ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
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真・魔人-ファウスト・ツヴァイ-part2/怨念の鎧
地下室でとある青年を発見したコルベールは、とりあえず自分の研究室に彼を運び込み、介抱することにした。
ベッドで寝かされる彼を見て、コルベールはさっき彼が地下室内で発生した奇妙な歪みの中から姿を現したことを思い出す。
一体、あの歪みは?なぜこの青年が現れたのか?
長年の知識を掘り起こしても、こんなことは一度もなかった。魔法の一種とも疑ったが、魔法らしき反応も感じなかった。
それにしても、彼の表情は…眠っているはずだと言うのに、安らかな感じがしない。悪夢に苛まれているかのように、思い詰めた顔をしている。
「く……」
すると、青年の口から声がもれ出てきた。意識が戻ったのだろうか。
「む、気がついたかね?」
コルベールは振り返り、その青年の容態を確認し始めた。だが、呼びかけもむなしく青年は声を時々洩らすだけで目を覚まさない。
…悪夢といえば、コルベールにも覚えがある。ウルトラマンと怪獣の戦いが始まった日から、よく思い出すようになったのだ。
火の海に消えていく一つの村の惨劇を。
それを見るたび、起き上がった彼の顔は汗だくになり、鏡で確認すると痩せ細ったように見えた。彼も似たようなものだろうか。
コルベールは自分の研究室の外を眺めた。
(あの子達は、戦うということか…あの恐ろしい怪物たちと)
女王命令だから黙らされていた。でも、コルベールの心はアンリエッタの命令を許せないままだった。未来ある少年少女たちが、戦いという地獄に身を投じなければならなくなる。不安ばかりが募る。そんな理不尽につき合わされ、あの夢の光景の中にあったようなことが、
『全てを消し炭にする忌まわしい炎』が、今度は彼らの身に降りかかるのでは、と。
そんな炎を脳裏に浮かべていたのは、コルベールだけではなかった。
現在、アンリエッタにある調べものを行うために魔法学院に向かっていたアニエスも同じだった。
今回、彼女は魔法学院に隠れているという、地下の隠し図書館に向かっていた。それはかつて、リッシュモンの薄汚い企みのために犠牲になった彼女の故郷の惨劇の資料を閲
しかし彼女だけが向かっているわけではなかった。銃士隊の部下たちも十数名、アニエス同様馬を走らせながら同行している。今は亡き副長ミシェルのさらに下に、アニエスが腕を認めた精鋭である。
アンリエッタは、今回ある決断に踏み切っていた。UFZという新たな近衛部隊はあくまで怪獣や異星人の調査を主な任務としており、討伐は目的ではない。メンバーがまだ戦争の経験がない者で占められているから無理もなかった。だが、現在建て直し中のトリステイン軍の徴兵には魔法学院の生徒たちもまた抱きこまないと余裕がなかった。同盟国であるゲルマニアからもまだ兵が殆ど送られてきていない。やむなく学院の生徒を徴兵することに決め、徴兵命令と、たくさん残るであろう女子生徒たちの護身術の教導の通達をアニエスたちに任せたのだ。
『戦争に子供たちを巻き込むな』。コルベールはアンリエッタがオスマンやサイトたちに対してアンリエッタが協力を求めた際に言い放った言葉だ。子供を愛する気持ちは否定しない。だが、その子供たちを守るためにも、彼らに戦うすべを教えることも必要だというのがアニエスの考えだ。コルベールのように、いつまでも逃げ回るようなことは言うつもりはなかった。
逃げれば…きっとまた、自分が大切なもの全てを炎の中に消されたあの日と同じ悲劇が繰り返されるだろうから…。
「……」
「隊長?どこか具合でも…」
「なんでもない。少し物思いにふけっていただけだ」
部下から尋ねられたアニエスは、いつもどおりの鉄仮面のような無表情を保って、魔法学院へ向かった。
ウェザリーはトリステインへの復讐を確実なものとするために、ウルトラマンと言った邪魔者の障害を受けず、自分の手を煩わせず、『暗い暗雲』によってハルケギニアに…それも自らのもとに連れてこられたハルナに、自らの闇の力を一時的に貸し与えていた。
