魔法少女リリカルなのは 絆を奪いし神とその神に選ばれた少年
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第三十七話 過去の罪
『あ、主、大丈夫ですか……?』
「だ、大丈夫や……ちょっと心にダメージ喰らったけど……」
過去に全とリインフォースが一緒にいる所を見た時に自身が言った浮気という言葉に顔を真っ赤にしていたはやてがようやく平静を保てるようになった。しかし、その名残なのかまだ若干顔が赤い。
恐らく蒸し返せば先ほどのようになると全は分かっていたため、何も言わなかった。
しかし、理由はそれだけではない。現在進行形で続いている映像を脳裏に焼き付けようとしているのだ。
今度は、いつ見れるかわからないから。
『で、では……その後、私は主はやてのご両親に全ての事情を話し、家に住まわせてもらえる事になりました』
「ちょ、ちょっと待って!?全てって……魔法関連の事もなんか?」
『はい、全てを包み隠さず。その際には事情を知っている全と、全のご両親にも協力してもらいました。彼らはかつて管理局に所属していたそうなので』
「そ、そうなんか?橘君?」
リインフォースの言葉が信じられないのかはやては全に問う。
「ああ、俺の両親はかつて管理局に所属していた。クロノやリンディ提督に聞いてみるといい。かつての二つ名は確か……父さんが『完成された魔導士』で母さんが『無敵の電子姫』だったかな?母さんの方は戦闘じゃなくて支援専門だったから、あまり有名じゃないかもしれないけど」
「な、な、な……」
はやては戦慄した。その二つ名をはやては何度も聞いてことがあるからだ。
それはなのはからだった。
なのはは今、戦技教導官になるための勉強をしている。そして先輩である名のある戦技教導官達は皆、口を揃えて言っていたというのだ。『俺たちはまだまださ。俺たちの目標は『完成された魔導士』だからな。俺たちはあの人を師匠と慕っているんだ』と。
そして『無敵の電子姫』。こちらも知っていた。彼女の手にかかればどんなに損傷したデバイスも一晩で直してしまう。
以前、犯罪者達が何人かで同時に管理局のメインコンピューターにハッキングを仕掛けた時、彼女はたった一人でそのハッキングを回避するシステムをたったの三十分で構築。さらに逆探知で犯人達の居所もわかり、一斉検挙したという事もあったそうだ。
そんな二人を全は両親に持っているという事実にはやてはただただ戦慄した。
「?どうした?」
「そ、そんな凄い二人を親に持っとるんやなと思ってな……」
「そうか?親は親で子は子だと思うが……」
『そろそろ、よろしいでしょうか?』
「ああ、頼む」
『それで、なんですが……主の家に居候してからというもの、私は久々に平穏というものを感じていました。こんな時がずっと続けばいい。そう思い始めていた時でした』
ガッシャーンッ!!!
「「っ!??」」
画面から物凄い音が鳴り響く。画面は土煙で何も見えなくなっており何が起こったのかはやて達には分からない。
「な、なにが起こったんや?」
「……事故、さ」
「え?」
はやての疑問に全が答える。
「その日、智樹さんと日和さんは商店街のくじ引きで当たったっていうペア旅行券で海鳴市を離れたんだ。ただペア旅行券だったからはやては置いていったんだ。そこで俺たちの家ではやてを一時預かる事になったんだ」
『しかし、旅行先に向かうバスが事故に巻き込まれ……バスに乗っていた乗客全員並びに運転手は死亡。主はこうして……一人っきりになってしまいました』
その残酷な現実にはやては思わず顔を俯かせる。
『そして主は心の殻に閉じこもり……最悪の結果を招きました』
モニターに表示されている映像は公園。はやてと全、リインフォースがよく遊んでいた公園だ。
ブランコに力なく座り込み、顔を俯かせるはやて。
〈はやて。いつまで不貞腐れているつもりだ?〉
そんなはやてに辛い言葉を投げかける全。こうやって反発して生きる気力を湧きあがらせようと全はしているのだ。
〈……………………〉
しかし、そんな全の言葉にはやては何も返さない。
〈はやて、いい加減に〉
〈待ってください、全。何かおかしい〉
〈え?〉
全は改めてはやてを見る。そして観察してわかった。
無。はやてからはその感情しか感じられなかった。
〈……そうや。そういうことなんや……〉
と、はやてがいきなり話を始めた。
〈……おとうさんも、おかあさんもせかいにころされたんや……わたしは、このせかいがにくい……〉
