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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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人形-マリオネット-part4/復活のファウスト

ダークファウスト。
ウルトラマンと酷似した姿を持つ、黒い巨人の一体。
奴はこれまでラグドリアン湖でサイトたちの前に姿を現したのを皮切りに、このハルケギニアであらゆる悪事を繰り返してきた。時に可燃性の花粉を体に溜め込んだ一種の爆弾同然の怪獣を街に連れ込んでウルトラマンに倒させることで町を爆破させたり、タルブ村では怪獣軍団と共にウルトラマンやトリステイン軍を襲って恐怖を与えたり、ウルトラマンたちに直接仕掛けに入ってくるなど、サイトたちを散々苦しめてきた。
卑劣さもさることながらだが、戦士としての力も敵ながら侮れない強さを誇る。だがそれでもサイトにとってファウストやメフィストの存在は許されることではなかった。なぜなら彼にとってウルトラマンとは、自分や数多の地球人たちにとって何度感謝してもし足りないほどの大恩人であり、サイト自身も個人として彼らの助けを受けた身でもある。だからウルトラマンそのものといえる姿で、人間たちに仇なす奴らのことが許せなかった。

だけど…

そのファウストの正体が……

「嘘だ…ハルナが…そんなはずが…!!」
今目の前で起きた現実に対し、サイトは頑なに拒否するように声を荒げた。
じゃあ、俺たちは…タルブ村で再開したと思ったら、実はあのラグドリアン湖ですでに再開を話しており、その正体をまるで悟ることがないまま戦いあっていたというのか!
そんな彼女に、ファウストはあざ笑うように言った。ハルナの声と、武人のような野太い声を重ねた声で。
「嘘だといったらこの現実が変わると思っていたのかい?だったら何度でも言って見ればいい。どんなに願っても、どこかの幸せな童話のように、かかとを三回鳴らしたって元の世界に戻れない」
「ぐ…!!」
『くそ、ウルトラマンゼロ一生の不覚だぜ!ファウストがハルナの正体だったとは…』
ずっと倒さなければならないと思っていた敵の一人が、まさか自分たちのすぐ傍に身を置いていたとは。サイトだけでなく、ゼロも気づけなかった自分の未熟さを痛感した。
「ハルナは…ハルナはどうなるんだよ!」
少なくとも、彼女は地球にいた頃はファウストじゃなかった。つまり最初から騙していたというわけではない。だが、それでも今こうしてハルナが敵として自分の前にいる。なら、もしかしたらハルナは自分の意思ではなく、何者かに操られていると考える。そう思い…いや、そう信じたいサイトはファウストに尋ねた。
すると、済まし声でファウストはサイトに答える。
「もうすぐ消えてなくなるだろうさ。別にどうなっても、お前にとってはどうでもいいことだろう?
お前は…地球に帰ることよりも、この醜く弱く、守る価値もない世界で生きることを選んだのだから。そうだろ、高潔な正義の味方…ウルトラマンさん?」
「ッ…!」
いつまでぼけたことを言うのだといわんばかりに、サイトは懐からウルトラゼロアイを取り出す。しかし…
「ひ、平賀君…私に刃を向けるの…?」
「ッ!」
すかさずファウストが放ってきた、ハルナの声を聞いて、サイトは手を止めた。
「ふん…馬鹿が!!!」
それを見た途端、ファウストは隙を見せたサイトの腹に蹴りを入れてきた。
「ぐは…ッ!!」
深く入り込んだ蹴りを食らい、サイトは腹を押さえながらうずくまる。
「これから、あの方のためにあたしはひと働きさせてもらう。あたしを殺せないのなら、邪魔をしないでそこの観客席からこれから起こることでも鑑賞するんだね」
「や、やめろ!!」
手を伸ばすサイトだが、ファウストは耳を貸すことはなかった。黒いオーラに身を包み、彼女は劇場から一瞬で姿を消した。
「くそ…!!」
サイトは舞台の上で膝を突き、床を殴りつけた。
ファウストが卑劣にもハルナを演じてこちらの心に揺さぶりをかけてきて、そのせいで自分は手を出すことさえもできなかった。
外で、ドスン!という音が鳴り響く。サイトはすぐに劇場の外に出てその様子を確認する。
以前から幾度も目にした、ファウストの恐ろしい姿がトリスタニアの中心に立っていた。
「ハルナ…!」


