嫌われの忌み子あれば拾われる鬼子あり
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第1章 第6話 白の魔法
歴代最強であるアカツキ様、彼の逸話は様々ある。
分割されていた幾多とある鬼の領土を自らの力で一つにまとめ上げ、その中で過不足なく平等に国を治めていた。
災害が起きようものならアカツキ様の持つ力で防ぎ、不治の病にかかった者が居ようものならアカツキ様の持つ力でそれを治した。しかし、その力は現在でも解明できていないアカツキ様だけの魔法であった。
傍若無人、弱肉強食を嫌うその時代ではとても珍しく。弱き者には救いの手を、罪を働きし者には成敗を、を理念にしていた。
そんな方から僕はアカツキ様だけが使えていたという魔法を授かった。
それが……
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あと数分と迫った隕石落下。それに迎え撃つのはルイスただ1人。
逆に言えば、今この場にいるルイスしかこの隕石をどうにしかできない。
「…よし、じゃあ始めよう」
掌を開いた右手を空に向け突き出した。
「鬼の伝説、アカツキ様の生み出した魔法。重力操作や消滅を操る。それが、白の魔法!!」
右手の前に掌大の弾が出来ると、それに続くようにルイスの周りにその弾が無数に現れていく。
「グラヴデラメヌス!!」
その弾が一斉に隕石に向かい発射される。次々に着弾していく。一つ一つの弾に逆のベクトルの重力を加えてるため少しずつ隕石の速度は落ちていき全て着弾する頃に完全に止まり空中に浮いている。
「メズアウト」
その詠唱が唱えられた瞬間着弾した部分が消失していき、大きさが最初の10分の1程度まで小さくなった。
抑えていた重力が無くなり、またゆっくりと降下していく。突き出していた右手下げ、助走をつけるためしゃがみ超人的な跳躍で隕石まで辿り着く。
「成功して良かったよ。」
隕石に掴み安心したように呟いた。
「もの飛ばしの魔法」
その言葉通りその隕石は宇宙へと飛んでいった。
「グラヴ」
ルイスはそのまま重力を操作し、ゆっくりと地面に降りていく。
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「〜♪」
遠い遠い木の上、文字通り高みの見物をしていた水色髪の少女がその光景を1人見ていた。
「ガイアが死んじゃったから落ちてきたやつ、私が壊して上げようと思ったけど…あの子凄いなぁ♪」
「え?何であれを壊そうとしたかって?それはね、死んだのに攻撃しようとするとか卑怯じゃない?相手に反撃もされないし。だからガイアって卑怯だよね、だから嫌い」
「ん?じゃあ何で一緒に行動してたかって?そりゃ『エンペラー』に言われてたから仕方なくだよ。そうじゃなきゃ私は誰とも組まないよ」
「…でも、あの子は面白そうかな〜♪」
と、独り言を話しているように思えるように、見た目瓜二つの抱きかかえている人形に向かって話しかけている。それはとても楽しげで狂気的だ。
木の上からふわふわと飛び降りて屋敷とは別方向へと向かおうとした時
「あ、そうだ帰る前にあの子にプレゼントをあげよっと♪メリーさん優しいなぁ♪
ヤルエンバラネビア」
そう唱えた詠唱は、今まで聞いたことがないものだった。
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「さてと、『チャリオット』をどうしようか…『チャリオット』に殺された怨霊は…いた、殺され方は投擲物…槍か、槍が心臓に突き刺さりその付近の肉が削ぎ落ちて穴が開いたと…」
ルイスがガイアの死体の前に立ち、右手の爪を伸ばしその右手でガイアの心臓に突き刺し心臓をくり抜いた。
返り血を浴び、顔面を血で濡らした。
