| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

人形-マリオネット-part2/狙われた少女

ヴァリエール領からの帰還後…。

一時はルイズが実家に連れ戻されたと聞いて心配したギーシュらだったが、無事に戻ってきたサイトたちをいつものように快く迎えてくれた。
アンリエッタたちが戻ってきたことで、夜にUFZメンバーに改めて召集がかかり、サイト・ルイズ・ギーシュ・モンモランシー・マリコルヌ・レイナール・そしてムサシはアンリエッタの執務室に呼び出された。その場にはジュリオやアニエスもアンリエッタの取る今後の方針を聞くために同席している。ムサシのことは、戻ってきた直後にギーシュらに紹介された。予断だが、モンモランシーはムサシを見て「ギーシュもこの人みたいに誠実だったら…」などと、どうしようもないとわかっていてもつい思わずにはいられない愚痴を心の中でこぼしていたとか。
「女王陛下、ギーシュ・ド・グラモン以下、ウルティメイトフォースゼロ、ただいま到着したしました!」
「楽になさって」
傍らにアニエスを控えさせていたアンリエッタは、跪いて臣下の礼をとるサイトたちを見て、アンリエッタはひとつあることに気がつく。
「あら、ミス・タバサとミス・ツェルプストーは?」
「えっと、用事ができたと言って今日は来なかったんですよ」
「まあ、そうなのですか。それは残念ですね…」
「姫様からの大事な依頼だって言うのに…」
「仕方ないわ。あのお二人は正規のメンバーではないんですもの」
サイトからの返答に、アンリエッタは少しばかり残念そうにしていた。
タバサとキュルケは諸事情でメンバーに入っていなかった。二人は元をたどれば他国から留学してきた身だし、アンリエッタとしてもあまり無理強いは好ましくなかった。
また、ハルナもメンバーではなく、あくまでサイトたちの保護対象者だから、城内まで同行しているが、現在は別室で待機している。
愚痴をこぼすルイズをなだめるようにアンリエッタは言った。
「恐れながら陛下、我らを呼び出した理由はなんでしょうか?」
レイナールは、アンリエッタが自分たちを呼び出した理由を尋ねる。
「まずは、我が国の現状を説明しましょう」
まだ少女らしさを残した表情から、女王としての威厳を強く出した表情に変わった。
現在のトリステインは、平民・貴族の両方からアルビオンに対する怒りが高まっていた。
怪獣を使った圧倒的暴力による侵攻、さらに裏切り者をもぐりこませたり邪な貴族をたぶらかして内部から崩壊させようとしたりと、アルビオンの支配者であるレコンキスタの下種とも取れる手段と、やつらから受けた痛みと屈辱によって、トリステインの人間たちは我慢の限界を超えかけていた。それに伴って、アルビオンを即刻叩き潰すべしとの声が高まり始めていた。
「戦争を…仕掛けるんですね?」
サイトは、神妙な面構えでアンリエッタを見る。
「ええ。そのとおりです。これ以上、レコンキスタの暴威を見過ごすわけに行きませんから」
アンリエッタはサイトからの問いに頷いた。
「その戦争には、我々も当然参加するのですね」
「ええ、女王である私はまだしも、本来ならあなたたち学生を戦争に行かせることは私とて心苦しいのですが、現状を考えてそうも言っていられません。
現在、残存している将たちを使って軍を再編成中です」
アンリエッタも相手が人間のみならまだ遠慮を考えていたが、レコンキスタは怪獣を操り、異星人とのつながりがあることは明白。野放しにしては、また圧倒的な力でトリステインを…いや、ハルケギニアの全土へ侵略し、多くの悲劇をもたらすことは明白だ。そのため、アンリエッタはついにアルビオンへの侵攻を決意したのだ。
戦争、それはサイトにとっても、ルイズにとっても決して好きになれない単語だ。たとえどんな理由があろうとも、本来人類が現実に起こしてはならないもの、それが戦争…史上最悪の殺し合いである。だが、アンリエッタの言うことも理解できるし、真っ向から反対できない。レコンキスタはワルドをはじめとした者たちにより、これまで卑劣な策謀を用いてトリステインを蹂躙しようとした。