〈っ!!??はやて、それはっ!!〉
〈……もういい。ぜんぶ、きえてなくなってしまえっ!!!!!!!!!〉
その瞬間……はやてを中心に濃密すぎる魔力が一気に放出された。
〈ぐっ!?はやてっ!!〉
〈きえろっ!!きえてしまえっ!!!!〉
〈くそっ!声が届いてない……!〉
〈全っ!!私がっ!〉
〈だめだ、リイン!!お前がいったら取り込まれるだけだ、わかるだろう!!〉
〈そ、それはそうだが……しかし、このままではっ!!〉
はやての魔力は底が見えない程だ。現にもうCランク魔導士の持っている魔力容量十人分程の魔力を無作為に放出しているのに、その勢いは衰えていない。
〈こ、このままじゃ……はやてが……そんなのだめだっ!!〉
全はこの先に続く未来にある程度の予測が立てられた。それはまさしく、過去の自分と重なっていたからだ。
その果てにあるのは……自身の破滅。寸前で全は戻ってこれたが、はやても戻れるとは言い切れない。
故に、全は駆け出す。はやてを助け出す為に。
しかし、そんな全を止める者がいた。
〈やめとけ、全〉
〈離せっ!このままじゃ、はやてが……!〉
〈わかってるわ、全。でも、ダメ〉
〈なんでだよ、父さん、母さん!!〉
全を止めたのは、全の両親である橘秀二と橘アトレであった。
〈お前が行ってもどうにもならないからだ〉
〈そんな事はない!俺にだって出来る事が〉
〈無理だっつってんだろうがっ〉
秀二はそう言って全を気絶させる。
「ちょ……さ、さっきから急展開すぎるねんけど……」
『まあ、確かにそうですね。では、一旦映像を止めて現状を説明しましょう』
リインフォースがそう言うと、映像が一旦止まる。
「この時、はやては深い絶望の中にいた。それで、世界を破壊しようと魔力を暴走させた。それを止める為に父さんと母さんが来たって感じだ」
「いや、それでも急展開すぎるで!?というか、そもそもこんなの私知らないで!?」
そう、そこなのだ。はやては未だに過去の事を思い出していない。
『大丈夫です。これから、分かります……その後、暴走を起こしてしまった主はやての魔力封印の為、秀二殿とアトレ殿は結界を展開し、別の無人世界に転移。そこで主の魔力を封印する事に成功しました』
「ちょっと待ってくれ、リイン」
と、そこまで説明した所で全部知っている筈の全が待ったをかける。
「二人はどうやってはやての魔力を封印したんだ?そこだけは知らないんだ」
『それは私にも分かりません。そもそもあの暴走は主の心の闇を闇の書が強引に増幅させた物。闇の書時代であった私なら知っていたかもしれませんが……今となっては』
「そうか、わかった。話を止めて悪い」
「橘……君?」
「?なんだ?」
「いや、何で知らないのかなって……」
「ああ、その事な……まあ、分かるよ」
『では、映像を……主と全のご両親が転移した直後……闇の書の影響は遂に私にさえ及びました。そして、それは……仮にでもパスが繋がっていた全にも影響を及ぼしました』
〈くっ……私にも影響が……〉
〈がっ……あ、ああっ……〉
〈全……?ど、どうして……まさか、全を主として仮にでも認めたことによりパスが繋がった……?〉
〈くっ、い、痛ぇ……あ、足が……〉
気絶していた筈の全も痛みにより意識が戻った。しかし、このままでは全までも先ほどのようになってしまう。
〈り、リイン。何とかお前だけでも書から切り離せないのか……?〉
〈無理です。むしろ私がいるから、くっ……この程度で済んでいる……〉
〈そ、そうか、ぐっ……でも、このままじゃ終わるな……ははっ……〉
この時、全は死ぬ覚悟が出来ていた。しかし、リインはそれを許さず、残酷な選択を全に強いた。
〈全……私と全、両方を救う方法がたった一つだけ、あります〉
〈それは、教えてほしいものだね……〉
それは
〈私を……殺してくないか……?〉
〈……冗談は、言っていい時と言っちゃいけない時がある。今は言っちゃいけない時だと思うけど……?〉
〈冗談じゃない。本気だ〉
〈っ、ふざけんなっ!!!!〉
その時、全は痛みなんか最初からなかったかのようにリインフォースに詰め寄り、胸倉を掴む。
〈俺に、お前が殺せると本気で思ってんのか!?お前を殺すって事は、はやては本当の意味で一人っきりになっちまうって事なんだぞ!!それをわかって!!!〉
〈わかっているさ……お前がこの町を後数日も経たない内に去る事もな〉
〈っ、なぜ、それを……〉
〈聞いてしまったんだ……一週間前、智樹殿と日和殿が旅行に向かう前日の晩……お前が二人に話をしているのを……〉