そして彼女には各地でウルトラマンたちを引っ掻き回しながら、ビーストや怪獣を操り、人々が負の感情に囚われた際に放つマイナスエネルギーを増やし、ウェザリーが用意した謎の装置『レプリカレーテ』に蓄積し、自らの闇の力と一体化させていった。
しかもハルナは、ウルトラマンゼロの変身者であるサイトとは親しい間柄。サイトを強く想っているために、結果的にだが異世界へ強引に召喚したルイズへの怒りと憎しみ、そしてサイトが異世界という危険な世界で戦うことを選んだことでの不安…そういった、闇の力を強化するための素材となる心の闇を抱えていたため、うってつけの人材だった。
闇の力を強化していけば、たとえウルトラマンクラスの敵が束になっても確実に勝つことができるようにすることで、トリステイン滅亡の達成が確実なものとなる。
しかし、ハルナ本来の大人しい人格ではファウストの力を思った通りに使わない可能性を考え、禁忌の魔法を使い、ハルナのサイトを求める心の闇を種に新たな闇の人格を植え付けたのだ。その結果、彼女はウェザリーが与えた役目を十分にこなして行くことができたのだ。
だがウェザリーが言ったように、いくら魔法で自分の思い通りになる人格を植えつけたというのに、ハルナの本来の人格がサイト=ゼロの呼びかけの影響で呼びさまされてしまい、ファウストとして動くことがままならなくなった。このまま闇の力を預けたまま活動をさせると、せっかく強化した闇の力が弱まり、力を自分の元に戻す前にウルトラマンたちに人形が倒されるかもしれない。
だから今、ウェザリーはそうなる前に、ハルナに与えていた闇の力を己の身に戻し、変身した。
第三の闇の巨人『ダークファウスト・ツヴァイ』へ。
変身し、巨大化したファウスト・ツヴァイ。
ツヴァイはすかさず、サイトたちに向けて闇の炎〈ダークフレイム〉を飛ばした。
「わあ!」
急いで、自分がいた建物から降り、闇の炎から直撃を免れたが、今の攻撃で三人が上っていた建物は爆発に飲まれ、爆風で三人は大きく吹き飛ぶ。
「く…」
地面の上に叩き作られたが大したダメージはない。だが、立ち上がった時にはサイトたちに向かってファウスト・ツヴァイが寄ってきていた。
彼に意識を失った状態で背負われているハルナのポケットに、前回にて劇場の前で拾ってきた彼女の学生手帳を入れると、ルイズの方に振り向く。
「ルイズ、ハルナを連れて先に行け!春野さんたちに知らせろ!ここは俺が食い止める!」
「ちょ、待ちなさいよ!私一人でハルナを運べっていうの!?」
ルイズ一人ではさすがに人ひとりを運ぶのは体力的にきつい。
「大丈夫ですか!?」
するとここで、まさに良いタイミングで、ラ・ロシェールに駐在していたトリステイン兵が二人ほどやってきた。
「ちょうどよかった、兵士さん!この子たちをお願いします!」
「ちょ、こら!サイト、ご主人様を置いて行くんじゃ…」
半ば押しつけがましく、自分と気絶しているハルナを兵士に預け、サイトはそのままファウストを食い止めんと、町のほうへと走り出してしまう。
「お、おい君!」
「仕方ない、貴族様とこのお嬢さんを連れて、いったん退くぞ!」
「ああもう!いちいち人の言うこと聞かないんだからぁ!」
ルイズたちを押し付けられた兵士たちはサイトを引き留めようとしたが、予想以上にサイトがすばしっこかったこともあって彼を見失い、且つ黒い巨人が町を破壊し始めていたこともあって、押し付けられたルイズたちを連れて避難先へ向かうしかなかった。
最後に残されたルイズの、サイトの自分に対する扱いへの不満が漏れたのは言うまでもない。
二人が去ったのを確認し、サイトはウルトラゼロアイを取り出す。すると、ゼロがサイトの中から彼に話しかける。
『しかし、これはこれで好都合だったかもな』
『ああ、そうだな。もし、ファウストがハルナのままだったら…』
