衛宮士郎の新たなる道
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第15話 復讐の始まり
前書き
前回とまだ同じ日からの始まりです。前回よりも文字数は少ないですが、それでもまた二週間分の文字数です。
一番下辺りは残酷な描写かもしれません。ご注意を。
時間を少し遡って午前十時ごろ。
百代は金曜集会での取り決めた遊ぶ場所へ、一子と共に向かっている。
「確かにアタシも昨日の夜は早くに寝たけど、ニュースみたいな事になってるなんて思いませんでしたよね?お姉様!」
「あ、ああ・・・そうだな」
百代は一子の質問に適当に相づちを打ちながら、昨夜に士郎から言われた忠告を思い出している。
今回起きた件は裏社会が関わっている。
だから百代が体験した内容を口外しないでくれと。下手を打てば身の回りが人達が危険になると。
正直言えば裏社会の猛者達との真剣勝負は魅力的だ。
しかし裏社会では報復が有ってもおかしくは無いと言う。
そしてもし仮に自分が裏社会の猛者に敗れた場合、その報復として自分の友人や家族の命を狙われたらと考えると寒気が止まらない。
恐らくそうなったら百代も報復するだろうが、しかしやり返しても失った大切な人達は戻って来ない。
それらを想像してしまうと、矢張り周囲を巻き込むのは本意ではなく、裏社会の猛者たちへの戦いに身を投じるのは躊躇してしまうのだ。
それに二兎追う者は一兎も得ず。
百代は今のライフサイクルにそれ程不満は無い。
仲間たちとの過ごす時間は楽しいし、学校生活もそこまで不満も無い。
それに月初めから変化した掃除や精神鍛錬は若干面倒と今でも感じているが、その褒美となる強者――――士郎との組手稽古は非常に楽しい組手稽古は非常に楽しい(ある問題で苛つく事も在るが)それなりに充実している。
そこで百代が士郎の事を考えた瞬間、昨夜に不意打ち的に言われた口説き文句を否が応でも思い出してしまう。
自分の事を本気で心配してきた顔と真剣な眼差しを思い出してしまう。
それによって頬が紅潮しそうになるが、頭を振る事で百代はその気持ちを有耶無耶にする。
「ど、如何したのお姉様?」
「え、あ、いや、何でもない!」
「ならいいけど・・・」
不思議そうに見てきたワンコを勢いで誤魔化すが、今の百代――――いや、風間ファミリーにとって今はある一つの杞憂があった。
大和から最近モロの様子がおかしいと聞いていた。
そして昨夜の騒動前の金曜集会の時は本格的におかしかった。
それに今日の遊びもキャンセルして来た。
此処までくれば正直遊びなどしてられない。
多分皆も気分がのらない事だろうし、モロの為に何かしてやれる事は無いか大和を中心に何か話し合いを提案してみるかと、百代は考えながら集合地点に向かった。
-Interlude-
モロは面会謝絶されている事を知っていながら葵紋病院来ていた。
しかし彼女の病室前に居たのは看護婦では無く警察官だった。
「あの・・・如何かしたんですか?」
ある種の胸騒ぎに襲われたモロは思わず聞いてしまう。
「ん?見舞客・・・・・・君はこの病室にいた天谷ヒカルさんのご友人か、なにかかい?」
「はい。この病室のガラス越しで知り合って・・・ヒカルさん、如何かしたんですか?」
「んん、まあ、ご友人ならいいか」
天谷ヒカルは昨夜のあの騒動時に同じくして、病室から突如行方知れずとなったらしい。
病院の出入り口に設置してある防犯カメラにも、それらしい怪しい人物の出入りも本人も映っておらず、まるで神隠しにあったかのような事件らしい。
本来であればもっと早くに来るべきだったのだが、昨夜の騒動の件で忙しさに追われて朝来たばかりとの事。
「彼女のご友人だから君には話しているんだ。あまり口外しないでくれよ」
「そ、それはいいんですが、ヒカルさんの体で外に出たら危険なんじゃ・・・・・・」
「ああ、だから彼女のためにも早く見つけ出したいんだ。師岡卓也君、君も何か判ったら連絡してほしい」