ファウストの出現に伴い、王宮内でもパニックが起きていた。これまでファウストに苦しめられてきたトリステイン貴族たちは、この王都で再び自分たちの前に姿を現した黒い巨人に恐怖した。
「く、黒いウルトラマンだ…!」
「う、うわあああああああ!!」
トリステインを守るために先ほどまで重大な会談を行っていたというのに、彼らは一瞬で逃げ腰姿勢に切り替わった。会議室の窓から見える景色から逃げるように、一部の貴族たちが会議室から逃げ出す。
「待て!逃げるのか臆病者め!」
当然、最後まで戦うことを尊ぶ武人らしい気骨を持つ軍人からすれば、このような臆病な姿は許せるはずがない。
「いえ、逃げる者は放っておきなさい!動ける者は直ちに民の安全を優先に動きなさい!」
逃亡者たちに憤るド・ポワチエをはじめとした軍人たちに対し、アンリエッタがすぐに命令を下す。
「う、うぅ…」
最初は恐怖で逃げようとも思っていたのは、UFZのメンバーにも一人ほどいた。マリコルヌである。ただでさえ根性のない彼はファウスト出現と同時に本能的に逃げようとしていたが、さっきのド・ポワチエの剣幕を聞いて尻込みし、逃げようにも逃げられなくなった。
「姫様!ここはお逃げを!黒い巨人はここを狙ってくる可能性があります!」
ルイズがアンリエッタに避難を勧めるが、彼女は首を横に振った。
「いえ、私はここで民や城の者たちの避難が完了するまで残ります」
「待ってください!最後のお一人まで残るおつもりですか!危険です!この城はあの黒い巨人の格好の的ですよ!」
レイナールがやめた方がいいと警告するが、アンリエッタはてこでも折れる様子はなかった。
「臆病な女王では他の者たちに示しが付きません。
それよりも、あなた方も地上に出てサイトさんを探しに行ってください」
「サイト…!」
そうだ、サイトは今ハルナを探しに行っている頃だ。万が一待ちに出向いていたりしたら、ファウストの餌食にされてしまう危険性が高い。サイトの名を聞いてルイズはすぐに彼を助けに向かわねばと思った。だが…アンリエッタのことも心配だ。彼女がサイトを探しに行くように命じたとはいえ、ファウストに対抗できるだけの力を持つ誰かがいないことには…。
「ここは僕の怪獣で食い止めさせる」
いや、この男がいた。怪獣を使役できるロマリアの若き神官、ジュリオだ。
「ジュリオ…!」
ジュリオは窓を開けると、懐から取り出したネオバトルナイザーを掲げる。
「ゴモラ、行け!」

【バトルナイザー、モンスロード!】

金色のカードがリードされて外へ射出、地上に降り立つと同時に、『古代怪獣ゴモラ』の姿となる。
「キシャアアアアアアア!!!」
獣の方向を揚げるゴモラの出現に、ファウストは振り向く。ファウストに向けて、ゴモラは突進した。
今のうちに…そう呟きながらジュリオはさらにもう一体の怪獣『原始怪鳥リトラ』を召喚する。その背に自分も乗ると、城の中にいるルイズたちにも手招きしてくる。
「さあ、リトラの背においで。サイト君ならさっき街の方へ向かったのを見かけた。こっちから行った方が早い」
「サイト、やっぱり街の方にいるのね?」
ならば善は急げ、だ。ルイズは迷わずリトラの背に飛び乗る。
「る、ルイズ!危ないよ!」
「無茶だ!あの黒い巨人が待ちにいる中、彼を探すだなんて!」
マリコルヌやレイナールがやめた方がいいと忠告を入れるが、ルイズは嫌よ!と叫んだ。
「使い魔を見捨てるようなメイジなんて…メイジ失格よ!」
迷わず豪語するルイズに続き、アンリエッタも二人に向けて告げる。
「彼の持つ怪獣関連の知識と力は失ってはこの世界における大損失に値します。探さなければなりません」
サイトには、ルイズの使い魔やウルトラマン(これはルイズでさえ知らないが)としての力だけではない。地球という、怪獣や異星人の脅威にさらされてきた世界出身であるが故の知識を多く蓄えている。失ってはアンリエッタの言うとおり大きすぎる損失でもある。ルイズに続き女王からも言われ、反対することができなくなった。
「何を迷っているんだ二人とも!我らが戦友であるサイトを見捨てるなど、グラモン家の…貴族としての名が廃る!」
ギーシュも堂々と杖を掲げながらリトラの背に飛び乗った。
「僕も行くよ。サイト君が心配だ」
さらにムサシも、さも当然のごとくリトラの背に乗った。
「二人はいいのかい?」
ジュリオはまだ乗ってこない二人に問いかける。
「…わかった!こうなったら僕も乗ってやるよ!」
「え、ええぇ~…」
正直流されている感が否めないが、結局レイナールとマリコルヌの二人も飛び乗った。
「ルイズ、気をつけて。もし危険とわかったら」
「…はい、わかっています」
アンリエッタが最後に言ってきた言葉の意味をすぐに理解した。虚無の魔法のことだろう。万が一自分が他に打つ手がない事態に陥ったら、迷わず虚無の魔法を使って離脱しろ、ということだろう。
「姫様、お気をつけて。アニエスも姫様を…女王陛下を頼んだわよ!」
それは確かにと考え、ルイズはアンリエッタと、彼女の隣に控えていたアニエスに向かって言いながら、仲間たちと共にリトラの背に乗ってトリスタニアの上空へ飛んでいった。



