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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第3章:再会、繋がる絆
  第76話「反撃の時」

 
前書き
夢を見て、心機一転しただけで謎のパワーアップをする優輝と奏。
...ご都合主義なら仕方ないね!(思考放棄)

い、一応理由はちゃんとあるし...。
 

 






       =out side=





「ぐっ....!」

「ほら!どうした!」

 海鳴臨海公園にある結界内にて、クロノ達は窮地に立たされていた。

「(強...すぎる...!)」

 既にクロノは満身創痍。
 今意識を保っているのは、クロノの他には光輝と優香、シグナム、なのは、神夜、リニス、はやての七人だけだった。

「どうした!そちらの方が数は上。なのにこの有様か!」

「くそが...!調子に乗りやがって...!」

 しかも、既にはやてはまともな戦力にはならない。
 リインフォースが庇った場面があったからこそ、今の今まで意識があっただけだった。

「はぁっ!」

「せいっ!」

「甘い...よっ!」

 葵の偽物を相手取る優香と光輝も、ほとんどジリ貧だった。
 シグナムを加えた三人掛かりでなお、押されていた。
 むしろ、優輝の偽物との連携を分断させただけでもよく出来た方だ。

「(早く来てくれ優輝...!僕らでは、まだ荷が重すぎる...!)」

 ジュエルシードからの連戦という事で、既にクロノ達全員が負傷している。
 未だに拮抗できているのが奇跡という状態で、クロノはただ優輝達が早く来るのを祈るしかなかった。













       =優輝side=







 ...まず、状況を分析する。
 僕と奏はたった今暴走体が作り出した空間から脱出した。
 万全とは言えないかもしれないが、少なくとも負傷はしていない。

 しかし、椿とユーノはほぼ戦闘不能だ。
 おそらく、僕らが中にいる間ずっと戦っていたのだろう。
 ならば、やはり奏に守りを任せるのが当然か...。

「奏、二人は任せたぞ。」

「...うん。任された、優輝さん。」

 今までの冷たい返事と全然違う事に、思わず顔がほころびそうになるが、何とか抑える。

「優輝...?まさか、一人で!?」

「その通りだ。ユーノ。二人とも十分戦った。後は僕に任せてくれ。」

 二人とも相当ボロボロな所から、どれだけ辛い戦闘だったかが伺える。
 だからこそ、二人はしばらく休ませるべきだと思った。

「でも優輝!一人でだなんて...!」

「...優輝、いいのね?」

「椿!?」

「...ああ。」

 さすがに一人で戦わせられないというユーノを遮るように椿が言う。
 それに答えるように一言返事をし、暴走体と向き直る。

「...さて、さっきぶりだな...!」

 実際どれだけ時間が経ったのか知らないが、なんとなく暴走体にそう言う。
 ...が、返ってきたのは赤い短剣...ブラッディダガーの展開だった。

「手荒い歓迎...だな!」

   ―――“ブラッディダガー”

 僕が魔力結晶を取り出すと同時に、短剣が射出される。
 被弾まで数秒とかからない。その間に僕は魔力結晶の魔力を開放し...。

「“創造開始(シェプフングアンファング)”!!」

   ―――“ブラッディダガー”

 瞬時にブラッディダガーの術式を解析・模倣し、同じ魔法で相殺する。

「....さっきまでとは、違うぞ?」

 あっさりと魔法を凌いで、僕はそういう。
 ...力が漲る。無意識に掛けていたリミッターが解除されたからだろう。

「(だけど、それだけでは勝てない。リミッターが解けても、リンカーコアの負傷は健在。魔法において暴走体に勝つには、搦め手しかない。)」

 距離が離れているが故、暴走体は再び遠距離魔法を使おうとする。
 今度は砲撃魔法...その七連。

「なら...これでどうだ。」

 対する僕が行った行動は、魔力結晶を三つ追加する事。

「(時間は掛けていられない。できるだけ短期決戦で決める!)」

 さっき使った魔力と、魔力結晶三つの魔力を操る。
 そして、七つの砲撃が放たれる。

   ―――“Regenbogen Strahl(レーゲンボーゲン・シュトラール)

「なっ...!?」

「.....。」

 ユーノの驚く声が聞こえる。
 ...ああ。確かに、普通なら驚くだろうな。
 だけど、その七つの砲撃に、僕は手を翳し...。

「“解析(アナリーズ)”....お返しするぞ。」

   ―――“Regenbogen Strahl(レーゲンボーゲン・シュトラール)

