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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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人形-マリオネット-part1/暗躍する宿敵

あの後、アンリエッタの口添えと、サイトの正体に察しを付けたことで、ヴァリエール公爵夫妻はルイズが国のためにアンリエッタの女官として働くことを許可した。
こうしてルイズは無事、ヴァリエール領から軟禁される危機を免れた。
しかし、サイトは驚いたことにルイズの両親に正体を見抜かれていた。特にバレるような要素を出した訳でもなかったのに人の見抜くなんて、どんだけ洞察眼が優れてんだよあの人たち…とサイトは思った。ルイズの話だとカトレアも勘が鋭いそうだ。そのうちルイズにも正体がバレるんじゃないかと思えてきた。寧ろ彼女の傍にいる時間が多いのに気づかれてないことが奇跡みたいだ。
まあそれはそうと、確かあの後公爵からルイズのことをちゃんと守れるようにしなければと、サイトに強制特訓を施した。異星人を手玉に取ったほどの魔法の力を発揮したルイズママの旦那様なだけあって、パパの方もとんでもない魔法の力を持っていた。といっても、特訓だからあくまで片鱗しか見せていなかったようで、これ以上はジープに追いかけ回されたような感覚になるに違いない…とサイトは思ったらしい。おかげでアンリエッタのラ・ヴァリエール来訪のもてなしパーティには殆ど参加できなかった。
でも、そのことで愛娘であるルイズとカトレアから小言を言われてしまっている。溺愛している分、二人の娘から叱られ落ち込まなければいいのだが…。


さて、ヴァリエール領からトリスタニアへ戻る際のことだった。
出発前、アンリエッタに同行していた者の一人であるジュリオが、ゴモラに続いて新たな怪獣を出現させた。
「こいつは…」
「これが、竜よりも早く移動することができた理由さ」
新たな怪獣を使役しているジュリオに警戒混じりに驚きを感じながら、サイトはジュリオの新たな怪獣の姿を見上げた。
「原始怪鳥リトラ…」
それは、タバサのシルフィードよりもさらに一回り大大きな鳥型の怪獣だった。
リトラ。怪獣頻出期、ウルトラマンが飛来する以前の時期に現れた最初の怪獣の一体だった。怪獣は人類の敵に回る個体が多いが、ピグモンのように友好的な種もいる。実は最初の怪獣の一体がまさにその内に入るとは、怪獣に詳しくない人からすると驚くべきことかもしれない。
「クルルル…」
リトラは今、サイトたちを興味深そうに見下ろしていた。
「サイト…こいつ大丈夫なの?」
敵意がないとはいえ、いや明確な敵意がないからこそこの手の怪獣にはつい警戒してしまうルイズ。
「おやおや、サイト君じゃなくて僕かカトレアさんに聞くところじゃないのかい?」
肩をすくめながらジュリオがルイズに言った。
「この子もピグモンと同じね。私たちを別に食べようとしてる訳じゃないわ。あくまで興味があるだけよ」
「は、はあ…」
「ジュリオの使い魔みたいなもんって思えばいいんじゃないか?」
「そうね…そうするわ」
カトレアとサイトに言われたとおり、ルイズはとりあえずリトラのことを、そうとらえてみることにした。
「ルイズ」
ルイズたちの下へ、彼女の家族や使用人たちが全員見送りのために集まってきた。公爵がルイズに向けて手招きすると、公爵は父としての優しい顔を浮かべ、ルイズの背にあわせて身をかがめて語りかけてきた。
「まだお前は私たちにとって小さいルイズのままだ。だが、お前はそのままでいることをよしとしなかっただろう。だからこそ、巣立とうとしているのだと、今ならこの父にもわかる」
「お父様…」
「ルイズ、もう婿を無理に取れとはいわんさ。
もし陛下が道をたがえるならそのお間違いを、危ない目にあいそうになったら幼き頃から友達であることを認めてもらったお前が守ってあげるのだ。
だが決して無理をしないでおくれ」
「…はい」
胸がいっぱいになったルイズに、公爵が額に接吻し、そっと離れた。
ルイズは、あの事件を通して気づいたが、自分はこんなにも家族に愛されていたのだと、今の父の言葉で改めて実感した。
フーケの事件の際、『ゼロ』と馬鹿にされるのが嫌だから考えなしに突進しようとしたことがあまりにも馬鹿馬鹿しく思えてきた。同級生からも、家族からも『ゼロ』だと思われてきた。それを見返すためにもアンリエッタのためにと命を懸けてきたが、見返すためだけならそんなことをすることなんてなかった。『ゼロ』である以前に、自分は彼らから愛された家族で、この世で唯一無二の『ルイズ』なのだから。
「ルイズ、いつでも帰っておいでなさい。ここはあなたの家なのだから」
「はい、お母様」
「ちびルイズ。陛下にくれぐれも粗相のないようになさい」
「は、はい…エレオノールお姉さま」
母も苦手だが、頻繁に頬をつねってくるエレオノールも違う意味で苦手なルイズは、いまだに彼女からこれらしい言葉を送られていないため、ついたじろいでしまう。
が…
「…ま、その…気をつけていきなさい」
「え?」
「へ、返事くらいしたらどうなの!?返事は!?」
「は、はいいい!!」
一瞬エレオノールが、そっぽを向いて顔を少し赤らめながらルイズに言うが、予想していない姉の言動に思わず耳を疑ってしまい、当然ながらエレオノールからいつものごとく怒鳴られてしまった。
ようやくルイズに、彼女なりながらも優しい言葉をかけたエレオノールを見てカトレアがクスクスと笑っていた。
「……」
サイト、そしてゼロは彼らを見て感慨に更けていた。
家族とはやはりいいものだと思えてならない。家族がいた頃は、たまに小言を言ってくる親が疎ましく思えたときもあるが、それは自分が愛され、幸せの中に生きている証なのだと再確認した。
今回の事件で、ルイズは精神を追い詰められ、危うく星人の間の手に落ちるところだった。だが、家族の愛を確かめたことで、彼女は家族との絆に気づき、救われた。
(心を救う…か)
ムサシは言っていた。相手を救うためには、何よりも相手を救いたいという『己の心』が大切なのだと。ルイズと彼女の家族のやり取りを見て、ヒントがそこにあるのではないだろうかと思った。
「では、ハルノさんもお気をつけて」
カトレアは視線をムサシの方に傾けて見送りの言葉を送った。
「はい、見送りありがとうございます」
「……」
しかし、ルイズのこともそうだが、カトレアのムサシを見る視線はどこか寂しげだった。
「ちい姉様?どこかお体の具合いでも…」
「あぁ、なんでもないわルイズ。心配しないで」
いち早く気づいたルイズがカトレアに尋ねるが、カトレアは誤魔化すように笑った。
「では公爵、そしてご家族の皆様。また後日お会いいたしましょう」
「はっ、陛下もお気をつけて」
最後にアンリエッタが公爵たちに一時の別れの挨拶を済ませ、リトラはサイトたちを乗せて飛び立っていった。