「は、はい・・・」
モロに説明を終えた警察官は、病室に入っていく。
モロはただ、呆然と立ち尽くすしかなかった。
-Interlude-
川神姉妹が出かけている頃を見計らって、士郎はスカサハと共に鉄心に会うべく川神院に来ていた。
如何やらまだマスコミ関係の車が何台か止まって入り口を押さえているので、百代がたまに使っていると言う抜け道を通ってくると良いと教えてもらい、敷地内に入る。
如何やら百代の抜け道は随分前からばれている様だ。
そして総代の自室に行くまでに幾人とすれ違ったが、いずれもスカサハの美貌に見惚れて呆けたまま立ち止まった者が続出した。
まあ、想定通りなので、気にせずに鉄心の部屋に歩いて行った2人は漸く到着して招かれた。
すでに話すべき事項があるとアポは取っているので、何も問題なくスムーズに落ち着く。
そして士郎の口から単刀直入に告げられる。
「百代の体に魔術回路が備わっている可能性が非常に高いです」
「何じゃとっ!?」
「信じがたい気持ちは分かります。ですので、これから説明するのは俺の単なる推測ですが、聞いてもらえますか?」
鉄心は無言で頷いた。
――――ではと、士郎が話し始める。
そうして話を聞き終えた鉄心は頭痛に悩む仕草をしながら口を開く。
「確かに昔の川神家は神道を頂く魔術師の家柄じゃった。しかしある時期を境に、年々魔術回路は減退の一途をたどり、遂には死滅してしまったと言う。じゃが、それと引き換えに膨大な気を有する一族に生まれ変わったのが今の川神一族じゃ。そんな儂等――――いや、モモに魔術回路があったとはのう」
「今回の事は俺の迂闊さが招いた失態です。庇うどころか、巻き込むように引き込んだようなものです」
「あ、いや・・・」
士郎の土下座姿勢に鉄心が止めようとするが、そこでスカサハが士郎を諫める。
「それは違うだろう。そもそもあの娘が好奇心で敵性サーヴァントの攻撃を態と受けると言う驕りがあったのがそもそもの原因で、それを野放しにしていたのはこの孫可愛がりの小僧であろう」
「あっ、そうか!じゃあ、すいません。今の謝罪は無かった事にしてください」
「えー・・・」
上手から急速に下手に切り替わった展開に理不尽に思う鉄心。
まあ、自業自得である事は否めないが。
「では、今回の事も元をたどれば鉄心さんが原因だと言う事に落ち着きましたんで、贖罪の代わりにこれを百代に渡してください。それは師匠が作成した魔力殺しのペンダントです」
「またかっ!?――――し、しかしじゃ、儂が渡すよりお主が渡した方が喜ぶと思うぞい?」
「何で俺だと百代が喜ぶんですか?」
「・・・・・・・・・・・・」
この発言に流石に呆れた鉄心は、溜息をついてからスカサハに視線を向ける。
視線が合うと、スカサハは肩を竦める。
「いい加減女心を学べと言ったはずだろう?」
「何を急に?それに俺は師匠の言う通り勉強していますよ?」
「学ぶ姿勢が有ろうとも、役立てていないんじゃ、一緒と言われても仕方ないぞ」
「ですから今の状況とそれは関係ないでしょう」
これだと、言わんばかりに深い溜息をつくスカサハ。
そんなスカサハに僅かばかりの同情を向ける鉄心。
「兎に角、これは鉄心さんが百代に責任を持って使わせるように渡して」
「いや、これは罰として、お前があの娘に渡せ」
「な、何でですか!?」
「拒むことは許さん」
「・・・・・・・・・?――――わかり、ました」
何所までも状況を理解できない士郎ではあるが、此処まで態度を硬化させるとスカサハが梃子でも動かなくなるのは知っているので、不承不承ながら頷いた。
そんな気まずい空気の中で鉄心が口を開く。
「話は終わりかの?ならばまた来た道から帰んなさい」
「そうさせてもらいますが、まだマスコミ関係がうるさいんですか?」
「いや、既に朝一に例のテレビ局に行って、平和的解決をしてきた所じゃ。じゃから、もうすぐ他も引き上げると思うぞい」
満面の笑顔で言うが、目が笑っていない事は一目瞭然である。
