NARUTO日向ネジ短篇
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【生きてよ、ネジおじさん】
前書き
おじさんになる前の、二部ネジと遭遇するボルト視点のお話。
────あ、れ? どこだ、ここ。
目が覚めたら、明るめの森の中にいた。
こんなとこで1人、倒れる前に何してたか、思い出せない……。
おれは、うずまきボルトで……火影の息子 ───いや違う、ナルトってクソ親父がいて、ヒナタって優しい母ちゃん(怒ると怖いけど)、かわいい妹のヒマワリもいて……...
おれと同じ班の仲間に、ミツキとサラダってのがいて───そういやサラダのやつ、おれと違って火影目指してるからって、無茶しやがってさ……。大丈夫だったかな、あいつ。
───大丈夫だったかって、何がだ??
思い、出せないってばさ…っ
「……...おい、お前」
「ひぇっ...!?」
いきなり目の前に、白装束姿で黒髪の長い……お、男??
声は男っぽくて低いから、そうだよな。
黒い前掛けっぽいのもしてるけど、とにかくそんなやつが現れて、おれを冷たい表情で見下ろしてくる。
───あれ、もしかしておれの母ちゃんと同じ、白眼?
それに、何か見覚えがあるっつーか、この人知ってる気がするってばさ……??
「ここで、なにをしている」
母ちゃんみたいに、怒ると動脈をあらわにはしてないけど、おれってば不審がられてるよな。
「どこの者だ? 木ノ葉の里では、見掛けないな」
「へ...? 何言ってるってばさ、おれ木ノ葉出身だけど」
この人、額当てはおれと同じ木ノ葉マークなのに───
ん? そういやおれ、いつの間にか額当てしてない。
どっかに落っことして来ちまったかな??
「……………」
白装束の人は身を低くして片膝を地面について、おれの顔を間近で……しかも真顔でじっと見つめてくる。
ちょっと怖ぇけど、おれも負けじと見返してやった。
「お前・・・────似ているな」
つぶやくように言った白装束の人の目元が少し、優しくなった気がした。
おれを褒めてくれる時の、母ちゃんみたいだ……
「おれが...、誰に似てるってばさっ?」
「いや、こちらの話だ。気にするな」
てっきり火影に似てるって言われると思ったのに……この人、木ノ葉の人なのに火影の息子のおれのこと、知らないのか? ...別にいいけどさ、火影の息子だからって変に気遣われんの嫌だからなっ。
「───お前、疲労していて動けないようだな。ここから里までそう遠くはないから、病院まで連れて行こう」
「へっ、病院?! おれ、どこも悪くないってばさ...っ!」
急に立ち上がったら、足元がフラついて前のめりに倒れかかった。
...そんなおれを、白装束の人が片腕で支えてくれた。
「悪いようにはしない。...だが一度、病院で診てもらった方がいい」
そう言って小脇に抱えられたおれは、素早く木ノ葉まで戻らされて病院に連れて行かれちまった。
───病院に運ばれたって聞いたら、親父は、影分身じゃない本体で来てくれんのかな……?
「特に、怪我はしていないようですが、疲労が見受けられるのでしばらく身体を休めた方がいいでしょう」
「……だそうだ、ではな」
「ちょっ、ちょっと待ってくれってばさ...!?」
おれは内心、すごく焦っていた。何ていうか、木ノ葉の町並みが、全体的に古くさい。何より、火影岩に親父がいなかった。どういう、ことだってばさ……まるで、火影の親父が存在してない、みたいな────ある意味、その方がおれとしてはいいんだけど……
おれのことを知っている人も、全然いないみたいだし……病院で診てもらったはいいけど、あとは自分の家でゆっくり休めったって……帰る家がどこだかも分かんないってばさっ。
「どうした、家に帰れない事情でもあるのか?」
白装束の人は、特に心配した風もない無表情でそう言って、おれは今出てきたばかりの病院前で焦って次の言葉を探していると────
「ネジ兄さん」
誰かが、白装束の人に声をかけて来た。
「ヒナタ様...? 何故こちらに」
「ネジ兄さんが、誰かを抱えて病院に連れて行くのを見掛けたから、ちょっと気になって来てみたの」
「そうでしたか。...その子は、大した事はないようですが、暫く身体を休めた方がいいそうです」
「そうなんだね......。あれ? 何だかその子、ナルト君に似て───」
「母ちゃんっ?!」
おれはつい、大声を上げちまった。
よく見たら、写真で見たことある若い頃の母ちゃんだけど、おれの母ちゃんであることには変わりないってばさ...!
