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嫌われの忌み子あれば拾われる鬼子あり

作者:時雨日和
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第1章 第9話 理不尽さ

「すいませんアカツキ様もう1つよろしいですか?」

「構わねぇよ」

「僕吸血鬼というものを知らないのですが、どういった種族かを教えていただきたいです」

「吸血鬼は俺たち鬼とさして変わらないが、この世に生まれた順が吸血鬼の方が遅かった。だから昔から吸血鬼は鬼に仕えるような立場だった。だけど、その関係を壊したのが俺なわけだが、それによって吸血鬼は鬼の元を離れ自由の身となる者が多かった」

「はあ…」

「そん中の特殊な奴がさっき言ったアイテールだった。あいつだけ鬼の中に残りクレハに弟子入りして俺にまで色々教わろうとしたけど、まあ無理だったけどな俺の方は」

「つまりクレハ様に弟子入りしてその甲斐はあったという事ですか?」

「まあそうだな、擬似的にだけどあいつも神速の恩恵を持った時のクレハの攻撃が出来るようになったからな」

「そうですか…」

「吸血鬼は長寿だからな。もしかしたら今もどこかで生きてるかもな」

「そうかもしれませんね」

「…よし、これで俺がお前に教えてやれる事はここまでだ。あとは自力で頑張れよ」

「色々とありがとうございました。アカツキ様には感謝してもしきれません」

「ま、後は捨て駒として死んだ時に使ってくれよ」

そう言ったアカツキはスッと空間から消え、ルイスの中へと入っていった。

「12」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「それで全員って事かよ」

「ああ、1人は宇宙の彼方を彷徨い、1人はそっち側についたのだ我を入れて20種の恩賞を受けし騎士達だ」

「いいのかよこんな所に全員揃えて、俺がここで全員を…というよりお前を殺すって考えは無かったのか?」

レイが挑発全開で『エンペラー』に向けて話す。それに1つ、はっと鼻で笑い飛ばし腕組みのままそれに応える。

「貴様如きが我に、ましてや我ら全員を相手になど出来はしない」

「言ってくれるじゃねぇかよ」

「証明して見せよう」

腕を組んでいた右腕の上げ、指を鳴らし、その時レイは1つ瞬きをした。瞬間『エンペラー』の姿はレイの後ろへと移動していた。

「っ!?…ぐ?!…っう…」

振り返る瞬間に体に数カ所の切り傷を受けたことを理解し、その箇所から血が吹き出て、レイの周りを血で濡らす。痛みに耐えかね膝が地面に着く。

「安心しろ、切りつけたのは肌の表層部分だ、急所は外してある。…これでわかっただろ?貴様では我には敵わぬ。生前がそうであったように、死んだ後だろうと同じ事だ」

場所が変わったことによりその姿が月明かりに照らされる。顔の半分を隠す程の長い金髪から覗く赤眼と片方の碧眼のオッドアイ、開いた口から見える鋭い牙とも表せそうな犬歯、ぽたぽたと血を滴らせる手に持つ剣、黒をベースに所々に赤を入れた服に黒の外套、そんな青年が腕を組みながらレイを見下していた。

そしてその傷を見てすぐさま駆けつけるメリーによって治癒の魔法を受ける。その間に目の光は消えレイが消えた事を意味した。

「旦那様、まだ動いてはだめよ」

「わかっているよ、兄さんには悪いけど僕は今ここでは動かない」

「貴様が生き残りだな?」

「ああ、そうだ。お前は…僕の予想があっていたとしたら、当たって欲しくはないんだけど…さっきの攻撃で確信を持ってしまった。アイテール…という名前じゃないか?」

「ほう、我を知っておるか。どこで知った?」

「アカツキ様から直接ね。クレハ様に弟子入りした金髪の吸血鬼がいるってね、さっきの擬似的なクレハ様の攻撃何だろう?」

「いかにも。よくぞここまでの少ないヒントで解き明かせたものだ賞賛に値する」

「それはどうも、僕は今この場ではほとんど動けない、そんな相手をお前はどうする気だ?」

「言ったであろう?今日は顔見せだ。もう我々が手を下すことはないそろそろ引き上げるとする」

「それを信用してもいいのか?」

「勿論だ」

黒の外套を靡かせながら扉の方へと歩を進める。

「それとここは我がここへの認識を外すよう仕向けてある、故に屋敷にいるものにはここは見えておらぬし気づいてもおらぬ」

「気遣い感謝するよ」

「気にするでない」

「感謝する。お前が手を下さないと断言したことにな。
リミットリットゼロオーダー!!」

そう唱えた時、『エンペラー』を除いた他の騎士の体のどこかに数字が表示される。

「74」

「貴様何をした?」

「呪縛だ。僕の怨霊をお前を除いた騎士達に憑けた。そしてその怨霊達にはそれぞれ期間を設けた、その期間を過ぎれば憑いていた怨霊はその相手とともに消滅する。もちろん僕を殺せばそれは消える」