恐らく圧縮した殺意を当て続けながら、脅しと言う名の話し合いをしたのだろう。
事実、自業自得の某プロデューサーは本人を目の前にして肩を軽くとは言え叩かれている時、生きた心地がしなかったらしい。
ただ脅されているので誰にも打ち明けられない悩みとなった様だが。
それは兎も角、笑顔から一転、鉄心が何か思い出したように問うてきた。
「そう言えば、昨夜の詳しい騒動の内容には聞いておらんぞ。差し支えなければ聞きたいんじゃがのお」
「む、思えば私も現場の事は聞いていなかったな。話せ」
そう言われた士郎としても隠し立てする事が無いので素直に話す。
そして聞き終えた2人は難しい顔をする。
「突発的でもなくモモを狙った訳でもないが、新たな脅威の出現とは・・・。一応聞いておくが、藤村組の抗争相手じゃ無いんじゃろ?」
「当然です。いたとしても関東圏内で何か企んでいれば、すぐさま気付く雷画の爺さんの化け物並みの耳聡さと目聡さに直観力については、鉄心さんの方がご存じの筈では?」
「まあ、そうじゃな」
一応納得した鉄心。そしてスカサハは独り言のように呟いている。
「無限に湧くオートマタにそれを操るデコイ。そして撃破後は全てまるで始めから無かった様に、残存数もスクラップの破片一つも残らず町中から消え失せていたか。全て宝具であるなら説明が付くが、果たしてサーヴァントの真名は何所の誰であろうな・・・」
「恐らくは近代なのでしょうが、わかりませんね。それよりも俺が気にしているのは――――」
「葵紋病院から消えた少女と、その病室で新たに呼び出されたであろうサーヴァントだな?それについては一度帰宅してから話すべきだな。小僧も暇では無かろう?」
「小僧呼ばわりはヤメて欲しいんじゃがのお」
しかしスカサハは鉄心の言葉を返そうともせずに立ち上がる。
その態度に鉄心は溜息をつき、士郎は師匠らしいと内心で思いながらお暇させて頂きますと、礼をしてからスカサハの後に続く様に出て行った。
-Interlude-
百代は夕方、川神院に帰る為に土手付近を歩いていた。
しかしそこで夕日をただ眺めているモロに出くわした。
「モロ・・・?お前そこで何してるんだ?」
「・・・・・・あ、モモ、先輩。うん、ちょっとね」
「ちょっとじゃないだろ?お前がここ最近おかしいって皆で相談してたんだ。何かあるなら聞いてやるぞ?」
「そ、それは・・・・・・」
警察には郊外を控えてくれと言われた手前、相談したくても出来なくなっていた。
しかし百代は川神院の娘であり武神だ。
もしかしたら何とかなるかもしれないと言う前向きさと、警察との約束を天秤にかけて迷うモロ。
そんなモロに話しかけた百代と言えば唐突に強い何かを感じ取った。
(!?・・・・・・これは殺気・・・?いや、殺気では無いが似ている“何か”だ)
百代が感じ取っているのは魔術や神秘的な波動だ。
百代は当然知らないであろうが、魔術とは常に死のリスクを抱えている。
その死のリスクは武術家からすれば殺気の波動に似ているモノだ。
しかし、それを感じ取れるのは魔術回路を有している者のみ。
そしてその正体を明確に理解できるのは、自分の体の魔術回路を認識している上で常日頃から魔術に触れている魔術師と、同類や似た存在達だけである。
しかしそんな事は知らない百代でも、その発生地点くらいは判る。
感じた波動を辿ると、川神市でも富裕層が集まるエリアだった。
さらにこれは偶然だが、自分が感知した発生地点方向に向かって猛スピードで向かっている2人に気付いた。
(あれは・・・・・・シーマに士郎?)
そして百代に目聡く視認された2人――――と言うより、マスターである士郎は焦っていた。
(この感覚は昨夜葵紋病院から感じたものに間違いない・・・・・・・・・・・・が、それにしてもまだこんなに日も高いうちから動くなんて・・・!)
緊急時でなければ自分でも守る魔術の行使する時間帯を破る非常識さに、憤りよりも予想外の驚きが強かった。
(兎に角間に合え!)