 ほぼ同じ魔法を、魔力結晶の魔力を使って撃ち返す。
 先ほどのブラッディダガーと同じ方法だ。

「奏、もう少し離れてくれ。」

「分かった...。」

 相殺の際の煙幕で視界が遮られている内に、奏に指示を出しておく。
 ...さて、心置きなく戦うか。

「っ.....!」

 霊力で足場を作り、それを利用して跳躍する。
 それを認識した暴走体はすぐさま赤い短剣を展開、僕に放ってくる。

「それぐらいの魔法は...。」

 それを、僕は身を捻らせるようにしてほとんどを躱し、一部の短剣の柄を掴み...。

「余裕で返せる!」

 魔法の術式を上書きし、自分のものにして投げ返す。
 ブラッディダガーは被弾と同時に炸裂する魔法だが、その前に術式を改竄する事で、そっくりそのまま術者を僕に書き換えたのだ。それにより、爆発を防いだ。

「シッ!」

 投げ返したブラッディダガーが目くらましとなり、死角に潜り込む。
 そのままシャルを振るうが、もちろんこのまま喰らう事はなさそうなので...。

「“霊撃”。」

 迎撃に放たれたブラッディダガーを、即座に霊力の衝撃波で相殺する。
 読み通り。だが、それでも攻撃は障壁に阻まれる。

「吹き飛べ!!」

 しかし、今更ベルカ式の障壁なぞ話にならない。
 即座に解析、破壊を済ませ、懐に入り込んで霊力を込めた掌底で吹き飛ばす。

「“模倣(ナーハアームング)Alter Ego(アルターエゴ)”...!」

 間合いを離した隙に素早く術式を模倣して構築する。
 発動するのは、狂王の力を取り戻した時の緋雪の分身魔法...!

「....30秒以内に片づけてやる。」

 一斉に移動魔法を併用して暴走体に接近する。
 今更ブラッディダガーでは僕の妨害になどならない。全て躱し、肉迫する。

「ぁあっ!」

     ギギギギギギィイイン!!

 放たれる剣の一撃と、創造した剣による射出。
 だが、それは全方位に展開された障壁に全て阻まれてしまう。

「はぁああああああっ!!」

 しかし、僕は攻撃をやめない。
 分身と共に何度も暴走体の周りを舞うように斬りかかる。

「っ、ぁ!?」

 だが、そこで暴走体は魔力を衝撃波として放つ。
 間合いを詰めていた僕と分身は、咄嗟に障壁を張って飛び退くが、大きく吹き飛ぶ。

 ....だけど、計画通りだ。

「....この技は、味方がいるときは不用意に使えなくてな。」

 僕と分身体は、それぞれ別方向に吹き飛んでいる。
 ...そして、その手にはピアノ線のように細い糸が巻き付けられている。
 その糸は、暴走体に絡むように張り巡らされており、お互いを引っ張り合う。
 四方向からの張力に加え、もう一つの端は魔法陣に繋がっていた。

「...さぁ、受けてみろ。」

 魔法陣も動き、計八方向から糸は引っ張られる。
 ピアノ線のように細い糸が絡み、そしてそれが強く引っ張られたとなれば...。

「...“創糸地獄(そうしじごく)” 。無残に散るといい。」

 暴走体は、見るも無残に引き裂かれた。

「終わりだ!」

 最後に、糸と分身体に使った魔力を返還し、僕の掌に集めて砲撃魔法を放つ。
 ....それは、あまりにもあっけない暴走体の最期だった。

「.....ふぅ。」

 封印されたジュエルシードに近づき、それを回収する。

「...僕の心のしがらみ...それを結果的に取ってくれた事には感謝するよ。」

 リヒトに仕舞う前に、それだけ言って、僕は椿たちの下に行く。

「...終わったの?」

「ああ。しっかりとな。」

 降り立つや否や奏がそう聞いてきたので、答える。

「...僕たちがあんな苦戦した相手を...。さすが優輝...。」

「.........。」

「...椿?」

 ユーノが驚いたようで、やけに納得したように言う隣で、椿は黙っていた。
 ...なんか、僕を見て放心してるようにボーッとしてるんだけど...。
 しかも少し顔が赤いし。

「...はっ!?...え、えっと...少し、見違えたわね...。心の迷いでも晴れた?」

「....椿さん、声が震えてます。」

「うっ...。」

 取り繕うように言う椿だが、奏の一言で顔を逸らす。

「...どうしたんだ?」

「えっ..と...その...。」

「多分、見惚れてたのだと思うわ。」

「っ~~....ええ、そうよ。」

 奏の適格な言葉により、椿は観念して奏の言った事を肯定する。
 ...はて、見惚れてた?

