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提督はBarにいる。

作者:ごません
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熱燗と鶏南蛮と除夜の鐘

「提督さん、ウチの熱燗は~?」

 待ちきれない、といった様子で浦風が催促してくる。
まぁ待て待て、美味い熱燗にゃそれなりの準備がいるんだ。燗を付ける酒のチョイス、道具、暖め方、暖める温度……。それらを上手くやらなければ美味い燗酒は楽しめない。

 まずは燗を付ける酒。チョイスしたのは地元・岩手の大槌町にある赤武酒造の『浜娘 純米酒』。 2014年に開催された燗酒のコンテストで金賞を受賞した1本だ。

「さぁさ、まずは冷やでやってみな?」

 俺はそう言って升に浜娘を注ぎ、浦風に渡してやる。

「ん……、これでも十分美味いけど…結構辛口やねぇコレ。」

 そう、燗酒のポイントその1。酒は辛口をチョイス。甘口の酒は加熱すると風味も甘味も飛んでしまうが、辛口ならば香りも風味も更に引き立ってくる。なので辛口をチョイスしよう。
 さて、いよいよ燗を付けていく。鍋に水を張り、徳利に酒を注ぐ。目安は徳利の九分目くらい。注ぎ終わったら徳利の注ぎ口にラップをかける。コレは家庭でやる場合に暖まって香りが飛ばないようにする為の工夫だ。次に水の張った鍋に徳利を浸けて見る。この時、徳利の半分位に水かさが来るように調節する。水かさが調節できたら、徳利を取り出して水を沸騰させる。燗を付ける際は水から沸かすのではなく、沸騰したお湯に短時間浸けるのがコツだ。

 お湯が沸騰したら火を止め、徳利を浸ける。大体2~3分位かな?目印は酒が暖められて徳利の口元に上がってきたらお湯から上げ、徳利の底に中指を当ててやや熱いと感じる位だと調度いい燗が付いている目安だ。まぁ、これは徳利の厚みや素材によって差はあるけどな。

「ホラよ、調度いい『上燗』だ。やってみな?」

 暖まった徳利と猪口を浦風に渡す。猪口をクイッと傾け、猪口の中身を一気に空けた浦風は、プハーッ、と息を吐き出した。瞬間、酒の芳醇な香りが一気に周囲に広がる。

 さてさて、以前少しだけ酒の冷やす温度の呼び方に触れたが、実は燗酒の温度にもそれぞれ呼び方があり、特徴が別れる。それをご紹介したい。

・日向燗(ひなたかん)……大体30℃くらいまで燗を付けた状態。常温よりもほんのり香りが引き立つ。徳利の底を触っての目安は温度の上昇を感じない位。

・人肌燗(ひとはだかん)……35℃くらいの燗の付き具合。味に膨らみが出て、米や麹の甘くていい香りがする。徳利の底の感触はやや温かいと感じる程度。

・ぬる燗……40℃くらいの燗の付き具合。香りが急激に立ってくる。触った感触としては人肌燗よりも温かいが熱いと感じない程度。

・上燗(じょうかん)……45℃くらいの燗の付き具合。ぬる燗よりも引き締まった感じの香りに変化する。個人的オススメ。人によってはぬる燗の方が好き、という人も。目安は徳利から猪口に注いだ時に湯気が立つ程度。

・熱燗(あつかん)……50℃くらいの燗の付き具合。辛口が更に引き立ち、香りもよりシャープな物に。熱燗が苦手な人がよく言う『アンモニア臭い』、『刺激臭がする』というのはこの位の温度から。目安としては徳利の注ぎ口から湯気が立ち、底を触ると熱く感じる。

・飛び切り燗(とびきりかん)……55℃以上の燗の付き具合。熱燗より更に辛味とシャープな香りが立ち、舌にピリピリと来る位の味に。個人的にはここまで燗付けたら逆に不味いと思うのだが……まぁ、好みは人それぞれ。徳利のどこを触っても熱く感じる。

 どうやら、浦風も上燗位がお好みだったらしい。さて、いよいよメインを仕度しようかね。

「鳳翔、間宮。持ってきてくれたか?」

「勿論♪」

「年に一度の楽しみですから♪」

 二人から荷物を預かる。鳳翔からは手打ちの蕎麦、間宮からは蕎麦つゆを。具材・調理は俺の担当さ。



 用意したのは南部太葱。通常の長葱の倍はあろうかという茎の太さが特徴の青森県南の葱だ。何と言ってもその水分量の多さと、生食した際の強烈な辛味が凄い。コイツを白髪ネギとぶつ切りにしておく。続いては鶏のモモ肉。使うのは青森シャモロック。これも青森県産の食材で、濃厚なダシとピアノ線のような繊細な筋肉の弾力性が特徴の極上の鶏だ。これを1人1枚、贅沢に行くぜ。

 モモ肉から余分な脂と皮を外す。脂が多すぎるとくどくなっちまうからな。皮を外した身は削ぎ切りにして酒・醤油少々で薄く下味を付け、片栗粉を軽く揉み込んでおく。外した皮はフライパンに油を敷かずにパリパリに焼いていく。と同時に、鶏皮から滲み出る脂を利用して太葱のぶつ切りを焼いていく。葱の辛味成分は加熱すると甘くなるから是非ともやって欲しいね。コレは。葱は焼きすぎずに焦げ目が付く程度がオススメかな。

 モモ肉を茹でる。沸騰したお湯に片栗粉をまぶしたモモ肉を投入。片栗粉をまぶすとパサつかずにつるりとした食感に仕上がるからな。それと同時に蕎麦つゆを温め、蕎麦を茹でる。

 蕎麦が茹で上がったら流水で締めて器に盛り付け。同様に茹で上がったモモ肉、焼き葱、白髪葱、パリパリに焼いた鶏皮(細切りにしたもの)を載せ、蕎麦つゆを回しかける。最後に三つ葉、柚子の皮をトッピングしたら完成さ。

「さぁ出来た、『特製・鶏南蛮』だ。お好みで山椒か七味を振っても美味いぞ。」

 全員に行き渡った所で、合わせて合掌。

「「「「「「いただきます。」」」」」」

 ズズ、ズルズル~ッと蕎麦を啜る小気味良い音が響く。そうそう、蕎麦はこうでなくちゃ。と、遠く日本人街の方からゴォ~ン、ゴォ~…ンと除夜の鐘が響いてくる。

「いよいよ今年も終わりですねぇ。」

 しみじみとつゆを啜りながら、間宮が呟いた。

「私ももっとも~っと頑張るから、もっと頼ってね!司令官!」

 にぱ~っと、太陽のような明るい笑顔の雷。

「ウチも頑張るけぇね。」

 シャモロックの肉をツマミに猪口を傾ける浦風。

「私も、前線には出られませんがサポート致しますね。」

「わ、私もですっ!」

 微笑む間宮と顔が真っ赤の伊良湖(飲み過ぎか?)。

「あらあら、これは私も負けていられませんね。」

 可笑しそうにクスクスと笑う鳳翔。全く、部下に恵まれて幸せ者だよ、俺は。その後、早々にノックアウトされた雷と伊良湖をソファに寝かし付け、4人で朝まで飲み明かしてしまった。箱買いしたDRCが全て無くなってしまったが、一体一晩でいくら飲んだんだろうか……?まぁ、いいけどさ。 
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