに美味い。
全員に行き渡るようにあんこう鍋と十四代を回す。皆それぞれに味わって、疲労なんか吹っ飛んでキラキラ状態だ。でもその位美味いよ、マジで。
「さてさて、どうだったかな?日本酒の味は。」
「初めて飲んだ日本酒とは比べ物にならない位に美味かったです。これなら苦手意識も解消できそうですよ。」
それは何より。俺は他にもオススメの日本酒の銘柄をメモし、翔鶴さんに手渡した。
「これは……?」
「他にも美味い日本酒は沢山ある。今度は君が『旦那様』に振る舞ってあげると良い。」
翔鶴さんは真っ赤になりながらも、小さくコクリと頷いた。
翌朝、二人は仲良く月光に乗り込んで帰っていった。少しは今回の視察が艦隊運用に役立ってくれるといいんだが。その夜、一航戦の二人に搾り取られてヘロヘロにされたのは、また別の話。
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