しかしルイズにとってこれは、自分を幼い頃から変わらず友人としてみてくれたアンリエッタに報いるチャンス。サイトにとっては、自分の世界を食らおうとした侵略者を止め、奴らの傀儡にされているアルビオンを解放する機会でもあった。
ただ…
(そのために、戦争で人が犠牲になっていくのか…)
人間同士だろうと、異星人同士だろうと、本来戦争…というか戦いそのものはあるべきじゃない。かつての自分や、ワルドの裏切り直後の惨劇、そしてミシェルの最期のような悲劇しか生まないのだから。
「それと、侵攻の前に気になる情報が入りました」
「気になる情報…ですか?」
ルイズが尋ねる。
「もしかして、またあの異星人ってやつらが…?」
マリコルヌが不安を募らせる。ケムール人に誘拐され、ボーグ星人たちにサイボーグにされかけたときのトラウマが恐怖をよみがえらせる。
「何を怯えているんだ。貴様は女王陛下の意志の元、この部隊に配属されたのだぞ。もっと毅然としたらどうだ」
そんな彼に、アニエスがじろっとにらみを聞かせ、マリコルヌは彼女の目から発せられるプレッシャーに思わずビクッと身を震わせた。ちょっと前の自分なら、平民のクセに生意気な!と高慢な態度を示せたのだが、最近はそんな虚勢を張ることもままならない。
「まぁまぁ、誰だって怖いものさ。最初のうちくらい多めに見てやったらどうだい」
「いつまでもそのようでは、敵に足元を掬われかねん。却下だ」
ジュリオがマリコルヌに助け舟を出してあげようとするが、アニエスはすかさずもっともなことを言って却下してしまう。
「それで、いったい何があったんですか?」
少し話がそれたので、サイトが尋ねると、アンリエッタがサイトたちをまっすぐ見て、その『気になる情報』の内容を問いただす。
「数日前の夜中に、ラ・ロシェールとアルビオンの間の上空域にて謎の大爆発が発生したとの情報がありました。星にも匹敵するほど目立つ輝き…それほどの爆発を起こせるのは…」
そこまで女王が言いかけたところで、一同に真っ先にその要因の予想が着いた。
「まさか、怪獣…?」
「もしくは、それらと戦っているかもしれない、巨人…か」
サイト、そしてレイナールが口々に綴る。
「アルビオンの企みの可能性もあります。現在タルブに駐屯している兵には警戒を呼びかけています。
また、おそらくその情報に関連していると思われる事象についても情報が入っています」
「まだ他にも?」
「ええ、爆発が発生したアルビオン上空から大きな影が複数落下したそうです。アルビオンの手のものか、それとも別の驚異か…どちらにせよ、放置するには不安が残ります。あなた方にはこれの調査に向かってほしいのです」
「お任せを!このギーシュ・ド・グラモン以下…必ずや陛下のお役に立って見せます!」
女王命令ということもあり、即答だった。ギーシュの場合、美女にいい顔をしたい魂胆が見え見えだが。
「な、なんだかカワヤさんを若く華やかにしたような男の子だね…」
ムサシはギーシュのキャラを目の当たりにして、自分の世界にいた女たらしな名医の顔を思い出した。
「ラ・ロシェール…」
サイトはその場所の名前を聞いて、わずかに目を見開いた。
「当然覚えてるわよね?あの男と共に向かった、山岳地帯のあの街よ」
「言われなくても覚えてるよ。そこまで記憶力は衰えちゃいないさ」
ルイズからの指摘に、サイトは軽く言い返す。
忘れるわけがない。あの街で起きた…いや、自らの手で起こしてしまった惨劇の夜を。
後に自分たちを裏切るワルドを連れて、アンリエッタから頼まれたウェールズの手紙を回収のために、そのラ・ロシェールへ来ていた。初めてラ・ロシェールの街を訪れたあの時期、サイトとゼロは互いにいがみ合っていた。ワルドのウルトラマン不要論に不満を抱いたゼロと、ダークファウストが差し向けたビースト・ラフレイアの戦いの最中も冷静な判断力を失い、街をラフレイアの誘爆に巻き込んでしまった。その件で二人の間に決定的な亀裂を走り、サイトは意地を張ってゼロを頼みとしなくなってしまう。だが、それがまた後に起こる悲劇の引き金になった。思い返せば、あの街は自分たちにとっての悪夢の日々の出発点でもあった。
あそこに行けば、街を去ったときに聞いたあの時のように、きっと聞くことになるのだろう…。

