夜間戦
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第一章
夜間戦
その命令を聞いてだ、ウォルト=マクドネル少佐は艦長のセオドア=リース大佐に艦長室で怪訝な顔で問い返した。
「俺達が夜にですか」
「そうだ、陸軍の爆撃機の護衛につく」
日本本土に爆撃を行うBー29の編隊のそれにというのだ。
「海軍がな」
「お門違いじゃないですか?」
マクドネルは灰色の目を怪訝なものにさせてリースに言った。
「それは」
「陸軍さんの爆撃だからか」
「それなら欧州戦線と一緒で」
「陸軍さんの戦闘機が護衛だな」
「そうすることが」
「出来ればな」
この前提をだ、リースは出した。
「そうするべきだな」
「出来れば、ですか」
「ああ、出来ればな」
こうマクドネルに言うのだった。
「そうすべきだ、しかしな」
「サイパンから日本本土まで行って帰られる戦闘機はないですか」
「何でも今度硫黄島を攻略するらしいがな」
サイパンと日本本土にある島だ、まだ日本軍が守っている。
「あそこが手に入れば戦闘機がそこに入るが」
「今は、ですか」
「そうだ、Bー29の護衛は我々しか出来ない」
「それでBー29は夜に爆撃するからですか」
「最初は昼だったがな」
昼間爆撃をしていたというのだ、日本本土への爆撃をはじめた頃は。
「今はそうなった」
「夜ですか」
「夜に思いきり爆撃をしているんだ」
「そしてその夜間爆撃の護衛にですね」
「我々がつく」
「そういうことですか」
「日本軍も必死だ」
爆撃される立場の彼等もというのだ。
「それでだ」
「迎撃に出てきてるんですね」
「夜でもな」
「その辺りドイツと一緒ですか」
「自国を爆撃されて何もしない国はない」
リースははっきりと言い切った。
「だからだ」
「それで俺達もですね」
「ああ、そうした任務を割り当てられた」
「陸軍さんのお供でしかも夜ですか」
本来は昼の仕事が多いのが自分達だからとだ、マクドネルは言うのだ。実際に彼等の空母の艦隊はこれまで昼にのみ航空戦を行っていた。
しかしだ、それが今回の話だ。それでマクドネルも言うのだ。
「変われば変わるものですね」
「嫌か?」
「いえ、これも仕事です」
これがマクドネルの返事だった。
「それならです」
「やるな」
「はい、じゃあこれからは夜に戦います」
「慣れないだろうが死ぬなよ」
「わかってますよ、こっちも死ぬつもりはないですよ」
笑ってだ、マクドネルはリースに返した。
「五体満足でテキサスに帰って」
「君の家は牧場だったな」
「はい、親父が大きくした牧場です」
笑ったままリースに答える。
「祖父様が開いて」
「その牧場をやっていくんだな」
「ステディもいますしね」
「帰ったら結婚だな」
「幸せが待ってるんですよ」
だからこそと、というのだ。
「生きて帰りますよ」
「なら夜でもな」
「戦って生きて帰ってきますよ」
こうリースに答えてだ、マクドネルはこの任務を引き受けた。そしてそのうえで夜間爆撃の護衛に出撃した。
出撃した時は明るかった、だが。
日本本土に近付き爆撃隊と合流した時にはもう夜になっていた、マクドネルはその夜の空の中で彼の編隊の戦闘機に乗るパイロット達に通信を入れた。
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