Re:ゼロから始める士郎の生活
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一話 士郎、異世界に立つ?
前書き
なんでさ……なんでさ……なんでさ。
この物語は衛宮 士郎が『もし』異世界に飛ばされたら。
そんなお話です。
────ここはどこだろう?
衛宮 士郎は周りを見渡し、目に映る風景を見て。
「俺は……確か、買物帰りで。
玄関を開けようとして……それで」
ただいま、って言おうとしたら急に視界が真っ暗になって。明るくなったと思ったら見覚えのない風景。
「もしかして……これは夢か?」
そうだ、そうに決まってる。
竜が馬の代わりみたいに荷車を引いてる訳ないよな。あはははっ。
それも沢山、それに兎ぽい耳が生えた人間なんているわけないじゃん。ほんと勘弁してくれよ。
他にも鰐の様な身体付きをした大男、全身を鎧で覆った騎士達。
今日はハロウィンかな?
それともコスプレ大会?
どちらにせよ、タチの悪い。
こんなの有り得る訳ないじゃないか。俺は出来の悪い夢を見ている、そうだこれは夢なんだ。早く起きて、皆の昼飯作らないと。
「おら、そこの兄いゃん!
道の真ん中でボサッとしてんな!」
背後からの声、振り返ると。
竜の手網を引く、中年男性がそこに居た。
どうやら行き先を邪魔しちゃてるみたいだ。
「あぁ、すまない」
ささっと道を開けると。
「あぃん? 兄ぃやん。見ねぇ服装だな?」
そう言いながら中年男性は珍しいものを見るように俺の服装を見てくる。
「匂いも、ここらのもんやぃねぇな。兄いゃん、どっから来たんや」
「何処からって……」
これは夢の中なんだから夢からって答えるべきかな? いや、そんな答え方しても納得してくれそうにないし。
よし、ここは────。
「日本からきた」
無難に、そう言ってみた。
「日本? 聞いたことねぇな?
そりゃあ国の名前か?」
「東の果てにある、小さな国だよ」
「カッかかっ。笑わせんなよ、兄いゃん。東の果てっつたら、このルグニカしかねぇだろうがぃ。おもしれえ冗談だなぁい」
「いや、冗談ではないんだけど……」
「ともかく、そんな洒落の効いた冗談は控えるこったぃ。今のこの国じゃあぃ、特にな」
そう言い残し、男は去っていった。
なんなんだ、この夢は?
まるで絵本の様な世界だ。
「何が……どうなってるんだ?」
さて、状況を整理しよう。
右手には買物袋、中身は野菜類と肉類、それと卵。左手には包み紙、中身は先ほど買った出来立てホヤホヤの大判焼き×7個。
もし、仮に本来の物語の主人公なら初期装備に嘆きそうな手持ちだが、食料に溢れている点に関しては大きなファクターと言える。
あ、ズボンのポケットに家の鍵もあった。
自身の持ち物を確認しても、この状況は変わらない。だが、この状況を打開できるアイテムがあるかも知れない……そう信じ、士郎は何度もアイテムチェックをする訳だが。
「食べ物以外、使えそうなものがない件について」
空腹に困ったら、手持ちの食料を食べればいい。幸い、買物帰りで食料には余裕がある。これなら数日は生き延びれるだろう。
いや、待て生き延びれるってんなんだ。
おいおい、落ち着け俺。
今時、餓死で死ぬってありえんの?
いや、そういう問題でもないだろ。
「困った、なんでさ」
溜息を付き、その場から立ち上がる────その時、物騒な輩と目があった。
いかにも悪さしてますよ感まんまんの男達。男達はヘラヘラと笑いながらこちらにやって来る。
「……これは、」
気付けば囲まれていた。
「おまぇ、見慣れねぇなりだな」
「こりゃあ上物そうだ」
「さっさと身包み剥ぎ取ろうぜ」
「…………」
この状況は……もしかして俺は物盗りに狙われているでOKなんだろうか?
もしそうならこれは貴重な体験だ。
まず、日本じゃあ有り得ない。いや、有り得ない訳ではないけど士郎にとっては初めて『カツアゲ』された認識に近い。
「んんっだ、コイツ?
さっきから黙り込んでやがるぜ?」
「ハハッ。もしかしてビビってる?