〈……………………〉
〈むろん、私が知ったこの事実はすぐに私の頭の中から消え去るかもしれない。現に主は殆ど忘れてしまっている……それと関連している私の事もな……だから、私が消えてもさして変わらん……〉
〈だけど、それじゃ……〉
全はそれでも迷う。はやてを一人にはしたくないから。ただそれだけの理由で躊躇う。
本当ならば、自身の為に考える筈なのに全はそれをしない。だからこそ、リインフォースは躊躇わない。
〈全、私は今この時の為に起動したんだと思います〉
〈え……?〉
〈全、他人の為に生きる事は確かに大事です。ですが、それに全てを委ねてはいけません。時には自分の事も考えるのです。今がその時です。貴方はその痛みから解放されて、主も全のご両親が助け出してくれる。私の存在は今この時は消え、誰も傷つかない。ほら、いいじゃないですか?〉
〈でも、お前が悲しむだろっ!!?〉
全は泣く。泣きながらも叫ぶ。それはこの世界に転生を果たして、初めて流した涙だった。
〈ありがとう。私の為に……泣いてくれて……でも、いいんだ。私は十分に幸せだったよ、全〉
〈っ、リイン……〉
〈リイン、か……いい、名前を貰った……今度起動する際にはぜひとも、主はやてにその続きの名前がほしい物だ〉
〈リイン……ごめん、俺は……〉
全は痛みに耐えながらも当時から持っていたシンを起動。バリアジャケットを身に纏い、腰にある短刀を引き抜く。
〈大丈夫……短かったけど、良い記憶を持てた。これで頑張れるよ……〉
〈くっ……〉
そして、全は短刀を握りしめ、その刃をリインに突き立てる。
そこで、映像が終わった。
『これが、私たちと全の過去です』
「はやてちゃん……」
これまで黙って黙々と映像を見ていたリインフォースⅡが初めて声を出す。
聞かれた本人、はやては顔を俯かせたままだ。
『もう、思い出しているんじゃないですか?主はやて』
「っ……そ、そうやな。確かに思い出したわ……」
そう言いながら、はやては一歩。また一歩と全から遠ざかる。
「はやて?何で遠ざかって」
「こんどいて!」
「っ!」
はやては全を拒絶した。しかし、それは全が嫌いだからではない。むしろ、過去の事を思い出し、全の事を好意的に見れるようになっていた。
しかし、だからこそはやては拒絶する。自分なんかが全の近くにいてはいけないと思ったから。
「私、全君の事忘れてた……しかも、自分は勝手に絶望して、全君や全君の両親に全ての責務を背負わせて……私だけ、のうのうと……」
「それは違う。俺たちは俺たちの意思で選んだ選択だ。むしろお前の絶望を少しでも肩代わり出きなかったんだ。それが悔しかった」
「違う!全君は何も悪ぅない!!全部私が!」
「だから!!!」
全は強引にはやての腕を掴み、自身に引き寄せ優しく抱きしめる。
「お前は何も気にしなくてもいいんだよ。俺が自分の意思で選んだ選択だ。そこに後悔はない。だから、はやても何も気にするな。むしろ、記憶が戻ってくれてよかった」
「全、君……ごめん、本当に……」
「いいさ。もう……記憶が戻ってくれたんならそれで……」
こうして、はやての記憶は戻り、また一つ全の絆が取り戻された。
しかし、実は全達に見せてはいないがリインフォースは橘秀二と橘アトレがどうやってはやての暴走した魔力を封印したのか知っていた。
だが、疑問が残っていた為、見せずにいたのだ。
『(あの時、彼らは当然のようにそれを口にしていた。ならばなぜ、全がその事を知らない?知っている筈なのに……)』
その映像を見ていた時を思い出す。
誰もいない無人世界。暴走する魔力。そんな状況にあって二人は少しも動揺せず、どちらからともなく手を握り合う。
そして、告げる。その名を。
『『我は、神に従いし者――――――』』と。
後書き
色々と謎を残しはやて編、終了。ちなみに補足すると、この後シグナム達はこの映像を見ました。それにより全員考えを改めることになり全の事を認めるようになります。
後、フェイト・アリシア編の話の元ネタは私が愛読している「ロクでなし魔術講師と禁忌教典」という小説の第四巻のリィエルの所を意識して書きました。まあ、どうでもいい情報でしょうが、皆さん読んでみてください。まじで面白いです!
そして、これからなのは編。全君にとっての分岐点がすぐ近くに来ております。
そして最後の秀二とアトレの詠唱の意味とは……?次回をお楽しみに!
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