できるだけ早く到達するために急いだ。
-Interlude-
少し時間を遡る。
そこは百代が指摘した富裕層が住むエリアの一角。
そこには、とある大豪邸(坪的には藤村組からしてみても小さい)が一軒あり、ボディーガードらしき黒スーツにサングラスを身に着けている者達が邸宅を囲う様に警備している所だ。
その邸宅の家主は生憎と仕事でまだ帰宅しておらず、居るのは給仕が数人と自室にて電話中の1人娘ぐらいだった。
名前は津川瑤子。九鬼財閥や西欧財閥には劣るモノの、大企業の一つであるTUGAWAカンパニーの社長の実子だ。
そして、欅美奈をメンタル面で自殺するまでに追い込み、天谷ヒカルを病院生活の戻した苛めグループの主犯格の1人でもある。
容姿端麗眉目秀麗のお嬢様ではあるが、性格は自分よりも美しい女を許さない醜悪な感情を抱えた持ち主で、まるでアリスを消そうとした魔女である。
「――――そう、今夜も遅くなるのね?」
『そうなんだよ。部下達が九鬼との商談でミスをしてね。事が事だから、私も出張らないといけない事態にまで発展してしまったんだ』
「解ったわ。それじゃお仕事頑張ってね、お父様♡」
話す事は終えたので、そのままスマホを切る瑤子。
そんな彼女は溜息をつく。
今夜は父親と過ごせないからでは無い。
全ての物事が自分の思い通りにならない、この未完成の世界にだ。
この世界の中心は自分でなければならない――――いや、それこそが本来正しい形だ。
しかし現実には自分は中心どころか、世界の三大組織のいずれもの跡継ぎですらない。
そう言う意味では父親に対して幾らかの失望をしている。
だが絶望しているワケでは無く、自分が世界で正しい行い(自己中心的思想の究極への発展途上型)を行使しようとする時に対して、当然のように手助けしてくれることには一定以上の評価をしている。
詰まる所瑤子にとって、父親は自分を世界の中心に戻してくれる道具に過ぎない。
しかしながら、そんな現状でも出来る事はある。
それはこの世界では本来あってはならない事の一つ、自分よりも美しい女を排除する事である。
この世界の中心は当然自分なのだから、最も美しい女性も当然自分でなければならない。
にも拘らず、この世界は自分よりも美しい女と言う間違った存在を少なからず許容している。
ならば本来の正しい形に戻す為、手ずからあってはならない事象を討滅しなければならないのだ。
そして先日やっと身の程を弁えない欅美奈をこの世界から自殺させるに成功した。
だがまだまだ始まったばかり、特にこの町には自分よりも美しいと言う悪が跋扈している。
特に目に着くのは武神・川上百代だ。
既に瑤子は百代を排除する構想だけは完成していた。
しかし今はまだ手が出せないので、次に別の悪の討滅をしようとタブレットを見ながら考えていると、突如周囲の景色が石造りの回廊に変貌したのだ。
「な、何!?何なのっ!?」
突然の変化に戸惑う瑤子。
しかし状況の把握も出来ないまま、王様気分のお嬢様は後ろから強い衝撃を受けて吹き飛ばされる。
「ああああっっ!!?」
それはもう面白いくらいの吹き飛ばされぶりで、何度もバウンドしながら二転三転転がって行き、壁にぶつかる事で漸く止まった。
「かっ、は、っあ」
全身の擦り傷もあるが、何より背中の痛みに悶絶する瑤子。
それでも何とか見上げた所、その眼前には雄牛の角を持ち、獅子の如き白い髪をなびかせる仮面の巨漢が自分を見下ろすように見ていた。
「・・・・・・・・・・・・」
「あ、い、いっぎゃばぇっ!」
自分を見下ろす正体不明の存在に恐怖に打ち震えていたら、目の前から足が自分の顔に突き刺さり、その衝撃でまたも吹き飛んで壁に当たる。
「・・・・・・あぎゅ・・・かひゅ・・・・・・」
瑤子の顔は歯が幾つも砕け散り、鼻の骨が曲がり砕けて左頬は赤く腫れあがり、左目からは出血量が酷く完全に潰れていた。
もはや容姿端麗、眉目秀麗の美少女の顔は台無しになっている。
そこに、巨漢の後ろから1人の少女が現れた。
「良い顔になったわね、津川さん」
