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STARDUST∮FLAMEHAZE

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第三部 ZODIAC CRUSADERS
CHAPTER#24
  METEOR STORMⅢ ~Another Heaven~

【1】


「う、ぬうう!!」
 近距離パワー型スタンドの熟練者(エキスパート)
戦闘経験に於いても他と一線を画すポルナレフが苦戦を強いられていた。
 相手はパワーの劣る遠隔操作型でありながら、勢いと手数が半端ではない。
 その原因が闘争心と共に人間の潜在力を引き出す能力 『サバイバー』 と
パワーを集束させスタンドに高速自律機動を促す技術 “タンデム・アタック” に
有るコトは明白であったが、何よりその裡に秘められた 「想い」 こそが
凄まじい原動力と成っていた。
「うおっ!?」
 視線の上端が捉える彼方からの光。
 無意識的に着弾機動を見切りスタンドで躱す。
 甲冑を脱ぎ去った 『銀 の 戦 車(シルバー・チャリオッツ)
防御力が著しく低下するがその代償としてスピードと精密性が格段に向上し、
ソレはポルナレフ本人の技量と合わさって四次元的な動作を可能せしめる。
 しかし圧倒的に優位な立場に有る筈の彼がこの場合は押されていた。
 相手が年端もいかない少女というのもあるが、
防御も無視し捨て身で突っ込んでくるスタンドに
気圧されたと言っても良い。
 スタンドバトルはその能力、技術、知略を含む複合型の異能闘争だが
やはり最も重きが置かれるのは互いの精神力。
 己も残酷な 『運命(さだめ)』 の中、
一人苦難の道を歩む事を決意した “復讐者”
ソレ故にポルナレフは血を噴き搾るようにして
猛攻を仕掛けてくるスタンドに、
自分の影と対峙しているような錯覚を覚えた。
「だあぁぁッッ!!」
(さい)ッッ!!」
 一方、ソレとは対照的な熾烈なる肉弾戦が
15メートル先のフロアで激突していた。
 神経パルスに取り憑く電気信号のスタンドにより
最早理性と呼べるモノは存在せず、
ただ視界に入る動く者を絶命させる為に攻撃していると云って良い。
 通常、自在法で具現化したリボンによる戦術を得意とするヴィルヘルミナだが、
今そのリボンはバンテージのように両拳に巻き付けてあるだけで
他の繰儀(そうぎ)を遣う様子はない。
 コレは直接打撃の方が威力が高い事、
生み出した幾条ものリボンを操るには
高い集中力を要する事が上げられるが、
実際にそこまでの思慮が今の彼女にあるかは疑問、
ただ生身で相手を打突する感触、肉の歪む音、骨の軋む響を
より強く実感したい為だと推察される。
 巻き付けた白帯を、刃状に変質させなかったのは
戦士の本能(ほこり)と云った処か。
 何れにしても己が生き残るため、
その()一つで殺し合うという原初的な戦闘光景。
 苛烈凄絶極まるが、ソレ故に二匹の雌豹が咬み合って(もつ)れるような
美しさを醸し出す。
 淑女の左拳昇打が少女の側頭を掠めた、反撃の右裸拳が脇腹に突き刺さる、
剥き出しの白膝(はくたい)が下顎を跳ね上げた、返しの靴裏が後ろ廻しで胸部に炸裂する。
 最早スタンド戦とも討滅戦とも異なる、熱き乙女のブツかり合い。
 身体能力では無論フレイムヘイズであるヴィルヘルミナが勝るが、
アイリスはスタンドの操作練度と持続時間でソレに拮抗する。
 両者一進一退、純血繁吹き白肌罅入るほどのダメージで有ったが
ソレでも殺戮の舞いは無尽に加速する。
 軸足が大理石の床をドリルのように削って放たれた廻し蹴りが
熱い空圧と共に弾けた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「ふぅ、ふぅ、ふぅぅ」
 再び間合いを取り、乱れた呼気を整える、
その間に相手が飛び掛かってくる警戒は怠らず。
 打撲傷と擦過傷、その他創傷裂傷と数え切れないほど刻まれ、
纏った衣服も大分綻びてきたが裡から湧き出る戦意は留まる事を知らなかった。
 骨という骨がバラバラに砕かれ、臓腑という臓腑がグシャグシャに潰され、
その亡骸が葬られた後も、棺の中から這いずり出して闘う事が出来そうだった。
 それほどに、ソレほどまでに、人間の破壊本能というモノは怖ろしい、
自らの種を滅ぼし、最愛の者を手に掛けてもまだ足らぬと云う程に。
 話を戻そう、互角と想われた乙女の攻防だったが、
この時点で一方が優勢と成っている。
