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真田十勇士

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巻ノ六十九 前田慶次その一

                 巻ノ六十九  前田慶次
 幸村はこの時都に来た前田利家と話していた、前田はその大柄な身体に身振りを入れて彼に明るく昔のことを話していた。
 織田家にいた時のことをだ、幸村に話すのだった。
「若い頃はな」
「右府様と」
「そうじゃ、殿とな」
 今も信長をこう呼ぶ前田だった、それも明るく。
「いつも戦の場を駆けてな」
「そしてですな」
「右に左に敵を倒し」
 そのうえでというのだ。
「首を幾つも取ったわ」
「そういえば前田殿は」
「槍じゃ」
 それだというのだ。
「槍には自信がある」
「そしてその槍で」
「首を幾つも取ったわ」
「武辺者と聞いてます」
「自信はある、そしてな」
 さらに話す前田だった。
「あの時のわしは傾いておった」
「傾奇者だったと」
「うむ、派手な服をいつも着ておった」
 このことも笑って話す前田だった。
「その時の服は今も持っておるわ」
「左様ですか」
「御主は傾いておらぬな」
 ここで前田は幸村に言った。
「槍はおそらく若い時のわしより上じゃが」
「それでもですか」
「傾いておらぬな」
「どうもそれがしそちらは」
「ないか」
「はい、傾くことはです」
 生真面目な幸村にとってはというのだ。
「性分ではなく」
「今の様にか」
「この通りです」
 見てのままというのだ。
「ありのままです」
「そうか、まあわしもな」
 かく言う前田自身もというのだ。
「それは若い時の話じゃ」
「今は、ですか」
「傾いておらぬ」
 見れば今は正しい身なりだ、百万石の大身に相応しく。
「この通りじゃ」
「そうですか、今は」
「しかしな」
「しかし」
「あ奴は違う」
 少し苦笑いになってだ、前田はここで幸村にこう言った。
「甥はな」
「甥殿といいますと」
「そうじゃ、慶次じゃ」
 幸村は自分から名前を出した。
「あ奴じゃ」
「噂には聞いておりますが」
「家を出てな」
 そしてというのだ。
「ずっとじゃ」
「傾いておられて」
「天下を遊び歩いておるわ」
「そうですか」
「全く、わしが幾ら言ってもじゃ」
「お家にはですか」
「戻らぬ」
 そうだというのだ。
「そして遊んでおる」
「噂には聞いております」
「そうであろうな」
 前田も幸村の言葉に頷く。 
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