「サイト君どうだい?リトラの乗り心地は」
「まあ、悪くない…」
リトラの背にに乗ってトリスタニアに向かう中、ジュリオはサイトににこやかに尋ねてきたが、サイトはジュリオとあまり話したくなかったので適当に返した。
「…」
ルイズは上空から、遠くなるヴァリエールの地を見下ろした。幼い頃は、『ゼロ』である自分にとって一種の牢獄のようにも思えた。けど、今ほど故郷がいとおしく思ったことはなかったかもしれない。
「ヴァリエール夫妻から、ルイズのことを預けてもらえてよかったわ。
なにせ、片方はあの『烈風』殿でしたから」
「烈風?」
アンリエッタのほっとした様子に、サイトやハルナが首を傾げた。
「二人にはまだ言ってなかったわね。
私の母様は、かつて魔法衛士隊のマンティコア部隊の隊長だったのよ」
「ええ、私もサイトさんが公爵の特訓をお受けしている間、お話を聞きましたが驚きましたね。あの伝説のメイジである『烈風カリン』殿だったなんて」
「ルイズさんのお母さんって、そんなに凄い人だったんですか?」
どうやらこの国では元々かなり有名な人だったらしいが、地球人であるハルナやサイトは知らなかったこと。ハルナがルイズたちに尋ねると、アンリエッタがそのことについて一つ教えてくれた。
「もう30年以上も昔ですけど、かつてこの国の貴族であったエスターシュ殿が乱を起こしたことがありましたが、その乱をたった一人で鎮圧なされたことがあるのですよ。他にも一人でドラゴンの群れをやっつけたとか、ゲルマニア軍と国境付近で小競り合いになったときも、彼女が現れたと聞いて逃げ出すものが続出したとか」
「ひ、一人で!?」
「そうそう、オーク鬼に襲撃された都市の救出、火竜山脈のドラゴン大事…私、子供の頃あの方の武勇伝を聞いてひそかにあこがれておりましたのよ」
「…陛下、あまり興奮なされると危ないです」
「あ、あらら…ごめんなさいアニエス。つい興奮してしまって」
熱弁するアンリエッタはかなりテンションをあげていて、アニエスがここはリトラという怪鳥の背中であることを思い出させることで落ち着かせた。
ルイズは、母のことをアンリエッタがここまで強く憧れてくれるのは娘として嬉しく思う気持ちが起こる一方で、くすぐったいような、ちょっとむずがゆさも覚えた。
どこぞの無双ゲームのようではないかと、かつて地球で暮らしていた頃にプレイしたゲームで例えながらサイトは思った。敵軍をたった一人で、食い止めたならまだしもつぶしてしまうなんて、どれほど凄いのだ。異星人でも等身大でそれほどの力を持つ戦士など滅多にいないだろう。
「そんなとんでもない人だったのか…僕も実際にあの人の魔法を見たのは先日の事件が最初だけど、あれほどとはね。正直驚いたよ」
つい過去形で言ったが、ルイズがエレオノール以上に畏怖するほどだ。
しかも異星人を葬るほどの強力な魔法使いで、その威力は異次元のウルトラマンでもあるムサシも今言ったように、そしてレッドキングさえも驚かせた。それに、サイトの正体さえ見抜く。しかも鋼鉄の規律とか言う、いかにもな堅物さと厳しさを兼ね備えていたとは。果たしてウルトラマンレオと比べるとどちらが厳しいのか…本来許可を決しておろされることのない願いではあったものの、よくそんな人を相手にルイズにGoサインを出してもらえたものだ。
「ただ、実際に会ってみて驚かされたものですわ。魔法衛士隊は女人禁制の部隊ですから、烈風カリン殿が女性で、それもルイズの母と同一人物だったとは」
「つまり、軍に入るために男性の部隊に入るためにあえて男装していたってことですか?」