「キシャアアア!!」
「獣ごときが…あたしに歯向かうのか…ッ!」
自分に向かってくるゴモラに対し、ファウストは突き出された角を正面から両手で掴んで踏みとどまる。ゴモラはさらに力を挙げて突進を再開しようとする。
ファウストはそんなゴモラの動きを観察しつつ、わざと角を掴んでいた腕の力を弱め、自身の右方向に移動する。すると、ゴモラは突進を再開するも、ファウストが同時に右によけてしまったので空振りに終わってしまう。
大きな隙を見せてしまったゴモラの背後から、ファウストは始末してやろうと近づいていった。
サイトもファウストとゴモラの戦いをちょうど目に入れていた。本来なら怪獣が悪役側、ウルトラマンがそれを対峙する正義の味方ポジション。だが今回は…その逆だ。あのゴモラは間違いなくジュリオが使役している個体だ。城に近づけさせないように、城からファウストを遠ざけながら戦っている。怪獣の中には人間でも驚くほどの思考力を持つ個体もいるらしいが、あのゴモラには本来、一つの建物を壊されないように気配りしながら戦うような器用な真似はできないはずだ。
だが…今はそんなことは重要ではなかった。
ゴモラも初代ウルトラマンを苦しめたほどの強さを持つ怪獣。ファウストでもてこずらされることとなった。
「ガアアアア!!」
「ヌゥ…!!」
背後から近づいてきたゴモラの尾の一撃がファウストに直撃し、彼女は一時バランスを崩す。尾の攻撃を受けたファウストは、さらに続けてゴモラの体当たりを受ける。体当たりを食らってダメージこそ受けたが、すぐに体勢を立て直したファウストは、手から闇のエネルギー弾〈ダークフェザー〉を数発ほど発射、ゴモラの体に火花を散らさせる。
すると、ゴモラはその弾幕を強引に、自身の体を前転させながら、ファウストの頭上から尾を振りかざし、ファウストの脳天に尾を叩き込んだ。
「ハルナ…!」
ファウストの正体を知っているため、ファウストのダメージは同時にハルナへのダメージにもなる。それは、サイトを焦らせるには十分だった。
「やめろ…!あいつは…あいつは!」
あいつはハルナなんだぞ。サイトがそう叫びそうになったときだった。
「サイト君」
「じ、ジュリオ!?なんでここに!?」
ちょうどジュリオが、サイトを見つけて彼の元に走りよってきた。
「皆で君を探しに来たんだ。このあたりはもう、黒い巨人と怪獣の戦闘で十分すぎる危険区域だからね」
それよりも、とジュリオはサイトを見て言う。
「どうして変身しないんだ?確かあの黒い巨人は、君たちの敵だって聞いていたんだけど」
この世界で起きたこと、その際にサイトがウルトラマンとして相対した敵の中でもファウストは特に警戒すべき敵。
これほどの相手だ、サイトもまたゴモラの援護のために出向かなければならないはずだ。
「……く」
サイトは手の中にウルトラゼロアイを握ったままだ。だがそれを装着しようとしない。それをすることを明らかに躊躇っている。
「どうしたんだサイト君。何を迷っているんだ?」
ジュリオは、ファウストがその倒さなければならない敵であることはサイトとてわかっているはずなのに、なぜ躊躇うのか疑問を感じる。
その理由を、サイトに代わってゼロがムサシにテレパシーで伝えた。
『ファウストの正体は、ハルナだったんだ』
「…そうか、彼女が…」
さすがのジュリオも、ファウストの正体がハルナであることは予想外だったようだ。
「じゃあ今までのハルナ君は、彼女を演じたファウストってことなのか?」
ジュリオは、ハルナがファウストだと知り、もしかしたら狡猾にもサイトのクラスメートだった頃の彼女をファウストが演じることで、疑われることなくサイトやルイズたちに近づいたのかと勘ぐる。
「いや、それは違うな」
それに否定を入れたのは意外なことに、サイトの背に背負われていたデルフだった。
「あのハルナって娘っ子…黒い巨人としての力を与えられただけじゃねぇな。
どうやら魔法がかけられている。それもかり特殊な魔法だ」