確かに、都合が良くなったと思う。なぜなら、ハルナがファウストでなくなったから、彼女と戦わずにすむことができるからだ。あのままウェザリーがハルナに戦わせたままでいたら、自分たちは手を出せないままだったかもしれない。しかし、ウェザリーは大胆にも闇の力を再び自分に戻し、自らついに手を下してきた。
『ハルナがファウストじゃなくなった今なら、思いっきりやれる!』
サイトは心の中で強く意気込んだ。ウェザリーは確かに、かつては邪まな欲望を抱く貴族のせいで愛する家族を奪われた身とは聞いたが…だからといって、ハルナやこの国で出会った人たちにしでかしたことを許すわけに行かなかった。似たような過去を持ち、それを理由に過ちを犯したサイトだからこそ、なおさらそう思わずにいられなかった。
『けどサイト、ハルナという人質を自ら捨てたってことは…ウェザリーには絶対の自信を持つだけの力があるってことだ。油断せずに行くぞ!』
『おう!』
ゼロからも気合の言葉を受け、サイトはゼロアイを目に装着し、ウルトラマンゼロへ変身した。
「デュワ!」
変身した彼を見て、ファウスト・ツヴァイとなったウェザリーが振り向く。
「やはり来たか…」
「これ以上、お前の好きにはさせるかよ!」
指差しながらファウスト・ツヴァイに宣言するゼロ。もはやハルナという盾を自ら捨てたウェザリーに対して躊躇うことなど何もない。しかしファウスト・ツヴァイはゼロに対して言い放った。
「この国を守ることに何の意味があるの?あなたも知っているでしょう。伝統と規律を重んじると抜かしておきながら、その裏では汚い手段に手を染め、自らの故郷を腐らせる愚かな貴族たちが支配するこの国…トリステインを」
確かに、この国には汚い人間がいた。モット伯爵、ワルド子爵、チュレンヌ徴税官、リッシュモン高等法院長…奴らは己の野望のためならば、自分の国さえも腐らせることをいとわなかった。そのせいで苦しめられた人などどれほどいるのだろう。リッシュモンの卑劣な野心のために、ミシェルのような犠牲が出てしまったことなど、きっとざらだろう。今に始まったことじゃない。
「正義をなすべきウルトラマンゼロが、そんな愚かな人間の肩を持つというの?」
挑発するような言い方でゼロを翻弄しようとするファウスト・ツヴァイ。
「…確かに、この国で俺は汚いものを何度も見た。罪もない人が、権力者に虐げられ、命を失い、不幸になっていく…あんたもその一人だった」
モット伯爵の破廉恥な欲望のために連れて行かれそうになったシエスタ、婚約者に裏切られたルイズ、リッシュモンのせいで運命を狂わされ最期に死を遂げたミシェル…。
「けど、だからってあんたが今やろうとしていることも、あんたがハルナにこれまで強いてきたことも許すわけにいかない。たとえ…過去にどんな辛い思いをしてきたとしても」
それは、自分とゼロがそれぞれ経験したこと、二人でひとりとなって以降も犯してしまった過ちを経ての想いだった。自分もゼロも、これまで平和のために戦うことを誓いながら、その重いとは裏腹の結果を残してしまうこともあった。
だから、過去の遺恨を理由に、今を生きる人々に災いを振りまくこの女の悪事を許すわけに行かない。
「虫唾が走るくらいの高潔さね。ウルトラマンゼロ、本気で私とやりあう気?今のうちに逃げておくべきじゃないかしら?」
「俺は逃げねぇ。どんな敵が現れても………」
逃げるなんて選択肢など、最初からない。自分が逃げれば、ルイズも、この世界でできた仲間たちも…ようやく取り戻すことができたハルナを危険にさらすことになる。
だから…。
「宇宙の悪をとっちめる!それが俺…ウルトラマンゼロの使命だ!」
ビシッと決めながら、ゼロはファウストを指差しながら宣言した。この女を…倒すと。
「…ふふ、その決意表明はいいのだけど、後で後悔しないことね!」
ゼロが自分に戦意を持って対峙してきたことを受けると、ファウスト・ツヴァイの黒い瞳が、邪悪な深紅色に染まった。
さっきの、ゼロとの会話で彼が予想していた通りだ。余裕の姿勢を崩さないまま、ファウスト・ツヴァイはジリッと身構え、ゼロもまたいつものファイティングポーズをとった。
