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提督はBarにいる。

作者:ごません
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食は国の顔

『金田アアァァァッ‼』

『さんをつけろよデコスケ野郎っ‼』

 えー、今現在の状況を説明しますと、今日の分の書類仕事は全部終了。今はビス子と二人、ボケーっと炬燵の天板の上に顎をのせて二人でテレビ(というか俺の私物のDVD)を眺めています。

「いやー、やっぱこの時代のアニメはすげぇわ。技術が極まってるもんな。」

「そうねー、日本の有名な物って昔はスシとかテンプラとかだったけど今はマンガやアニメの方が有名よね。」

 炬燵の上に置かれた徳利からお猪口にぬるくなってしまった酒を注ぎながらビス子が言う。確かにジャパニメーションの世界的な広がり方は驚異的だからな、日本を知らなくてもアニメは知ってるなんて世代もこれから出てきそうな勢いだ。

「それにしても、これだけの映像をパソコンで作るのにどれだけかかるのかしら。少なくとも半年はかかるわよね。」

「はぁ?何言ってんだビス子。これはセル画だぞ?」

 呆れたぜ。まさかセル画とCGを勘違いしてたとは。俺は新しい煙草に火を点け、軽く紫煙を吐き出した。

「えっ?」

「だぁから、このアニメはセル画。つまりはアニメーターと呼ばれる人達の手描きだ。」

「えぇ!?日本のアニメって全部コンピューターで作ってるんじゃないの!?」

「最近の主流は確かにCGだ。けどな、俺がガキの頃、まだ20世紀の終わり頃はCGなんてとてもじゃないがアニメを作れるほどの代物じゃなかった。だからこそ、アニメはセル画全盛。」

「し、信じられないわ……。こんな複雑な動きや光の加減なんかが全て手描きだなんて、とんでもないカルチャーショックよ……」

 まぁ、この作品が作られた頃のアニメーターは一航戦もビックリの化け物揃いだからな、驚くのも無理はないか。と、アニメに夢中になっていたビス子の腹がグウゥ……と鳴る。途端に顔が真っ赤になるビス子。咄嗟の出来事で恥ずかしかったか、可愛い奴め。

「しょ、しょうがないでしょ!?もうお昼だもの!」

 顔を真っ赤にして反発してくるビス子。確かに時計を見ると12時を少し回っている。どうやら、アニメ鑑賞に夢中になりすぎてたらしい。さて、何か作るとするか。折角だし、ビス子の分と二人分でガッツリ系のメニュー……。

「あら?提督ったらランチをおごってくれるの?」

「あぁ。何か食べたい物はあるか?」

 ドイツ料理の方が良いか?なんて事を考えていると、

「あ、出来たら和食がいいわ。」

 なんとまぁ、ビス子からまさかの和食リクエスト。

「何でまた和食なんだ?俺一応ドイツ料理も作れるぞ?」

「私はね、料理はその国の文化だと思うの。寒い国なら温かい料理が美味しいし、海に囲まれた国ならシーフードが絶品だわ。だからこそ、その国の料理を味わって、『あぁ、私は今この国にいるんだ』って実感したいじゃない。」

 なるほど、海外から来た艦娘ならではの発想だよな、これは。

「解った、急いで作るからお前はDVD見てな。」




 さて、今日は豪勢に昼から肉と行こうか。用意したのは豚のロース肉。薄切りを大量に用意しても良いんだが、今日はブロックから切り出して厚めにカット。そこに小麦粉・卵・パン粉をまぶして準備完了。一旦これは置いといて、別の準備だ。用意するのは大根、ゴボウ、人参、長ネギ、三つ葉。

 大根は皮を剥いて大根下ろしに、ゴボウと人参はささがき、長ネギは斜め切りにして、三つ葉は食べやすいように2cm幅位に切る。

 さぁ、メインを調理しましょう。衣を付けたロース肉を180℃の油に入れる。ジュワアアァ……と良い音が聞こえる。

「Admiral、別のアニメも見て良いかしら?」

「おー、好きなのセットして見るといいや。」

 カツを返しながらビス子の問いに応える。こんがりと狐色になったら油から上げて、余分な油を切っておく。

 そしたら今度は別の準備だ。親子鍋を2つ火にかけて、中に出汁と醤油や砂糖を合わせた割下を入れて、片方にはネギを入れる。ほとんどのところは玉ねぎが主流だろうが、俺個人としては長ネギの方が好きだね、割下との相性もいいから。もう片方には大根下ろしを水気を切ってから入れて温めてやる。

 しかしこの独特の形をした親子鍋、元は親子丼を作ることに特化して作られた鍋だって話だから、日本人の食への拘りはやはり半端ではない。

 割下が煮たって来たらカツを食べやすい大きさにカットして鍋に投入。衣が割下を吸いすぎない程度の所で、長ネギの入った方は卵で閉じる。と同時に三つ葉を散らして蓋を閉める。

 大根下ろしの方はそのまま皿に盛り付ければ完成だ。これは俺の分、カツ煮はカツ煮だが、「みぞれカツ煮」だ。ビス子の方は丼に飯を盛り、親子鍋をスライドさせるように中身を飯の上に載せる。もうバレバレだよな、「カツ丼」の完成だ。後は付け合わせに2種類のきんぴらを添えて。



「お待たせ~、カツ丼だ。」

「あら、私カツ丼は初めて食べるわ。」

 あらま、意外にも人生初のカツ丼ですか。リアクションが楽しみだな。

「これは……カツレツ?でも、随分と分厚いような。」

「それは日本で生まれた豚カツって料理だ。カツレツが入って来て、それを日本人がアレンジしたんだ。」

「へぇ、厚いカツレツなんて、食べ応え充分ね!」

 ビス子、大きな口でカツ丼を口一杯に頬張る。よく咀嚼して、ゴクリ。

「奇跡の料理よ、これは。」

 感動したように目が輝くビス子。

「豚カツはジューシーだし、衣がスープを吸ってフワフワだし、ショーユとお砂糖の甘辛い味付けも絶妙!」

 カツ丼は外国人によく好まれるレシピだって聞くからな、安直な理由でチョイスしたんだが大当りだったらしいな。どれ、俺もみぞれカツ煮を一口。うん、カツが程よく割下を吸って、サクサクとフワフワのW食感の上に大根下ろしが絡まってさっぱりさせてくれる。やっぱ酒の肴にするならこっちだよなぁ。 
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