「...ユーノが言ったように苦戦した相手をあっさり倒したのもあるんだけど...その時の、優輝の姿がとても真っすぐで強かったから...その...。」

「あー....えっと....。」

「.....っ、ああもう!恥ずかしいわよ!それで、何があったのよ!明らかに何か心の迷いが晴れたような雰囲気よ!」

 顔が赤いまま、椿は僕に捲し立てる。
 ...恥ずかしいのなら、これ以上突っ込むのは野暮だな。

「心の迷い....まぁ、そうだな...。」

「...そういえば、奏の雰囲気も...。」

 ふと気づいたように、ユーノが奏を見る。

「...魅了が解けた...って言えばわかるな?」

「っ!なるほどね...。」

 さすがユーノ。理解が早いな。
 ...まぁ、前世での事情もあるから、ここまで雰囲気が柔らかくなったんだけどな。

「....とにかく、二人とも無事でよかったわ...。」

「ああ。...心配させてすまなかったな。」

「...いいわよ。...無事に帰ってきてくれたんだもの。」

 顔を再び赤くして顔を逸らしながらも、椿はそういった。

「...さぁ、結界ももうすぐ崩れるぞ。」

 他の所の援護にも行かなきゃいけないから、その準備をしようとする。
 すると...。

『っ、繋がった!』

「...アリシア?」

 再び、アリシアから通信が繋げられる。

『良かった!こっちまでは通信の妨害がされてなかったんだね!...でも、どうして通信が繋がらなかったの?』

「それはこっちが聞きたいけど...多分、暴走体の仕業だ。」

 どうせ倒さなければいけないからと気にしてなかったが、僕らが結界内に入った時、暴走体はその上からさらに閉じ込めるタイプの結界を張っていた。
 多分、その結界が通信も妨害していたんだろう。

「それよりも、何があった。」

 だが、そんな推察は後だ。アリシアは“こっちまでは”と言った。
 つまり、他の所でも妨害がされていて、この様子では切羽詰まっているらしい。

『大変なんだよ!臨海公園で偽物が現れて、今は優輝達以外の皆は結界に囚われているの!通信が通じないし、皆ジュエルシードとの戦闘で疲弊してるから...早く援護に!』

「っ、わかった!すぐに向かう!」

 僕と葵の偽物が相手で、疲弊している皆なら、相当危険だ。
 僕らも椿とユーノがボロボロだが、それは向かう途中でできるだけ回復してもらおう。

「(こちらも少なからず疲弊しているなら、無駄な体力消費は控えたい。なら...。)」

 その場で一際大きな剣を創造する。僕ら全員が刀身に乗れる程の大きさだ。

「皆。これに乗ってくれ。椿とユーノはこれで回復を。」

 椿とユーノに回復魔法と霊術を使うための御札と魔力結晶を渡す。

「乗れって...一体何を...。」

「できるだけ消費は避けたい。これに乗って僕が飛ばす。」

「え、ええっ!?」

 まぁ、驚くだろうな。でも、結構有効な手段だ。

「...もたもたしていられないわ。乗って。」

「奏はなんでそんなすんなりと乗っているの!?」

「これは...味わった事のない経験ね。」

 奏はすぐ乗ってくれたが、椿でさえ苦笑い気味に遠慮している。

「急いでくれ。皆が危険なんだ。」

「わ、わかったよ。」

「仕方ないわね。」

 皆が乗ったのを確認して、僕も先頭に乗る。

「僕が固定するから、安心してくれ。」

 そういって僕は創造魔法で三人を紐で剣に固定する。

「...余計不安なんだけど。」

「...優輝を信じましょう。」

 そのまま僕は剣を浮かせる。創造魔法で作ったから、この程度の操作は可能だ。

「方角は...あっちか...。距離を考えると角度は...よし。」

 方角と角度を決め、一気に射出する!

「ぁああああああああ!?」

「っ....!っ....!」

 案の定、ユーノの叫びが響く。椿も声を堪えていた。

「(結界があるのなら、それを破る準備もしておかないとな。)」

 飛んでいる間も、僕は次の手を考える。
 偽物は結界を張っているのだから、侵入するために術式を用意しなければならない。

「ユーノ!椿!できるだけ回復しておいてくれよ!」

「む、無茶言わないでよ!?」

「っ...慣れてきたわ...!」

「嘘!?」

 経験の多い式姫だからか、椿が慣れる。
 その事に驚くユーノ。

「...気を引き締めろ。ここからの戦いは、さっき以上に集中しなければならないと思え...!」

「っ....!」

 僕の言葉に、ただ驚いているばかりではないとユーノも理解する。
 ...急げ...!耐え抜いてくれよ...クロノ...!











