おたく☆まっしぐら 2016年の秋葉原
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オタクの心は静かにひずんでいく
前書き
オタク イズ デッド的な感じで!
秋葉原の朝。
今のこの街は以前までの電気街withオタク街ではない。
すでに観光地化され、ビジネス街化しつつある今、オタクという存在はこの街の複数ある個性になっている。
明「さて……バイトにいくか」
本郷はバイトにでる。次元連結でお金はほぼ無尽蔵だが、働かねば気持ち的に興がそがれる。
オタクはアニメや漫画が見られたらいいって? そらそうだ!
明「ん?」
街の人はまばら。
それもそのはず秋葉原には8000人程度しか住んでいない。
本郷もその一人なのだが、彼は特別だ。
店も飲食店くらいしか開いてない街を彼は歩く。
中央通りを歩いていると前から一人の男が歩いてくる。
???「…………」
体つきはクマのように大きく、目もまるで戦場を駆け抜けてきたかのようにいかつい。遙か昔に流行った指なしグローブを装着していた。
本郷はその男の隣を通る。
???「……おい」
本郷「…………」
無言で振り返ると、熊のような男は静かに、
???「秋葉原も変わってしまったな」
本郷「もともと変わりやすい街だ」
???「それもそうか。お前も俺と同じ古い人間のような気がする」
本郷「そうかもしれない。だが、俺はオタクでいられればいい」
クマのような男は大きく笑う。
???「そうか。それもひとつの選択だな。お前の魂は俺達に似ている気がしたんだ」
彼は屈託のない笑顔を浮かべる。
本郷はその顔から決意みたいなものを感じ取った。
明「やめろ、昔に戻そうなんて考えるな」
熊のような男は歩みを止めない。
???「俺達の街は俺たちの手で取り戻す」
男は去っていく。
明「そうか、こういう世界なのか」
本郷は現代の秋葉原をまるで綿が水を吸い込むかのように吸収してみせた。
オタクに国境などなく、時代の流れに最適化されていく。
たとえ幾重の歳を刻もうとも。
明「今も昔も変わらぬものは多いのだな」
オタクは二分化され、追いやられた昔のオタクたちの怨念は今もこの秋葉原に張り付いている。
明「そうか、ここは別の世界。彼らは今も……」
本郷のこの願いはかなえられない。戦争はすでに始まろうとしているのだ。
ちはる「その話なんで私に言いますか……」
明「バイト中の他愛もない話のひとつだ」
ジャパニメイト秋葉原。
本郷は労働に勤しんでいた。
同人誌をシュリンクする。いわゆる裏方作業中。
ちはる「もっとこう乙女を喜ばす話ないんですか」
明「……秋葉原にあるコスプレ風俗の話についてなんてどうだ。ふうか姫というんだが」
ちはるは本郷の頭を叩こうとする。しかし彼の運動神経は秋葉原の地形特性と、持ち前の筋力でなにごともなく避けてしまう。
ちはる「ころすっ!」
明「おちつけ、お前だって彼氏の1人や10人いるだろう?」
ちはる「一人もいない……ってそんなこと言わせるな! クズオタク!」
沸騰したヤカンのようにぷりぷりと怒る彼女だが、店内では華麗な立ち振る舞いをするお姉さん的ポジションだ。
明「店とここじゃ雰囲気変わるな。お前」
ちはる「調子狂わされっぱなしっ……ほんと、なんでこんな奴が気になるの……」
明「……はっ? お前俺のこと」
ちはる「違う! そうじゃない!」
彼女の顔は真っ赤であった。
シュリンク作業に戻りつつ、本郷は手を動かしていく。
明「なぁ」
ちはる「はい、なに?」
明「オタクっていつまでも続けていけるって思うか?」
その言葉にちはるは少し考えるように天井に視線を向ける。
ちはる「逆に聞くんですけど、本郷さんはオタク辞めないんですか?」
明「やめる? なぜだ?」
ちはる「ほかに好きなものできたとか、例えば彼女とか」
明「俺の嫁は家にいる」
ちはる「誰もあなたの抱き枕について聞いてない」
明「仮にできたとしても、俺の趣味を理解できる者はオタクしかいない」
ちはる「そっか、あなたならオタクな彼女と付き合えそうですもんね」
彼女は少し安堵したかのような溜息をつく。
明「どうしてそこで三次元の女を出した」
ちはる「そういうので辞めちゃうんですよ。そもそもオタクが根暗とかキモいって相当過去の話です。普通ならモテるくらいですよ」
歴史的に言えば2010年にもなると、アニメや漫画趣味が貶されることなどなくなって、今となっては主流へと変わっているのだ。
恋人だって出来るし、クリエイターとなれば賞賛の嵐だ。
明「そうだな、俺のようなドス黒い感情をもって入ったやつらなどいないのか」
ちはる「なんですかそれっ! おもしろい!」
身を乗り出すちはるに、本郷は微動すらしない。二次元に生きる男は違う。
明「モテない男ってのはだな」
ちはる「本郷さんがそれ言うのおかしいですよ。その、趣味は深すぎですけどいい男性だって思いますよ?」
明「だからお前、俺に……」
ちはる「ちがいますから! ちがいますからね!」
彼女は手をぶんぶんと振る。
明「じゃあ、昔のオタクってどうなると思う?」
ちはる「そうですね……辞めちゃうのがほとんどじゃないですか?」
社会人になればおのずと時間がなくなり、フェードアウトしていく。
ただの一般人へと戻る。
それが嫌なら非正規か、時間の融通の利く仕事に就くしかない。
明「だが、辞められないやつらはどうなるんだ?」
ちはる「えー……今の作品についていけなくなったら……やめるとか」
本当にそうなのか。本郷はそうではないと思っていた。
明「オタクを続けていくというのは難しいものだな」
ちはる「趣味なんですから、そこまで入れ込む人は少ないって感じじゃないですか?」
彼女の言葉に本郷は少し苦笑いを浮かべる。
明「ああ、みんな浮かれていたんだ。今も昔も」
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