 歴戦の経験、勝負の駆け引き、身体的な総力ではヴィルヘルミナに軍配が上がるが、
しかし一瞬の気の緩みが即死に繋がる戦いの中では、薄氷の有位と断じざる負えない。
 先刻までの攻防は全て距離を置いての打撃戦、
凄まじいモノでは有ったが両者共に一度も
「組み技」 は使っていない。
 コレは、互いにその優劣を理解した上で意図的に行ったコト。
 無論ヴィルヘルミナにその心得が無いワケではない。
(寧ろその美貌故に必須の備えとも言える)
しかし彼女、アイリスには地球外から自在に隕石を堕とすコトの出来るスタンド、
『プラネット・ウェイブス』 があるのだ。
 通常の落下でも動き回っていなければ躱すのは危ういのに、
膠着状態でほぼ横の動きが無くなる
組 み 技(グラップリング)」 の攻防となれば、
勝敗は火を見るより明らかである。
『プラネット・ウェイブス』 が神の門より召喚する火球は、
「本体」 である彼女には決して当たらないのだから。
「……」
 不敵な笑みを浮かべる少女は当然この事を理解している、
先刻までの打撃攻防は相手の眼を慣らさないため、
プラス若さ故の遊興(あそび)といった所だろう。  
「……」
 類焼する残り火とは別に、差し迫る脅威がジリジリと心中を焦がす。
 相手の挙動から一時でも眼を離せないため、
額に浮かんだ雫が流れ落ちるのをヴィルヘルミナは気づかなかった。
「――ッ! し、」
 反射的に片目を閉じた所に、ダン! と強烈な踏みつけが足下を揺らす。
 しかしコレはフェイント、連られて前に出そうになる躰を懸命に押し止める。
視界の先で、残像を映す体捌きで少女は標的の補足を困難にする。
 なれば虚実全てに対応すべしとヴィルヘルミナも俊足を掻き鳴らす、
しかし真正面から飛んできたのは、
「くっ!」
有り得ない回転軌道で胸中を逼迫する革張りのソファー。
 丈の短いスカート(そう言えばどうしてこんなに短いのだろう?)
淑女にあるまじき振る舞いだが思考する暇もなく直上への踵蹴りで 
鋼の凶器と化した長椅子を天井にメリ込ませる。
 しかしソレは布石、その影から同時投擲されていたテーブルや鉢植え、
装飾品のオブジェ他が矢のように殺到する。  
 コレを両の手の捌きだけで迎撃するヴィルヘルミナ、
彼女が攻撃より 「守り」 を得意とするコトは以前述べたが
リボンを用いるよりも己が()を以て成す(わざ)の方がその練度は顕著。
 しかし鉄壁と云えど防御に固執するのもまた(あた)わず、
追撃を躱しつつ体幹を乱さない高速バク転で背後に逃れる。
 充分な距離を取った後ダメ押しのようにサイドにステップを捻った瞬間、
「――ッ!?」
腹部に強烈な衝撃が側面から飛び込んできた。
 打撃によるそれではなく、その後も相手の質量と体温が躰にまとわりついてくる。
 細い腰に廻された両腕は拘束具のように結合(クラッチ)され
万力のように締め付けてきた。
 コト結果に至って、ヴィルヘルミナはその過程を完璧に類推、
無数の投擲物を暗幕に少女は頭上へと飛び上がり反転、
天井、壁面と鋭角軌道を描き自分に組み付いてきた。
 比較的シンプルな戦略だが、相手のスピードが並外れており
しかも着地を取られれば “解っていても” 抗しきれるものではない。 
 咄嗟に出た肘打ちを相手の後頭部や首、背中に降らすが不自然な体勢、
そして脚が大地を噛んでいなければ充分な威力は生み出せない。
逆に相手の肘先は自分の 「水月(みぞおち)」 に、このまま急速落下の衝撃に加え
全体重を掛け抉り込まれたら脾臓(ひぞう)が破裂する。
「くぅ――!」
 最早組み伏されるコトは避け得ないと覚った淑女は、
当座の危機を脱するべく細く長い脚線を通常の可動域を遙かに超えた旋回にて
ミュールの爪先を少女の頸椎(けいつい)に突き込んだ。
「あぐぅっ!」
 苦悶の表情と共に肘先は弛んだが、
躰の拘束は服を掴まれているので抜け出せない。
 衣服諸共引き千切っての脱出、
しかし窮地の一撃の後その(いとま) がある筈もなく
罅だらけの大理石に二つの躰が着弾した。
 戦形(カタチ)としては馬乗りに近い圧倒的に不利な状態だったため
即座に防御体勢へと移行しなければならなかったが、
二人分の体重をその華奢な()でモロに被ったため
生理的に吐き出される呼気を留める事は如何に歴戦の淑女と雖も不可能。
 その一瞬の(まにま) に少女はスニーカーの爪先で罅割れたフロアを踏み切り、
躰を反転させながら淑女の背後へと即座に位 置(ポジション)を移行、
柔らかな大腿部が生身の両 腋(りょうわき)から高速で入り込んでガッキリと交差、