「お、お前……今ヒナタ様の前で、何とッ───」
さっきまで無表情だった白装束の人が、面食らった様子で顔を引きつらせている。
ってかこの人、さっき母ちゃんに"ネジ兄さん"って呼ばれてたよな……?
あっ、そうだ、思い出した...! おれん家の居間に飾られてる写真立ての中に、白装束で黒の前掛けっぽいのしてる髪の長い男の人写ってたのあったよな...!?
他の写真では、無表情な感じが多かった気がするけど、その写真では優しそうに微笑んでた────
おれ最初それ見せられた時、母ちゃんに似てキレイな女の人だな~なんて、ヒマワリと一緒になって思ったけど、母ちゃんとハナビおばさんのイトコの兄ちゃんだって知った時はビックリしたな……
そっか、この人が、おれとヒマワリの────
「ネジおじさん!!」
「……...ッ!?」
「えっ、え...?! 私が、母ちゃんで……兄さんが、ネジおじさん...!?」
おれが上げた二回の大声で、周りにいた人達から注目を浴びちまうおれと母ちゃんとおじさん。
「お前、とりあえず場所を変えて話すとしようか。───俺の家に来いッ」
「あ、ネジおじさ...じゃなくてネジ兄さん、私もっ」
ちょっと引きつった笑顔を見せて、おれをまた小脇に抱えたおじさんは急いで自分ん家に帰り、母ちゃんも付いて来てくれた。
……居間の畳に座らされると、ネジのおじさんは開口一番こう言った。
「おじさんなどと言われる程、まだそんなに歳は取っていないんだがな。ましてヒナタ様相手に、"母ちゃん"などと……お前、どういうつもりか聴かせてもらおうか」
仁王立ちして腕組み、しかめっ面で見下ろしてくるおじさん……、怒った時のヒアシのじぃちゃんみたいで怖いってばさっ。
母ちゃんの話では、おじさんは強くて優しい人だって言うし、父ちゃ...親父もよく、ネジは天才ですげぇ奴なんだって、おれとヒマワリに言ってるんだけどな...?
「ネジ兄さんったら、怖がらせちゃダメだよ。...ねぇ君、まずは名前教えてくれるかな? ちなみに私はヒナタで、この人はネジっていう私のイトコのお兄さんだよ」
「うん、知ってる。おれは、うずまきボルトだってばさ」
───つい正直に名乗って、少し後悔した。
何でか知らないけど、おれはもしかしなくても、過去みたいな所に居るのかもしれない。
だって今目の前にいるネジおじさんは……おれの世界では昔あった戦争で、母ちゃんと父ちゃんを命懸けで守って死んじまっているから。
ほんとにここが過去みたいな世界だったら、"うずまきボルト"って名乗ること自体、危険なんじゃないか……?
漫画とかSF映画でよく、過去に行って未来を変えるみたいな話あるけど、ひとつ間違えば"自分"や大切な存在が無くなっちまう可能性があるとか何とか────
おれの見てる、ただの夢とかだったら大丈夫なはずなんだけどな……。そうだとしたら、おれの想像上のおじさんが喋ってるってことになるのか?