ビビちゃってる?」
「俺達に狙われたのが運の尽きだな。さっさと身包み置いてけば命は助けてやるぜ」
なんて男達はこの状況を楽しんでいる。
士郎は考えていた。
何故、この男達はこんなことで楽しんでいるのだろう?何故、楽しめるのだろう?
そして何故、『笑っていられるのだろう』
「おい、聴いてんのかよぉ」
男は襟元を掴み、士郎を体ごと持ち上げる。
「随分と静かだな……気味が悪いぜ」
────それは俺の台詞だ。
「さっさと済ませようぜ、俺りゃあ腹減った」
────俺もだよ、今日の晩飯どうしようかな。
「なぁ、おいっ。聴いてんのか?」
男達は笑っている。
平然と笑い続けている。
さて、これはどう対処するべきだろう?
士郎は持っていた買物袋を離し、意識を集中させる。
「なんだぁ、こりゃ?」
「うぉ、食物入ってんじゃん!」
「おぉ、見た事ねぇのも入ってんな。こりゃあ高く売れそうだ」
男達は手放した買物に目をやっている。士郎はその一瞬、その一瞬を使って魔術回路をONにする。
スイッチを入れ、魔力を流し込む。
投影するのは久しぶりだ、聖杯戦争が終わってからする必要無かったし、する出来事も無かったからだ。だが、衛宮 士郎は覚えている。
あの感覚を、あのイメージを。
投影するのに時間は掛からない。
頭の中のイメージを具現化する、そのイメージを自身の魔力で形付ける。
やっぱり、あの言葉を言うべきだろうか?
別に言わなくても投影は可能だけど……言わないとしっくりこないのは確かだ。ほんの少し、息を吸込み。
衛宮 士郎は演唱する。
「────トレース・オン」
言い終えると同時に投影は完了した。
うん、いい出来だ。数度、刀を握り触感を確かめる。聖杯戦争終結後も魔術の鍛錬は続けてたけど投影魔術はサボってたんだよな。それでも握られた刀の感触はあの時と変わらない。腕は鈍ってなさそうだ。
「……てめぇ、なんで笑ってんだ?」
男は俺の顔を見てそう言った。
笑ってる? この状況で?
「おい、コイツ!?」
男の一人が士郎の握っている剣の存在に気付き。襟元を掴んでいた男は咄嗟に手を離し距離を取る。
「コイツ、いつの間に!
てか、どこに隠し持ってたんだ!?」
驚きを隠せない男達。
ジリジリと後退して行く。
「逃げるなら今の内だと思うけど?」
一応、忠告はしておく。
見る限り、実力の差は歴然だ。士郎自身、あちらが引けば見逃すつもりだ。だが、もし危害を加えるのなら少し痛い目をみてもらうけど。それは正当防衛って事でいいよね。
「へッ、コッチは三人。お前は一人、数なら勝ってんだよ!」
「お前こそ降参するなら今の内だぜ」
「俺達ぁ、ここらでは結構有名なんだぜ?」
なんてほざいてるけど奴さん達は一向に動かない。それどころかどんどん離れていく。一歩、また一歩と後ろに後退していく。
「お、ぉぉ。そういや、そろそろあれじゃあねぇか?」
「?……ぉお、そうだな」
「あ、あぁあ。そうだな、こりゃもう時間だな!」
そう言って男達は背中を向け。
「こ、今回は見逃してやるぜ!」
「次、会ったときは覚悟しやがれ!」
「ちょ、置いてかないでッ!」
男達は去っていった。
最後のは負け犬の遠吠えってやつかな……?
一瞬、青ワカメの顔が脳裏に浮かんできたけどこれは気のせいだろう。なんか似てたんだよな、後ろ姿とか仕草とかさ。
「さて、どうするかな」
落としていた買物袋を手に取り、中身を確認する。……中身は大丈夫そうだ。
さて、一旦ここら辺から離れよう。
またさっきみたいに絡まれるのも面倒だし人混みの中に紛れるのが一番かな。
「でも、俺の服装……なんか目立ってるんだよな」
街中を歩くだけで注目されるなんて初めてだ。結構、恥ずかしい……俺ってそんなに変な服装なのか?と思ってしまう。俺から見ればアナタ達の方が変な服装ですからね!?と心の奥底で呟くけど心の声なんて自分にしか聞こえないからますます虚しくなる。
「結局、ここは何処なんだ……?」
裏路地の先、そこから見える景色は異様だった。
まず、ここは日本じゃない。
日本固有のそれも無ければ日本人も見当たらない。建物も洋風……に近いけど近代的では無かった。
見慣れぬ文字に初めて見るものばかりで目を惹かれるけど。それは逆も然りで、俺を見る人の視線も見慣れぬ珍しい服装と思われているのだろう。
土地勘のない道を歩いても何処を歩いてるかなんて解らない。
このままだとジリ貧だ。
こういう時はどうすればいい?
