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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【ハリー・ポッター】編
  170 テコ入れ


SIDE ロナルド・ランスロー・ウィーズリー

「はぁ~…。……そろそろ、あの〝常時脳内花畑男〟に〝服従の呪文〟でも叩きこんでやろうかなぁ…」

〝闇の魔術に対する防衛術〟のクラスが終わって一息吐()いている途中。今日も今日とてアニーの嘆きが──愚痴の内容が内容なので俺とハーマイオニーにだけ聞こえるような声量で(こだま)する。

同じくしてアニーの云う〝常時脳内花畑男〟──ロックハートの授業をうけている俺としては、アニーの嘆きに然もありなん──〝そりゃあそうじゃ〟と同情してやりたいところだが、ロックハートの授業で一番〝割〟を食らっているのはアニーに違いないので、迂闊には同情出来ない。

……自伝書を元にした〝劇〟──と云うにも(つたな)すぎる茶番を、〝実技指導〟だと(のたま)うロックハートは、アニーの〝常時脳内花畑男〟と云う(そし)りが一番しっくりくるかもしれない。

「アニー、冗談でも言っていいことと悪いことがあるわ」

「ハーマイオニーもロックハートの〝助手〟をやってみる? 今なら1ガリオンで〝助手〟の役を売っても良いよ」

「それは…」

「……冗談だからね?」

本当に金貨が出てくるとは思わなかったのか、ハーマイオニーはたじろぐ。そんなハーマイオニーを見て、アニーは申し訳なさそうに──されど、やけに残念そうにガリオン金貨を懐へと仕舞う。

……〝助手〟をロックハートから直々に任命されて、ロックハートの〝茶番〟に付き合わされているアニーは、そんな冗談──にしてはいやに本音が明け透けな態度をとってしまうくらいには(こた)えているようだ。

(……ロックハートか…。どうするかねぇ…)

〝ギルデロイ・ロックハートは他者の功績を奪っている〟という事を第三者(メタファー)的な視点で知っているが、〝それ〟をアニーはともかくとしてハーマイオニーに(つまび)らかに語るのは憚られる。

……それに、〝その事実〟を世間に公表するには〝まだ〟と考えている。……が、しかしながらそろそろアニーが不憫に思えてきてしまったのも事実である。

「……むむ…」

「……ロン、どうかしたの?」

ロックハートの処遇について頭を働かせていれば、軽い鬱モードから快復したアニーが首を傾げる。……声に漏らしてしまっていたらしい。

他の生徒に──と云うより、ロックハート本人とロックハートの盲信者以外に聞かれて困る事でもなかった内容だが、内容が内容なので一応トーンを落として…

「……ロックハートを失脚させる方法をちょっくらとな…?」

「……あるの?」

「……理由は?」

前者のアニーの言葉には〝期待〟が、後者ハーマイオニーの言葉には〝締感〟がそれぞれ感じられた。……アニーの〝期待〟については然も在りなんとしても、ハーマイオニーからの〝締感〟は、ハーマイオニー自身がロックハートに対してどんな心象を持っているかがうかがえる。

「勝算は少なく見積もっても7対3くらいか。……理由についてはハーマイオニーももう分かっているんじゃないのか」

「……詳しく」

「……うっ、それは…」

食い気味なのを実は隠せていないアニーとは対照的に口ごもるハーマイオニー。

アニーは(いささ)か私怨が隠せていないが、やはりハーマイオニーもまた、ロックハートの授業が──それこそ前年のクィレルよりも、生徒の為になっていない事に気付いているのだろう。

(……あ、そうか──だから〝決闘クラブ〟だったのか)

鑑賞者(メタ)的だが、何とも腑に落ちた。……〝あの〟ダンブルドアが生徒の──ましてや〝ハリー・ポッター〟の一年を無駄に過ごさせる訳は無かったのだ。

〝知識〟的な観点から、今年にヴォルデモートの記憶が──ひいてはバジリスクが騒動の元になる事は知っているが、俺みたいな〝知識〟持ちの転生者以外はそんな事は知るよしもないだろう。

〝決闘クラブ〟の発案者が誰だったかは──ロックハートはダンブルドア等に唆された可能性があるので定かではないが、〝ハリー・ポッターは〝蛇語(パーセルタング)である〟〟と対外的に判明するワンシーンでもあった。

(あ、そういえばマルフオイを唆したのはスネイプ先生だったな──そういえばロックハートを案山子にして、〝武装解除〟まで見せてたし)

〝リリー・エバンズへの愛を貫くセブルス・スネイプ〟。……これは【ハリー・ポッター】シリーズを通しての見処の一つであると思っている。

〝最も愛すべき女性〟と〝最も怨むべき男性〟との間に産まれた──容姿が男の方に似ている男の子を、〝女性の眼をしている〟と云うだけで20年近くも陰ながら──時に直截(ちょくせつ)的に、命を懸けて護り徹した男──もとい、(おとこ)だ。

〝この世界線〟では容姿はリリー・エバンズに似ているし──そして、アニーに見せてもらった写真からするに、眼までリリー似の──〝まんまリリー〟なので、余計スネイプ先生が過保護になる可能性が高い。

……と云うより、スネイプ先生からちょくちょく加点されているあたり、もう既に──他の生徒より贔屓されているのだろう。

閑話休題。

「……で、その方法は?」

[わくわく]と、そんなオノマトペを隠しきれていないアニーの言葉でメインの思考がずれていた事を思い出し、元の──〝ロックハートを失脚させる方法について〟の話にメインの意識を戻す。

