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真田十勇士

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巻ノ六十七 関白秀次その五

「やはり拙者は質素じゃ」
「質素でいいですな」
「ここは」
「それでいいですな」
「そう思う、では参上しよう」
 その秀次の前にだ、こうしたことも話しながら幸村も十勇士達も向かう。そしてその秀次の間の前でだ。
 案内役の小姓がだ、幸村達に厳かな声で告げた。
「では」
「これより」
「関白様の御前に」
 こうしてだった、麩が開けられ幸村と十勇士は秀次の前に参上した。見れば黄金の服を着た面長で頬髭を生やした若い男だった。
 しっかりとした目で幸村達を見ている、小姓がその彼に言った。
「真田源次郎幸村殿とです」
「十勇士の面々じゃな」
「はい」
「わかった、ではだ」 
 秀次は小姓に対して言った。
「御主は下がれ」
「わかりました」
 秀次はその小姓を下がらせた、そのうえで自ら幸村達に声をかけた。
「この度はよく来てくれた」
「お呼びとありです」
「来てくれたか」
「左様です」
「ふむ」
 ここでだ、秀次は。 
 自分に対する幸村の顔を見てだ、こう言ったのだった。
「よい目をしておるな」
「それがしがですか」
「そして見たところじゃ」
 さらに言う秀次だった。
「鍛えられいるな、皆」
「家臣の者達も」
「十勇士といったな」
 秀次は彼等も見て言った。
「そうであるな」
「左様です」
「我等殿にお仕えしています」
「生きるも死ぬと誓った」
「そうした間柄であります」
「そうだな、主従であり義兄弟でもあり友でもある」
 秀次はこのことも言った。
「そうした間柄と聞いておる」
「それが我等です」
 幸村は秀次に答えた。
「だからこそこうして共にいます」
「そうか」
「そして死ぬ時も」
「共にか」
「全ての者が」
「そうか、御主に殉ずるのではなくか」
「死ぬのは戦の場で」
 そしてというのだ。
「十一人が共にです」
「その戦の場でじゃな」
「そう誓っておりまする」
「そして誓いを破ることはない」
「武士です」
 それ故にというのだ。
「誓いも破りませぬ」
「武士であるからか」
「はい、誓いも破りませぬ」
「戦の場で皆共に死ぬか」
「矢尽き刀折れるまで」
「それが武士じゃな」
 ここまで聞いてだ、秀次は瞑目する様な顔になった。そしてだ。
 彼は幸村にだ、あらためてこんなことを言ったのだった。 
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