細い首筋に絡んだ裸締めは辛うじて左腕を挟みガードしたが
完璧に()まっていなくとも淑女の躰は完全に大地へと縫い止められた。
「あぁ! くぅっ!」
 喘ぐように漏れる苦悶、
肘、肩、首と三点が連結して極まっている為
藻掻けば藻掻くほど関節が軋み骨格が悲鳴を上げる。
 ミュールで床を擦り懸命に躰を(ひね)っても拘束は外れない、
耳元で感じる吐息とは裏腹に
半身をもがれるような苦悶が間断なく頭蓋を搾った。
「完全に 『LOCK(ロック)』 したわ! 
残念だけどコレでGAME OVER(オ ワ リ)ねッ!
ラヴァーズのお姉さん!」
 顔は見えないが嗜虐的な熱に浮かされた声で、
誰よりも近くで少女が告げる。
 まるで、抵抗できない、殆ど、微動だにも出来ない。
 両脚は踵で膝蓋骨(しつがいこつ)ごと床に押し付けられ、
左腕は頭の上で逆くの字に折り曲げられているため意味を成さない。
 残る、は。
「はあぁッ!」
 だらりと下がった拳を固め、気配のみで巻撃を繰り出すが、
「おっと」
余裕満面の少女が手首を一捻り、途端に灼けた鉄棒が
皮膚を突き破って後方へと貫通したような激痛が左肩を劈く。
「あぁ! うぅ!! ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」
 惨苦と甘美が入り交じったように聴こえる、淑女の悲愴。
 小刻みに震える右手が力無く地に落ちる。
「あらあら、可哀想に。大人しくしないで暴れようとするから」
 レンズ越しに眼を細め、子供をあやすように少女は優しく告げる。
「コレはね、 『デッド・ロック』 って言って、
元は手に負えない囚人や異常者を屈服させるために使う技術(ワザ)なの。
一見右手が自由に見えるけど、こーやって左関節を捻れば痛みで右肩も死ぬって寸法よ。
捻る動作が回避にも直結してるから無理に当てようとしても届かないしね。
どう? アタシの言うことが解ったらもう 『覚悟』 を決めて大人しくしなさい。
『覚悟は幸福』 よ? フフフ……」
 ちなみに、この拘束術には一つだけ弱点があり、
ソレは両手が塞がって無防備になっている
下半身の 「急所」 を握り潰すコトなのだが、
その相手が少女では全く意味を成さない
(ヴィルヘルミナが実行するかどうかは疑問だが) 
「さぁ~て、お待ちかねのお星様がヤってきたわ。
最後のお願い、精一杯祈るのね? 最も、叶わないんだケド」
 穿孔から封絶の先まで見通せる細い視界、
破壊痕とソコへ全く同じ軌道で落下してくる二つのキラメキが在った。
「カワイソーだけど、このキレイな顔と柔らかい胸、
両方に隕石をブチ込ませて貰うわ。
フレイムヘイズっていっても元は人間、
脳と心臓が同時に破壊されたら流石に死ぬでしょ」
 そう言って少女は手の甲でヴィルヘルミナの頬を撫ぜ、
形の良い胸下の曲線を肘で押す。
 もうこうなっては他にどうしようもない、完全封殺状態。
 強いて打開策を挙げるなら、リボンを細い “糸状” に変化させ
鼓膜を破るなり頭蓋を掻き回すなりするべきだが
彼女にそのような 「能力」 はない(それ以前に今はリボン自体が出せない)
「――ッ!」
 窮地に於ける生還の模索、淑女がポルナレフを見たのは意識か無意識か、
しかしその彼も今一方的にスタンドの攻撃を喰らっており、手助けは出来ない。
(オワ、リ?)
 破壊痕から大気の摩擦で赤熱する二つの岩塊(カタマリ)を見据えるのは、
意外にも絶対的な死を前にしてソレを冷静に認識している自分の姿だった。
 彼女にとって未知の領域であるスタンドバトル、
昨日より何度もその脅威を目の当たりにし、
死線の境界を彷徨った事により感覚が麻痺していたと云っても良い。
 何しろ、今までの戦闘定跡が何の役にも立たない、
「初見」 では対応出来ない能力ばかりだったのだから
(大気圏外から隕石を落下させる異能など誰が想像出来る?)
 それ故に半ば冗談のような気持ち、
現実感を喪失していた彼女を誰も責められない、
良くも悪くもフレイムヘイズである時間が長過ぎ、
そのコトに純化し過ぎていたのだから。
 しか、し。
(――ッ!?)
 ふと、透明な雫が頬を伝った。
 ヴィルヘルミナ自身、予想だにし得ない感情の動きだった。
(どうして、泣いてるの? 私、どうして?)
 頭蓋と臓腑を焼き尽くす、灼熱の岩塊(カタマリ)がすぐ傍にまで迫っている、
にもかかわらず胸中には冷たい風が吹き続けた。
(コワイ? カナシイ? ムナシイ?)
 否、違う、コレは、きっと。
  



