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嫌われの忌み子あれば拾われる鬼子あり

作者:時雨日和
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第1章 番外編 誰かの想い、自分の想い

ルイスが捕えられ12年ほど経った時、脱走した。

久しぶりに受ける日差しはとても暑く、熱く、眩しかった。昼間に脱走したのは間違えたかと少しだけ後悔してた。今頃脱走した事が知れ渡ってルイスの事を探している頃合だ。

「ひとまずはここまでくれば安心だろう…結構離れただろうし」

ルイス以外の鬼が滅んでから12年、体も頭脳も成長した。しかし、1つだけ成長しなかったのが魔法だった。故にルイスに普通の魔法は使えない。シグレに体の性質を変えてもらった際にシグレの魔法を使えるようにしてもらったのみで、それ以外はなかった。

「グラヴ」

白の魔法の初歩、自にかかる重力を操作して浮遊する魔法。そのまままた移動する事にした。

その時聞こえた。微かに吐息を漏らす音が、そしてその後に煙が生じた。
視界が失われて立ち止まってしまった。立ち止まってしまってはいけなかった。

「がはっ?!」

鋭い痛みが脇腹を貫き、貫いた獲物が肉を抉りとって抜き取られる。
視界が煙で覆われ何をされたか、何でやられたかすら確認できなかった。

「うっ!?…ぐっ…」

次々に腕を、足を、背中を、腹を斬られ、抉られ、貫かれる。複数人いる、という解が出た。その解が出た時には心臓を貫かれ、1つの命が消えた。

「11…」

それで、ルイスの意識は深くに沈んだ。だが代わりがいた。瞼の辺りが淡い青い光を放った瞬間氷柱がルイスの体の周りを取り囲んだ。

「派手に…やられたものだ」

傷が塞がり、痛みも消えた体を起こす。

「視覚と聴覚が塞がれているか…感覚的にと、気配的に複数人…50はいるな。それで今氷を割ろうとしてる、か…しゃらくせぇ!
エルナムル!!」

氷柱から鋭い銀竹のような氷の弾が射出され、周りにいた気配を消していった。

「31」

つまりは20人を殺し、怨霊となり体の中へ取り込まれたという事を証明した。その中に術者がいないという事も外されない煙が証明している。

「邪魔くせぇ煙だぜまったく…まだ余裕でいるな。めんどくせぇから終わらせるか…」

ルイスの体を氷の箱が覆う。その間にも氷柱と箱の外からは氷を消そうと奮闘している感覚が流れてくる。

「無駄だぜ、てめぇら如きが俺の魔法を相殺出来るほどの力持ってねぇだろうよぉ。
……MAXだ。喰らえよ、エルエンデストファーレ!!!」

地域一帯を氷の世界へと変貌させた。絶対零度の世界を顕現させるほどの魔法、これを使用できるのは今の世界でも片手で数えれるのがやっとか、指が余る程の蒼の魔法の最大の魔法だ。

「7…8?」

おかしい、氷の感覚ではあと2人残っている筈だ。気配でもそうだと感じている。

「おい、聞こえているかよ。鬼」

突如と聞こえる男の声、声質から大人で30代あたりだと想像できる低めの声だ。

「…ああ、聞こえてるぜ。てめぇか?この煙は」

「ご名答。そちらはとても大層な魔法使うじゃないか、お陰で部下が一人残らず氷漬けになっちまった」

「先にうちの弟に手を出したお前らが悪い」

「弟、とな?」

「俺はレイジャル・テスタロット。生き残った弟のルイスの兄だ。もっとも死んでルイスの別の人格として顕現してるだけだけどな」

「へぇ…長いからレイでいいや。おいレイ、お前捕まる気は?」

「ないな、俺はこれからやらなきゃならねぇ事があんだよ」

「そうか、ならとりあえずその氷を消してくれよ」

「ならお前の煙を消せ」

「ほらよ」

軽い調子の言葉でさっきまでかかっていた煙が消えた。視界がはっきりとし、氷を消した。
周りにあるおびただしい量の氷像とその後に立つ鎧を身につけ警戒心を強める若い男と、対照に鎧を身につけず煙管を手に持った中年の男。さっきまで話していたのが中年の方だろうと予測できる。

「それで、お前らはどうするつもりだ?」

「どうするも、お前を捕まえ直すに決まっている!!」

「俺は帰るけどな、後はよろしくなレオ」

煙管を吹かせながら、後ろを向き後ろ手で手を振り去ろうとする。

「待てカイル!貴様、兵士として恥ずかしくないのか!!」

「別に、殺される奴らが悪いんだよ。俺は悪くないね」

「そいつらの為に敵を討つという気持ちはないのか!」

「ないね、それで死んだら無駄だ。それなら報告しに帰った方がよっぽど有意義だ」

「貴様…!」

「ほれ、俺ばっかに気を取られてると殺られるぜ。王国最強の一角、慈愛の騎士レオ・ネブラスカ」

「ちっ、俺が相手になる!!仇の為に!貴様をもう1度牢獄へと送り返す!!」

若い兵士、レオがレイの方を向き剣を構え直した。

「仲間割れは済んだかよ。とりあえずはてめぇを返り討ちにするだけで済みそうだ」

「来い!!貴様に討たれた者達への想いを我が力になる!!」

魔力がレオの持っている剣に集約される。

「エルサイア」

氷の槍がレオの下から突き出すように出てくる。
「へぁ!!」

それを後ろに飛び回避してからその氷の槍を切り落とした。

「ウルハクア」

炎弾がレオの四方から射出される。

「ガルヨーフ」

追加して風刃が炎弾の隙間から放たれ、逃げ場を無くす。

「エルドーラ!!」

水の壁を四方と真上に設置し水の箱を作り出した。その水に触れた炎弾はその水にまとわりつく様にその箱を覆った。風の刃は炎を強める役割になっていた。

「何故消えない!?水に触れた火は消えるはず…」

「てめぇが俺の魔法を消せるほどの力を持ってないって事と、俺の魔法は俺の意思以外では消えないんだよ」

「くっ、うぉぉぉ!!!」

強くなった炎が水を蒸発させていく。それに痺れを切らしたレオがその炎の中を突っ切ってレイに突撃して行って剣を振り下ろした。

「愚策だぜ、てめぇ」

振り下ろした剣に蹴りを入れた。剣はまるで硝子のように砕け散った。

「何故だ…想いの入ったこの剣は…決して…」

剣を無くした事により戦意が失われてその場で項垂れ膝を付く。

「想いの力ってのがそんなに凄いかよ」

「!?」

その言葉に顔を上げてレイの顔を、基ルイスの顔を見上げる。

「誰かにそうして欲しい、誰かにそうしてもらいたい…人任せの何物でもねぇ。そんなもんがすげぇ訳ねぇだろうが!!」

「………」

「誰かじゃねぇ、自分がそうしたいからやるんだろうが、その方がよっぽどすげぇしつえぇよ」

レイは氷の剣を持ち振りかぶる。

「俺は俺のために動く。ルイスはそのための道具だ」

振り下ろしレオの首を切り落とした。ほとんど透明な氷の剣を血で赤く染め上げ呟く。

「79」

と… 
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