提督はBarにいる。
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中間報告
昼飯時。餅つきを終えてぐったりしていても腹が減るものは減る。さすがに今日は間宮達も作れなかったのだろう、昨日の夕飯で出たらしいクラムチャウダーがセルフサービスで提供されていた。しかし、そこはやはり間宮謹製。味に一切の手抜かりは無い。ジャガイモやにんじん、玉ねぎ等の根菜類の甘味と、アサリとベーコンから滲み出る旨味と塩気。それらを纏める牛乳のまろやかさが絶妙なバランス。そしてこれが飯にもパンにも合う。素晴らしい。
「提督?午前中の報告が上がって来ましたのでご報告に。」
飯の最中だったがそう声をかけられては仕方がない。顔を上げると、そこにいたのは大淀と木曾に矢矧、そして高雄。
「ん、ご苦労さん。まぁ立ち話もなんだから、昼飯食いながらでも話そうや。」
俺はそう言って対面の空席を薦めた。4人が着席し、大淀がリストを読み上げ始める。
「大掃除の進捗状況ですが、全行程のおおよそ65%が終了。公共のスペースは全ヵ所チェックまで終了致しました。」
中々順調なようだ。このペースで行けば1800頃には全て終わりそうな勢いだな。
「トラブルは?」
「長門さんの私室から大量に見つかった盗撮写真は処分致しました。その主犯である青葉、並びに幇助の疑いの衣笠は拘束してあります。」
浦風と雷から聞いていたが、やはり本当だったのか。年々重症化しているぞ、ビッグセブン。
「いい、青葉は毎度の事だが、憲兵さんに引き渡してお灸を据えてもらえ。」
では、そのように処理致しますと大淀が応える。
「毎年の事だが……今年も出たのか?バックレた奴が。」
自分でそう言って溜め息を吐いてしまった。まぁ、大淀にくっついてきたメンバーを見れば何となくは顔ぶれも解るが。
「えぇ、まぁ。阿賀野・球磨・多摩・愛宕に伊勢……あぁ、伊勢は既に日向が引っ捕らえました。」
流石は日向、仕事が早い。大方、ここに来ているメンバーの姉妹がまだ捕まっていないのだろう。
毎度の事だが、大掃除の時は必ず逃亡者が出る。ちゃんと朝礼でも釘を刺しているのだが、姉妹に押しが弱いものが居たり、ただただ面倒がっている者や、そもそも掃除が苦手な者が毎年懲りずに逃げ出している。
「そこで提督、相談なんだが。」
そう切り出したのは木曾。改二になって益々イケメンぶりが上がっており、駆逐艦の中にはファンクラブが密かに組織されているとかいないとか。
「球磨姉ぇ達は必ず捕まえて掃除に引き戻す。だから、お節無しは勘弁して欲しいんだ。」
顔の前で合掌し、この通りだと頼まれてしまっては仕方がないか、という気がしてくる。
「矢矧と高雄もか?」
「そうね、私の場合能代が阿賀野姉さんに甘い所があるから少し厳しいけれど。」
「私と鳥海は自分の部屋も終わりましたから、許可さえ頂ければ2人で必ず愛宕を捕まえてみせますわ。」
ふむ。サボりを捕まえるのは良いことだしな。
「解った、許可しよう。ただし、怪我はさせずに捕まえろよ?砲撃戦も無しだ。それと、援軍も出してやる。」
そう言って俺はグルリと食堂を見回し、目的の艦娘を見つけるとそちらを向いて叫んだ。
「おぉい、加賀ァ~!」
「……何か用?」
普段から感情の起伏が少ない加賀だが、大好きな食事の邪魔をされて苛立っているようだ。
「いやぁ、悪いんだがよ。空母の中で私室の片付けまで終わってる奴居ないか?」
「私は済んでいるけれど。それがどうかして?」
しめた。加賀の錬度なら申し分ない。
「実はこれこれしかじかでな……」
「成る程、私に逃亡者を捕まえるのに協力してほしい、と?」
飲み込みが早くて助かるよ、全く。
「そういう事だ。頼めないか?」
「そうね。……何か、見返りがあっても良いと思うのだけれど?」
そう言って切れ長の眼を此方に向けてくる加賀。止めろ、その目付きは目力強いんだから。
「解った、日本酒一升でどうだ?」
「やりました。…すぐに準備するわ。」
そう言って加賀は食堂を出ていった。恐らく、索敵機を飛ばす為に艤装を取りに行ったのだろう。それを見て慌ただしく出ていく木曾達3人。
「あ……提督!」
食堂を出ようとしていた木曾が、首だけ引き戻して此方に声をかけてきた。
「拳骨の2、3発はご愛嬌だよな?」
ニヤリと笑う木曾。まぁ、それくらいなら構わんだろう。
「あぁ、それ位ならな。」
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