“サミシイ”


 

 逃れられない破局を目の前に、浮かんだ言葉が心奥で実感となった。
 使命を果たせない事、倒すべき敵に敗れる事、その何れでもない、
ただ、 “皆” と離ればなれになる事が、堪らなく淋しかった。
“あの時” と “アノ時” と同じだから、愛されていなくても、
その瞳に映っていなくても、自分は愛していたから、愛したかったから。
 脳裡に、出逢って間もない者達の姿が浮かんだ。
 不思議と心が安らぐと同時に、強く締め付けられた。
 真実(ほんとう)の自分は、幼い頃からずっと、
たった独りで泣いていたのだった。 
 双眸に焼き付く、紅蓮の岩塊。
 差し迫る、終局の時。
 でも、やはり。
「……」
 大きな影が、視界を覆い尽くした。
 青い瞳、銀色の髪、 “アイツ” とは似ても似つかない、
滑稽にも視える必死の形相。
 それでも、その “騎士” は来てくれた。
 自分が窮地の時、参じてくれた。
 ソレがもう、当たり前と想えるほどに。
「ぐ、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
ぉぉぉぉぉ――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!」
 全身を苛む苦痛、しかし如何なる試練にも屈しない咆哮を騎士は挙げた。
 遠間に、虚ろな能面ながらも驚きの色を示すスタンド。
 先の先を撃たれ劣勢に陥っていた状況を、そのまま逆に利用する機転。
 ワザと殴られその勢いを利用し、無警戒(ノーマーク)のまま
ヴィルヘルミナの方へと高速でフッ飛ばされた。
 そして、先刻までの情報を(つぶさ) に総合して生み出した(すべ)
少女が脱ぎ捨てた上着(パーカー)を滞空中にスタンドの剣先で引っかけて調達し、
ソレを背に纏ってヴィルヘルミナに覆い被さった。
「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!! があああああああああああああぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!」
 淑女の目下数十㎝の至近距離で、
岩盤にチェーンソーを接触させたような火花が飛び散り、血煙が舞う。
「本体」 の身につけていた着衣故に、
そのスタンド法則に拠って直撃してはいるが
威力は大幅に削減され貫通には至らないようだ。
 その躯を張った、命すら賭けた男の選択に、
少女、淑女共に言葉もない。
 幾ら 「理屈」 で解っているとはいえ、
脱ぎ去った相手の衣服がスタンド効果を無くす、
“その絶対の根拠などどこにも無いのだから” 
「プラネット・ウェイブス!! 何ヤってるの!! 
隕石でも拳でもいいからとっととこの男を殺しなさい!!
アタシは今からこの女の首をへし折るからッッ!!」
 主の命令は絶対、能面の如きスタンドは
隕石は時間がかかると判断したのか
直接打撃でポルナレフを仕留めるべく床を蹴る。
 しかし。
「おっとッッ!!」
 それは既に読んでいたポルナレフが両腕を広げたスタンドを操作し、
サーベルの剣針を超高速で射出する。
 攻撃体勢のみを執っていた相手方のスタンドは、
回避も防御も間に合わず木偶(デク)のようにその剣針を大腿に喰らい
中間距離に縫い止められた。
「あ、ぐぅ!!」
 法則により少女の躰にも同様のダメージが浮かび、
繁吹く鮮血と共に右脚は自由を失う。
(絞めが弛んだ!!)
 絶対絶命からの生還、この千載一遇の好機を逃すヴィルヘルミナではない。