サイトたちがウェザリーとハルナの二人と改めて相対していた頃、ムサシはジュリオ、ギーシュ、マリコルヌ、レイナール、モンモランシーを連れ、ジュリオが掴んだ情報を元に、アルビオンとラ・ロシェール間上空で発生した爆発からの落下物の地点へと向かっていた。
場所は、以前サイトたちが訪れたタルブ村付近の山岳地帯ふもとの森。そこには賊が潜んでいて、気になった村人たちも調べようにも調べることができないでいるらしい。
だが、ムサシはサイトのことが気がかりに思っていた。
(サイト君、大丈夫だろうか)
今は街の外側にいるが、いずれまた敵として再会するハルナに対して思い悩むサイトに発破をかけたのだが、いや、かけたからこそ心配してしまう。しかも今の自分はサイトと違い、エネルギー不足で変身して戦うこともままならない。
…ダメだ。こんなんじゃコスモスからもたしなめられてしまう。今はこの子達を…未来のこの世界の盾となる彼らをしっかり導かなければ。
「えっと…あなた、ハルノ…だったかしら」
一人考えこんでいたムサシを見て、モンモランシーが声をかけてきた。
「あ…と、ムサシでいいよ。どうしたんだい?」
「私たち、陛下の命令で調査に向かっているのはわかっているけど、もし落下したものが見つかったら、一体どんな流れで調べればいいわけ?」
「まず、根気よく探して見つけること。見つけてもすぐに近づいたりせず、仲間に知らせること。何事も慎重さを欠いてはいけない。
昔、僕も焦ってしくじったことが多々あったからね」
ムサシは現時点においてはこの場の誰よりも年長者ゆえに経験をつんでいる。怪獣と人類の共存という夢を実現させるまでの過程で、失敗なんて何度もあった。それらの失敗を元に、彼らをうまく導くことができればいいのだが。
しかし、その時だった。
街の中央から黒い闇の柱が立ち上った。それは消え去ると同時に、これまでトリステインを苦しめてきた黒いウルトラマンに姿を変えた。
「く、黒い巨人だ!」
その姿を見て思わずマリコルヌが叫んだ。
巨人…ファウスト。これまでトリステインに混乱をもたらしてきた死の魔人の姿を見て、その表情は彼に限らず青いものになった。
(ハルナちゃん…)
やはり彼女はまだサイトと戦うつもりだというのだろうか。闇に満ちているだけの光のない道を走っても、どこまでも闇が続くだけだというのに。ムサシは悲痛な表情を浮かべる。
しかし、さらにもう一人の、光の巨人が姿を現した。
平賀サイトのもうひとつの姿にして我らがヒーロー、ウルトラマンゼロである。
だが、街の人たちは恐怖した。またあの日の惨劇が繰り返される。町が爆風で吹き飛ばされ、たくさんの命が失われた悪夢のような一夜。その再来を予測し、ラ・ロシェールの住民たちは逃げ始めた。
だが中には、こんな人もいた。
「ちくしょう、ウルトラマンが…またこの街を壊しに来やがったのか!」
「あいつらのせいで俺の家族は…ぶっ殺してやる!」
「この野郎!!またのこのこと出てきやがったな!!」
「私たちの町から出て行って!!」
「この疫病神が!また災いを呼び込むか!!」
以前、ゼロがラフレイアを〈ウルトラゼロキック〉で倒したことで発生した爆発で愛する人たちを失った人たちだった。彼らは二人の巨人の中でも、特にゼロに対する敵意が明確なものだった。
ギーシュたちも、その中でもムサシが苦い顔を浮かべていた。サイトたちから、この街がウルトラマンたちの戦いに巻き込まれて壊滅的被害を受けたと聞いたが、ここまでウルトラマンを嫌っているとは。同じウルトラマンとしても、コスモスと切れない絆を結んだものとしても、これは辛いものだった。
「ギーシュ、みんな!!」
すると、ムサシたちの元にルイズと、偶然居合わせたトリステイン兵士によって運ばれた意識がないままハルナがやってきた。
「おぉ、三人とも無事だったか!」
彼らがやってきたことでギーシュは歓喜の笑みを見せた。
「みんな、無事!?」
ルイズが皆の状態を確認してくると、ムサシは兵士たちに背負われている少女を見て、目を丸くする。
「は、ハルナちゃん…なのか?」
紛れもなく、ファウストとしてこれまでこの国で暴れていたはずのハルナが、ファウストが出現している今、こうして意識を手放した状態で運ばれてきている。これは一体?