「投擲物は無かったけど、こんな感じでいいかな。同じ苦しみを与えてあげたかっけど、死んでちゃ意味無いか…
さ、自分が飛ばした隕石の元へ飛ばしてあげるよ」
顔についた血を拭い取りながら、十八番のもの飛ばしの魔法でさっき飛ばした隕石に目標を決めて飛ばした。つまりは宇宙だ。
「よし、戻ろう」
この後、レイの壊した壁をルイスの魔法で元に戻して全員のもとへと戻っていった。
「皆さんに多大な迷惑をお掛けし、そしてお騒がせして申し訳ありませんでした」
ルイスが全員に向けて深々と頭を下げた。
「いいんだよ、ルイス。全員無事だったしね」
「ですが…そうだ、マリー。ごめんなさい。お父様の事…」
「いいんですよ…ルイス君が気にすることじゃ…ありませんから」
「でも…」
「実はルイス君…いいえ、レイさんですね。レイさんが見逃していたら、私が刺し違えてでも殺してましたから。出来たかわかりませんけど」
「え?!だから…あの時?」
「はい、レイさんがやっちゃいましたけど。もしかしたら止めてくれたのかも知れませんね」
「そう…かもね。兄さんは勘が鋭いし、何より人の感情とか読み取るのとかもすごいし…」
「まあ、つまりは、だ。ルイス。君は何も悪いことはしてないし、こちらも悪いとは思わない。君が悪いんじゃない、あっちが悪い、だからあっちをやった君はむしろ私は評価するよ」
「そう、私ども使用人達からも君を咎めたりはしない、私達を守ってくれた君とレイ君には感謝している。ここを去るなどと言わないでくれよ」
「主様…エグルさん…本当に…いいんですか?」
「ああ、逆に出ていったら怒るよ」
カルロスはイタズラっぽく笑い、ルイスの前に立った。
「君はこの屋敷の盾であり、剣だ。だから私達、屋敷の皆を守るために居てくれ」
そう言って、ルイスの肩に手を置いた。
それに対してルイスは少し涙ぐみながらはい、返事をした。今まで身内…いや、レイにしか頼られる事が無かったルイスにとってはとても幸福だった。
「もう、ルイス君!リクよりも心配かけて〜!」
「ちょ?!ミリアさん!?」
突然ミリアがルイスに抱きついてきた。
「ルイス君もレイ君も強い、強いけど…」
「…無理しないでとかは言わないで下さい」
「!?……でも」
あまり人に触れるという事をした事が無かったルイス。人間、しかも女性というとても脆い存在に物理的に触れる加減を知らない。加減を間違えれば怪我では済まない、しかし、無意識の内にその加減をつけミリアを自分から引き離した。
「心配をかけたことは本当にすみませんでした。でも、僕も兄さんも鬼なんです。人間とは違い力も、体力も、魔力も、何もかもが違います。その中に価値観の違いもあるんですよ」
「ルイス君……」
「人間は優しい種族です。こんな僕にも優しく接して、兄さん以外かけられたことの無い僕にも心配してくれて、角が短かったり、髪が青かったり、色んな負の要素を持った僕を迎え入れてくれました」
「……」
「僕は鬼の一族のために、そして僕を迎え入れてくれた皆さんのために戦うんです。そのためならどんな無理でもするんです。いいえ、したいんですよ無理を、そうしなきゃ僕の気が収まりませんから」
そうルイスははにかんだ。
そこで、自らの席に腰を落ち着かせたカルロスがルイスの方を向き
「ルイス、今日はもう休んでもいいよ。また明日改めて話を聞く、例えば…君のその魔法とかね」
「はい、それでは失礼します」
深々と礼をしてからルイスは部屋を出て行った。それを追いかけるようにクリスが出てくる。
「部屋まで連れってやるよ」
「心配はいらないよ。部屋の位置はある程度把握してるし」
「ちげぇよ…明日まで待てねぇってだけだ。話、聞かせろよ」
「素直に言えばいいのに」
小さく笑ったルイスに対してうるせぇよ、と、そっぽを向きながら答えるクリス。
「んで、何なんだよあの魔法は」