今の状況はどうやって打開すればいい?
うーん……っと悩んでいると。
「貴方……こんな所で何をしているの?」
背後から、裏路地の方からだ。
明らかに自分に対しての言葉だろうと士郎は振り返る。
そこには女の子が立っていた。
白色のローブで身を包み、フードのせいで顔はよく見えない。それでも女の子と判断できたのは立ち振る舞いと雰囲気だろう。
「何をしてる……途方に暮れてます」
「途方に暮れてますって何か困ってるの?」
「話すと長くなる、いや。そんなに長くはないかな。買物帰りで家の玄関の扉を開けようとしたらいきなりこんな所に居て、色んな所を歩き回ってその度に色んな人から変な服装って言われるし。休憩しようと裏路地に入ったら変な奴らに絡まれるし……」
「絡まれるって……貴方は無事なの?」
「無事だよ、なんか勝手に逃げてった」
まぁ、一言忠告したら逃げて行ったんだけどね。
「なんだ、ちょっと損した気分」
「なんでさ?」
「なんでさ?……なんだろ、その言葉ちょっといい」
「いや、なんでさ」
「ちょっとね、いきなり男の人達が全速力で走ってくるから何事なのかなぁって思って」
「なるほど。で、興味本位でやって来たと。女の子一人でこんな薄暗い道を歩くのはお兄さん関心しないな」
何かあったらどうするんだっと思った矢先。
「大丈夫だよ、エミリアには僕が居るから」
その声は女の子の声では無かった。
何処から……と辺りを見渡すと女の子のフードが、もぞもぞと動いた。
にょきっと顔を出してきたのは小さな、小さな猫だった。 生後二ヶ月位の猫は女の子の肩まで歩み寄り座り込むと。
「君こそ、こんな所に一人で居るのはお兄さん関心しないな」
────え?
「ちょっとパック、いきなり出てくるからこの人、驚いてるじゃない」
「へへ、ちょっと驚かせようと思ってね」
────うん?猫さん、喋っておらっしゃる?
「あれ、そんなに驚かせちゃったかな?彼、さっきから無言なんだけど」
────猫が、喋ってる。
あははははっ。これはロマンチックな夢だな。さっさと起きて昼飯の準備に取り掛かろっと。
「大丈夫?
もしかして怪我してる?」
少女は心配そうに駆け寄ってくる。
いい、匂いだ。
甘い……ひたすらに甘そうな香りを漂わせた少女は士郎の周囲をぐるぐると回る。な、なんか恥ずかしい。
ここに来てから色んな人たちに見られてるけどこんなマジマジと見られるのは別の意味で緊張する。
「怪我は……してなさそうね」
少女はそう言って安堵の表情を見せた。
今、少しだけ見えた。
フードの下の少女の素顔が。
一瞬しか見えなかったけど……凄く、物凄く綺麗だった。歳は、俺と同じ位だと思うけど。こうも美人だと目を合わせづらい。
「さっきからどうしたの?
そわそわしてるけど」
「あれだよ、リア。君の事を意識してるんだよ。君があまりに可愛いから」
「はいはい、煽てても何も出ませんからね」
いや、その猫の言う通りなんですよね。私し、貴女様に緊張しております。
「それで貴方は?
ここでは見慣れない服装だけど?」
はい、私しも貴女様の服装は見慣れません。なんて言っても通じないんだろうな。ここはちゃんと自己紹介するとしよう。
「俺の名前は衛宮 士郎。
そうだな、職業は流れ者だ」
「流れ者って職業、初めて聞くんだけど。それにエミヤ シロウ?」
慣れぬ名前の呼び方なのかカタゴトで言われた。
「変わった名前ね……もしかして貴族の人とか?」
「いや、俺は普通の庶民だよ」
「ふーん、エミヤ シロウ。いい名前ね」
エミ……エミリアは「エミヤ、シロウ……シロウ、エミヤ シロウ……」とカタゴトで俺の名前を何度も復唱する。そんなに変な名前かな?