       =out side=





「がぁっ!?」

「遅い。」

 神夜が、体内に響く掌底を喰らって吹き飛ぶ。
 生半可な攻撃ではびくともしない防御力をものともしない一撃だった。

「かはっ...!?」

「シグナム!」

「これで、残り五人。」

 そして、シグナムも葵の偽物によって沈む。
 レイピアの一撃を凌いだ所に、素手での一撃だった。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ...!」

「っ....!」

 優輝の偽物を相手取るクロノ達も、葵の偽物を相手取る優香と光輝も限界だった。
 この中で最も近接戦での防御力、攻撃力の高い神夜と、経験が豊富で剣技に優れているシグナムが倒されたのも相当きつい。
 それだけでなく、後方支援のできるはやても倒されてしまった。

「(迂闊に創造魔法を使わせられないのに、厳しすぎる...!)」

「(葵ちゃん...の偽物って優輝は言っていたけど、ここまで強いなんて...。)」

「(なのはちゃんも既に限界。リニスさんもまだ戦えるけど、魔力が...。)」

 クロノ、優香、光輝の三人がそれぞれ思考を巡らす。

「っ...く、ぅ...!」

「はぁっ、はぁっ....っ....!」

 後方に控えるなのはとリニスも既に息絶え絶えになっており、戦えそうになかった。

「終わりだ。」

「終わりだね。」

 それらを見て、優輝と葵の偽物は、並んでそういう。
 そして、優輝の偽物は掌を上に翳し、葵の偽物はレイピアを地面に刺す。

「“創造開始(シェプフングアンファング)”。」

「“呪黒剣”。」

 創造された剣群が、地面から生える黒い剣が、クロノ達を襲った。

「なっ...!?...く、ぁあああああ!!」

「この、場面で....!」

「っ、レイジングハート!」

   ―――“Round Shield(ラウンドシールド)

 クロノ、リニス、なのはの三人が咄嗟に防禦魔法を張る。
 クロノが上空の剣を、なのはが地面からの剣を防ぎ、リニスがその二つの防御魔法を内側から支えるように防御魔法を張る。
 魔力を振り絞り、なのはに至っては負担のかかる状態でカートリッジをロードし、何とか偽物二人の攻撃を凌ぎきる。

 ...だけど、偽物たちの攻撃はそれで終わらない。

「「っ!!」」

 背後から、なのはとリニスを狙った剣閃が迫る。
 既に限界を迎えた二人。回避も防御も不可能な所へのその一撃は...。

「は、ぁっ!!」

「せ、ぁっ!!」

 いち早く攻撃に気づいていた光輝と優香が防ぎにかかる。
 光輝が優輝の偽物を、優香が葵の偽物の相手をしようとして...。

「ぐぁっ!?」

「ぁあっ!?」

 同時に弾かれるように吹き飛ばされてしまう。
 既に満身創痍である二人では、攻撃をギリギリ逸らすのが精一杯だった。

「っ、なのは!リニス!」

 すぐさまクロノが動き、バインドを放つ。
 無防備となっているなのはとリニスに呼びかけ、その場から退くように言う。
 ....しかし...。

「逃がすと思うか?」

 再び上空に創造された剣が、二人を襲う。
 バインドで拘束されていても、創造魔法の攻撃は阻止できなかった。
 ...さらには、バインドもすぐに壊されてしまった。

「させ、るかぁああああ!!」

   ―――“ソニックエッジ”

 だが、無理矢理復帰した光輝が飛ばした斬撃により、剣は弾かれる。
 そして、そこでようやくなのはとリニスはそこから飛び退く。

「ちっ。」

「ふっ!」

「ぐ、がはっ!?」

 防がれた事に優輝の偽物は舌打ちし、葵の偽物はとりあえず目の前のクロノを殴る。
 クロノは咄嗟に防御魔法を張り、自身も飛び退くが、それでも大きなダメージを負ってしまった。