「・・・・・・!?」
声が聞こえる方に弱弱しく顔を向けると、自分が病院に無理矢理戻しすために虐めぬいた天谷ヒカルと言う名の悪が居た。
その悪は、笑顔のまま自分に近づいてから顔を蹴って来た。
「ぎゃああぁああっ!!」
憤怒の力に適合した事により任意で発火させる事も出来るようになったヒカルは、瑤子の顔面を蹴ると同時に右側を焼いたのだ。
だが威力にそこまでの力を入れなかったため、直に火は掻き消えたが、瑤子の顔は最早面影すら消えていた。
「いい気味ね、津川さん。でもね、私も美奈もあなた達から受けた苦しみは、この程度じゃ収まらないのよ?」
いかにもこの程度では終わらせないと告げるセリフに対して、瑤子は怯えるでも命乞いをするでもなく、自分のルールと言う絶対性からの正論(思い込み)を言い放つ。
「黙れ異物!私は絶対、私は正しい!そんな事も解らないの!!」
だが何を言っているのかまるでヒカルには伝わらなかった。
ただし、意外にもバーサーカーには理解出来たようで、苛立ちを露わにしながら瑤子に近づく。
「だまれ、だまれ!ひかるのわるぐち、いうなっ!」
「ぅっぎゃっあ゛あ゛あ゛ああああああぁあああああああああっっ!!!?」
止まることなく近づいたバーサーカーの足が、瑤子の両足を思い切り踏みつぶした。
それによって激痛から来る悲鳴と共に泣き叫ぶ瑤子。
そしてそれを見ていたヒカルは一先ずこれである程度の満足を得られたようで、次――――と言うか、仕上げにかかる。
「雷光」
「うん」
ヒカルが何を言いたいのかアステリオスと呼ばれたバーサーカーは、いとも容易く意思疎通を行い、未だ激痛に泣きじゃくる瑤子の頭を鷲掴みにして、自分の顔の前まで持ち上げる。
「ごめんねアステリオス」
「いい。ひかるがぼくのなまえよんでくれてうれしい。ぼくもひかるのため、がんばる」
「・・・・・・そう。じゃあ、津川瑤子を生きたまま食べなさい」
「・・・・・・・・・・・・」
全身に至る箇所の痛みを忘れる位の言葉が瑤子を襲った。
――――今何といった?
食べる――――何を?なにを?ナニヲ?
生きたまま――――何が?如何いう?誰を?
だがその答えが真下から迫っていた。
それは大きく開かれたアステリオスの口である。
アステリオスは文字通り、瑤子を生きたまま食べると言うのだ。
自分の声に耳を傾けてくれる者はおらず、恐怖に顔が嫌でも引き攣る瑤子。
しかしそこで『外』から現れたアヴェンジャーが制止を掛ける。
「待て、アステリオス。ヒカル」
「如何して止めるんですか?」
「・・・・・・・・・」
「如何やらこの町の魔術師とサーヴァントが近づいている」
無粋なとでも言いたげに外が見えているのか、迫って来る魔術師達の方に向かって睨む。
「だったら迎え撃てば――――」
「お前の力は有限。よしんば勝てたとしても、お前の復讐計画を最後まで完遂できなくなるかもしれんぞ?とは言え、これはお前が始めた復讐だ。如何するかはお前が決めろ」
「・・・・・・・・・・・・」
新たに表れた男によってヒカルが手を止めるのを見て、瑤子はチャンスだと考え助けを求める。
しかしアヴェンジャーはそれを黙殺する。そして、ヒカルの背を押すようにアドバイスをする。
「只、今この場は引けば、俺がそれに心臓と肺を治癒し続けてやれる。今の俺には多少の魔術は使えるからな。そうすれば最後まで、痛み苦しみながらの処刑が出来るが・・・・・・如何する?」
「!わかりました。此処はアヴェンジャーの言う通りにします」
「懸命な判断だ。それに如何やら鼠が嗅ぎまわっている様だからな」
「ねずみ・・・ですか?」
「今はそれはいい。引くぞ」
アヴェンジャーの提案を受け入れたヒカルが、アステリオスに命じて宝具を解除させる。
それと同時にその場から消え去ると、そこに残ったのは主無き部屋と彼女のスマホだけだった。
そして瑤子は知る事となった。本当の地獄とは死後に訪れるモノでは無く、生きたまま体験する事なのだと。
――――こうしてヒカルの復讐は始まりを告げた。
復讐完了まであと5人。
ページ上へ戻る