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NARUTO日向ネジ短篇

作者:風亜
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【ネジおじさんに伝えたいこと】

 
前書き
 大戦の後遺症を患っているネジが、自身の過去について触れるお話。以前書いた『ネジおじさんへ』では、呪印は消えている事になっていますが、この話では消えてません。あの大戦では確かに、ヒナタとナルトを庇い瀕死の重症を負いましたが、一度死したりはしてない設定で奇跡的に一命を取り留めた事にしています。 

 
 物心ついた時に気づいたのは、おじさんの額にはいつも、包帯が巻かれている事だった。

その疑問を、本人ではなく母親に聞いたのは、無意識の内に聞きづらい事だと察していたからかもしれない。

前に起きた大きな戦いの時の傷痕が残っていて、それを見られたくないから、覆っているんだとその時は聞かされた。


 ───どんなキズあとだろう。


子供心にも気になったボルトはある日、おじさんの額の包帯をするりと解いてしまった事がある。

その日は、風邪を引いたらしい娘のヒマワリを病院に連れて行く為、母のヒナタが従兄のネジを呼んで息子の相手を頼んだ。父親のナルトは、任務があって留守だった。

 外は雨だったので、家の中でボルトの相手をしていたネジはその時ちょうど座った姿勢でいた為、ボルトは悪ふざけのつもりでじゃれつき、不意を突いて額の包帯に指を掛け引いてみたら、割と簡単に解けてしまった。

────包帯の下から現れたのは、緑色の、ボルトにはよく分からない模様をしていた。


「それ、キズあと?? なんで、ミドリ色してるってばさ?」


ボルトが聞くと、おじさんは少し困ったような表情をして、やがて重い口を開いた。


「………呪印、だ」


 じ ゅ い ん ?? 言葉だけで聞くと、ボルトには妙な響きに感じられた。

「俺がちょうどお前くらいの時に、付けられた印なんだ」

「え、なんで?」


「───お前の母を守る為のものでもあり、傷付けてしまった印でもあった」


「?? 守るためなのに、キズつける……? よく、わかんないってばさ」

「やはり、まだ話すには早いかもしれないな。ボルトがもう少し大きくなったら……ちゃんと話そう」

「うん…、じゃあヤクソクな、おじさん!」



 それから二年近く経ってボルトはアカデミーに入学し、ナルトもようやく七代目火影に就任した。

……その頃、ネジの体調は思わしくなく、うずまき家に来る事もあまりなくなっていた。

ネジは、前に起きた大戦で瀕死の状態に陥り、奇跡的に助かったものの後遺症が残ってしまい、忍は引退していて体調を崩す事もしばしばあり、この頃は特に悪化しているらしく、入退院を繰り返している。

その事はボルトもヒマワリもとうに知らされていたが、具合の悪い所を見せたくないとネジ本人の意向もあり会うのは極力避け、一時は疎遠状態にもなっていた。



 ボルトがアカデミーに入って暫く経ったある日、日向邸でボルトはハナビから柔拳の手解きを受けていた。ヒマワリは母のヒナタと祖父のヒアシと外出している。

一通り修行を終えると、ボルトはここしばらく疑問に感じていた事をふと、ハナビに聞いてみる事にした。

「なぁ、おばさ……じゃなくて姉ちゃん。ネジのおじさんって、母ちゃんを守るだけじゃなくて、キズつけたこともあるって……ほんとか?」

「────その事、誰から聴いたの?」

 ボルトの言葉に、ハナビの表情が曇る。

「おじさんが、言ってたんだってばさ。おれがアカデミーにまだ入ってない頃、おじさんの額の包帯ほどいちゃって、よく分かんない模様みたいなの見てさ。その時はまだ話すの早いかもしれないって言われて、いつかちゃんと話すって言ってたんだけどさ……おじさんとは最近、まともに会えてないし」

「ボルトはおじさんから話してくれるのを待たないで、私から聴いてみたいわけ?」

「そりゃあその……母ちゃんからはなんか聞きづらいし、ヒアシのじぃちゃんからだとコエぇ気がしてさ」

「そう。…いいわ、話したげる。今のボルトに判る範囲で、ね」


 ハナビは呪印制度、日向事件、中忍試験の出来事などをかいつまんでボルトに話してやった。


「───おじさんの、父ちゃんが……ヒアシのじぃちゃんの代わりに、死んじゃったのか?」

「えぇ……そして兄様は、宗家を憎んでいた時期があった。でもそれをあんたの父さん……ナルトが、憎しみから解放するきっかけをくれたのよ」

「父ちゃん、が…?」

「そう。自分が火影になって、日向を変えてやるってね。実際、そうなった訳だけど」

 ハナビはその時の中忍試験試合会場に響いたナルトの言葉を、鮮明に覚えていた。


『日向の憎しみの運命だかなんだか知んねぇがな、オマエが無理だっつーなら、もう何もしなくていい! オレが火影になってから、日向を変えてやるよッ!!』


「……けど、おじさんの額の呪印、消えてないってばさ」

「そうね……分家が宗家を守る為の呪印制度は確かに廃止されたけど、日向の呪印は特殊で───受けた本人が死んでしまわない限り、解ける事は無いの。白眼の能力を封じた上で、ね」