『魔法?どういうことだデルフ。そんな魔法があるのか?』
ゼロからの問いに対してもデルフは頷いた。
「ある。一種の催眠魔法だ。あれで黒い巨人を何者かがコントロールしている。あの娘っ子は大人しい性格だろ?黒い巨人の力を与えられてもうまく動いてくれないのを見越して、術者が仕向けてるって話かもな」
「なんだよそれ…!」
それを聞いたサイトは、デルフの言う術者への怒りを募らせる。これまでファウストが行って来たことは、この術者の卑劣な魔法によるものなのか。無理矢理ハルナをファウストとして動かして災いを振り撒くために!
「ふざけやがって!術者はどこだ!見つけ出してぶん殴ってやる!」
「サイト君、落ち着くんだ。この街から術者を探すなんていうのは簡単なことじゃないだろう」
すぐにデルフの言った、ハルナに術をかけた術者を探そうとするサイトを、ジュリオはすぐに引き留める。
「けど、このまま放っておいたらハルナが!」
さらに町を破壊することになる。今もこうして、周囲はファウストとゴモラの戦いから逃げようと、たくさんの街の人たちが逃げ惑っている。だがムサシの言う通り、こんな雪崩れるような人混みの中から術者を探すなんて無理がありすぎる。
「サイト君、覚悟を決めた方がいい。彼女はもう君の知る彼女じゃないんだ」
ジュリオがサイトにそう言ったとき、ゴモラに続きもう一体の怪獣リトラがゴモラを援護すべく、上空からファウストに向けて火炎弾を放ち続ける。その連続援護射撃にファウストは、ちょうどゴモラと組強いていた手が緩み、火炎弾のダメージに続いてゴモラの者繰り上げを食らう。
「ジュリオ、待ってくれ!ファウストはハルナなんだぞ!」
サイトはゴモラたちにやめさせるようジュリオに頼むが、対するジュリオは目を細めた。
「君は仲間より、倒すべき敵をかばうのかい?」
「敵なんかじゃない!あの子は俺のクラスメートの女の子だ!」
「いい加減にしたらどうだい。君がそうやって躊躇うから街はさらに、黒い巨人とゴモラの戦いでさらに壊れていくんだ。今、君が変身して僕と共に戦えば、確実にファウストを倒せる。その分街の被害を抑えられるんだよ?」
「ッ!」
『確かにこいつの言っていること自体は…』
言っていることは間違いではない。だが、ジュリオの言動はサイト…そしてゼロにとって、ある意味で人質とも言えるハルナの命を軽視しているような言い方に聞こえる。
サイトは自分の中で灼熱のごとき感情が高ぶるのを感じた。こいつは問答無用で、ファウストとしてハルナを殺すつもりなのだ。まだ助けられないとはっきりわかったわけではないのに。
「迷うことなんてないはずだ。ここで君が腐れば腐るほど、君の大切なクラスメートのせいでたくさんの人たちが殺されることになる。それでも君は戦おうともしないで、駄々っ子のようにやめろの一言だなんて情けないぞ」
「…」『…サイト…』
サイトに戦うことを促すジュリオだが、ハルナと戦うことを頑なに拒むサイト。彼が熱くなり始めているのをゼロは感じた。しかし、ジュリオの言い分にも間違いではないと考える一方で、どうしてもハルナを見捨てるような考えには賛同できなかった。
「…はあ、もういい。君にはがっかりだ。成すべき選択を選ばないとは。なら本気を出して止めを刺そうか。ゴモラ、リトラ。やれ!」
サイトに失望し、ジュリオはゴモラたちに向けて止めを刺すよう命令を下した。同時に、ゴモラとリトラの体から一瞬暑い熱気のようなオーラが走る。まずい!サイトはいてもたっていられなくなった。
「ジュリオオオ!」
彼はバトルナイザーを掲げ、怪獣たちに命令するジュリオの背後から、彼の腕を掴む。
「何をするんだ!」
「時間を、俺に時間をくれ!ハルナを説得する!だから…」
「馬鹿を言うな!君は自分のやっていることを理解してるのか!?説得だと!?彼女はもう君の知る彼女じゃないんだと、何度言えばわかるんだ!」
バトルナイザーを握っている右腕からサイトを振り解こうと、乱暴に腕を振り回すが、サイトはジュリオの腕から離れようとしない。

