提督はBarにいる。
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提督の休日・3
昼飯を終えた俺と金剛は、再びR-35に乗り込んで走り出す。この後の予定としては買い物を2、3軒というつもりだったが、金剛のリクエストも聞かなけりゃあな。
「金剛、見て回りたい場所とか、欲しい物とかあるか?」
「ンー?私が欲しい物ですか?私、テートクが欲しいです。」
……おい、いつものハイテンションなエセ外国人口調どこ行った?
「おいおい、口調忘れてんぞ。」
「テートク、私大真面目なんですよ?」
助手席から強い眼差しを感じる。……勘弁してくれ、そういう視線に弱いんだ。
「まぁ、取り敢えず適当にぶらつくか。」
む~、と金剛がむくれているのがわかる。まぁ走ってる内に寄りたい所も出てくるだろう。まずは元々の目的である俺の用事を済ませてしまおう。
「よぉおっちゃん、なんかいい出物入った?」
「あぁアンタか。珍しいねぇ女の子連れなんて。デートかい?」
またこのパターンかよ。まぁ普段は女っ気がないのは認めるし、隣にいるのは(カッコカリだが)奥さんだし、間違っちゃいないんだが。面と向かって言われると何か気恥ずかしい物がある。
「まぁ、そんなトコかな?……で、何か面白い物は入った?」
訪れたのは日本から調味料や食材を輸入してる問屋。日本人街もかなりの規模だから、ここ以外にも問屋は存在する。けれど、ここのオヤジは珍しい調味料や食材を多く仕入れる変わり者らしい。俺もそういったスタンスの店は嫌いじゃないのでちょくちょく使わせてもらっている。
「そうさなぁ……あぁ、今日広島から『れもすこ』入ったよ。それに『ゆずすこ』に『しょうがすこ』、『わさすこ』も入ったね。」
「お!結構奮発したじゃん。」
俺の嬉しそうな顔を見ると、オヤジはニヤリと笑いながら、
「そろそろ君が来る頃だろうと思ってね。お得意様だから頑張ったよ。」
はっはっは、と快活に笑うオヤジ。白髪に獅子鼻と中々特徴的な顔立ちだが、仕事は凄い。よくもまぁこれだけ珍しい品を見つけるもんだ、と感心する。
「じゃあ……さっきの4種類1ケースずつと、『ドロソース』に『にんにく七味』。あ、それと『しょース』ももらおうかな。」
「毎度。届け先はいつもの通り鎮守府だね?」
「うん、宛名は俺宛でいいから。」
「しっかし、鎮守府の主計科も大変だねぇ。」
その言葉を聞いて、金剛がピクリと反応した。
「Hey!この人はコックじゃないデース!この人は提とk……」
瞬間的に金剛の口を抑えて黙らせる。俺はこの店では鎮守府勤めの主計科職員、って事になっている。
ちゃっちゃと会計を済ませ、店を出る。その間、金剛は呆気に取られたようにポカンとしていた。
「テートク!何で嘘つくんデスか!」
「バカだなぁ、海軍ってだけでこの辺の人達は気ぃ使うんだ。ましてやそこの長たる提督が店に来た、なんて言ったら俺が気軽に来難くなるだろうが。」
ここの日本人街の人達は、基本的に海軍……というより艦娘に友好的だ。本土の方じゃあ偏見が強い地域もあるらしく、苦労している鎮守府もあるらしい。だが、ここブルネイの地は土地柄や安全保障の絡みで日本との繋がりが深い。過去には沿岸部を使って演習が行われた、なんて記録もある(そこに美保鎮守府の面々が参加していた、という記録も)。そんな土地なモンだから、鎮守府勤めの人は一般職員でさえ凄く尊敬される。そんな所にトップである俺がふらついていたらすぐに気軽には出かけづらくなる。だからこそ、俺は身軽なままで出歩きたいのだ。
「さ、次行くぜ~♪」
「ハァ……。」
その後も俺は本屋で欲しかった本をまとめ買いし、馴染みの酒屋でBarの酒を仕入れた。時刻は午後2時を回った所。そろそろ一服を入れてもいいが、金剛もそろそろ行きたい場所が出てきた頃だろう。
「テートク~、私行きたいお店があるんデスけど。」
「おぉいいぞ、どこだ?」
その瞬間、金剛の浮かべた悪戯っぽい笑みを、俺は見逃してしまったらしい。
「場所はナビゲートするデース!テートクは私のナビゲートに従って運転して下サーイ!」
「お、おぅ。」
妙に元気になったな、と少し不穏に思いつつも、俺はナビゲート通りに車を転がした。
「さぁテートク~、今度は私のショッピングに付き合ってもらうデース!」
「いやいや、流石にここは不味いだろうよ……」
「何でデスか~?テートクの好みが大事な物デスよ?」
「だからってランジェリーショップに男連れは不味いだろうがっ!」
金剛に引っ張って来られたのはランジェリーショップ。確かに見せる相手は俺くらいだろうけれども、一緒に店に入って選ぶのはちょっと……。
「アラ~?意外とテートクも意気地無しデスね~w」
やれやれ、といったオーバーアクションで金剛がこちらを煽ってくる。だがこんな挑発に乗っていたらコイツを始めとするウチの嫁艦共の相手はしていられない。
「Uh……釣られませんか。じゃあテートク、色の好みだけ聞いておくネー。」
「……………………黒で。」
「OK、楽しみにしとくネー。」
そう言ってクスクスと笑いながら、金剛は一人でランジェリーショップに入っていった。全く、からかいやがって。
「さて、俺は今の内に……。」
俺は店に金剛を残し、R-35を走らせた。向かうのは宝飾品店……ジュエリーショップだ。気付かれないように指輪を手に入れ、サプライズのプロポーズをする為だ。サイズは予めチェック済み、手抜かりは無い。
「全く、デート中の相手を置き去りにするなんて、普通許されないデスよ~?」
またも頬を膨らませた金剛が、此方を見てプリプリと怒っている。俺が買い物をしている間に金剛が買い物を終えて、店から出てきて俺が居ない!と騒ぎになったらしい。
「だぁから、悪かったって謝ってんだろ~?買い忘れを思い出して買いに行ってたんだからよ~。」
「そんなの、後でいいじゃないデスか~…。」
金剛は怒りを通り越して、若干涙目になっている。おいおい、泣くな泣くな。メイク崩れてたりしたら比叡に殺されかねん。
「悪かったって。お詫びにいい喫茶店連れてってやるから、それで許してくれよ。」
そう聞いた瞬間、先程までの涙はどこへやら。既に心は喫茶店の方に完全に向いてしまっているらしい。こういう感情の起伏の大きさも、また可愛い所なんだがな。
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