普通だった少年の憑依&転移転生物語
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
【ハリー・ポッター】編
165 夏休み
SIDE アニー・リリー・ポッター
〝贅沢を知った者は更なる贅沢を求めずには居られなくなる〟──そんな忠言をこのダーズリー家で一番理解しているのは、ボクである自負している。
……【ホグワーツ魔法魔術学校】での黄金の日々が幸せ過ぎたからだ。
〝夏休み〟──それは大半の学生を狂喜させる魔法の言葉。
意外な事だったのだが、日本とは全く異なる価値観であるホグワーツでも里帰りする感覚なのかホグワーツ生も夏休みに対しては、試験が芳しくない結果になってしまって、親に叱られるのが確定している生徒以外は──おおよそ悪い感情を懐いていない様子だった。
しかし、何事にも少数派は存在していて──斯く云うボクもその少数派に属している。
〝夏休み〟なんて単語は、ボクからしたら二月程度とは云え、あのダーズリー家に叩き込む無情なる宣告でしかないのだ。
―課題とか取り上げられそうになる可能性がある…? ……だったら“崩”の1つでも見せて〝プリベット通りの半分を灰塵へと還したくなかったら荷物には手を出さないようにしてね〟──とか〝イイエガエ〟を浮かべながら〝お願い〟すれば良いんじゃないか?―
―良いか? “デスペルリング”──そのまんまだから判るかもしれんが、【ファイナルファンタジー】の“デスペル”が掛かっている指輪でな、指のサイズに合わせて〝縮小〟する様になっててて、指輪を嵌めているだけで装着者には恒常的に“デスペル”が掛かるようになっている。……これで〝匂い〟を撒けるはず―
〝知識〟があるらしいロンから教えてもらった〝ダーズリー〟の上手な扱い方と、今も瞭然と輝いている小さめのエメラルドが散りばめられた銀の指輪のお陰でボクはまだ、〝地獄一歩手前〟でやっていけている。
「ロンの話では今週の金曜日か…」
指輪(“デスペルリング”)を撫でながら思い出すのは先週の頭──の夢の中でのこと。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ここは…」
目を覚ませば、そこはグリフィンドール寮の談話室だった。……時計を見て──3秒もしないうちに違和感を覚える。
時計の時間が正しいのなら、まだハーマイオニー等が談話室に残って明日授業の予習をしている時間帯で──そこかしこから上級生の雑談が聞こえていてもまだおかしくない時間帯なのに、静寂の中でボク一人で佇んでいると云う状況もおかしい。
……そもそも、今は夏期休暇中で──狭隘なダーズリー家に戻って来ていたはずだ。
そして一つの可能性に行き当たる。こう云っては忸怩たる思いがあるが、これは云うなれば〝〝逆〟ホームシック〟であり──そして…
「……夢…?」
――「Exactly(イグサクトリー)──その通りにございます」
「ロン!」
我ながら女々しいことこの上ないが──今ボクが見ているこの光景を夢と暫定した瞬間、後ろから聞きたくて聞きたくて仕方がなかった──ロンの声が聞こえた。……後ろを見れば、そこにはやはりロンの姿が。
ロンの姿を認めて直ぐに詰め寄ってしまったのは、きっと仕方のないこと。……何故かは判らないが、その声は〝夢なんかじゃない〟と断定出来た。
「おーおー、その様子だとダーズリー家じゃあ中々に中々な扱いを受けているみたいだな」
「……うん。早速で悪いけど、ボクはロン──だけではないけど、訊きたい事がある」
「奇遇だな。実は云うとアニーにはちょっくら訊きたい事があるんだな、俺も」
ロンと目を合わせ、何となくだがボク同じような〝疑問〟が目の中に宿っているのを確認して──〝せーの〟と息を合わせてボクとロンは互いに向けて同じ質問をする。
「どうして手紙の返事をくれないないの?」「どうして手紙の返事をくれないんだ?」
「……えっ…?」
「……その様子だと、やっぱりか…」
お互い同じ質問なのもそうだが、それよりも、その後のロンの納得した様な頷きが気になった。……どうやらロンの方にも──このロン様子からするとハーマイオニーやラベンダーの方にもボクの手紙は届いていないらしい。
……目配せ(アイコンタクト)で続きを促せば、更にロンは続けてくれる。
「今のアニーの反応で確信した。……ハーマイオニーもアニーからの手紙が無いことを心配していたから、おかしいとは思っていたんだ。……だから来週辺りになっても報せが届かなかったら、父さん母さんと一緒にプリベット通りまで迎えに行く事を決めていたんだ」
「そっか…」
何と云うか──凄く安心した。終わり(ゴールテープ)が見えた気分になりさえする。……そして頃合いを見計らい、実は気になっていた事を聞いてみる。
「ところで、ロンはどうやってボクの夢に入って来れたの?」
「……“腑罪証明”って、【めだかボックス】のスキル郡の中でもかなり便利なスキルだよな…」
「ああ、なるほど…」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
―まぁ、普通に考えるなら、手紙を止めているのはアニーが俺やハーマイオニーと手紙のやり取りをされるのを困る奴だろう。……あ、手紙は前までのペースで出してくれ。下手に勘繰られてもウマくないしな―
ロンはそう言い残してボクの夢から──恐らくは“腑罪証明”で去って行ってしまったが、その後もまた時たまボクの夢に顔を出してもらい今日もボクの誕生日を──夢の中でだが祝ってもらったり。
……比喩じゃ無しに〝夢の様な想い〟をするとは思わなかった。
閑話休題。
今日はダーズリー家ではメイソン某を歓待するためのホームパーティが予定されている。なんでも大事な商談なのだとか。……尤も、〝居ないフリ〟を申し付けられているボクからしたら、全く関知するところではない。
(……そろそろ〝課題〟も終わっちゃうな…)
ここ数週間、〝魔法〟の[ま]の字に触れられるのは課題くらいなもので──現実逃避するかの様に課題に打ち込んでいたら、課題の底が見えてしまっていた。
……一応、“デスペルリング”は人間界に戻って以来常時身に付けているが、魔法を使う勇気は無い。
(ご馳走(笑)も食べた事だし、残りの課題もちゃきちゃき片付けようか。……〝変身術〟の課題もクライマックスだったな──っ!?)