自分たちを使役する主が、味方であるはずのサイトによって邪魔されたことで、ゴモラとリトラの動きが止まる。その隙をついて、ファウストは反撃に転じる。
「ヌゥゥゥ!!」
自分に体当たりしてきたゴモラに、ファウストはゴモラの首周りを沸き下に挟みこんで取り押さえると、その頭に向けて拳を乱暴に叩きつける。頭を殴られたゴモラはファウストを振り払おうと、首周りを大きく振り回し始める。
「フン!」
ファウストは怯まずに取り押さえたままゴモラに頭上からのチョップを叩き込んで悶絶させると、上空のリトラに向けてダークフェザーを連射した。
リトラは最初こそ避けていたものの、ついに翼を被弾し、墜落してしまう。
「ピイィ…」

「リトラ…!く!お前のせいで!」
「うあ…!」
ジュリオは顔を歪め、リトラの痛みを与えんとばかりにサイトの腹に膝蹴りを打ち付けて怯ませる。
バトルナイザーを掲げると、戦闘不能となったリトラは光のカードとなってジュリオのバトルナイザーに戻された。
「ゴモラ!リトラの仇を討て!」
遂に彼も頭に血が昇ったらしく、ファウストを倒すようゴモラに命令した。ゴモラも仲間をやられて激高し、ファウストに向けて角を向けると、角を中心に膨大なエネルギーをためていく。
対するファウストも、ゴモラが最強技を繰り出すと見て、自身の両拳に黒い稲妻をほとばしらせていく。
「〈超振動波〉だ!」
ジュリオが必殺技の発動を宣言したその瞬間、サイトは目を見開きながら立ち上がり、駆け出した。
「や、止めろおぉぉ!!」
彼はジュリオに飛びつき、衝動に駆られたように殴りつけていた。
「お、オイ相棒!」
デルフの引き止めるような声も届かなかった。
「ぐふ…」
「止めろ!止めろ!止めろおおお!!」
苦痛に顔を歪めるジュリオのことなど構わず、サイトはジュリオを殴り続けた。見た目以上に鍛えられた攻撃にジュリオは道に敷き詰められたレンガの上に蹲った。それを無視し、サイトはウルトラゼロアイを取り出して目に装着し、ウルトラマンゼロへと変身した。
「デュワ!」

