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真田十勇士

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巻ノ六十六 暗転のはじまりその四

「その通りじゃ」
「では」
「利休殿は腹を切られた」
「左様ですか」
「立派なお最期であられたという」
「武士の様に」
「武士でもあそこまでのものは滅多にないという程な」
 そこまでのというのだ。
「立派な切腹だったという」
「左様ですか」
「残念なことじゃ」
 大谷は幸村に苦い顔で述べた。
「あれだけの方がな」
「はい、確かに」
「それで大政所様もおられなくなる」
「その話もですな」
「事実じゃ、だからな」
「それでは」
「関白様の周りの人が減った」
 以前と比べてというのだ。
「ずっとな、だからな」
「それで、ですか」
「あの方は寂寥なものを感じておられる」
「天下人として」
「まだねね様がおられるが」
 秀吉の正室である、彼がまだ足軽だった頃から寄り添ってきたまさに糟糠の妻である。今も飾らない気さくでおおらかな性格で知られている。
「しかしな」
「北政所様のみですか」
「これまでより遥かに寂しい」
「では」
「これまであの方は寂しさとは無縁じゃった」
 秀長がいて母親がいてだ。
「それが随分あの方の支えとなっていたが」
「それが、ですな」
「なくなった、それがどうなるか」
「そう思うとですか」
「危うい、果たしてどうなるか」
「心配ですか」
「わしはな」
 幸村に難しい顔で言うのだった、そして。 
 そのうえでだ、幸村にこうも言ったのだった。
「これからもあの方を支える」
「そうされますか」
「それが天下の為、あの方の為になるからな」
「だからこそ」
「わしはそうする、何もなかったわしをここまで引き立たてくれた方じゃ」
 大谷自身をというのだ。
「大名までな、ならばな」
「関白様に最後までですか」
「尽くす、そして佐吉もだ」
 石田に対してもというのだ。
「あ奴にもそうする」
「治部殿も助けられますか」
「うむ」
 まさにというのだ。
「そうする」
「あの方とは」
「あ奴はわしとはずっと共にいた」
 それこそお互いに小僧だった時からだ、共に秀吉に拾われそのうえで共に育ってきたのである。それが二人の仲なのだ。
「だからな」
「あの方も支えますか」
「そうする」
 まさにというのだ。
「これからもな」
「そうされますか」
「さもないとじゃ」
「武士として」
「それ以上に人としてな」
 まさにというのだ。 
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