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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【ハリー・ポッター】編
  167 【ダイアゴン横丁】


SIDE ロナルド・ランスロー・ウィーズリー

アニーが【隠れ穴】に来て一週間近く──ハーマイオニーと【ダイアゴン横丁】で買い物をすると約束している水曜日となった。

「……昨年はスネイプ先生と来たけど、こう──皆ど仲良く見てるとまた違った(おもむき)があるよ」

(わいざつ)とした人並みに、アニーはしみじみと呟く。

……移動には“煙突飛行粉(フルーパウダー)”を用いたが、映画──または原作(?)の様にアニーとはぐれずに来れた。……〝〝ハリー・ポッター〟と〝アニー・ポッター〟が等式で結ばれていない〟なんて当たり前の事を今更語るべくもないだろう。

閑話休題。

アニーのその何でも無いかの様な──実際に何でも無かったのだろうその呟きに、リー・ジョーダンが合流するまでは同行しているフレッドとジョージがアニーを(おもんぱか)る様に食って掛かる。

「スネイプが同行者だったって、本当?」

「スネイプに何かされなかった?」

「大丈夫だったよ」

フレッドとジョージの配慮をアニーは苦笑しながらやんわりと流す。……これだけでほんの一握りの生徒と──俺とアニー、スリザリン生以外の〝スネイプ評〟が判ってしまう一幕である。

やはりと云うべきか、スネイプ先生が自分が寮監として務めているスリザリン贔屓なのは公然の秘密なので、加点されず減点されてばかりのグリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフの生徒らからは嫌われている。

……特に目の敵にされているのか、減点されやすいグリフィンドール生からは、それこそ蛇蝎(だかつ)が如しの嫌悪度だ。

「アニー、ロン、二人とも宿題は終わった? 私はもう終わったわ」

「んー、八割方な。……ちょくちょくやってるんだが、よくフレッドとジョージに邪魔されたりするんだよ」

「ボクももう終わったよ。ダーズリー家にでは、課題は〝魔法と繋いでくれる友達〟だったからね」

アニーの自虐は軽くスルー。やたらめったら〝非魔法族(マグル)〟に絡んでいる〝父さん(マグルマニア)〟を見つつ【ダイアゴン横丁】をちょっとした大人数で練り歩いていると、【フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店】──お目当ての店に着く。

【フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店】の前には見覚えのある──黒人でドレッド・ヘアな少年が居た。……リー・ジョーダンである。

リー・ジョーダンはフレッド、ジョージの同学年かつグリフィンドール生であり──俺、アニー、ハーマイオニーからすれば直系の先輩だ。

「リー!」

「久しぶりだな、兄弟! ……とはいっても、一ヶ月くらいしか経ってなかったか」

「よう、兄弟! 会える日を心待ちにしていたよ!」

(リー・ジョーダンか…)

大仰にも抱擁を交わし合う三人を、俺は微妙な気持ちで見つめる。……俺の顔を見たリー・ジョーダンもまた、微妙な──鏡が無いから判らないが、多分俺もしているような面持ちとなる。

リー・ジョーダンは気の良い先輩なのは判っているが、いかんせん、いきなり〝どでかいタランチュラ〟を──フレッド、ジョージの悪戯(いたずら)でけしかけられたので、あまり良い感情は(いだ)いていない。

……判るかもしれないが──実を云えば、〝ロナルド・ランスロー・ウィーズリー〟に転生した際、〝三歳の時フレッドにテディベアを〝バカでかい蜘蛛〟に変えられた記憶〟も継承していて、それから〝蜘蛛〟に対して耐え難い嫌悪感を覚えるようになってしまった。

リー・ジョーダンのタランチュラも、俺が杖を振る直前にフレッドとジョージが止めに入らなかったら、タランチュラは今頃静かに──(とこしえ)にひっくり返っている事だろう。

……〝見蜘蛛即殺〟──それくらいには嫌いだ。

【ゼロの使い魔】な世界線や【ソードアート・オンライン】な世界線に転生した時には、そんなトラウマめいた物は無かった。……〝その世界の常識〟を()る事が出来る記憶の継承も、メリット、デメリットと云ったところか。

「ジニーの服や杖を揃えなきゃいけないわね」

俺が〝テディベアが、ぎちぎち、と大蜘蛛に変わっていくさま〟にトラウマを持っているなんて話は置いといて、双子+αの歓談が一息着いたところで、母さんがある号令を出した。

………。

……。

…。

―一時間後に皆【フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店】でまた合流しましょう──フレッド、ジョージ、言うまでもない事でしょうけど【夜の(ノクターン)横丁】になんか行ったらどうなるか判りませんからね―

母さんは(うま)いことジニーの支度を理由にしていたが、俺は【フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店】に、ある看板を掛けられて居たのを見逃していなかった。

――――――――――――――

‥‥‥‥‥サイン会‥‥‥‥‥


‥ギルデロイ・ロックハート‥


‥‥自伝【私はマジックだ】‥‥



本日12時30分~16時30分


――――――――――――――

(今は11時12分──いや、13分か)

腕時計を見れば今の時刻は、11時13分になったばかりで、母さんが指定した再合流は一時間後。……つまり、〝そういうこと〟で──とりあえず俺は、ポケットに手を入れる振りをして、〝倉庫〟から、簡素な拵えのネックレス──“フェイス・チェンジ”が掛けてあるネックレスを取り出し、それをアニーへ渡す。