『ウルトラマンゼロへの憎悪の叫び』を。

「サイトさんやルイズは、先刻のヴァリエール領での事件で疲労していることもあるでしょう。なので一日だけ余裕の日を置いて、出発は二日後までの間とします。それまでの間に準備を整え、先行してください。
原因を突き止めたら、早速軍を動かします」
「じゃあ、明日辺りにジャンバードの機能で探知してみます。あれの機能でまずは調べ上げていた方がいいと思うので」
「お願いします。サイトさん、そしてルイズ…みなさん」
こうして一同は、次の任務に備えて解散することになった。



「ちょっとサイト。話があるわ」
アンリエッタから今後の自分たちの動きについての話が終わった後、サイトは男子に用意された部屋に向かう途中、突如ルイズから引き留められた。
「どうしたんだ?話って」
妙にかしこまった感じがするルイズにサイトは尋ねる。
「本当にいいの?私たちの事情に、付き合ってもいいの?」
「何言ってるんだ。ここまで来て、途中下車なんてできるかよ。お前だってそうだから、家族の反対押しきってでもお姫様のこと助けようと思ったんだろ」
「そうだけど…
ハルナに告白したんでしょ?」
ルイズの頭の中にモヤモヤと、妖精亭での打ち上げを抜け出したサイトとハルナのやり取りが蘇る。まるで恋仲のようにも聞こえる会話。そして止めにも聞こえる言葉。