ハルナはそれを聞いて、結構大胆な選択をしたルイズの母に、そのあたりに関しても少し驚いた。女性が男装してとはいえ、男だけの軍に入るなんて、バレてしまったら即軍から追放、あるいは罰をうけるかもしれないし、弱みを握られて何か良からぬことをされる可能性だってある。…最も、される前に彼女なら魔法で口封じしてしまっていたかもしれないが。
「私としては、エレオノールお姉様からも母様からも、思ったほど大きな罰を受けなかったことが幸いよ…正直、何をされるのか…
本気を出したら、サイトがお父様から受けた特訓(というか拷問)なんかかわいい物よ。母様は軍機違反が何よりも大嫌いだから」
それを聞いて、周囲の空気がカリーヌへの恐怖に満ちた。特にサイトが。ルイズパパからの特訓という名の『あれ』よりも恐ろしいものを出せるとは。正直、先日の事件でカリーヌに倒されたセミ人間には同情する。…いや、寧ろあまり長いこと痛い目に合わされないうちに倒されたのが幸いと言うべきか?
ただ、ジュリオだけはいつもどおり笑っていてまったく恐怖している様子はなかった。
「そういえばサイト、あの後お父様から何か言われなかった?」
父のことも引き合いに出したことで、ルイズはサイトが、自分の父から何か言われなかったかを尋ねた。
「あぁ、言われたよ。『ルイズのことだから。これからも陛下のために尽力することだろう。その分あの子の身に危険も伴うに違いない。あの子の虚無を狙う輩の分もまとめてな…』『よいか、ルイズに万が一の事でも起こしてみよ。しくじったら、君の首を一か月さらし首にするつもりでいろ』ってさ…」
「お父様ったら…」
ルイズは、父がどこまでも娘に対して心配性であることを再認識し、呆れた。今回婚約者を押し付けてこようとしたり屋敷に無理やりにでもとどまらせようとしたのも、結構な親馬鹿っぷりがそうさせたのだとわかる。
「ま、言われなくてもそのつもりだったよ」
「え?」
「俺はお前の使い魔だ。お前を守るなんて当然だろ?」
「…ふ、ふん!ようやく自覚が出てきたってわけね。ま、褒めてあげる…わ」
サイトのさりげなくも、固い決意に満ちた言葉に、ルイズは隠そうにも隠しきれていない嬉しさを、やはりいつものようにツンケンした態度で誤魔化した。
「…」
(けど、親…か)
そういえば、とサイトはあることを思い出す。
(義母さん…元気なのかな)
中学時代、家族を失った自分を孤独から救った義母のことを、彼は心地よい風を浴びながら思い出した。故郷に帰る際に真っ先にすること、それは母に自分の存命を伝えることだ。それだけで親は安心する。思えば、長いこと地球を離れてしまっている。
ゼロも、サイトの目を通して先ほどまでのやり取りを聞きながら、自分の父のことを思い出した。
故郷=光の国で物心付いたときには、家族はおらず、孤児として生きていたゼロ。孤独ゆえに荒れてしまい、そして危うく悪の道に落ちかけるほどの大罪を犯した。そんな彼を、父は師たちと共にずっと影ながら支えてきてくれていた。
((会いたいな…だけど…))
二人の意識と言葉が、心の中で重なる。
この世界も、地球と同様に、怪獣が暴れ、数多の侵略者たちに狙われている。しかも、虚無のルイズやその母で優れたメイジであるカリーヌ、そしてこれまでこの世界であってきたグレンファイヤーなどの頼もしい味方がいても、地球ほど防衛力に富んでいないこの世界は格好の的だ。
これを無視して地球に帰れば、忘れたくても忘れられない悲劇がこの世界の各地に起こり、人々が苦しむことになる。
気が付けば、帰りたくても帰るわけにいけなくなった状況に立っていた。
一方でハルナは、少し暗めの表情を浮かべていた。
サイトは確かに、自分との間に、必ず地球へ帰るという約束を交し合った。それは確かだろう。でも…約束が必ず守れられるものとは限らない。だから口約束を無意味と感じる人もいる。
自分とサイトの間の未来に、彼女の心の不安は蘇り、そして強まり始めた。



