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火宅

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第一章

                 火宅
 星野一雄は妻の磨子と仲が悪い、家の中でいつも喧嘩ばかりしている。
 それで子供達はいつもうんざりとしていた、一番上の太郎は弟や妹達にいつも言っていた。
「こうした家ってことはな」
「もう納得するしかないんだ」
「そうなのね」
「ああ、うちはこんな家だ」
 大学生にしても分別のある考えで話すのだった、とはいっても太郎の外見は派手だ。痩せて背が高く髪の毛は赤く染めていて耳にはピアスがある、所々破れたジーンズをはいている。
「親父とお袋が喧嘩ばかりしてるな」
「そうした家ってことなんだ」
「親の仲が悪い」
「そうした家なのね」
「そうだ」 
 その通りという返事だった。
「こうした家ってことでな」
「納得するしかないの」
 長女の芙美子が応えた、髪の毛を金色に染めて伸ばしている。付け睫毛をしていて派手なメイクが印象的だ。着ている服は半ズボンでシャツも露出が高い。
「結局は」
「ああ、そうだ」
 こう妹に言うのだった、ちなみに兄弟は太郎を筆頭に次男の次郎、三男の三郎、長女の芙美子、次女の美奈子となっている。次郎はシェフになっていて三郎は大学に入ったばかりだ。芙美子と美奈子は高校生だ。
「うちはな」
「何かね」
「親が喧嘩ばかりだとな」
「嫌になるけれど」
 実際に嫌そうな顔で言う芙美子だった。
「毎日毎日だし」
「全くだよ」
「こんなに喧嘩ばかりだと」
 次郎と三郎も言う、次郎はシェフらしく清潔な外見で黒髪を短く刈っている。三郎は一九〇と兄弟の中で一番大柄で丸々と太っている。
「嫌になるな」
「芙美子の言う通りだ」
「私も、こんなにお父さんとお母さんが喧嘩していたら」
 黒のショートヘアのこけしに似た外見だ、美奈子は兄弟の仲で一番大人しい外見である。見れば背も一六〇ある姉より七センチは小さく全員一七五は超えている兄達よりもずっと小さい。
「お友達も呼べないし」
「そうだな、しかしな」
「しかし?」
「しかしっていうと?」
「親父もお袋も喧嘩はして言い合ってお互いに殴り合うがな」
 それでもと言う太郎だった。
「俺達には暴力を振るったりしないだろ」
「それはそうだな」
「ああ、ずっとな」
 次郎と三郎は長兄のその指摘に頷いた。
「それはないな」
「俺達に暴力は振るわないな」
「躾はしたが」
「それはないな」
「しかもだ、二人共働いていてな」
 それでとだ、一郎はさらに話した。
「ちゃんと家に金も入れてくれてるな」
「だからね」
「私達もね」
 今度は芙美子と美奈子が話した。
「生活に困ってないし」
「学校にも通えてるわ」
「家事もちゃんとしてくれている」
 このことも話した一郎だった。
「お袋だけでなく親父もな」
「それだけあればっていうのね」
 芙美子は兄に問うた。 
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