「……アニー、【ダイアゴン横丁】に居る間──いや【フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店】に居る間だけでも、このネックレスを首に掛けとけ」

「ロン、何このネックレス?」

「“フェイス・チェンジ”──変身魔法が掛けてある。……今日、【フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店】に〝アニー・ポッター〟が居ると、ちょっくら大騒ぎになりそうだ」

「何でまた…」

アニーは(いぶか)りながらも、俺が渡したネックレスを首に掛ける。……すると、アニーは身長や性別はそのままだが全く違う──アジア系の容姿に瞬く間に変化する。

「……?」

「……そういう事ね…」

変化しきったアニーは未だに首を傾げているが、ハーマイオニーは小さく頷いた。……その様子を見るに、ハーマイオニーは俺が〝そんなマネ〟をしている理由に気付いたようだ。

「ロックハートのサイン会ね」

「そういう事」

「……ああ、そういう事ね…」

アニーはやっと得心した様に頷く。

「……で──俺はこれからオリバンダーさんの店に杖を取りに行く予定だけど、二人はどうする?」

……俺がアニーとハーマイオニーの二人に()くのは、二人のこれから。

ジニーと母さんは一応の宣言通りにローブ等の服を買いに、父さんはハーマイオニーと一緒に来ていたグレンジャー夫妻と一緒に【漏れ鍋】へ意見交換に行き、フレッド、ジョージ、リー・ジョーダンの三人はイタズラグッズを集める為なのか、雑沓(ざっとう)に消えて行った。

俺もオリバンダーさんの店に杖を取りにいかければならない。……でなければ、今も持っている──去年オリバンダーさんと約束していた50ガリオンが財布の肥やしとなってしまう。

「何で杖を? ……ロン」

「夏休みの間に折っちゃったの?」

「いや、そこまで〝ものぐさ〟じゃないさ」

ハーマイオニーのあんまりにもあんまりな言葉を、懐から取り出したトネリコの杖を手元で──アニーとハーマイオニーに見える様に遊ばせながら否定する。

「……ん? 確かロンは〝取りに行く〟って言ってたよね。……なら買う杖は決まってるの?」

「ああ」

「……なら、ボクはロンに着いて行こうかな。……どんな杖なのか興味も涌いたしね」

「じゃあ私も着いていくわ、ロンがどんな杖を買うか気になるし。……それにここまで来て独り行動するのもイヤだもの」

()くして三人でオリバンダーさんの店に向かう事に。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ハーマイオニーお奨めの小道具を見回りつつ【オリバンダーの店~紀元前382年創業高級杖メーカー~】──と云う、どことなく懐古感(ノスタルジー)が漂う看板の店の扉を潜る。

前来た時と同様、来客を報せるベルが鳴った。

「やあ、ロン、一年振りじゃな。ポッター嬢にグレンジャー嬢も」

……ちょうど俺達が来る直前に客が出ていった店内には俺達以外の客は誰も居なかったので、オリバンダーさんは、入店してきた俺達を見て直ぐに応対してくれる。

「こんにちは、オリバンダーさん」

「「こんにちは」」

「ああ、いらっしゃい。……さてロンや、ここに来店したと云う事はお金は用意出来たのかい?」

「ああ──50ガリオンだ。確認してくれ」

また俺はポケットに手を入れ──る振りをして、〝倉庫〟からきっかり50ガリオンが入った小さめの麻袋を台の上に置く。

いきなり置かれたじゃらじゃら、と鳴る袋にアニーとハーマイオニーは唖然としているが──敢えてそれをスルーしつつ、オリバンダーさんに杖を出す様にアイコンタクトで示唆(しさ)する。

……するとオリバンダーさんは、俺が買い来るのを待ってくれていたのか、店の奧に杖を取りに行かず台の下から見覚えのある箱を取り出して──台の上に置く。

「〝柳〟〝ウェールズの赤い龍の角〟〝34センチ〟〝良質だが頑固〟…。……ロン──君がこの杖を取りに来るのを今か今かと待ちわびていたよ…」

「その麻袋に50ガリオンある。勘定はそっちでお願い」

オリバンダーさんは麻袋の紐をほどき金貨の枚数を改め始める。……そこで、アニーからちょいちょい、と袖を引かれる。

「うん? どうしたんだアニー」

「……もしかしなくても〝ウェールズの赤い龍の角〟って…」

どうやら俺が≪赤龍帝≫だと知っているアニーは思い至ったようだが、多分アニーの想像とはちょっと違っている事はなので、そこらへんに軽く註釈を付け加えておく。

「……アニーが訊きたい事は判るが、〝本人〟──もとい、〝本龍〟曰く、単なる〝モノホン〟ってわけてもなくて〝同位体〟らしい」

「〝同位体〟ね…」

「……確かに50ガリオン確認いたしました」

ここは〝【ハイスクールD×D】の世界線ではない〟──と云う事を暗にアニーへ伝える。……そんなところで、ガリオン金貨を数え終わったらしいオリバンダーさんは、真っ赤な杖の柄を──俺が持ちやすい様に向けてくる。

……ちなみにハーマイオニーは流れに流れる展開でまだ復活していない。

閑話休題。

――ドクンッ!

杖を握ってみれば、去年みたいな脈動が杖から伝わってくる。

「じゃあ、行くよ」

「またのお越しを」

やけに満悦なオリバンダーさんを背に向けて、店から出る。……左手に新たな相棒携えて…。

SIDE END 
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