 拘束の外れた右脚を大きく伸ばし、スカートの開きなど関係なく
回転蹴りの要領で少女の頭部に下腿(かたい)を叩きつける。
 衝撃の震盪(しんとう)で前のめりに崩れ去る少女、
しかしその戦意は衰えるどころか更に燃え上がり
スタンドごと片足を引き千切っても厭わないという覚悟で淑女を睨む。
(そんなに、躰が熱いなら……!)
 対するヴィルヘルミナも噴き上げる闘志に身を焼かれながら、
「あぁ!! ううぅッッ!!」
少女以上覚悟を瞳に宿しポルナレフの纏った上着を “隕石ごと” 包み込んで、
(一生、燃えているが良いでありますッッ!!)
渾心の叫びと共に素肌を灼かれながら
火球入りのパーカーを少女の顔面に撃ち放った。
「なぁッ!? 隕石の入った上着をアタシの方へ! 
勢いそのままに軌道を逸らした!!」
 戦技無双の叛 撃(カウンター)を視れば解る通り、
ヴィルヘルミナにとって力の方向(ベクトル)()えるコトは常用技、
というより寧ろ 「特技」
 技が躰に沁み付いている為どんな状況にでも対応できる。
 しかしこの場合、無理してその戦技を放たずとも打撃のみで事足りただろうが、
敢えて彼女はソレを実行した。
 彼が躯を張って救ってくれた分、自分も傷つきたかった。
 その心は、多少形を変えたにしろ一人の少女に受け継がれ、現在に至る。
 時に冷徹無情、仮面のような風貌故に感情に欠落が有るのではないかと
想わせる彼女であるが、フレイムヘイズ以前、
古の王女ヴィルヘルミナ・カルメルとはそういう女性(おんな)であった。
「うぅ!! ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!
火が!! 火が消えないッッ!! “アタシの服越しに” 燃えてるから!!
隕石の高熱が無効化されない!!」
 燃え盛る衣に首から上を包まれて、
スタンド使いの少女は初めて悲鳴を発した。
 瞬発的な思考でもどうすれば良いか解らない、
何の対策も浮かばない状況が困惑に拍車を掛けた。
「服は、隕石が命中した時から燃え始めた。
しかし、“すたんど” を無効化する能力も働いているから、
簡単には燃え尽きないのであります。
何事も、 『中途半端』 が最も 「害」 を及ぼすモノ。
先送りの業火は、呼吸もままならなくなるようでありますな?」 
 するりと立ち上がり、冷然とした口調で告げる淑女。
 スタンド 『サバイバー』 の能力に拠り
肉体の治癒力は向上()がっているが、
「呼吸活動」 にソレは関係ない。
「よくも、このアタシにッ! フレイムヘイズなんかが!!
よくもこんなああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――!!!!!!!!!!!!」
 己の危急以上に、崇高なる使命を侮辱されたと感じた少女。
 脚の傷口が開くのも構わず、上半身を炎に包まれたまま
捨て身の一撃をヴィルヘルミナに見舞う。
 しかし。
「 “桜 蓮 漆 拾 陸 式 麗 滅 焔 儀(セイクリッド・ヴァレンタイン・ブレイズ)” 」
 苦し紛れの攻撃では淑女の残像にすら掠りもせず、
回り込まれた背後で静かな告別が囁かれる。
 疾風絶迅。空逆の旋撃。
四 精 霊 の 幻 想 曲(エレメンタル・アラベスク)風 乙 女(シルフィード)ッッッッ!!!!』
流式者名-ヴィルヘルミナ・カルメル
破壊力-A+++ スピード-A+++ 射程距離-B(最大30メートル)
持続力-A+++ 精密動作性-D 成長性-C




