| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

提督はBarにいる。

作者:ごません
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

冬の味覚

 年末年始の和やかムードもなりを潜め、再び鎮守府もいつもの忙しさが戻ってきた頃。騒がしい二人組が店のドアを叩いた。

「うぅ~…さぶさぶっ!マスター、熱燗二人前ねぇ~!」

「ちょ、ちょっと隼鷹!勝手にアタシの飲み物決めないでよっ!」

 入ってきたのは飛鷹と隼鷹。共に今日はキス島周辺の漸減作戦で集中的に錬度を上げるように指示していた二人だ。

「おぉ、お疲れさん。二人とも今帰りか?」

 俺は熱燗の支度をしながら、お通しの茄子と胡瓜のからし漬けを切っていく。

「そうそう、アタシ等に被弾が無いのは良いんだけどさぁ。」

 箸も使わずにポリポリとからし漬けをかじる隼鷹。キス島周辺の海域は地磁気や海流の影響で水雷戦隊以外は島に近寄れない。その代わり、逸れたルートにいる敵はさほど強くもなく、倒して敵の戦力を削ぎながら艦娘の錬度を上げやすい、『おいしい』海域なのだ。

「替わりに潜水艦の娘達がボロボロになるのが不憫でねぇ……。」

 敵の艦隊はほぼ水雷戦隊。潜水艦を1隻入れておくと、躍起になってそちらを追い回してくれるモンだから、水上艦艇が仕事をしやすくなるのだ。…いわば『デコイ』役を潜水艦の娘達に任せてしまっている。

「幾らなんでもアレは可愛そうにも程があると思うんだよねぇ……?」

 隼鷹はジト目でこちらを睨んでくる。

「そうは言われてもなぁ。こっちにも急いでお前らを鍛えなきゃならん事情があるんだって。……ホレ、熱燗。」

 潜水艦に無理をさせているのは解っている。でもな、こっちにもやむにやまれぬ事情があるんだよ。そう思いながら燗の程よく付いた徳利と猪口を渡してやる。



「アチ、アチチチ……。その事情って?」

「もうすぐ大規模作戦も近いってこの時期に、本土から視察が来るんだよ。」

 俺の言葉に目を丸くする二人。そりゃそうだよな、今まで言ってなかったもの。

「え、視察?どこの泊地?階級は?」

「まぁ落ち着けよ。所属は鹿屋だそうだ。階級は……中将だったかな?ウチの機動部隊の運用が見たいんだと。」

「へぇ~…鹿屋かぁ。」

 鹿児島の鹿屋は昭和11年に帝国海軍が鹿屋航空隊を設立してからというもの、自衛隊の航空基地を始め、防空に力を入れてきた土地だ。当然、その土地柄が新設された艦娘を主軸とした艦隊にも反映されているのか、空母を軸とした艦隊運用が主らしい。

「なるほどねぇ。それで珍しく二航戦の二人が夜間爆撃訓練なんてやってたんだねぇ。」

 今も沖合いでは蒼龍・飛龍の二人がそれぞれの艦爆・艦攻隊の隊長を伴って特殊訓練の真っ最中だろう。いつものお気楽な二人ではなく、引き締まったイイ面構えをして出ていった。あれなら視察の時には期待以上の物を見せられるだろう。他の正規空母や軽空母も、軒並み錬度を上げにかかっている。

「さぁて、そんな事よりアタシ等はアタシ等で明日の英気を養わないとねぇ~♪マスター、今日のオススメは?」

 まったく、コイツ(隼鷹)はいつも飄々としていて、真面目なんだか不真面目なんだか、よくわからん。

「今日は北方海域に遠征してた奴等が偶然、漁船を助けてな。お礼にこいつを貰ってきたのよ。」

 俺はその『お礼』をドン、とカウンターに載せてやる。

「おぉ!」

「り、立派なブリねぇ……!」

「今から捌いてやるから、楽しみにしてな?」

 すると二人は微妙な表情。…あら?ブリ嫌いだったか?

「いや、嫌いってワケじゃあ無いんだけどさぁ……。」

「ホラ、ブリって言えば刺身にしゃぶしゃぶ、照り焼きにあら煮とかその辺が定番じゃない?正直……」

「食べ飽きてる、と?」

「不味くはないんだけどねぇ……」

 なるほど、言われてみれば確かにな。よしわかった。

「任せとけ、今日はブリの新しい食べ方、たっぷりと紹介してやっから。」



 とりあえず、熱燗は二人とも飲み干したらしい。お代わりを出すタイミングなのだが……

「今日はブリを洋風にして食わせてやるから。酒は白ワインベースのカクテルでいいか?」

「おう!お任せお任せ~。」

「マスターなら不味い物は出てこないしねぇ~♪」

 さて、そんなに期待されちゃあ答えないとな。まずは食前酒に甘めのを一杯。

 氷を入れたコリンズグラスに、白ワインを90ml、レモンジュースをティースプーン1杯。そこにジンジャーエールを注いでビルド。カットレモンを浮かべたら完成。…本来はストローで飲むんだが、この二人には不要だろう。

「ホイ食前酒、『オペレーター』だ。」

「「カンパ~イ♪」」

 二人同時にゴクリ。

「ん!うまっ!」

「うん、口当たりサッパリで、ソフトドリンクみたい。」

 浮かべたカットレモンを絞って酸味を調節すると、甘いのが苦手な人も飲みやすいぞ。……っと、こんな無駄話は置いといて、調理を始めようか。

 まずは刺し身を刺し身っぽく無くするアレンジを2品。用意するのはブリの身200g。スーパーで売ってる刺し身用でOKだ。半分は5mmの厚さに切ったら軽く塩を振り、皿に盛り付けておく。もう半分は身が1cm角程度になるまで叩く。ここで豆腐を取り出し、パックの半分に切って水切りをしておく。お次は青じそ。4枚位を千切りに。

 叩いたブリの身にオリーブオイル(エキストラバージンがオススメ)を大さじ1/2、醤油小さじ1、白ワインビネガー、桃屋の生七味を小さじ1/2ずつ加えて和える。

 水切りをした豆腐にしそ、ブリを載せたらオリーブオイルを大さじ1/2かけて、仕上げに生七味を小さじ1/2載せて完成。

「ホレ。『洋風・ブリのせ冷奴』だ。」

「ん~、ちょいピリ辛で酒が進むねぇ~♪」

「うんうん、鯵とかの青魚じゃこうは行かないわね。」

 さてさて、塩をしといた方も仕上げましょうかね。ここからは合わせる野菜の調理。使うのはミニトマト4個に玉ねぎ1/8個、パセリ適量。ミニトマトは4当分して玉ねぎは薄くスライス。パセリはみじん切りにして同じボウルに入れる。

 一味唐辛子を適量振って、更に塩を2つまみ。全体に振ったらよく混ぜ、30分程寝かせてよく水を出す。30分経ったら出ている水分量と同量のオリーブオイルを加え、乳化するまでよく混ぜる。これがソース代わりだから、しっかりと作ろうな。あとはブリの身にかけるだけ。簡単だろ?

「お待たせ、『ブリの南イタリア風』だ。」

「うわ、オッシャレ~。」

「ホント、いつもの刺し身じゃないみたい。」

 確かに、カルパッチョに近い感じになるのかな?だが、鯛とかよりも脂が多いから更に濃厚な味になるぞ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