同時刻、公爵家一家は去っていくリトラと、その背に乗るルイズたちをバルコニーから見送っていた。
「お父様、本当によろしかったんですか!?ルイズが本当に虚無の担い手だとしても…危険に身を投げるとなれば…」
エレオノールが、まだ納得できない気持ちを露に声を上げる。意地とか対面とかそれらを抜きしにしても、ルイズの身を考えると、女王の膝元に置くということは、同時にあえてルイズの力を発揮して敵を追い払うために彼女を前線に出すようなもの。今まで『ゼロのルイズ』という認識が強かっただけに、自分たちがなんとかしなければならないという考えが根強かった。
「我が領土にもあの子を狙った侵略者が現れたのだ。我々の力だけで防げるのなら苦労はない。どこに身を置いたところで同じことよ」
「け、けど…」
「お姉さま、ここはお父様たちの判断を信じましょう。本当ならルイズの希望に反対だった二人が、あの子たちを信じることにしたのですから」
虚無を受け継いだといっても、やはりあの子はまだ子供なのだという考えが強く、故に心配していた。だが自分以外の誰もが、ルイズの背中を押してしまっている。父に続き、カトレアからも言われるが、口に閉ざしただけで、やはり内心ではエレオノールは納得できていなかった。
「それよりも二人とも、先日の事件でまだ体が回復し切れておらんだろう?部屋に戻って休みなさい。背中を押して言ったとはいえルイズもそうだが、お前たちにも無理をさせたくはない」
「……」
カトレアから、「行きましょう、お姉様」と言われ、エレオノールは妹と共に部屋を去った。
その後、公爵は隣に立つ夫人に、外の景色を眺めながら口を開いた。
「しかし、恐ろしいほど『鋼鉄の規律』を尊ぶ君が、彼の正体に関して口をつぐむとは。
てっきり、報告するのかと思っていたぞ」
ルイズが知っているように、当然ながら公爵も妻の規律を徹底させる姿勢は知っている。それは自分も恐ろしいとさえ思えるくらいに徹底されており、破れば地獄を見る。それほどのものだ。だが、その『鋼鉄の規律』よりも優先するものが、カリーヌにはあった。
「…私は、彼の同族であるかつての恩人を裏切るような真似をすれば、規律以前に貴族として、人間として恥ずべきことを行い後悔したくなかった。
あなたも同じでしょう?」
「…否定はせんさ。わしもどこかにいる恩人から恨まれるようなことはしたくない」
公爵もカリーヌの問い返しに頷き、リトラの背に乗りながら小さくなって見えなくなった娘たちの姿を目で追い続けた。
夕焼けがさし始めたその景色に、ある人物のはかない後姿を見ながら。