「よく耐えたな。だが、今度こそ終わりだ。」

 回避行動も取れず、防御魔法を張る魔力もない。
 そんなクロノ達相手に、偽物たちは魔力を集束させ...。







「させて、たまるかよ!」

 それを阻止するように、巨大な剣が飛来した。













       =優輝side=





「....私が?」

「...ああ。“切り札”を使う時は、頼む。」

「.......優輝さんがそういうなら...。」

 結界へ向かう途中、奏に“頼み事”をしておく。そのための物も持たせた。

「リヒト、結界の解析は.....なに?」

〈...必要...ないですね。〉

 結界に接触する前に解析をして、すぐに突破できるようにするつもりだったが、その必要がなくなってしまった。なぜなら...。

「...外部からの侵入を遮断していない...?」

〈来る者は拒まず...機能としては、脱出と通信を妨害するだけのようです。〉

 やはり...と言った実感があった。
 偽物は、やっぱり詰めが甘い。...いや、態と甘くしていた。

「...いいだろう。それが挑戦とするならば、受けてたとう。」

 どうせ、あちら側も乗り越えてくると想定しているんだろう。
 なら、正面から堂々と行ってやる...!

「結界内に入るぞ!」

 皆に呼びかけると同時に、結界内へと入る。
 すぐさま霊力で式神を飛ばし、公園の様子を確認する。
 魔力でないのは、節約と感付かれないためだ。

「っ....!皆...!父さん、母さん...!」

 そこには、ボロボロになって倒れる皆と、それでも戦い続けている父さんや母さんがいた。

「優輝、状況は...。」

「...皆ボロボロだ。意識を保っているのは、クロノ、なのは、リニスさん、そして父さんと母さんだけ...。他の皆は全員気絶させられ.....気絶?」

 ユーノに聞かれ、答えている途中で疑問に思った。
 式神を通して見た光景は、創造魔法による剣群がそこら中に刺さっていた。
 そんな戦場の中で気絶したとなれば、普通は...。

「....詰めが甘いだけじゃない。これは、もっと決定的な...。」

「...優輝?」

「っ、悪い。とにかく、今言った面子以外は全員気絶している。それに、残りの皆ももう限界だ。...だから、急ぐぞ!」

 ある確信をし、とりあえず剣をさらに加速させて急ぐ。

「僕が突貫するから、皆は他の面子を回収してくれ!その後は、ユーノと奏で守って、椿は葵の偽物を頼む。いいな?」

「ええ。」

「分かったよ。」

「...任せて。」

 三者三様のしっかりとした返事を聞き、ついに現場に辿り着く。
 そこでは、既に僕の偽物がトドメを刺そうとしていた。
 だから...。

「させて、たまるかよ!」

 そのまま、剣を偽物へとぶち込んだ。
 当然、皆は着弾する前に飛び降り、僕も偽物の正面に降り立つ。

「......。」

 放った剣は、当然のように防がれている。
 当然だ。あれは乗り物にするためだけに用意したでかいだけの剣。
 なんの魔法の効果もついていなければ、後から付加させた訳でもない。
 そんな剣では、簡単に防がれてしまう。

「さてと....。」

「.....。」

 無言で僕の偽物は手を翻し、創造した剣を射出する。

     ギギギギィイン!!

「...牽制のつもりか?」

「まさか。挨拶代わりさ。」

 僕ではなく、クロノ達を狙ったその剣群は、僕が投げた御札に込められた霊力が炸裂した事によって全て弾かれる。

「ゆ、優輝....。」

「...悪いクロノ。遅くなった。」

 息も絶え絶えで、魔力もほとんど使い切ったであろうクロノは、そのままユーノに連れられて離れた場所に避難する。
 回復するための魔力結晶を奏に持たせておいたから、少しは回復できるだろう。