普通の名前だと自負している士郎からすれば複雑な気分だ。馬鹿にはされてないと思うけど変な名前だとは思われているのだろう。
「で、君の名前はエミリアでOKかな?」
するとエミリアは。
「ど、どうして私の名前を知っているの?」
なんてコントみたいな返しをしてきた。
「そこの仔猫が君の事をエミリア、またはリアって呼んでたから」
「ぁ、あぁ、そういうことね」
胸を撫で下ろし「ふぅー」と溜息を付くエミリア。その仕草に少し疑問を抱いた。
まるで自分の名前を知られたくないような……そう、自分の正体を隠している様な。
いや、そんな訳ないか。自分の名前を知らないはずなのに急に呼ばれたから驚いてるだけか。
「で、その仔猫の名前は?」
「ンニャっ?」
エミリアの肩の上で目元を擦っている姿なんでまさに普通の猫そのもののだが、あの猫は人間の言葉を喋る猫。普通の猫な訳がない。
「僕の名前はパック。
しがない精霊だよ」
────精霊?
「しがなくなんてないわよ。
パックはとても凄い精霊なんだから」
「それは言い過ぎだよ」
なんて言いつつ照れてる猫……パック。
なんか名前と見た目が一致しないような気もすけど今は置いといてっと。
「その……精霊ってなんどす?」
「なんどす……?
また、使い回しのよさそうな言葉……じゃなくてエミヤ シロウは『精霊』を知らないの?」
一般常識ですよ?みたいな視線を向けられる。
「士郎でいい、その精霊ってのはなんなんだ?」
「本当に知らないの?」
「リア、彼は本当に精霊を知らないみたいだよ」
その精霊とやらは俺の瞳を見据えて。
「それにしても……なんて穏やかな心の持ち主なんだ。君、本当に人間?」
「失礼な、どう見ても人間だろ。
何処を見たら俺を人間以外の生物に見えるんだよ」
「その真っ直ぐな瞳だよ、まるで龍の心の様だ」
「それは褒めてるのか?
よく分かんないニュアンスなんだけど」
「褒めてるよ、君みたいな人間はごく稀だからね。今日は絶滅危惧種に会えて嬉しいなぁ」
「馬鹿にしてる?
ねぇ、馬鹿にしてるよね?」
「はいはい、その辺で」
とエミリアが割って入ってきた。
「パック、初対面のシロウに失礼じゃない」
「いやぁ、この子の反応が面白くてさ、ついね」
「あんまりいじめないの。
うちのパックがごめんね、シロウ」
「エミリア……僕の娘よ、父である僕の事をそんな風に扱うなんて。君は成長したんだね、それは嬉しくもあり悲しくもある」
「はいはい、そうですね」
そんな光景を。
なんて茶番劇を目の当たりにすると自然と俺は笑みを零していた。
「うん、さっきのうんざりした表情とはうって変わって笑顔だね」
パックはニコッと微笑み。
「朴念仁みたいな子かと思ったけどちゃんと笑えるじゃん」
「やっぱお前、失礼な猫だな」
「猫じゃない、パックだよ」
「あぁ、パック。お前は失礼な猫だよ」
互いに謎の笑みを零しながら互いの拳を叩き合う。
「あの、これはなんなの……?」
完全に置いてきぼりのエミリアは問い掛ける。
「これは友情の印みたいなもんだよ」
「友情って……もう、友達になったの?」
「エミ、友達って言うのは自然と出来るものなんだよ」
「そ、そうなんだ。
友達って友達なろって言ってから友達になるんだと思ってた」
「まぁ、それも正当法の一つだな。でも、本当の友達ってのはそんな事、言わずにいつも間にか友達になってるんだぜ」
「……不思議、なんでこんなに説得力を感じるの」
「それは目の前の光景を目の当たりにしたからさ。友達になるのに言葉なんて必要ないんだよ」
「そう、なんだ。
ふむふむ……友達になるのに言葉なんて必要ない」
エミリアの表情は理解できるようで理解できないようだけど彼女ならいつかきっと理解出来るだろう。
あれ、なんかその考え方だとエミリアはボッチって事になるけど……。
「そのエミリア……さん?」
「ん、エミリアでいいよ」
「お、おぉ。じゃあ、エミリア」
「なに、シロウ」
「ちょっと聞きたい事が、あるんですけど」
「ここは一体、何処でせう?」
街中の商店街は沢山の人で賑わっている。
明らかに人じゃない人も混じってるけどあれも人の一種らしい。エミリアの説明によれば『亜人』だそうだ。
例えば、そこの狼男。
確かに体格は人間ぽいけど見た目は人間ではない。人間にはない、狼の様な毛並みや牙。あんなので噛まれたら骨ごと抉られそうだ。
例えば、すぐそばの武具屋で自慢の武器と防具を見せびらかしている巨人族。普通の人間よりふたまわりほど大きい肉体にパワフルな筋肉。あんなので殴られたら一発で失神するだろう。
とまぁ、この『世界』ではそんな非現実が普通らしい。
俺が何故、ここが別の世界なのか解ったのかって?