『本気だから』

「え?」
ルイズの今の指摘にサイトは目を丸くした。
「な、なんでそうなるんだよ。俺がいつ…」
「あんた、とぼけてるの?」
口を開こうとするサイトだが、ルイズは構わず話を続ける。
「そりゃ、あんたはあくまで私の使い魔だし、あんたがキュルケ以外となら付き合ったとしても文句は言えないわ。けどあんた…屋敷で言ったわよね!?一人の女の子を守れないで使い魔なんてやってられないって!
せめて、その……だから…ご主人様である私にも断りを入れるとかしてほしいの!」
自分でも本当に何を言ってるんだと思えた。まさに自分の言っている通り、サイトと自分はあくまで主人と使い魔だ。けど…
サイトが違う女と話していると無性にモヤモヤして胸が締め付けられる。その辛い思いを口にし続けていた。
しかし…
「告白って?誰が?」
「へ?」
返ってきた言葉は、ルイズを困惑させた。
「あんた、妖精亭で打ち上げの時間、ハルナと話したんでしょ?その時に…」
「あ…あぁ!あの時のか。なんだ、誰かいたような気がしたけど、お前だったのか。あのさ…何か勘違いしてないか?俺ハルナに告白なんてしてないぞ」
「はあ!?」
それを聞いてルイズは思わず声をあげた。
「ど、どういうことよ!まさか、あんたギーシュみたいに、女の子に責任とる気もないのに思わせ振りなこと言ってたわけ!?」
だったら妖精亭でのあの会話は遊びだと言うのか。これではまさにあらゆる雌に尻尾を振るうエロ犬じゃないか。ルイズはサイトに対してはらをたてる。
「な、なんでそうなるんだよ!いいから話聞けって」
サイトはやたら勝手にヒートアップするルイズに話を持ちかけるが中々落ち着くのに時間を要した。
「…で、何よ話って」
やっと落ち着いたところで、ルイズはようやくサイトの話に耳を傾け、ほっとため息をついたサイトは話し始めた。
「ハルナの奴、この世界じゃ俺たち以外に身寄りがないだろ?
そんなあの子がどこかの悪党にさらわれたりしたとしても俺たちが助けないといけない。
だから、どんなに絶望的だとしても俺はあの子が地球に帰るまで、ハルナを守るって言ったんだ」
つまり、あくまで『守るための誓い』であって、ルイズが考えていた愛の告白などではなかったのだ。しかし、あまりにも思わせ振りな言葉にかわりなくルイズはサイトに、勘違いからの羞恥のあまり怒鳴った。
「…そ、それを早く言いなさいよ!このバカ犬!エロ犬!色情犬!」
「なんでそこまで言われてるの俺!?」
特に悪いことなんてやってもないのに、なぜか怒られてる事態に、サイトはただただ困惑させられた。
「まったく、私の使い魔なんだから、下手に思わせぶりなこと言わないでよね!変な勘違いしちゃったじゃない!」
「勘違いって…勝手に勘違いしたのお前だろうに…」
「はいと言え!馬鹿犬!!」
「わ、わかった!わかったよ!」
あまりの剣幕にサイトはとりあえずその場を納めるために頷いたのだった。
はあ~…と荒い息を吐き、ルイズは息を整えると、サイトの顔和や見るや、妙に憂い顔を浮かべて口を開いた。
「サイト」
「な、なんだよ」
「やっぱり、帰りたい?」
故郷のことを問われ、さっきとのギャップにから少し戸惑いを覚えたサイト。だが、ルイズに対して正直に答えた。
「まあ、確かに…帰りたい。ハルナとも約束したし」
「そうよね…」
そう考えて当然だ、とルイズは思った。我が儘で癇癇癪持ち…自分でも理解しているが直らない、自身の欠点を考えてしまう。こんな子供みたいな女の傍にいるのはサイトも嫌だろう。
でも…嫌だ。サイトが自分の前からいなくなる。そんな想像をするだけで…
次の瞬間、ルイズはサイトに抱きついていた。
「ルイズ!?」
戸惑うサイト。なぜだか、元の素材と今の儚げで弱々しい彼女に、胸が高鳴った。消えそうな声でルイズは彼に言った。
「私が帰らないでって言っても…行っちゃうの…」
「…」
サイトはどう答えるべきか迷った。確かに地球に帰るとハルナと約束した。だが、ルイズのぬくもりが…それを躊躇わせた。
だからせめてもの答えしか言えなかった。
「まあその、なんだ。俺はお前の使い魔なんだから、これからも暫くはこの世界で頑張るさ。公爵さんたちからも釘を刺されたし」
「いいわ…それで」
ルイズはサイトから離れた。
「今日はもう部屋で休むわ。おやすみなさい」
「あ、ああ…」
背を向け、部屋に向かうルイズを、サイトは見送った。今は追わない方がいい。迷ってるうちは…なおさら。そんな気がした。


「…」
そんな二人の会話を、ハルナは壁の影から聞いていた。
ルイズがサイトを引き留めたのが気になって後を追ってきたのだ。自分も話に加わろうとしたが、どうしてか、会話の内容をたまたま耳にしてから、足がすくんでいた。
「まあその、なんだ。俺はお前の使い魔なんだから、これからも暫くはこの世界で頑張るさ。公爵さんたちからも釘を刺されたし」
その辺りまで聞いたところで、ハルナは二人の反対側に踵を返して歩き出した。
気がつけば二人の反対側に踵を返して歩き出し、用意された部屋に来ていた。
(平賀君…)
この世界のこと…いや、ルイズのことの方が気になっているのか。自分じゃなくて…
ウェザリーの舞台では、本来なら自分がヒロインを演じるはずだった。けど足を怪我して、代わりにルイズがヒロイン役を担ってくれた。本番ではできなかった分、サイトと二人でエピローグの一幕を演じた際、自分が改編した台詞を通して、何があっても自分を助けてくれる?とサイトに尋ねた。少し遊びの入った言い回しだが、気持ちは本気だ。
『本気だから』
あの言葉は、言われたときは告白かそれに近い言葉かと思った。けど、思えばサイトは鈍感な男だ。芝居がかったような言い回しで、あの時のハルナの言葉の裏に隠れた彼女の想いに気づかなくてもおかしくない。
今さっきのルイズとの会話を聞いて、ハルナは妖精亭で封じられた不安が再び沸き上がるのを感じた。
ハルナは、ポケットからサイトと一緒に読んでいた生徒手帳を取り出した。ページを開くと、そこには一枚の写真が入っていて、映っていたのは…。

