NARUTO日向ネジ短篇
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【あなたのいない墓の前で】
前書き
ハナビ視点の、大戦後のネジへの想い。
戦死、した? ネジ兄、さまが?
そんなわけない、そんなはずない。あの強い兄さまが……日向の天才といわれたネジ兄さまが、死ぬなんて。
ヒナタ姉さまと、ナルトを守って死んだ……? 分家の役目を果たして、ナルトに借りを返したとでもいうの?
───違う。そういうんじゃない事くらい、分かる。
仲間、だから。大切な……守るべき存在。
その為に、姉さまとナルトの為に、死ねたんだ。
尊敬、すべきなんだ。大切な存在を守ったネジ兄さまを。
───でも、死ぬ必要ないじゃない。多少の怪我を負ったって、戻って来てくれれば……生きてさえいてくれたら…っ。
なんで、どうしてネジ兄さまだけ────違う、兄さまだけじゃない。大戦で、多くの人が亡くなった。
それは分かってる、だけど……。
兄さまの、遺体の欠片すら埋まっていない形だけの、墓。
あの大戦は苛烈を極めたそうだから、例えネジ兄さまの遺体でも回収している余裕なんてない。多くの遺体と一緒に、影も形も失くなってしまったんだ。
ヒナタ姉さまは、時間さえあればネジ兄さまの墓を訪れていた。わたしはまだ、姉さまと二人きりでは来たことがない。……そうするのを、避けていた。
その墓には、ネジ兄さまは眠っていない。もしかしたら、ほんとはどこかで生きていてくれて、記憶を失くしちゃって帰る場所を忘れてるだけかもしれない。
だから、いつかは帰って来てくれるかも。いつもの涼しい顔をして────なんなら、こっちから捜しに行こうか。
そんな考えが気休めだってことを分かっているから、わたしは姉さまと一緒に墓を訪れたくないのかもしれない。
ヒナタ姉さまは、ネジ兄さまの死を、間近で見届けているから。
わたしは……その場にいなかったから、"知らない"。
姉さまと墓参りなんてしたら、認めなきゃいけなくなるから恐いんだ、兄さまの死を。
────その日は、ほとんど無意識の内に足が墓のある場所へと向いた。
小雨が降っていた。一応、誰もいない。
ここにはいない……いないはずなのに、名前が彫ってある。
日向、ネジ ─────
昔は、キライだった。ヒナタ姉さまを傷つける存在だったから。
でも、ある時から変わった。うずまきナルトのおかげってやつかな。
姉さまとの修行に親身に向き合って……わたしにも、色々教えてくれるようになった。
兄さまが上忍になって、なかなか会う機会が減っても、時間さえあれば修行やちょっとしたお出かけにも付き合ってくれた。
基本的にネジ兄さまは、厳しくも優しい人だから。
いつの間にかキライじゃなくなってたし、むしろ好き……だったと思う。
これからもっと、好きになれたはずなのに……ズルいよ、わたしの知らない所で、勝手にどこかへ行ったまま戻って来ないなんて────
兄さま、お願い、帰って来てよ。
いつものクールな顔して、それともめったに見せない笑顔で、
『どうしました、ハナビ様』って……今のわたしを、気遣ってみせてよ…っ。
「───どうしたハナビ、傘も持たずに。カゼ、引いちまうぞ」
うずまきナルトが、いつの間にかわたしの傍に立っていた。
ナルトだって、傘なんて持ってないじゃない。……雨は小雨から、少し強くなっていた。
ネジ兄さまだったらきっと、傘を持って来てくれたんだろうな。
兄さまにとって、大切な存在の1人であるナルト───
そう思ったら、急に怒りが込み上げてきた。
「あんたの……あんたのせいよ、うずまきナルト! あの大戦はあんたを守るための闘いで、ネジ兄さまはそれを忠実に遂行してあんたを守って死んだ!!」
「─────」
ナルトはいきなりわたしに責められて、言葉を失っていた。蒼い眼は逸らさずに、悲しげな表情でわたしを見ている。
わたしは今、どんな顔に見えてるだろう。ただ、怒りに満ちているのかな。
雨粒のせいで、頬を伝うものが涙かどうかさえ、自分でも分からない。
「……あんたを責めたって、兄さまが喜ぶはずないって分かってる。何より、ネジ兄さまが貫いた信念を否定することになるから。
でもやっぱり、悔しいよ…っ。わたしはまだ年端もいかないからって大戦に参戦できずに安全圏にいて、何も出来なかった……。守れもせずに、兄さまの死を、防げなかった…っ!
どうしてくれるのよ、あんたがもっとしっかりしてたら、ネジ兄さまは死なずにすんだんじゃないの!? ねぇ…なんとか言いなさいよ!!」
わたしは両手を握りこぶしにして、ナルトの上半身を何度も叩いた。
ナルトはされるがまま、ほとんど聞き取れないような言葉を発した。
「謝るわけには、いかねぇんだ。あいつが……ネジがそれを望んでねぇのは分かるから。だからせめて、ありがとうって、一方的に礼しか言えねぇんだよ」
「わたし、は……わたしの気持ちは、どうすればいいの。大戦前に、姉さまと一緒にちゃんと戻って来てよってネジ兄さまに言ったら、『必ず戻って来ますよ』って……約束してくれたのにっ…!」
「────ハナビ」
「! ヒナタ、姉さま……」
いつの間にか傍にいて、大きめの傘でわたしとナルトの頭上を降り注ぐ雨から遮ってくれていた。
自分が濡れるのも、構わずに。
「これ……大戦前に置いていった、ネジ兄さんが生前ずっと身に付けていた額当て。忍連合としての額当ては持って帰れなかったけど、兄さんの形見のひとつだよ」
姉さまが、右手に持っていたものを、わたしに差し出した。
ネジ兄さまの、額当て────
そうだ、この額当ての下にはいつも、籠の鳥を意味する呪印が隠れていた。
兄さまは、死んでしまったから、額の呪印は消えたはずだ。
自分の運命を全うしたから、籠から解放されて自由になれた…?
だからこれで良かったなんてそんなの違う、そうじゃない。
運命とかじゃない。ヒナタ姉さまとナルトを守ったのは、ネジ兄さまの自由な意志なんだ。
守るべき仲間のために闘った、兄さまの────
「これは、ハナビが持っていて。ネジ兄さんの想いが宿った形見だから」
姉さまから、兄さまの額当てを受け取った。
……これを額に着けたら、ネジ兄さまの想いが直接伝わってくるのかな。
ううん、もう分かってる。ちゃんと、伝わってるよ。
「───あ、鳥のさえずりが聴こえてきたよ。もうそろそろ、晴れる合図かな」
ヒナタ姉さまがそう言うと、間もなく雨は上がってきた。
「……お? 向こうの空見ろよ! 虹が出てるってばよ」
ナルトが声を上げた先に目を向けたら、雲間から差し込んだ日差しで、虹が現れていた。
これって、ネジ兄さまからの"おくりもの"かな。いつまでも自分のために、悲しまないでほしいって……
「ねぇナルト、もしあんたがヒナタ姉さまと結ばれてわたしの義兄になっても、"兄さま"なんて呼んでやらないからねっ」
「ん? あぁ、よく分かんねぇけど、分かったってばよ!」
「は、ハナビったら、もう…!」
ネジ兄さまが命を懸けてまで守ってくれた二人だもん、今度はわたしが守っていくよ。
虹に向かって、心の内でそう誓い、わたしは兄さまの額当てをぎゅっと握りしめた。
《終》
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