「そう、なんだ……。じゃあ、おじさんが母ちゃんをキズつけたことあるってのは────」

「姉様なら、こう言うわね。『ネジ兄さんが私を傷つけたんじゃない、私が兄さんを傷つけたの』って。……私からの話だけじゃ物足りなければ、やっぱりおじさんから直接聴いてみなさい。姉様からだと、自分のせいだからってばかり言うだろうし、父上だと、かなり話が重くなりそうだし……どうしたいかは、ボルトが決めなさいね」


 ちょうどヒナタとヒマワリ、ヒアシが出掛けから戻って来た事もあって話はそこで途切れ、ボルトはまだ理解しきれない頭と気持ちをモヤモヤさせたまま、母と妹と共に日向邸を後にして家路についた。





 ────数日後の夕刻、ボルトがアカデミーから家に帰ると、ネジが久々にうずまき家を訪れており、ヒマワリは大いに喜んでいるらしくネジにじゃれついていた。

「お、おじさん、久しぶりだってばさ…! 体の方、大丈夫なのか?」

「…あぁ、大分調子が良くなったから、会いに来た。アカデミーの方はどうだ、ボルト」

「あ、うん、ちゃんとやってるよ。これならもうすぐ、下忍になれそうだってばさ」

 どこかネジに対し、ぎこちない態度をとってしまうボルト。

「そうか……ナルトもきっと、お前の成長を喜んでいるだろうな」

「……父ちゃんは、関係ないよ。おれは火影なんかとは違う意味で強くなるんだ」

「───そうか」


「おじさんは、体悪くしちゃう前はとっても強かったんでしょ? ヒマ、強かった頃のおじさん見たかったなぁ。きっとすっごくカッコよく術とか出して……あ、今は体弱くなっちゃってても、おじさんはカッコよくて優しいんだからねっ」

「気を遣わなくてもいいよ。……ヒマワリが思ってくれているほど、俺は優しいおじさんではないから」

 ネジはどこか、儚げに微笑んだ。

「そんなことないもん! ネジおじさんは、ヒマにとって優しくてカッコイイおじさんだよっ!」

「───ありがとう、ヒマワリ」


「ネジ兄さん、今夜は泊まっていってね。ナルト君は、今日も帰れそうにないかもしれないけど……」

 台所で夕食の支度をしているヒナタがそう言った。


「母ちゃん、おれ……晩飯いらないや」

「え? どうしたの、ボルト」

「あ、ごめん、何か……食欲ない。おじさんは、ゆっくりしてってくれってばさ。おれは……もう自分の部屋行くから」

 ボルトは、心配そうに見つめてくる母と妹、おじさんの視線から逃れるように居間を後にし、二階へと上がって行った。


(何やってんだってばさ、おれ……。おじさんは悪くない、何も悪くない、のに────)

 部屋のドアを閉めてボルトはベッドにつっ伏し、思わず自分がとってしまった素っ気ない態度に嫌気がさした。

頭の中で色々ぐるぐるしている内に日はすっかり暮れ、窓の外は暗くなっていた。





……コツコツと、何かを叩くような音が微かに聞こえてくる。

いつの間にか眠っていたらしく、気がつくと部屋の中は暗かったが、月明かりがあるせいか薄明るい。

ふと窓の方に目をやると、何故かネジおじが二階に位置する窓辺の外に居て、軽く窓を叩いている。

───おじさんは、前に起きた大戦の後遺症のせいもあって忍はとっくに引退してるのに、どうしてわざわざ外から二階に上がってまで自分の部屋の窓辺に佇んでいるのか、ボルトにはよく分からなかったが、とりあえず窓を開けた。


「何してんだってばさ、おじさん」

「───まだ夜もそう遅くはない。ボルト......近くの開けた場所で、俺が今から修行をつけてやろうと思う」

「はぁ...!? 何言ってんだよ。おれとおじさん、今まで修行なんて一度もしたことないだろ? ハナビのおばさんとヒアシのじぃちゃんからは修行つけてもらってるけどさ……」

「だからこそ、今のお前の実力を確かめてみたい」

「おじさんは、無理しちゃいけない体なんだろ。ハッキリ言って、相手になんないじゃん」

 ボルトとしては、嫌味のつもりで言った訳ではなかった。

「心配するな。...今はとても調子が良くて、体を動かしたい気分なんだ。実の所、玄関から出て来たのではなくて、俺にあてがわれている部屋の窓から出た。ヒナタとヒマワリには、もう休むと言ってある。……本当の事を言ったら、止められ兼ねないからな」

「いや、そりゃそうだろうけどさ……」

「俺のわがままに付き合ってくれないか、ボルト」


 微笑を向けてくるネジに、ボルトは仕方なく付き合う事にして共に音も無く二階の窓から道路沿いに降り立ち、街灯の明かりが辛うじて入る開けた場所まで行き距離をとって向き合った。