地球にいた頃の、学生服姿のサイトだった。

この写真を見るたびに、不思議と勇気が湧いて、そして孤独感を感じなくなる。だが…今は…猛烈な不安が湧き上がり、拭えるはずの不安が消え去ってくれない。
「置いてかないでよ…」
写真の入った手帳をぎゅっと抱きしめる。サイトが約束を捨て、自分を置いてどこかへ行ってしまう…例えばルイズの下で生きる道を選んでしまうことへの恐れと、それによって自分に降りかかるであろう空虚な孤独感。
思わず弱音を吐いてしまうハルナ。
やっぱり、彼は自分の前からいなくなってしまうのか…?
彼が地球から消えた、あの日のように…


そのときだった。



―――お前は『人形』




「ッ!誰…!?」




―――私の作った、美しい人形だ



「…!!」
ぞっとするような悪寒が走った。
今の声は…なんだ?誰かが自分を見ているのか?わずかな明かりで照らされているだけで、ほとんどが暗いこの部屋でたった一人で聞くには、あまりに恐怖を催す声だ。
しかし今、自分以外にこの部屋にいる者は誰もいない。
…おかしい。今は夜だし、就寝時間までそれほど時間は空いていない。それなのに、ここにいるのは自分だけだった。ルイズは?モンモランシーは?この二人が一緒に泊まるはずなのに、なんで誰もいない?
底知れない闇のような恐怖が、彼女の心を支配していく。
そして、彼女は窓ガラスに映る自分の顔を見る。それを見た瞬間…その恐怖は決定的なものとなった。
「……ッ」
思わず恐怖で声が出そうになった口を両手で覆ったハルナ。窓ガラスに映っていたのは、自分の顔だけではなかった。

そこに映っていたのは……

たまらなくなり、彼女は部屋を逃げるように飛び出した。
逃げなくちゃ…見えない何かが、自分を狙っている!
城の中は、いつの間にか就寝時間を過ぎたのか真っ暗闇で光が何一つ差してこなかった。
「平賀君…平賀君!」
彼女は真っ先に、UFZの男子組が泊まっているであろう。彼女はその部屋にいるサイトに助けを求めようと駆け出した。
しかし…
「はぁ…はぁ…!」
どうしてだろう。部屋はちゃんと記憶しているはずだというのに、どれほど走ってもたどり着けない。
「どうして…?」
確かにこの城は広くて、地球にいた頃の母校と比べると途方もない広さ。だが、ちゃんと記憶したとおりの道を正確にたどったし、間違えて覚えていたわけではない。そもそもアンリエッタが用意してくれた男子用の部屋と女子用の部屋は隣のご近所並みに近いので迷うはずがない。
だが…どれほど走っても闇に満ちた廊下を突っ走り続けているだけだった。
「な、なんで…平賀君たちの部屋に着かないの…?」
まるで、自分が暗闇の迷宮の中に入り込んだかのようだ。

「助けて…平賀君…っ!」

――――あいつが、本当に助けに来ると思ってるのかい?

「!」
思わず身をビクッとさせるハルナ。またあの声が聞こえてきた。
野太く力のある男の声と、女の声が同時に重なったような気味の悪い声だ。

――――あいつは、あの貴族の娘にご執心のようだ。呼んだところでくるわけがない

「あなたは…誰なの?私に一体なにをしてるの!?」

――――誰?それは…お前自身が良く知っているはずだろ?