しかしこのときのサイトは愚か、ゼロでさえサイトの頭に血が上ったのが伝染したのかきづいていないことがあった。

次第に、二人の思考が互いのそれと全く同じに染まり始めていたことに…。



「サイト!サイトーー!!」
「サイト君!」
一方、街の別の地区でルイズはムサシと組みながらサイトを探していた。しかしこのとき、ファウストはジュリオが召喚したゴモラとリトラの二対を相手にしており、その激しい激戦の余波を受けないようにしなければならない。今はギーシュたちも別行動という形でサイトを探すのを手伝ってくれているが…。
すると、周囲の建物の飛び散った破片がルイズたちの近くに飛んできて、彼女やその周囲にいる、逃げ遅れている人たちにどよめきが走る。
「ひゃああ!!」
「ルイズちゃん、落ち着いて!大丈夫、たいした破片じゃない!」
動揺を誘われるようなことが起きた場合はムサシがフォローに入ってくれる。一人だと正直不安ばかりが増すものだ。
…ただ、ルイズは今回の事件について、いつも以上に不安を感じていた。理由はわからない。だけど、なぜか誰かの恐怖の感情を過敏に感じ取ったような感覚を覚えていた。
こうしている間にもファウストがゴモラたちと激闘を繰り広げている。
「くぅ…もう、こんなときにサイトはどこに行ったのよ…!」
「大丈夫だルイズちゃん。僕が一緒に探してあげる。たぶんサイト君はハルナちゃんを探しているはずだ」
「そんなことはわかってるわ。ちょっと愚痴りたくなっただけよ」
本当なら常に自分の傍にいるはずのサイトがここにいないことに、ルイズは頭上から来るかもしれない破片に怯えながら悪態をついた。
それから少しの間をおいた後、二人はすでに避難が完了した地点まで到着した。そこで、ジュリオがなぜか倒れているのを発見する。
「ジュリオ、大丈夫!?」
「ぐぅ…ルイズ、君か」
ルイズとムサシは駆け寄って彼の容態を見る。
ちょうどその間、リトラが突如ファウストの光弾を受けて落下、それに激昂したゴモラがファウストに向けて猛反撃を加え始めていた。そして、ファウストに向けて必殺の光線をお見舞いしてやろうとすると、ファウストもまた自分の最強の光線技で応戦しようとしていた…そのときだった。
ヒュンヒュン!!と音を立てながら、ゴモラとファウストが同時に放ってきた必殺光線の間に、何かが風を切りながら近づいてくる。そして、どこから投げつけられてきた二つの銀色のブーメランがゴモラの超振動波を、ファウストの必殺光弾〈ダークレイ・ジャビローム〉を金色の光線が飛んできて防いだ。
相殺された二つの必殺光線のエネルギーが暴発し、ファウストとゴモラを互いに反対方向へ吹っ飛ばす。そして、二体の間にさらにもう一人…巨人がドスン!と降り立つ。
「ウルトラマン、ゼロ…」
新たに現れた…これまで何度もこの世界を救ってきた若き英雄、ウルトラマンゼロがそこに立っていた。


「…現れたか、ウルトラマン」
ファウストは現れたゼロを見てそう呟く。
「ハルナ…」
そんな彼女を見て、ゼロは憂うように呟く。
ジュリオは言っていた。彼女はもう自分の知っている彼女ではないのかもしれない、と。その言葉には奇妙にも説得力を感じさせられる。だがそれでも…。
「キシャアア…!!」
すると、ゼロの背後に立っていたゴモラが恨みがましそうにうめき声を上げながら立ち上がってくる。なんとなく、主を殴り倒したのが目の前の巨人が変身している男であることに気づき、それを恨んでいるようだ。
言葉が通じるとは思えないが、ゼロは……気がつけばサイトの意思でゴモラに話しかけていた。
「ゴモラ、ごめんな。お前のご主人と友達を傷つけたりして。けど…頼む。少し…時間をくれ」
まっすぐにゴモラの目を見つめながら申し出るゼロ。たとえここでゴモラがゼロの気持ちに応えなくとも、それを受け止める覚悟を決めることにした。
ゴモラは、最初こそ主を傷つけられ、そしてさっきファウストへの攻撃を邪魔された怒りをぶつけてやろうかと思っていた。だが、ゼロの目を見て何かを感じ取ったのか、さっきよりも落ち着いた鳴き声を洩らしながら城を守るように下がった。
「ありがとな…」
どうやら、チャンスをくれたらしい。
けど、ゼロは正直どうすればいいのかわからなかった。変身したのも、ゴモラの光線がファウストに打ち込まれるのを止めるためにしたことだ。だが、肝心のファウストを…ハルナにこれ以上の悪事をやめさせる方法など思いついてもいなかった。頭に血が上って、少なくとも共に戦う姿勢を見せていたジュリオを一方的に殴り倒して無理やりとめてしまった。
こうなった以上は後に引くことはできなかった。
ゼロは平賀才人として、黒い巨人に姿を変えた地球時代のクラスメートの少女に向けて、静かに身構えた。
 
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