そんなの簡単だ、ここは非現実的だからだ。
答えになっていない結論に疑問はない。これは確実に言えるのだから疑問に思う必要はないのだ。
魔術も存在しないとなるとここの世界は元の世界とは勝手の違う世界……と思ったけどこの世界にも魔術的なものは存在するらしい。
それが、『魔法』
魔法と言えば元の世界なら魔術の上、失われた技術とまではいかないが魔術とは比較にならないほどの力を秘めた異能だ。この世界の魔法をまだ目の当たりにしてないので何とも言えないが、もし、仮にこの世界の魔法が元の世界と同等のポテンシャルを秘めているのなら────────。
想像するだけで恐ろしい。
俺の魔術なんて魔法と比べてたら屁の河童。魔法の前ではなんの役にも立ちはしない。
第五次聖杯戦争のキャスター 『メディア』の魔法を思い出す。
あれは人の身で成せる技ではない。
あんなのをこの世界の住民が、バンバン撃てたなら「お家、帰るん」と言い残し、この場を去っていただろう。
だが、やはりこの世界にも才能は重要なものであるらしく。全ての人間が魔法を使える訳では無いらしい……ふぅ、安堵です。
殆どの人間は魔法を使える程度のキャパシティを備えているそうだが、教える人もいなければ自ら率先して学ぶ者も余り居ないそうだ。
なんでも、魔法の発動代償は自身の『魂』を削るらしい?
エミリアは小さい子供に絵本を読んであげるように。
「魔法って言うのわね、二つの方法で使えるの。
一つは自身の魔力【オド】を対価に発動する方法と。二つ目は微精霊の力を借りて発動する方法」
「基本的にはその二つだね」
パックは付け加えるように言った。
「で、魔法の種類もあってね。
これは見せた方が早いかな」
「そうだね、実際見てみないと分かんないかもだしね。そうだ、ならついでにシロウの属性も見極めてあげるよ」
「属性……?
へぇ、ここにもそんなのがあるんだな」
以前、遠坂に調べられた時は【剣】って言われたけどこの世界だともしかしたら違うかも知れない。
なんでも俺は剣に愛されているらしい。
だから剣を投影する才能に関してはピカイチと称された程だ。
まぁ、俺の投影魔術で一番上手く投影出来るのは剣だから。遠坂の言う通り俺の属性は剣で俺は剣に愛されているのだろうと改めて再確認させられる。
「よし、じゃあ少し頭の上をお邪魔するよ」
そう言ってパックは俺の頭の上に飛び移った。
「じゃあ、一度深呼吸をしようか」
「あぁ……ふー、すーぅ」
息を吸って吐いて、息を吸って吐いて。
「もう、いいよ。ちょっと君のゲートを覗かせてもらうから少し、気持ち悪いかも知れないけど我慢してね」
直後、俺の中の何かに何が触れた気がした。
これは……俺の魔術回路に直接、手を当ててるみたいだ。
撫でるように、擽られるようにその感触は続く。
「うーん、ちょっと君のゲートは複雑だね。まるで糸の繋ぎ目を何重にも掛け合わせたみたいだ」
「……それって、凄いの?」
「凄い、うーん……褒めるような事でもないんだけどこれだけ複雑だと難易度の高い魔法でも使えるんじゃないかな?」
「最後の、疑問形は、気になるんですけど」
「あんまり無理して喋んない方がいいと思うよ。今は落ち着いて……もうちょっとで終わるからもう少し我慢してね」
「結構、時間掛かってるわね。
普通ならすぐ終わるのに」
「普段なら、そうなんだけどね。
ゲートって例えるなら一つの穴なんだけどシロウの場合、穴であるはずのゲートが何重にも重なってるんだよ」
「それって、珍しいの?」
エミリアは疑問を浮かべ、俺の頭の上で寝転がっているパックに質問する。
「珍しい分類には入ると思うけどシロウのゲートの大き自体はそれほどでもないんだ。小さなゲートを重ねた集合体ってだけでそんなに希少価値はないよ。まぁ、珍しいって言えば珍しんだけどさ」
「なんでそんなに複雑なの?」
「それを今から調べようと思ったんだけど。このまま続けてるとシロウが死んじゃいそうだ」
「ちょ、シロウ!」
ふらふらと身を震わせる士郎。
そして壁にもたれかかり、「へ、Help me……」と言って座り込んだ。
「何を言ったかは解らないけど助けてってことよね。まかせて、」
エミリアは士郎の肩に触れ、目を閉じる。
そしてブツブツと小声で何かを言ったあと先程までだるだるだった士郎の身体に生気が蘇った。
「あれ……」
「良かった、大丈夫そうね」
そう言って俺の背中を撫でるエミリア。
「少しやり過ぎちゃったみたいだね、ごめん」
俺の頭をぺしぺしと優しく叩く感触。謝罪と可愛さのハーモニーで誤魔化そうとしてませんかね、パックさん。
「んっ、立ち上がれない……」
足に力が……入らない?