「どういうこと…?」

思わず尋ね返すハルナだが、不気味な声はそれに答えない。

――――お前の中に渦巻く嫉妬・羨望…孤独…そして…

――――…あの娘への敵意と、自分の気持ちに振り向かないサイトへの怒りを感じる

「そ、そんなこと…ない!」
まるで心を見透かしてくるような声に対し、否定をするハルナ。

――――なぜ否定する?本当は願っているはずだ

――――こんな危険で時代遅れの世界のことなんて放っておいて、サイトと地球へ帰りたい…それを約束したのは他ならぬ…お前自身じゃないか

「そ、それは…」
この世界をどのように言うかはともかく、確かにサイトに一緒に変える約束を取り付けたのは自分だ。その根本にある…『サイトへの想い』を糧に。

――――やることは一つだ

――――あの女から力づくで奪い返してしまえ

「ルイズさんから…奪い返す?」

――――そうだ。あの娘の目の前で、奪ってしまえばいい。お前にはそれができる

――――サイトを操り、想いのままに動かせば、お前の彼への思いは成就される

「あ、操る…!?何を言ってるの!そんなことしたって、意味が…」

――――今のお前の手で、一体どうやってあいつを振り向かせるというんだ?

「そ、それは……」

――――安心しろ。別にサイトの命を奪うとかそういうつもりじゃない。あくまで、サイトを取り戻すため

「 …ここは…!なんで…!?」
ハルナは気がつくと、ある一室の部屋に…いや、さっき自分に用意された女子用の部屋に立っていた。いつの間に!?まるで何かの意思によってワープさせられたような感じだ。
常識的にありえない現象にハルナは更なる恐怖を覚える。

―――今更躊躇うことないさ。今まで、何でもやってきたじゃないか?

「!?」
そのとき、ハルナの脳裏に…覚えのないはずの記憶が過ぎった。



夜のトリスタニアの裏路地にて、屋根の上から路上にいるシュウと相対している記憶…

壮大な草原の広がる大地の上で、三人の巨人が自分の前にいる記憶。

山岳地帯の近くの町の中央で、さっきの記憶の中の銀色の巨人と、傍らに花の化け物をおいた状態で相対する。
花の化け物が爆発を起こし、街を破壊し火の海に飲み込ませていく記憶。

極めつけは…

見覚えのないはずの夕暮れの湖の畔、サイトとルイズ、ギーシュ、モンモランシー、そしてシュウがいる。
これは…一体いつの記憶?こんな光景は見たことないはずなのに…
しかも気がつけば、自分は彼らに向けて黒い塊を投げつけていた。地面に落ちた途端に、それは爆発を起こしてサイトたちを襲った。

そして…自分は怪しい光…いや、闇に自らの身を包み込んで…

「や…いや……!」
ハルナは知らないはずの記憶が頭の中に流れていくうちに、頭を両手で押さえ、それらの記憶を振り払うように首を振り回した。
「違う!私はこんなことしていない!」
浮かび上がる記憶を頑なに否定する。
信じられない、信じたくない。

実はタルブ村でサイトに発見される前に、


自分がサイトたちを襲って…この世界に仇なしていたなんて…!!!


---何を怯えている。これが…


不気味な声はハルナに、誘うように語り続ける。
ハルナは視線を部屋に置いてある化粧台の鏡に向けた。周囲の景色同様、鏡の世界は夜の闇に満ちた部屋を写している。
鏡には当然、自分の姿が写っていた。しかし、ハルナは目を見開いた。
鏡に写っている自分が、ポニーテールに後ろ髪を結っていた。それに表情が今の自分と全く合致していない。
不敵な笑みを浮かべていた。
そして、鏡に写る景色が波紋状に歪み、変化をもたらす。そこに写っていたもう一人の自分の姿が、全く別の姿に変わっていた。そこに写っていたのは…

---本当の、お前だよ







あの二つの角を持つ、黒いウルトラマンだった。







「化け物…!」

ハルナはこれまでにない恐怖のあまり後退る。しかし、鏡の世界から黒いウルトラマン…ダークファウストは這い出て、死人のようにハルナに一歩ずつ手を伸ばしながら近づいていく。

「や…来ないで……来ないで……」

近づいてくるファウストに、足が震えて走って逃げることもできない。気がつけば、息がかかるほどの距離まで奴は接近していた。



来ないでええぇぇぇぇーーーー!!!!



視界がファウストの黒い手のひらに覆われた瞬間、ハルナの悲鳴が響き渡った。


 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