ホームパーティが敢行される都合上、今日はいつもより早くボクだけが夕食を摂らされる。……だがやはり、他にする事も全くないので課題に心魂を擲とうと自室の扉を開ける。
……すると、誰も居ないはずのベッドに、体長1メートル程度の〝ナニカ〟が腰掛けているのが判った。
「アニー・ポッター! お会い出来て光栄です!」
その──1メートル程度の物体は、甲高いキーキー声を上げる。
蝙蝠みたいな耳、薄暗いこの部屋でも僅かな光量に反射してか、ぎょろり、と光る大きな目玉。……暇潰し(げんじつとうひ)として穴が空くほど読んでいた数々の本から、ボクはその生物の知識を得ていた。
「〝屋敷しもべ妖精〟…」
「左様でございます。私、〝屋敷しもべ妖精〟のドビーと申します」
「君はこんな──マグルの家なんかに居ちゃいけない。……もっと上等な家を探すといいよ」
ボクは「例えばウィーズリー家とかさ」と〝屋敷しもべ妖精〟──ドビーに伝えるが、ドビーは〝いやいや〟、と首を振る。……ドビーには既に仕えている家があるらしい。
(〝どこに仕えているのか〟を聞くのは無し──みたいだね…)
ロンなら、難易度が全然違うかもしれないが──いつぞやのハグリッドの時みたいに、〝うっかり〟こぼさせるくらい出来そうだが、さすがに無茶だと捨て置く。ドビーの口は地味に固そうだから。
「……ところで、ドビーはなんでこんな辺鄙な──マグルの住みかになんか来たの?」
「ドビーめはアニー・ポッターに忠告するために参りました」
「忠告…?」
「アニー・ポッター──貴女は今年度、【ホグワーツ魔法魔術学校】へ行ってはいけない。……恐ろしい罠が仕掛けられている」
(そういう事か…)
今のドビーからの忠言で、ドビーが皆からの手紙を止めていたのだと直感する。
……恨み言の1つ2つ3つ4つ5つを投げ付けたいが、今は階下ではメイソン某に対して歓待ホームパーティ(笑)が開かれている。……メイソン某はおじさんの会社の大事な取引相手らしく──ボクが何かをやらかしたら、どうなるかなんて火を見るより明らかだ。
「いや、普通に断るよ」
「それはなりません! アニー・ポッターは安全なところに居るべきです!」
――ドンっ!!
どうやらドビーが煩すぎたらしく、ドアが強く叩かれる。……〝ホグワーツにどうしても行きたいボク〟〝ボクをホグワーツにどうしても行かせたくないドビー〟──平行線になるのを悟ったボクは、ドビーの忠言を悉く無視する事を決めた。
………。
……。
…。
「ぅわぁ~お…」
ドビーの忠告を無視しながら課題に耽る事数十分。バーノンおじさんに腕を取られてリビングへと降りてみれば、散乱したホイップクリーム、とホイップクリームを頭の先から被ったメイソン某と思わしき人──有り体云わば、そこには惨状が広がっていた。
〝この状況を何とかしろ〟と、その場に居るボク以外の皆が目で語りかけてくる。
(〝考え〟ってこれなの、ドビー)
―アニー・ポッターが〝そんな態度〟をなさるのなら、ドビーめにも考えがあります―
ぶっちゃけこの惨状はボクの危機管理能力の欠如が招いた帰結である。……ドビーの〝忠告〟の本気度を感じながら〝現状〟についての情報を集める。
(……まずは、魔法を使っても大丈夫なのはホントみたいだね)
バーノンおじさんから話を聞くに、デザートに用意しておいたペチュニアおばさん特製ホイップクリームとスミレの砂糖漬けが勝手動き、メイソン某に直撃したらしい。
ロン伝いにマクゴナガル先生から軽く聞いていた事なのだが、未成年の魔法使いがホグワーツの外で魔法使えば即魔法省から通達が来るらしい──が、それも来た様子もない。
とりあえず、それは“デスペルリング”の効能なのだと納得して──ならびに、ボクはこの状況下では魔法を使いたい放題なのだと認識する。
……その後は惜し気も無く魔法を使い、その惨状を処理に掛かった。……いつの間にか消えていたドビーに首を傾げながら。
SIDE END
ページ上へ戻る