「ああ──まず、前提として、〝ギルデロイ・ロックハートは経歴を偽っている〟。……これは判っているよな」

「……うん…」

「……ええ、そうね…」

〝授業(笑)〟にしても、〝教科書(笑)〟にしても、〝ここ一番〟と云うところで臨場感や描写が絶対的に不足している事に気付いているのか、アニーとハーマイオニーは鷹揚(おうよう)に頷く。

「いや、まぁ、変な風に前置きしてるが、俺が提案したいのはそんな難しいことじゃない。……要は〝〝うっかり〟とロックハートに〝開心術〟を掛ければ一発だよな〟──って話だ」

「……記憶読んだけじゃ意味が無いんじゃないかしら」

「確かにハーマイオニーの言う通り〝記憶だけじゃ意味がない〟。……だったら、ロックハートに〝お願い〟すれば良いんだよ。〝経歴詐称(このきおく)を暴露されたくなければホグワーツから出ていってくれ〟──ってな」

「ちょっと待って、それじゃ正確性が微妙じゃない? 曲がりなりにもロックハートはスターだし。誰も二年生の──12歳かそこらの話なんて聞かないと思うよ。……それに、もしもロックハートが強行手段に──っ! ……もしかして、そういう事…っ!?」

ハーマイオニーの疑問に答えてやれば、アニーがそう提言してきて──口ごもり、全身を震わせる。どう見ても憤慨している。……アニーはどうやら〝ロックハートの所業〟に気付いたらしい。

「……どういうこと?」

しかしハーマイオニー気付いていないようで、首を傾げている。俺が註釈を入れるより先にアニーが語り始めた。

「……〝忘却魔法〟だよハーマイオニー。……〝そういう事〟でしょ、ロン?」

「だろうな」

「……えっ、〝忘却魔法〟…? 〝忘却魔法〟って──あっ! もしかしてロックハート先生は他の魔法使い達の功績を…っ」

「……今は〝その可能性もある〟って話だよ、それもそれなりに高い可能性で」

ハーマイオニーはアニーからの短いヒント直ぐに答えに辿り着く。さすがは公式の頭脳チートと云うべきか。

「……じゃあなんでダンブルドア校長はそんな人を雇ったのかしら」

「考えられる可能性としては〝人材が居なかった〟──それくらいだろうな。……あと、昨年のクィレルの件も関係しているだろうし」

〝ホグワーツは教師が死ぬ学校です〟──なんて話が魔法界に拡まっているかなんて話は聞いた事はないが、もともとホグワーツの〝闇の魔術に対する防衛術〟の教師は、〝知識(みらい)〟にも──更には〝実際(かこ)〟にもころころ変わっている。

……そこに去年の半ば──クィレルの自業自得とは云え教師が死亡した件があったので、そこら辺の心配をしてしまった俺はきっと、教師陣からしたら余計なお節介なのだろう。

(【日刊予言者新聞】等を見る限り、〝ホグワーツの教師また退陣〟──みたいな記事はあれど、〝ホグワーツの教師死亡〟──みたいな直截的な記事は無かったしな…)

どころか、〝クィリナス・クィレルの[Q]の字〟すら見当たらなかったあたり、クィレルの件は知れ渡ってないと見た。

(……その辺はダンブルドア校長が巧いこと誤魔化したんだろうな、十中八九)

「………?」

「………?」

「……まぁ、あんまり〝闇の魔術に対する防衛術〟の授業が酷かったらダンブルドア校長からもテコ入れが入るだろうから、これ以上ロックハートに思考を回しても無駄だろうな──って、もう昼時だな」

黙りこくった俺を胡乱(うろん)な目で見始めたアニーとハーマイオニーだったが、俺は話題をぶった切る。

「さぁ、食堂行こうぜ」

「……え、えぇ」

「……まぁ、判ったよ──悪い事にはならなそうだしね」

そう急かしながら食堂に向かう事に。……さすがに露骨過ぎたのか、アニーはいきなり話題を変えた俺に対して一瞬だけ目を細めたが、(やが)て諦めた様な表情納得した態度を示した。

(あ──)

……そこで俺はうっかり見落としていた事を思い出す。

(……バタフライエフェクトについても対処しとかなきゃいけなかったか)

【ハリー・ポッターと秘密の部屋】を鑑賞──または通読したら判ることだが、〝目を直截見たら即死してしまう怪物〟が今年に猛威を奮う可能性が多大にある。〝原作〟でこそ死傷者ゼロだったのは、信じられないほどの幸運だった。

それがバタフライエフェクトよろしく、大惨事になる可能性も捨てきれない。

(……今年は元々死者は出ていないから──ちょっとばかり〝修正〟するのもアリか)

行使するのは“有言実行(ネクストオネスト)”──俺にとって原点たる〝能力(チート)〟。

二人には聞こえない様に口を開く。

「……〝今年の【ホグワーツ魔法魔術学校】では死者は出ない〟」

「どうしたのロン?」

「何でも無いさ」

(いぶか)るハーマイオニーを追うように歩を進めた。

……ちなみに食堂に向かう途中、クラッブとゴイルを率いたマルフォイに〝シーカーに選ばれた〟〝(けが)れた血~〟──などと絡まれたので、昨年の決意を思い出しマルフオイにナメクジを喰らわせてやった。不言実行、不言実行。

SIDE END 
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