確かに、おじさんには会ってみたかったし、修行だって一緒にしたかったし、生きててほしかったし……色んなこと、おじさんから教えてもらいたかった。それは、ヒマワリだって同じ気持ちだ。
うずまきボルトっておれの名前を聞いて、若い頃の母ちゃんとおじさんは、少し驚いた顔をしていた。
そういえば、若い頃の親父は……? 居るとしたら、今どこに────
「うずまき、ボルト君……。どうりで、ナルト君に似ていると思ったよ。ね、兄さん?」
「確かに、似ているとは思いますが……ナルトに兄弟が居るとは聴いていませんよ」
「オヤジ...じゃないっ、そのナルトって人は、今どうしてるんだってばさ?」
おれは、そう聞かずにはいられなかった。
「...ナルト君は、長い修行の旅に出ているの。もう少しで三年になるから、帰って来るのもそう遠くないはずだよ」
母ちゃんはそう言って笑顔になり、少し顔を赤くした。あぁ...、やっぱ親父のこと、好きなんだな。
「───ちょっと待て。お前さっき、ナルトを"親父"と言いかけたろう。そしてヒナタ様を、"母ちゃん"と呼んだ…。その上で、俺を"おじさん"だと……? そういう、事なのか...ッ」
おじさんは1人で勝手にショックを受けた様子で、片手で顔を覆ってる。
「え、えっ? ちょっと待ってネジ兄さん、どうして私がナルト君と結ばれる前提になってるの...!?」
とか言って、まんざらでもなさげに顔を真っ赤にしてちょっと嬉しそうな母ちゃん。
「信じて、くれなくてもいいってばさ。おれも、何で過去みたいな世界にいるのか見当もつかないし……。ウソは、言ってないつもりだから」
もうひとつ、気になることがあったからこの際聞いてみることにした。
「───おじさんは、母ちゃんのイトコの兄ちゃんだろ? 何で、敬語使ったり様付けしたりするんだ? 何かそれ、違和感あるってばさ」
「……ヒナタ様が日向宗家で、俺が分家だからだ」
「でもね、私としてはもう敬語も様付けも必要ないよって言ってるんだけど、ネジ兄さんったらなかなか聴き入れてくれなくて」
母ちゃんはちょっと困った顔でおじさんを横目に見るけど、当のおじさんは素知らぬ顔してる。
そういうとこクソ真面目っつーか、頑固だなおじさん……
母ちゃんが必要ないって言ってんだから、普通に従兄妹らしくしゃべりゃいいのに。
それこそ兄妹のおれとヒマワリみたいになっ。
って…、おれとヒマワリのこと知らないからしょうがないか……
そういや、おれのとこではとっくに廃止されてるけど、日向の家では昔、『呪印制度』ってのがあったって……教わったっけ。
ネジおじさんが生きてる上で呪印制度が廃止されたら、おじさんは母ちゃんに対して様付けや敬語使うの、やめられたのかな。
「…ねぇ、ボルト君には兄弟、いるの?」
「うん、ヒマワリっていうかわいい妹がいるってばさ! 写真で見たことある、髪短かった頃の母ちゃんにそっくりなんだぜっ」
「ほう...? 可愛い妹……、ヒナタ様にそっくり……ふむ」
つぶやくように言うおじさんの方を見ると、何となく顔がニヤけてた。
「おじさんってば、うれしいんだろ? おれの妹が母ちゃんにそっくりでさっ」
「べ...別にそんなつもりは……あ、いや、嬉しくないわけではないが……」
おじさんは、照れ隠しするみたいにそっぽ向いた。
ツンデレかよ、ネジおじさん……
やっぱ母ちゃんのこと、イトコの妹として大切に思ってるんだな。
おれだって、妹のヒマワリを大切に思う気持ちは負けないってばさっ。
「──────」
「わっ、ちょ、何すんだってばさ……?!」
おじさんはおれの目の前で身を屈めて片膝をつき、おれの頭に片手を置いて急にワシャワシャかき乱してきた。
親父も時たまそうしてくるから、ちょっと強引でも撫でてるつもりなのかもしれない。そうされると迷惑っていうよりかは、うれしいかな……
そのあとおじさんは、間近でおれに微笑んで見せてこう言った。
「お前の世界での皆は、息災か? …息災というのは、元気でいるか、という事だが」
「あ……うん、元気...だってばさ、みんな」
おれはつい、おじさんから目を逸らしてしまった。
「───お前は、ウソが下手だな」
「え……?」
おれがおじさんに目を戻すと、おじさんは何ていうか……ほんの少し、哀しそうな笑みを浮かべていた。
───やばい、勘づかれちまったのか? でもまさか、自分が死んじまってるなんてこと……
おれのボルトって名前が、ネジおじさんに由来してるってのは、さすがに言えないよな……。
どうしてだって、絶対聞かれると思うし、未来でおじさんが死んじまってること話したら、今の母ちゃんには相当ショックだろうし、おじさん自身だって──
ネジおじさんが命懸けで繋いでくれた命だから、おれの名前はボルトなんだって……ネジおじさんに由来して父ちゃんと母ちゃんが名付けてくれた、大切な名前───
もしかして、話した方が、おじさんの死を避けられるんじゃないのか……?