「いやはや、待っていたよ。」

「待っていた...まるで、僕が来ないといけないみたいな言い方だな。」

「そりゃあ、そうだよ。だって....。」

 瞬間、先程とは比べ物にならない程の剣群が創造される。
 ...そして、その矛先は全て僕へと向いていた。

「オリジナル程の相手は僕が直接殺さなきゃ安心できないからねっ!!」

 射出された剣が、僕へと殺到する。
 ...葵の偽物が動く気配はない...か。なら...。

「撃ち抜け。“霊砲”!!」

 霊力による砲撃で、殺到する剣群に穴を開ける。
 剣群に穴が開けると、僕は踏み込んでその穴から剣群の範囲外に抜ける。

「ふっ!!」

 抜け出した空中で霊力で足場を作り、それを利用して偽物たちに仕掛ける。
 空中からの霊力を込めた踏み込みは、残念ながら躱され、地面にクレーターを作るだけに収まる。

「....一つ聞かせろ。」

「なんだ?」

 飛び退いた偽物に、僕は問いかける。
 確かめたい事があったからな。

「お前の本当の目的はなんだ。」

「.........。」

 しばらく、沈黙する僕の偽物。
 そして....。

「...いつから気づいた?」

 今まで言ってきた目的は嘘だと、言外にそう言った。

「気づいたのはついさっき。...あまりにも甘い。甘すぎる。」

「....。」

「これだけクロノ達をボロボロにする程の攻撃をしておきながら、“一人も死んでない”。僕の偽物にしては....あまりにも詰めが甘い。いや、殺意がない。」

 つまり、この偽物は()()()()()()()()()()手加減していたのだ。
 ...クロノ達の面子を相手に、それをする余裕があるのも驚きだがな。

「....くくっ....ははは....!ようやく気付いたか...!」

「ああ。僕の記憶をコピーしただけあって、全然気づけなかった。」

 元より、こいつは緋雪の蘇生は目的じゃない。
 おまけに、僕らに対する殺意もない。

「...それで、本当の目的はなんだ?」

「...さぁ?こればかりは教えられないな。」

 肩を竦めてそういう偽物。
 ...あぁ、なるほど。至極単純な事って訳か。

「....力尽くで、聞き出せと?」

「そういう....事だ!」

 瞬間、創造した剣を射出すると同時に、僕と葵の偽物は駆けだす。

「椿!」

「心得てるわ!」

     ギギィイン!ギギギギギギィイン!!

 偽物二人の攻撃を御札から取り出した棍で逸らし、創造された剣は全て椿が撃ち落とす。

「シッ!」

「はぁっ!」

 すぐに棍を回し、僕の偽物へと振る。
 葵の偽物に対し無防備になるが、そちらは椿が縮地の要領で接近し、掌底を放つ。

     ドンッ!!

「っ....ふぅ...!」

「っ...!重い...なぁ...!」

「あんたの相手は....私よ...!」

 その掌底は片手で受け止められるが、大きく後退する。
 僕らとの距離も離れたし、あちらは任せていいだろう。

「はぁっ!」

「っ...!」

 突き、払い、振り回して近づけさせない。例え接近されても蹴りや拳を放つ。

「“創造(シェプフング)”!」

「甘い!」

 創造された剣は、魔力結晶を使って同じ剣を創造して相殺する。

     ギィイイン!!

「っ...!何...!?どこにこんな力が...!?」

「ははっ...!お前は記憶を読み取っただけだから知らないだろうが...僕にはリミッターがかかっていたんだよ!」

 鍔迫り合いになり、僕が力で押す。
 押された事に偽物は大いに驚いた。

「リミッター...だと?だが、そんなのはオリジナルの記憶には...!」

「ああ。一切ないだろうな!何せ、ついさっきまで僕も知らなかった事だ!」

 無意識下のリミッター...それは僕も緋雪の残留思念に教えられるまで知らなかった。
 記憶になければ、偽物は再現できないんだな...!

「っ、ぜぁっ!」

「ぐっ...!」

 そのまま押し切り、蹴りを放って吹き飛ばす。
 手応えはあったものの、防がれたか...。

「はぁっ!」

「なっ!?くぅ...っ!?」

 暴風が吹き荒れ、葵の偽物が吹き飛ぶのが見える。
 大方、椿が“旋風地獄”で怯ませ、掌底で吹き飛ばしたのだろう。





「「...さぁ、今こそ...決着の時!!」」









 
 

 
後書き
解析(アナリーズ)…第31話にも登場した解析魔法。優輝の持ち前の解析能力を生かし、相手の魔法の構造を瞬時に解析する。おまけに、それを模倣する事も可能。由来は“解析”のドイツ語。

創糸地獄…創造した糸を対象に絡め、多方向から引っ張る事によって切り裂く魔法。...色々とえげつない。分身を併用して使うとやりやすく、味方が多いときはあまり使えない。

霊砲…文字通り霊力による砲撃。単純且つ高威力。

旋風地獄…文面のみ登場した術。かくりよの門では風属性依存の全体攻撃。
 風車の上位互換のようなもので、広範囲の風の刃を飛ばす。
 強い風も発生でき、今回は暴風を巻き起こして偽物を怯ませていた。

偽物が何がしたいのか作者にも分からなくなってきた...。
傍から見たら何がしたいのやら...。
一応、ちゃんとした目的はあります。知った所でなんでこんな遠回しなんだって話ですが。 
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