「……俺は、お前に一切攻撃しないし反撃もしない。ただ、見切る事に徹する」

「は? 何だよそれ、つまんない修行だってばさ。忍引退してずいぶん経つおじさんが、もうすぐ下忍になる予定のおれの攻撃よけきれると思ってんの?」

「つべこべ言っている暇があったら、掛かって来い」

 ...祖父と叔母の構えは見知っていたが、ネジに関しては初めて目にする柔拳の構えに、ボルトは緊張感を覚えた。

「上等だってばさっ。...つーか、1発でも当たっておじさんダウンしたら、修行やめにするからな!」


 ───ボルトなりの気遣いでそう言ったものの、数十分経過しても1発も当てられず、ネジは白眼を使わずとも滑らかな動きでボルトの攻撃を難なくかわしている。

「……どうした、もう終いか?」

「(くっそ、かすりもしないってばさ...っ)おじさん、ホントは忍引退してないんじゃないのかっ?」

「その言葉自体、攻撃を当てられない言い訳になるぞ」

 表情豊かな方ではないが普段はヒマワリやボルトに対して穏やかな微笑を浮かべている為、ボルトからしてみれば、今のネジはほとんど見た事がない冷ややかな表情をしているように見え、怯みそうになったがボルトは、今だからこそ直接聞いてみないといけない気持ちに駆られた。


「おじさん……、母ちゃんをキズつけたことあるって、言ってたよな」

「あぁ……そうだ。傷付けた事は元より、激情に駆られ……殺しかけてしまった事がある。実際、先生方に止められなければ、本当に殺していたかもしれない。そうしていたら、分家の役目に反した俺の命も無かったろうが。────俺が……恐いか、ボルト」

 静かに述べるネジの表情は、僅かに憂いを帯びている。


「コワくない。…って言ったら、ウソかもしれないってばさ。けどおれ、おじさんを───」


「お~い...! こんな時間に何してんだってばよボルト、ネジ!」

 そこへ、火影の多忙な仕事でなかなか家に帰れていないナルトが二人の元へやって来る。

「父ちゃ……オヤジこそ、何してんだってばさ。また影分身かよっ?」

「違うってばよ、本体だ。ひと区切りついて家に帰る途中、近くにボルトとネジの気配がしたから来てみたんだ」


「ナルト、邪魔しないでもらいたい。俺はボルトと修行を───う...ッ」

 苦しげに片手で胸元を押さえ、前のめりに倒れかかったネジをナルトが支える。

「おい、大丈夫かネジ? おじさん年なんだから無理すんなってばよ。つーか修行ってお前……その体でやる事じゃねぇだろ」

「年寄り扱いするな。……いいんだ、続けさせてくれ」

 ナルトの腕から離れようとするが、うまく力が入らないらしい。


「───もういいって。おれ、おじさんに攻撃当てる気ないから。弱ってるおじさんにそんなことして、おれの気が晴れると思ってんの?」

「ん...? 何の事言ってんだ、ボルト」

 ナルトは怪訝な表情を向け、ボルトはそれに構わず言葉を続ける。


「おじさんが……母ちゃんを傷つけたことあるって聞いて、おじさんのことちょっと疑っちまったけど、だからっておれがおじさんを変に恨んだって、意味ないじゃん。...おれが生まれてない時に何があって、おじさんと母ちゃんがどんな思いしてたかなんて、分からないけど───母ちゃんは、おれとヒマワリによく言うんだ。『大きな戦争があった時に、ネジ兄さんが私とナルト君を体を張って守ってくれたから、今こうして私達は、家族でいられるのよ』って……」

「─────」

「おじさんのおかげで、今のおれがあってヒマワリもいるんだ。だから……ありがとう、おじさん。母ちゃんと父ちゃんを、命がけで守ってくれて」

 どこか吹っ切れた様子で笑みを見せるボルトに、ネジは少し安堵したように微笑み返した。

「礼を言うのは、俺の方だ。……俺を、お前達の"おじさん"にしてくれて、ありがとうな」

「へへっ、おじさんはおれ達の家族だもんな! ヒマワリにもいつか話しても、きっとおれみたいに、分かってくれるってばさ」


 ────ぐうぅ


「……...あっ」

 しまった、という顔でボルトは自分の腹に両手を当て、恥ずかしくなって赤くなり下向いた。

「フフ……そういえば夕飯まだだったろう、ボルト」

 
 ────ぐおぉ

 今度はナルトの腹が威勢よく鳴り、ネジとボルトも揃って一緒に笑った。

「ははッ、オレもつられて腹の虫鳴っちまったじゃねぇか! ...んじゃ、オレ達家族の家に帰るかッ!」

 ナルトは一方的にネジとボルトを両脇に抱えて走り飛び、ヒナタとヒマワリの待つうずまき家への帰途につくのだった。




《終》
 
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