「サイトが今、ウルトラマンと一緒にファウストを食い止めている頃よ!早く戻ってサイトを助けないと!」
「また無茶なことを…」
ラグドリアン湖でも、無謀にも銀色のウルトラマンと怪獣、そして黒い巨人の戦いに自ら首を突っ込んで立ち向かったことを覚えていたモンモランシーは、サイトのことが猪突猛進にも思えて少し呆れた。
すると、ジュリオが自分たちの現在位置から、ゼロとファウストの立っている場所の方角を指差した。
「ねぇ、あそこにいる人たち、武装しているけど?」
それを聞いて一同はジュリオの指差した方角を見やる。町の人の一部が集まっている。それも、普段の格好に武器を持っただけの軽い武装だ。それに、ウルトラマンたちに向けて鋭い視線を向けている。
「まさか!」
ムサシは嫌な予感を感じた。
「行くぞ!あのウルトラマンをぶっ殺してみんなの仇を取るんだ!」
「おおおおぉぉぉーー!!」
その予想は、最悪なことに的を射た確信だった。再びゼロが自分たちの街に姿を見せたのを好機と見て、彼らはゼロへの憎しみを爆発させ、奮起したのだ。
弓、剣、槍…あらゆる武器を持って、彼らはゼロへ復讐せんと蜂起する。
だが、中には暴走気味の彼らを引き止める人もいた。
「なにをしているんだ!やめろ!」
「そうよあなた!馬鹿な真似はやめて!!」
「離せ、邪魔をするな!」
「俺たちの家族を殺したくせに、のうのうとヒーロー面して戻ってきたあの巨人をぶっ殺さないと気がすまないんだよ!!」
「な、なんかやばくない…?」
恐る恐るマリコルヌが声を洩らす。
酷い有様だった。ウルトラマンを憎むあまり、自分たちの行いの危険性がわからなくなっている者と、そんな彼らを思い引き止めようとしている人たちの対立。それが起きたせいで、避難状況は思わしくない状態にあった。このままでは彼らがゼロたちの戦いに巻き込まれてしまう。
「みんな、任務のことはひとまず置こう!街の人たちの避難誘導を進めよう!」
「待って!サイトのことはどうするの!?」
ムサシが真っ先に出した提案にルイズが反発する。
「サイト君のことは、ひとまず彼らを非難させながら探すしかない!」
「ルイズ、このまま突っ立っていても危険だ。ミスタ・ハルノの意見に従おう」
ジュリオからも言われたが、サイトがいないことで猛烈な不安を覚えていることに変わりなかった。
「まずは彼らを安全な場所まで連れて行く。ミスタ・ハルノ。避難誘導は僕らに任せて、あなたは一度ハルナ君とルイズを安全な場所へ連れて行ってください」
「ジュリオ、あなたねぇ!!」
だが、ジュリオがほぼ強引に話を進めてしまう。彼に対しても反抗しようとするが、ジュリオはそんな彼女に耳打ちする。
「君は、まだ仲間たちに明かしていないとはいえ虚無の担い手だ。黒いウルトラマンたちも君の力を狙ってきたかもしれない。ここはおとなしく言うことを聞くんだ」
「………」
ルイズは黙り込んだものの、やはり自分が安全な場所へ、サイトを置いていくことに不満を抱いた。
「君たちで大丈夫かい?」
ムサシは一応現時点でのUFZを預かっている責任者。それをジュリオに任せるというのは
「僕もこう見えて場数は踏んでいます。ギーシュ君たちをうまく導いて見せますよ。だろ、ギーシュ隊長」
「君に持ち上げられるのは癪だが…まあいい。今は君の言うとおりだ」
「わかった」
ムサシもジュリオの提案に乗り、レイナールに代わってハルナを背中に負ぶって、ルイズを連れて一端ここを離れた。