「鬼の伝説と呼ばれた人が使っていた魔法。今まで誰も解明できなかったアカツキ様の魔法。紅でも、蒼でも、翠でも、黄でも、黒でもない何ものにも属さないまっさらな魔法。それが白の魔法、重力を操ったり、ものを飛ばしたり、体の構造を理解して病の原因を消滅させたり…そんな魔法だよ」
「なんだよそれ、無敵じゃねぇか。そんな魔法どうやって考えたんだよその伝説の鬼は」
「アカツキ様曰く、突然頭の中にその魔法が思い浮かんでやってみたら出来たらしい。それが天啓だったのか、普通にアカツキ様自身で閃いたのかすらわからないほどだったらしい」
「意味わかんねぇけど、すげぇ話だな」
「天才だったんだよ。文字通り鬼才と言ってもいいくらいだ」
「じゃあよ、今まで誰も解明できなかったのなら何でルイスが使えてんだ?解明したってことか?」
「…結果的には解明したよ」
「へぇ、ってことはこれから他の奴でも出来るような奴が増えるのか?」
「いいや、それは無いよ」
「は?」
「あの魔法はアカツキ様専用の魔法。他の誰も扱えないものなんだ。それが、血の繋がった家族だろうと、最も近い細胞を持つ双子やクローンでも…あれはアカツキ様だけのものなんだ」
「は?ならおかしいだろ。今お前が使っているのは…」
「僕が捕まっていた時、アカツキ様の怨霊が僕に憑いていたことを知った。それでアカツキ様に教えて貰った。それで、魔法について解明できたけど、同時に挫折もした。詠唱しても無駄だから」
「じゃあ何で…」
「アカツキ様が怨霊の姿で魔法を使ったから、そして僕の体の性質を調べて、改造したんだアカツキ様と同じ性質にね。それで僕は白の魔法を使える」
「怨霊のままでも魔法って使えるのかよ」
「規格外過ぎて開いた口が塞がらかったよ。普通は無理、まずほとんど実体化して姿を見せること自体稀だから」
「…ん?まてよ、その前にそのアカツキ様ってのは何年前の人なんだよ?」
「約5、600年前の方だ。大体このあたりから鬼が人間に危害を加えることを止めた。アカツキ様のお陰でね」
「おいおい、そんな昔の人が怨霊になっているとかどうなってんだよ」
「アカツキ様の遺体は今でも地中深くに現存しているし、魂を封じ込めてるんだよ、今も」
「それって…」
「また、アカツキ様を蘇生させようとしてたんだよ鬼の一族は…そのせいでアカツキ様は暇してたってボヤいてたけど。僕としてはある意味感謝だよ」
「へぇ…まあわかったようなわからんような謎が増えたような気がするが話聞けてよかったよ。そこが部屋な」
「わざわざ屋敷を3周もしなくてもよかったのにね」
「いいんだよ、歩きながら話聞きたかったんだよ」
「意味わかんないよ。それじゃおやすみ」
「おう、おやすみ」
挨拶を済ませ、部屋に入ったルイスは部屋の中央に水色髪をした人形が置いてあることに気づいた。
「これ…」
屋敷には無かったはずと、記憶していた。つまり、罠の可能性を考慮し、もの飛ばしの魔法で送り付けてきた者の元へと飛ばし、眠りについた。
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真っ暗な森の中を水色髪の少女は少女と瓜二つの人形を抱き抱えながら歩いていた。
その途中目の前に同じ人形が突然地面に現れた。
「あら?もう、せっかくあげたのに…」
その人形を拾い上げ、同じように抱き抱える。
「何か、オドオドと警戒してるみたいで可愛いなぁ〜…どうせ、無駄なのにねぇ…」
少女は再び歩き出す。視界のほとんどない暗闇をまるで昼間の道を通っているように。
そして、とても楽しそうな顔をしながら
「私の…メリーさんの『ハイプリエステス』の恩賞からは絶対に逃げられないんだから…」
先ほどまで抱えていた人形がいつの間にか片方消えていた。
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