けど、そうしてネジおじさんが生存したら、おれは『ボルト』じゃなくなるのかな。
そもそも、おれ自体が生まれてないのか……??
いや、おじさんが生きてたっておれはボルトのはずだ。
ネジおじさんが死んじまわないとおれがボルトとして存在できないなんて、なんかおかしいってばさ。
そんなんじゃおれとヒマワリは、ネジおじさんに絶対直接会っちゃいけないってことになっちまう。
そんなのは、イヤだ。
ネジおじさんには……生きてほしい。
おれとヒマワリと……未来で直接、会ってほしい。
だから、おれはっ・・・───!
あ、れ? なんか、変な感じが、する……
「ボルト、君...? あなたの身体、透けてきてるよ...!?」
母ちゃんは、そんなおれを心配して間近に近寄って片手を握ってくれた。
……足先からだんだんと、おれの存在が、薄れていく……?
それと一緒に、おれの意識も、もうろうとしてきた……...
「このまま……おれ、消えて無くなっちまうの、かな……?」
「ボルト、大丈夫だ。お前はきっと、元の居場所に戻るだけだ。消えたりはしないさ」
おじさんは力強くおれを励ますようにそう言って、母ちゃんと同じように片手を握ってくれた。
───そのおれの手も、もう消えかかってる。
しゃべれなく、なる前に……ネジおじさんに、どうしても言っておきたいことが、あった……
それで例え、未来がどう変わったって、今度はおれが繋ぎとめるんだ……っ
「ネジ、おじさん……生きてよ、何があっても。待ってる、から……未来で、ヒマワリと……一緒に─────」
そこでおれの意識は、完全に途切れた。
「───ボルト...?! やっと、目を覚ました...っ! もう、何よ、私のこと庇って大怪我するなんて……。あんたが死んじゃったら、私のせいになっちゃうでしょ、バカっ...!」
次に目が覚めたら、病室だった。
サラダの……メガネ外して泣き腫らした顔が、おれの目に映った。
だってさ……お前あの時、無茶しやがるから────
「お兄ちゃあんっ、よかったよぉ...っ!!」
「本当……意識を戻してくれて、本当に良かった、ボルトっ...!」
ヒマワリと母ちゃんも、泣かしちまってたんだな……
「ボルトッ、お前...、寝坊にも程があるってばよッ。心配させやがって……なぁ、ネジ...!」
────え、おじさ……...?
「お帰り、ボルト。皆…、待ってたんだぞ。勿論、俺もな」
父ちゃんが、呼びかけたら……そこには、ネジおじさんの姿が……!!
白装束着てた頃より、さすがに少し老けてるけど、おれとヒマワリの、おじさんだ...!
生きていて、くれた...っ
「お前が言ってくれたんだ、俺に……何があっても生きてくれと。大戦で瀕死の重傷は負ったが...、一命を取り留めてみせたぞ。お前の言葉のおかげだ、ボルト。だからお前も…、何があっても生き抜いて見せてくれ。これからもずっと……ヒナタやナルト、ヒマワリとお前をすぐ傍で、見守ってゆくから」
その時のネジおじさんの優しい笑顔が、おれには一生、忘れられなかった。
《終》
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