(…今の段階で、確認されている虚無が一人でもかけてしまうことは許されないからな)
ジュリオが一人、誰にも聞こえない程度の小さな声で呟いていた。
二人の巨人の激闘は、時間が経過していくうちに激化していった。
ゼロとファウスト・ツヴァイは互いに組み合うと、ゼロによってファウスト・ツヴァイの方が押し出されていく。それを振り払われ、ゼロは側転しながら立ち上がり、ファウスト・ツヴァイの上段回し蹴りとパンチを連続して避け、背を向けていたファウストに瞬時にけりを加えて突き飛ばした。
突き飛ばした途端、ゼロは額のビームランプから閃光を放つ。
〈エメリウムスラッシュ!〉
「ジュ!」
しかしファウスト・ツヴァイは避けなかった。その攻撃を、バリアを張ってもいない掌のみで防いで見せ、振り払った瞬間に光線を消してしまう。
場合によっては怪獣を倒せるほどの光線技を、あっさりとかき消してしまったファウスト・ツヴァイにゼロはぎょっとすると、その隙を突いてきたファウスト・ツヴァイの光弾〈ダークフェザー〉がゼロの体に連射される。
「ぐぅ…!!」
足元にも爆炎が起こり、ゼロは身を丸めてガードする。攻撃の手を緩めたゼロに向け、ファウスト・ツヴァイがすぐに接近し、その腹に一発拳を叩き込んだ。
「デエアアアア!!」
空中へ大きく投げ飛ばされたゼロ。だが、すぐに身を仰け反らして体制を整え、空中から降下しながら炎の蹴り〈ウルトラゼロキック〉をファウスト・ツヴァイに向けて放った。
正面からの攻撃だが、超スピードで迫ってきたゼロ。だがファウスト・ツヴァイはタイミングを掴み、即座に左方向へ回避する。避けられた炎のけりによって町の地面を埋め尽くしていたレンガが吹き飛ぶ。
ファウスト・ツヴァイは蹴り直後の彼の大きな隙を見て、闇の光弾を放とうとする。だがそのとき、ゼロの頭についていたゼロスラッガーがはずれ、ファウスト・ツヴァイの方へと旋回しながら迫ってきた。
ファウスト・ツヴァイが、今度は空中に向かってとび立ち、二本のブーメランを軽やかな動きで避けていく。だが、さすがのファウスト・ツヴァイも避けきれなくなったのか、少し追い詰められていた。このまま行けば、ゼロスラッガーの攻撃が当たるはず。集中力を研ぎ澄ませながら、ゼロは次第にファウスト・ツヴァイにゼロスラッガーを念力で操り続けた。
だが、そのときだった。
「この野郎が!!」
「食らえ!!似非ヒーロー!!」
「う…!?」
突然ゼロに向けて、どこからか石や矢、そして銃弾が飛んできた。そのせいで、ゼロはゼロスラッガーを操るための集中力を切らしてしまう。
なぜいきなり石や矢が?ゼロは一端ファウスト・ツヴァイから石などが飛んできた方を見ると、そこには町の人たちの一部が、ゼロに向けて敵意を向けて集まっていた。
「のこのこと現れやがって!」
「お前がこの町でしでかしたこと、忘れたわけじゃないわよ!!」
「そうだそうだ!!お前のせいで、俺の弟はあの時死んだ!お前が殺したんだ!!」
かつて、闇の人格に支配されていたときのハルナが変身していたファウストと戦っていた頃の自分が犯した過ちのせいで、愛する人たちを失い、住み慣れた町を破壊されたことを恨む人たちが、手に剣やナイフ、槍、銃を持ってゼロに反抗していたのだ。
「何をやっているんですか!!」
「あなたたち、すぐにここを離れなさい!」
そこへジュリオやギーシュたちが駆けつけて、ゼロに攻撃しようとする人たちを避難させようとする。
「貴族様の言うとおりだ!早く逃げろ!巻き込まれるぞ!」