「君は今、どこでなにをしているのだろうな……『    』よ」



その頃…アルビオン大陸。
「で…あのアルビオンの虚無の使い魔の居所は?」
「今度こそ行方がわからなくなった。戦闘中、ダイナが青い姿になったところで、ダークフィールドに穴を明けられ、そこから放り出された。後はわからん」
大陸の地下に建造された秘密の怪獣貯蔵庫にウルトラマンダイナことアスカが、誘拐したシュウを取り戻すために進入したと聞き、すぐにメンヌヴィルを派遣したシェフィールド。
だがどうもあの後、ダイナの手によってシュウはどこかに逃がされてしまったそうだ。
ダイナの存在は不測の事態ゆえ保有している怪獣たちをあまり利用したくはなったが、ダイナほどの相手に立ち向かうには、通常の怪獣以上の力を持つ存在を当てなければならない。それがメンヌヴィルことダークメフィスト以外になかった。
「…………」
シェフィールドは前回と同じく機嫌を悪くした。前回のように役立たずと罵りたいくらいだったが、堪えた。少なくとも、ウルトラマンネクサスの一部のデータを入手することができた。別に実験にかけるなとは、この男や彼と結託している『あの女』からも言われていない。少なくとも「殺してはならない」とだけ言われていたのだし、この男も目の前で黙認していた。『奴のエネルギーのデータ』が取れただけでもよしとしよう。
「…いいわ、いちいち文句を言うより、次の手を考えましょう」
「おや、お咎めは無しか?」
「あなたたちに仕事を持ちかけたのは私よ。私にも責任はあるわ」
こんな享楽戦闘狂のために責任など取りたくないが。失敗したのなら次の手を何度でも講じるべきだ。あの方は『最終的に目的に達する』ことよりも『最後に楽しむ』ことを望んでいる。一度や二度の失敗にこだわる人ではないということについては幸いだ。
「アルビオンの虚無と彼女を保護している空賊の船の落下地点については、ある程度の予測が付いている。そうだったわね」
シェフィールドが傍らにいるクロムウェルに向けて問う。
「ええ、場所はトリステイン西側に点在する森林地帯。アルビオンからはあまり大きく離れてはおりませぬ」
「ここから近いのなら、虚無と…彼女を確保している空賊たちは身を隠すためにもすぐには動けないはず。
なら、まずは逃げたウルトラマンの居所を探りましょう。奴のエネルギー周波数は実験で得たデータを元に割り出せるはずよ。奴を今度こそ無力化して捕まえるか殺す…その間に虚無の方には、例の刺客を送り込むわ。
そしてウルトラマンゼロには、『彼女の人形』に動いてもらう」
「人形?まだ動いていなかったのか」
「タイミングを伺っていた時間が長いだけよ。けど次こそは動き出して、奴を殺すか捕まえてここに連れてくるように、彼女には指令を出している。後は彼女たち次第ね」
「俺はどうする?」
「あなたにはまだ待機させておくわ。ダイナたちとの戦いでダメージが残っているでしょう?」
目に付くところが多いが、こんな奴でもまだ貴重な戦力だし、まだこいつを観察することで得られるものもあるかもしれない。
「もし、彼女が失敗しウルトラマンゼロが勝利した場合は、すぐに新たな仕事を与えるわ。それまで回復に専念なさい」
「…ふん、いいだろう。少しだけ待ってやる。待っていればいるほど、次が楽しみだ」
「仕事を任せることになったら、せいぜい暴れてくることね。今度はあなたには感謝をしておくわ。おかげで『貴重なサンプル』を一つ、確保することができたのだから」
そう言って、シェフィールドはメンヌヴィルのように不敵に笑った。
指先を空中で突くと、彼女の目の前に電子モニターが現れ、映像が映し出される。
そこに映されていたのは…

暗く広いどこかの空間で、



十字架に貼り付けられていた、ボロボロのウルトラマンダイナだった。



「あなたも、『あの方』の野望の礎になってもらうわよ…ウルトラマンダイナ」


 
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