 背後を取った少女の両腕を交差させて逆に極め、
上空へと高速旋回投擲すると同時に骨を断つ、
本来リボンを関節に絡め相手の四肢を砕身する業だが、
肉体で直接放った方がその威力は顕著。
 その名が示す通り、無数の風乙女(せいれい)に空へと誘引(いざな) われ、昇天するが如く。
 そして掛かる旋風の遠心重力に拠り、
反撃も受け身も封じられ攪拌されながら墜ちてくる
無防備の頭蓋後方に向けて、
「終わり、でありますッッ!!」
稲 光(いなびかり)の如き廻し蹴りが微塵の容赦もなく叩き込まれた。





 グアッッッッッッッシャアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァ
――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!




 先刻少女がメチャクチャにした中央ホール。
 逆さなったマーライオンが突き立つ瓦礫の山へ、
地面と平行に超高速錐揉み状態で飛ばされたアイリスの躰は
無情に着弾した。
 意識は完全に吹っ飛び一瞬ではあるが心肺が停止し、
愛用の眼鏡は粉々に括った髪も(ほつ)れ、
白一色となった双眸が虚ろに空を仰ぐ。
「はぁ、はぁ、ふうぅ……!」
 激戦の決着、その残火が消える事なく裡で燻った。
 流石に、死中の一点に全精力を搾り尽くしたため
その疲労は極みに達していた。
「……コレ、は?」
 意図せず片膝を付いた傍らに、七色に煌めく円盤が転がっている。
 いまいち記憶が曖昧だが、止めの蹴りを直撃させた瞬間、
少女の頭から抜き出たモノのようだ。
「……」
 DISCを手に取り周囲を見渡す淑女。
 未曾有の災害に見舞われたような、
壊滅的打撃を受けたホテルの惨状。
 ソレを一人の少女が、こんな薄っぺらなDISC(円盤)一枚が引き起こしたというのか。
 素質のあるフレイムヘイズでも、
ここまでの破壊力を有するには長い修練と経験が必要。 
 そして真に恐るべきは、このDISCが有る限り
同じような 『能力者』 がまた生まれるというコトであり、
そのような途轍もない能力を自由に操れる男が存在するというコトだ。 
 未だ去らない、否、更に増大した脅威に
淑女はDISCへ力を込めるが、中程まで(たわ)んだ所で止める。
 表面には亀裂一つ生まれず、
硬質なのにゴムのような柔軟性を以て元に戻った。
迂闊(うかつ)に、破壊したり棄却したりしない方が良いようであります。
まずはマスターの意見を仰ぎ、その上で処分を」
「妥当」
 それまで黙っていたティアマトーが (元々口数は少ないが)
いつもよりやや籠もった声で応じた。
「さて――」
「不承」
 放っておくわけにもいかないので、
淑女はミュールの踵を鳴らしながら
荒れた石面に仰向けで倒れる青年の傍に向かう。
 途中、リボンを伸ばし 『サバイバー』 のDISCも従業員の頭から回収した。
「……気分は、どうでありますか?」
 躯の、至る所に火傷が生じたズタボロの姿、
その度合いはかなり深く場所によっては皮膚が炭化している部分も有る。
 無論、それに伴う出血、肉体の疲弊は自分の比ではなく
おそらく今は立ち上がるコトも出来ないのだろう。
 どうしてそこまで、自分が受ける筈の傷を彼が、
青年に取っては当然の行為を理外の淑女は瞳を細めて見据えた。
「ん……あぁ~、終わったか、お互い無事で何よりだ」
 ベッドでうたたねでもしていたように、
銀髪の騎士は閉じていた双眸を開く。
 実際、本当に意識が飛んでいたのかもしれない、
それほど彼の受けたダメージは痛々しかった。
「立てない、のでありますか?」
「ハハ、我ながら、少々無茶し過ぎたようだ。
命があっただけ物種だな。