逆にゼロに対して反攻してこない、冷静な町の人たちは、自分たちの知り合いや家族がやろうとしている危険な行いをやめさせるべく止めに入るが、ゼロへの憎しみを爆発させている人たちの暴走はやむ気配がなかった。
しかも中には、ラ・ロシェールに留まっているメイジ…つまり貴族やそこ出身の兵士も混ざっていた。
「この、邪魔だ!!」
「痛ッ…!?」
「マリコリヌ、大丈夫か!」
中には、自分たちを気遣ってくれる彼らに拳をぶつけてくる酷い者もいた。しかもそのせいでマリコルヌたちも殴られてしまう。
「…!!」
ゼロはあまりの光景に呆然とする。自分のせいで、これほど多くの人たちが怒りと憎しみに支配され、正常でなくなってしまっていたとは。
そんなゼロを、ファウスト・ツヴァイは空中からあざ笑った。
「あはははは!!滑稽ね、ウルトラマンゼロ!これがお前の守ろうとしている人間共だ!その恨みの力…お前の身をもって味わえ!」
すると、ファウスト・ツヴァイは手を町に向けてかざすと、町の各地に設置された黒い立方体の物体…『レプリカレーテ』に蓄積されたマイナスエネルギーを開放していく。
開放されたエネルギーは、現在も街の人たちが放ち続ける憎しみより生まれたマイナスエネルギーと交じり合い、ファウスト・ツヴァイの体に吸い込まれていく。
「ふふふ…いいわ。これよ…この相手を憎む底なしの闇が…たまらない!我が闇の力もまた高まり、溢れていく!!」
自らの心の闇と、闇の力が増大していく感覚に、まるで麻薬のような快楽を覚えるファウスト・ツヴァイことウェザリー。
だが、そのマイナスエネルギーの一部は、彼女だけに向かっていなかった。なんとゼロにもそれが集まりだしていたのだ。
「な、こ、これは…!!うわあ!!」
奴が残らず吸収すると思っていたマイナスエネルギー…闇が自分の周りに集まっていき、まるで悪霊のようにゼロの体にまとわり付く。
やがて、ゼロの姿に異変が起きた。
「!?」
自分の姿を見て、ゼロは驚愕した。この姿は間違いない。ガギキ…と軋むような金属音に、ウルトラ戦士でも重いと感じるほどの重量…
「どうかしら?主演のあなたのために用意した、舞台衣裳よ」
「なにが、舞台衣裳だ…
テクターギアじゃねえか!」
せせら笑いするファウスト・ツヴァイにゼロは怒鳴り散らした。
そう、今のゼロの体には、かつて光の国から追放されたときに装備させられていた訓練用アーマーにして拘束具『テクターギア』が装備されていたのだ。
これを身に付けた者は、光線技などの必殺技を封じられ、身体能力も数分の一に落とされてしまう。
「ただのテクターギアじゃなくてよ?」
ファウスト・ツヴァイがそう言った時、ゼロの身体中に激しい闇の波動が雷のようにほとばしり、ゼロを痛め付け始めた。
「グアアアア!!?」
これは、ただのテクターギアではないのか?苦しみ悶えるゼロ。
「それ、あなたがかつて犯した失敗と過ちで大切なものを奪われた人々の、あなたへの怒りと憎しみを形にしたテクターギア。
名付けて…『テクターギア・ヘイドリット』!
その鎧は、常に装着者にして憎悪の対象であるあなたを、死ぬまで苦しめ続ける!」
この街の人たちの、恨みの声だと?
当然このままでいられるはずもなく、彼はただちにテクターギアを外そうとする。だが、外そうと僅かに力をいれるだけで、彼の体に激しい闇の力が放たれ、彼をさらに痛め付けていった。
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