足だけじゃない、身体全体が重い?
「ほんのちょっぴり君のゲートに干渉し過ぎたからね。少しの間、身体の五感に異常をきたすと思うけど大丈夫。すぐに治るよ、多分ね」
「おい、最後の方にさらっと怖いこと言うな!」
「大丈夫、大丈夫だよ。
長くて数年、短くて数分だから」
「長くて数年って長すぎだろ!?
って、短くて数分ってどんだけ時間差あんだよ!」
「こればっかりは人によるんだよね。ほら、薬の効き目とか人によって違うよね。すぐに効果の出る人もいれば効くまでに時間の掛かる人もいる。これもそれと同じ現象だよ」
そんなアバウトな説明されても……。
いうことのきかない身体を力を入れても反応は鈍い。だが、さっきよりは楽になった。
「お、治ってきたね」
「あと、もうちょいで立てそう……な、気がする」
「頑張ってシロウ、頑張れ頑張れシロウっ」
エミリアの声援で元気になりもうした。
ウォォォォォォセイバーッ!
ふらふらと産まれたての小鹿のようにシロウは立ち上がった。
「おぉ、頑張ったね」
「頑張ったね、じゃねぇよ。
立ってるだけで精一杯なんですよ」
「大丈夫?
私の肩使う?」
今にも倒れそうな俺の身体をエミリアは優しく支えてくれた。
うぅ、優しさが染みるです。
肩を借りようと手を伸ばそうとしたその時。
「男の子なんだからこれくらい大丈夫だよ。それとリア、そんな易々と人に肌を触らせるものではないよ。特に年頃の男の子にはね」
いつの間に移動したのか、パックはエミリアの肩の上に居た。「ここは僕の定位置だよ」と言わんばかりの視線に士郎は手を引き、壁に手を伸ばす。
「困ってる人を助けるなら問題ないと思うんだけど」
「それはそれ、これはこれ。
君は優しすぎるんだよ」
「別に、そんな事はないと思うけど」
「なんにせよ、僕の目が黒いうちはリアにはなんびとたりとも触れさせないよ。あ、女の子は可ね」
などと抜かしやがる小悪子猫。
だが、一理あるな。エミリアは年頃の女の子なんだ、そんなみだりに肌を触れされるのはちょっとどうかと思う。
「エミリア、俺は大丈夫だ
ほ、ほっほらぁ……なんとか、じゃなくて……立てたよ」
無理矢理スタンドアップ。
よ、余裕っすよ……っと笑顔を作り、てこてこと歩き始める。
「ステップも、ほれこの通り」
「でも、シロウ。物凄くふらふらしてるけど」
「そ、そんな事はないですよ。
ジャンプだってほらっ」
約20cm程ジャンプする士郎。
動け、動けと命じても身体は言う事を聞いてくれず。気分の悪さは無くなっても五感の調子は戻らない。パック曰く、すぐに治るよって言ってたけどあんなアバウトな説明されると余計、不安になるんだよね。
「さて、おいどん歩けるでそうろう。いざ、まいらん!天竺へ!」
「そ、そうね。
天竺は解らないけど」
***********
この国の市場を改めて歩いて感じたこと、それは活気の良さだ。
最初、ここを通った時は疑心暗鬼で周囲を警戒しながら通っていたので人混みに紛れながら歩いてもそんな事は思わなかったが、改めてこの人混みに紛れるとそう実感させられた。
「それにしても……凄い、賑わいだな」
「今日は少ないくらいよ。
普段はもっと凄い人盛りなんだから」
……もっと。今より多いなんてどれだけの人混みなんだろう。
今日、買物で出向いた商店街なんて比じゃないほどの人の数。歩くだけで一苦労だ。
「それで、エミリアは何処に向かってるんだ?」
士郎を先導するように先に進むエミリアに言った。
それにしてもよく、こんな人混みの中をすいすいと行けるもんだ。この道を歩き慣れてるのかな?