昔から、頭に血が上ると身体の方が先に動いてだな」
 小用でも失敗したように、軽やかな口調で彼は語る。
 もっと、責めてくれても良いのに、
“アイツ” だって、何も言ってくれなかったのに。
 重なるはずのない存在が胸中に並存し、過去と現在が明確に意識された。
「まぁ、そういうわけだ。 すまぬがこれ以上力になれん。
この先は君の足手まといにしかならぬだろう。 行ってくれ。
なんとか這う事くらいはできそうだから、 敵にみつからぬよう身を隠してみる」
「……」
 何の見返りも求めず、感謝の言葉すら要求せず、
“既に終わった事” として青年は澄んだ視線を向けた。
 何だか、過去にずっと拘っている自分が
すごく子供染みているように想えた。
 昔の自分なら、あぁそうかという言葉も出さず
平然と次なる戦いに向かっていただろう。
 それが一番合理的であるし、
情に流され戦力を目減りさせるのは馬鹿げているから。
 そう、一笑に付する事すらせず、立ち去っていたに違いない。
“昨日までの自分なら” 
「……アナタが立ち上がれるまで、傍にいましょう。
傷の手当てもしなければ、今後に差し支えるのであります」
 細めた視線のまま、ヴィルヘルミナはそう告げた。
 こんな時、どんな顔をすればいいのか解らない。
 微笑めばいいのか、憂えばいいのか、
誰も、誰も教えてくれなかった。
 だからせめて、心だけは素直でいようと想った。
 自分の為に血を流してくれた、勇敢で誇り高き騎士を、
ただ労ってあげたかった。
「あちこち破壊されてはおりますが、
救急の用具を探してくるのであります。
しばしお待ちを」
「え!? あぁ!! ちょっ、待って!!」
「?」
 急に重みをなくしたポルナレフの口調に、
踵を戻したヴィルヘルミナは膝を曲げて屈み込む。
「どうしたので、ありますか? 
眩暈、吐き気、悪寒などがするのでありますか?」
 重度の出血、臓器に損傷などが有る場合、上記の症状が現れる場合が多い。
「う、うおっ!? うおおおおおぉぉぉぉぉ!!」
 体温を確かめるべく額に手を当てたヴィルヘルミナの素肌は、
急激に膨れあがる異常な高熱を感知した。
「て、 『天国』 が……いま、此処に、生きてて、良かった……ッ!」
 紅潮した顔に何故か涙を滲ませ、
感慨無量に身を震わせながらポルナレフは拳をグッと握る。
 甚大なるダメージの影響で意識が混濁、幻覚の症状が出ているのか?
 それにしては眼球の動きは確かで視点も彷徨わず一点を凝視…………
「――ッッ!!」
 咄嗟に立ち上がったヴィルヘルミナは、
履き慣れない短いスカートを最速で押さえた。
 バレた、とシルクの紐というまるで関連のない言葉が脳内でシャッフルされ、
もう無駄なのにスタンド使いの本能か必死の自己弁護を試みる。
「イ、イヤ! 違う! 偶然ッ! 不可抗力だ!! 
角度的に眼に入っちまって、
後はミロのヴィーナスを視るように心が奪わぐげおぁッッ!!」
 とある格闘技に於いては最強と云われる、
下段の踏み付け蹴りが情け容赦なく胸元に撃ち落とされた。
 先刻までのスタンドにも劣らない、直下型の質量衝突。
 しかもソレは地球創成時の流星嵐のように、
次から次へと撃ち落とされる。
「う、うおおおおぉぉぉ!! ヤ、ヤベェ!! 
死ぬ!! 死ぬ!! マジで!!」
「本当に!! 一遍(いっぺん)!! 死んだ方が良いのであります!!
亀にでも生まれ変わって出直すのでありますッッ!!」
「断・頭!!」   
 スタンド 『サバイバー』 の余波というのでもなかろうが、
古の王女、その壮絶な仕置きは、
白銀の騎士が物言わぬ(かばね) と化すまで続けられた。
 現世と紅世、双方の世界が互いに絡み合う一大総力戦。
 その一端が、いまようやくここに終結した。





