魔界転生(幕末編)
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第74話 榎本の失敗
蝦夷を平定したと宣言はしたものの、問題は山積していた。
その中で、松前藩には頭が痛かった。目の上のたんこぶとでもいえばいいだろうか。
松前藩は新政府軍に協力していたからだ。
榎本は、艦隊を引いて上陸し、松前藩に攻撃を仕掛けたが、ここで、思いもよらないことが起きてしまった。
それは、今まで相棒同然だった、開揚丸が座礁し、沈没してしまったのだ。
それを見た榎本は、落胆の色を隠せないほど、うちひがれた。
土方は、沈んでしまった船をどうこう言っても仕方ない。と、叱咤したが、がくりと項垂れている榎本をみて、だめだこりゃっと思いた。
これが榎本の一つの失敗。
そして、もう一つの失敗は、幕府が買い付けたアメリカの装甲艦・甲鉄が新政府軍に渡されてしまったことだった。
榎本は、旧幕府が買い付けたものなのだから、当然、こちらに渡されるものだと踏んでいた。が、開けてみれば、新政府軍に渡されてしったのだがら、たまったものではじゃない。
榎本のショックは測りしれなかった。
これが二つ目の失敗。
そして、最後の失敗は、その甲鉄奪取の失敗だった。
榎本はどうしても開揚の代わりの軍艦が欲しかった。
榎本には信念があった、海を制する者は世界を制する。だからこそ、元々こちらに来る筈の甲鉄を取り戻したかったのだ。
そこで、榎本はある作戦を立てた。
それは、「アボルタージュ」作戦。
アボルタージュ作戦とは、味方のふりをして近づいて、敵を安心させ、その後に自分の旗を掲げ、一気に敵船に乗り込んで奪取するというだまし討ちのようなものだが、世界で認められている作戦である。
だが、それも失敗に終わる。
土方達の活躍で命からがら逃げることができた。が、その失敗にはある男が絡んでいた。
その男とは、長崎から駆け付けた坂本龍馬であった。
龍馬は、薩摩の黒田清隆に進言したのだった。
黒田はアボルタージュ作戦のことは知っていた。が、まさか、だまし討ちのような作戦は誰もしないだろうと読んでいた。
「黒田さん、榎本さんやるよ。あの人もわしと同じ考えの持ち主ですきに」
「だが、坂本君、榎本さん程の男が実際にやるとは思えんが」
「黒田さん、甘いぜよ。海を制するのは世界を制すると言っても過言でないきに。まして、開陽丸が沈んでしまった今、喉から手が出るほど軍艦がほしいとわしはふんじょる。もし、万が一、甲鉄があちらさんに渡ったとした、この戦いどうなるじゃろうなー?」
この言葉で黒田は顔を青くした。すぐさま、海軍司令の元に足を向けたが、海軍は料亭で大騒ぎしている為体。
当時は海軍を率いていたのは、長州藩士だった。
「おまんさたちは、何を呑気にしているか」
黒田が恫喝したのにもかかわらず、長州藩の連中と来たら、危機感ももたずに大騒ぎを続け、黒田にも酒を薦めるありさまだった。
「まぁ、まぁ、黒田さん。そう怒らずともまあ一杯」
へべれけになって黒田に杯を渡し、酒を注ごうとしていた。
「こんなとこで、呑気に酒を飲んでていんですかの?おまんさちちは、アボルタージュって作戦をしらんかの?」
黒田は怒りのせいか杯を叩きつけた。
「なにすっとや!!アボルタージュ?なんじゃそりは!!長州藩をなめるな」
杯を割られ、怒りを込めて長州藩士は怒鳴り方を抜こうとした。
「おまんさら、海軍のくせにアボルタージュもしらんとはおめでたい連中よ。
いいか、耳の穴、かっぽじってよく聞けよ。アポルタージュっていうのは、国際戦略でも認められている戦艦強奪作戦だ。簡単に言えば、だまし討ちなようなものだ。だが、おまさら、榎本を侮るな。あん人は、やる絶対に。その時、船が奪わりもうしたなら、おまさら、どう責任取るとや?」
黒田は、酔っ払って刀を抜こうとしている長州藩士達を睨みつけた。
後日、黒田にどやし付けられた藩士たちは、アボルタージュ作戦を調べてみると、全員が粟をくった。
もし、黒田に指摘されなければ、とんでもないことが起きた事だろう。
甲鉄は奪われ、戦争を長期し、諸外国に付け入れられていただろう。
海軍はすぐさま、アボルタージュ作戦対策を行い、事なきを得たというのがその経緯だった。
そして、この榎本最大の失敗が、新政府軍が、榎本、恐るべしと認識し、蝦夷政府に総攻撃を決行させる要因になってしまったのだった。
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