「確か、この辺だったと思うけど」
エミリアは人混みの中、左右を見渡し、何かを探し始めた。
「何を探してるんだ?」
「この王都を見回る衛兵の詰め所……なんだけど。あんまり、ここら辺を歩いたことないの」
虚著らと右に行こうか、左に行こうかと悩むエミリア。
「そ、それなのにそんなすいすいと歩いてたのかよ」
「だって、シロウは困ってるんでしょう?
困ってる人は助けなきゃ」
子供じみた発言で俺の手を引っ張るその姿は幼き少女のものだった。見た目は俺と同じくらいなのに行動は幼く見える。
「それで、その詰め所ってのはどんな所なんだ?」
「困ってる人を助けてくれる場所」
なんと大雑把な返答だろう。
なんか不安になってきたので少し、質問の仕方を変えることにした。
「それって悪い事をした人達をとっ捕まえる所かな?」
「ん、そうね。そういう事もしてたわね。身元不明な人を取り調べしたり、悪さした人を事情聴取したり」
「ちょ、そんな所は行きません。
リターン! 回れぇ右!」
「なんで?
シロウは困ってるんでしょ?」
「うん、困ってます。
でも、そこって警察的な何かですよね!?」
「ケイサツ……?
ごめん、何を言ってるのか解らないんけど」
どうやらこの世界には警察が存在しないらしい。いや、これは考え方を変えよう。ここは昔、一回り昔の世界としよう。勿論、そんな時代に警察なんて存在しないない。なら、その警察の代わりはなんなのか?
そんなの考えなくても解る。
「怪しい人や悪さした人をとっ捕まえてお金をゲットする野蛮な人達の集まる所だよ」
「そ、そんな所なの?
ケイサツって恐い」
警察への風評被害になっているが、ここは異世界だ。特に問題は無い……よね?
「でも、シロウは自分が何処からここまで来たのか解んないだよね?
なら、助けを求めるのも一つの手じゃないかな」
エミリアの頭の上で気持ちよさそうに丸まっているパックからの一言。
一応、エミリアとパックには話して信じてもらえるであろう妥協ラインで俺の事とここにやって来た経緯までは説明したけど……。
「でもさ……そうなると俺の扱いってどうなるの?
変な服装、もしかして不審者ですか?的な扱いですかね?」
「それも有り得るね、確かに君の服装は変だ」
「そうね、確かにシロウの服装は変ね」
「さっきから変、変ってそんなに変ですかねこの野郎!」
うぅ、涙目でせう。
「ま、まぁ、なんとかなるよ。
ファイト、シロウ」
「進まないと先には進めないからね。ここは流れに身を任せてみようよ」
……流れに、身を任せる。
ここに来てから数時間とも経ってないけど俺は流れに身を任せここまでやって来た。
見知らぬ土地に見知らぬ言葉。
変な輩には絡まれるし、道を歩けば寄ってたかって珍しがられる。ここに来てからいい事なんて一つもない。
幸運な事と言えば人の良すぎる少女 エミリアとの出逢い。それでも、やっぱり居心地がいいとは言えないけど。
「そうだよ、シロウ。
私も手伝うから、ね?」
顔を近付け、真に迫ってくるエミリア。
ちょ、近い。少し離れろ。
離れようと足を下げる。だが、何かに引っ掛てそれ以上、足は後ろに下がらなかった。
「ちょ、離れてくれますッ!?」
女の子慣れしていない残念な士郎さんでした。
後書き
誤字、脱字多いよね……すみません。
あったら感想_| ̄|○)) よろしくお願いします ((○| ̄|_
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