「ほう…」

「早くとも明日が終る頃に消滅する者も出るだろうな。いくら大人数で来ても僕は構わないが、そちらも何も文句はつけないようにな」

「喰えぬやつよな」

「一矢は報いた。兄さんのためのな」

黄色の瞳と赤と青のオッドアイの瞳が交差する。それに満足気に鼻で笑う。

「ふっ、良いだろう。貴様のそれに乗ってやろう」

指を鳴らし他の騎士達をこの場から去らせる。背を向けていた『エンペラー』も1度振り向き小さく微笑んだ

「さっきの魔法、賞賛に値する。…が、少しばかり行動が浅はかすぎるな、これは貴様の言う一矢を返したと思え」

言葉を言い終わり体を正面に向けた『エンペラー』がこの場を去った。その光景がルイスの右の視界が一瞬紅く染まったと理解した時右の視界が消え止めどなく右の瞼から眼球を通りその下の頬にまで到達する傷が現れる。

「旦那様!!」

その叫びと共にルイスの体は後ろへと倒れ、静かに意識が刈り取られていった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
目覚めたのは昨日も眠った自分の部屋だった。目を開けようとしても左だけしか開かないと理解した。傷は手当てがしてあったが開くことは無いだろう。

「目が覚めたのね旦那様」

ルイスが眠っていた寝台の隣に椅子に腰掛けていたメリーがいた。

「今は…」

「もうすぐ夜更けよ、5時間は眠っていたわね」

ルイスの額の汗を拭うメリー、言っていた通り集中させると実体化して物にも触れることが出来るというのは便利なものだろう。

「目は」

「ごめんなさいね、手当てはしたけれど『エンペラー』の攻撃には特殊な魔法がかけられてたみたいで視界が戻ることは無いみたい」

「そうか…仕方ないな」

上半身だけ起き上がり、寝台から足を出してメリーの正面に座る。

「今実体化してるか?」

「?ええ」

「そうか」

そのつぶやきの後手を伸ばし、ゆっくりとメリーの頭を撫でる。その行動にメリーは驚愕の表情を見せ思考が一瞬停止したような感じにも見える。

「旦那…様?」

少しの心地良さに目を細めながらルイスに向けて問いかけるように呼ぶ。

「ありがとう」

「………」

「傷の手当ても、僕が目覚めるまで起きて世話をしていたことも、全部ありがとう」

「ぁ…」

静かに手を止め手を下へ下へと下げていき、腰のあたりまで下げたところでそのまま抱き寄せた。

「歪でよく分からないようなまま、こんな関係になったけど…どんな形でも僕とメリーは一心同体で、夫婦だって事は大切にしていこうと思うよ」

「ぁ…だ…」

「1度は敵同士、殺し合おうともしたけどこれから新しくリセットして関係を築いていこう。君となら…メリーとなら僕はそれを望むよ」

少しだけ最初よりも強く抱きしめた。それを受け入れるメリー、瞳には1粒だけ涙を浮かべた。

「旦那様」

「ん?」

「私は人形を旦那様に付ける前から旦那様も事を見ていたの」

「……」

「その時はオドオドした感じで、村の人達から暴行を受けてとても痛々しげなものだった。でも、この屋敷に行って、屋敷の人達と会って、ガイアと戦って…そしてさっき『エンペラー』との掛け合いを超えて今…とても変わって、とてもかっこいいわ。誰よりも旦那様が1番かっこいいわ」

さっきのルイスがしたように強く抱きしめた。そして、ルイスは顔を下げ、メリーは顔を上げて見つめ合った。

「ねえ旦那様」

「何だ?」

「旦那様はどうして誰も恨まないの?」

先ほどの問いの続きだった。その答えを聞かぬままメリーの事を語っただけだった。

「小さい頃は自分だけ何でだって、そんな理不尽さを恨んだ事もあったよ。でも、日が経つにつれて理解していったんだよ。生まれ落ちてその後の行動は全てを自分の成長に繋げる事だって」

「でも」

「わかってる、それが僕が勝手に思ってるだけで実際はそうじゃないかもしれないって…でもさ、そんな理不尽さが僕にあったって良いだろう?だから僕はむしろ全てのものに感謝しているんだ。そのおかけでこの力を手に入れたし…メリーにも会えたしねそんな人達をどうして恨まないとならない?感謝しかないよ」

そうメリーに笑いかけた。

「…やっぱり旦那様が1番ね」

メリーはそのまま顔を上げて、ルイスはそのまま顔を下げて口付けを交わした。
その2人を窓から射し込む暖かな朝日が照らし、また新たな朝を告げた。 
 

 
後書き
今回でひとまず第1章を終わらせたいと思います。後半からルイスのキャラが全然違いますがそれが成長だと思ってくれれば幸いです。リゼロを参考にした部分も多いので少し似通った感じになっていましたら少しごめんなさい、そしてとても尊敬します。これからもこの話は続きます。予定では第5章か第6章あたりまで続く話なのでゆっくりとお待ちしていてください。 
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