 アイリス・ウィンスレット
→両腕完全骨折。DISC流失。再起不能。

 ヴィルヘルミナ・カルメル
→仕置きの後、仕方がないのでソレを介抱。
献身的な看護で一命を取り留める。

 J・P・ポルナレフ
→現在生と死の狭間を浮遊中。
しかし眼が醒めるまでヴィルヘルミナに
膝枕してもらってたので、その点はうらやましいヤツ。     

 ←TOBE CONTINUED……



 
 

 
後書き
はいどうもこんにちは。
特に理由はないのですガ、なんとなく「気が乗らねぇ・・・・('A`)」との
理由だけで更新がまちまちになってる作者です。
(ハッ!? コレはまさかアノ「(冨樫)病」の前兆!?)

今回は生身の格闘戦が描けたので個人的には好きな回ですネ。
夢枕 獏サンの作品とか結構好きなので。
(しかしアレはプロレ○を強くし過ぎだな・・・・('A`))
まぁ女の子 (同士) が戦う話は殆ど読まないンですケドね。
(強いて言うなら「(ほむら)の眼」と「くノ一魔宝伝」くらいか・・・・)
流石に格闘技に興味が有って、多少なりとも齧ったコトがあるので
半端なヤツがいい加減な気持ちで (戦いの世界に) 首突っ込んでくると
ガチで○したくなるのかもしれません。
(せめて手の皮がズル剥けるくらい素振りするか、
一日5000回ワンツー振ってから来いや・・・・('A`)
シ○ルイの源之助に謝れッ!><)
ソレでは。ノシ 
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