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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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コンフルエンス

 
前書き
たまに忘れそうになりますが、この小説内での現在の時間軸は原作無印の2年半後なんですよ……。 

 
新暦67年9月23日、4時47分

「そっか……ビーティーは結局、復讐を果たしたのか」

崩壊した戦艦から脱出しながら事の成り行きを見たジャンゴは、次の報復の連鎖が始まってしまった事に何とも言えないやり切れなさを感じた。

「報復心こそが人を動かす。ヒトから逸脱したサイボーグも、人間らしく報復心に憑りつかれていたようだ」

戦艦を挟んだ反対側から、スカルフェイスの声が煙に混じって届く。姿を見る事は出来ないが、彼の声音に若干の苛立ちが含まれているとジャンゴは感じた。

「大将ともあろう者が次元航行艦という大事な足を失ったせいか、ずいぶん怒っているようだね」

「思い上がっている所悪いが、たかが戦艦一隻、サヘラントロプスに比べたら物の数ではない。それに……保険が無駄にならずに済んだ」

「保険? ……もしや!」

保険の内容を察したジャンゴはなのはとビーティーに合図を送る間もなく、戦艦を回り込んで反対側に向かう。声が妙に遠くから聞こえた事で、スカルフェイスが逃走しようとしていると判断したからだ。

それは事実で、反対側に着いたジャンゴは閉まる途中の自動扉を見つけた。緑色の点灯が光るその扉をスカルフェイスが通ったと気付いたのは一瞬で、ジャンゴも急ぎ追いかけて行く。

扉を越えた先の通路はそこまで長くなかったが、その代わり通路の先から響いてきた轟音が通路全体を振動させる。それがついさっき聞いたジェットエンジンとよく似た音であると思った瞬間、ジャンゴは通路を出て少し開けた空間に到着した。そこは先程の次元航行艦用ドックを小さくしたような場所で複数のハンガーがあり、中央では小型の戦闘機が今にも飛翔しかけていた。

「なっ!? ハリアー2が何でここに!?」

ハリアー2は世界初の実用V/STOL攻撃機ハリアーの発展型で、機体側面にあるエンジンノズルの推力線を変える事で垂直単距離離着陸を可能にしている。ハリアー2はハリアーに比べてエンジン吹き出し口の改良等でペイロードがかなり拡大されており、そのおかげで武装も大幅に増えている。本来は胴体パイロンに25mm機関砲ポッド、両翼に対地攻撃用ロケット弾、空対空ミサイル、クラスター爆弾の各種ポッドを装備しているもので、当然、小火器なんかで撃ち落とせる相手ではなかった。

しかしこの機体は違った。胴体パイロンには小型魔導炉、両翼には外見がカートリッジによく似た魔力タンク、つまり本来の武装の代わりに次元を航行するための機能が取り付けられていたのだ。銃火器が無いおかげで攻撃される心配は無いが、現状を鑑みればむしろ次元を越えて逃げられる方が厄介だった。

「ではな、太陽の戦士。生きていれば、また会おう」

ハリアー2のコクピットから余裕の表情を浮かべるスカルフェイスの別れの挨拶が聞こえた直後、ハリアー2は垂直上昇を開始する。しかも改造によって取り付けられた次元航行艦としての機能が動き出し、次元転移の魔力光が集まっていく。近くに階段とかは無く、飛行魔法が使えないジャンゴはその事に歯噛みしながら、このまま見逃すしかないのかと悔しく思った、その時……。

「逃げる奴は追い掛けたくなるもんだろ、ましてやそれが敵の大将ならなッ!」

「ビーティー!?」

ここまでの通路をビーティーが地面に稲妻を走らせる速度で突っ走ってきた。咄嗟に横に避けたジャンゴを通り越して、彼女はそのまま直進すると壁に足を着け、そのまま壁走りで登って行った。

「うわ~、魔導師もニンジャも真っ青な力業……ビーティーはいつも僕達の予想を上回るなぁ……」

破天荒な追跡法に流石のジャンゴも唖然とする中、壁に足跡をくっきり残しながらビーティーはとうとうハリアー2に追い付き、スカルフェイスに見せ付けるようにニヤリと嗤うと一気に跳躍、戦闘機に飛びかかっていった。

「次元転移シフト中の機体に飛び移るとは貴様正気か!?」

「ンなことより大将、パーティーの途中に帰られたらシラケるだろう。もっと来賓をもてなしてくれよ! お返しの品もあるんだしさ!」

狭い空間であったことが幸いしてビーティーが右翼にしがみつけた事で、ハリアー2の操縦が若干乱れる。言ってる事こそアレだが、スカルフェイスにとってかなり頭にくる妨害を彼女は成功させていた。
しかし次元転移シフトそのものを喰い止めてはいないため、事態に気付いたジャンゴがビーティーに呼びかけようとした瞬間、ハリアー2が一際強い魔力光に包まれて空間中を揺るがす衝撃が発生する。そしてハリアー2は―――、

「しつこいサイボーグだ、それほどまでに破壊が愉しいか!」

「グェッハッハッハッ! よく言うぜ、インポ野郎が!」

―――ビーティーごと次元空間へ転移してしまった。

戦闘機が消え去り、一気に静寂に包まれる空間で終始事の次第を見ていたジャンゴは、

「行っちゃった………。………まぁ、ビーティーなら一人で次元空間に放り出されても大丈夫だろう。……たぶん」

彼女の身を案じる必要は無いと断言した。念のために言っておくが、これは何があってもビーティーなら潜り抜けられると信頼しての発言であって、彼女がどうなろうが構わないと思っての言葉では断じてない。

とりあえずここに追い掛けてこなかったなのはと合流すべく、ジャンゴは来た道を戻る事にした。一応先程の発着場にいたスカルズは殲滅したものの、ここが敵地である以上万が一という可能性もあるため、急ぎ足で向かった。

発着場の中央で見る影もなく崩壊し、中から炎が上がっている戦艦のすぐ傍に、なのはの姿はあった。彼女はとうに息を引き取ったプレシアの亡骸の前で一人、無言のまま佇んでいた。

「あ……ジャンゴさん。……ビーティーは?」

「彼女はスカルフェイスの戦闘機に飛び移って、そのまま次元転移に巻き込まれた。おかげで今どこにいるのかも、無事かどうかもわからないけど、ビーティーだから心配はいらないと思う」

「そっか……となると行く前にこれを置いていった事から考えて、ビーティーはそうなるのも想定してたのかな」

なのはが取り出したのは、作戦前にビーティーが持っていたC4の遠隔スイッチだった。作戦ではこれを押すとC4が起爆、スカルズ生成装置ごと基地を吹っ飛ばす目論見で、あえて時限式にする事で基地内の人間を脱出させる猶予を持たせるつもりだった。しかしこの現状を鑑みるに、基地内に人間は誰一人としていない。潜入してきた自分達を除いて。

「作戦通りとはいかなかったけど、もうここに用はない。ヘリ要請を送るから、脱出次第そのスイッチでこの基地を爆破しよう」

「うん……まだ、全部終わってないもんね。私達は、歩みを止める訳にはいかないんだよね……生き残った者の責任として」

この短時間に二人もの死を看取ったなのはは、辛さを嚙みしめながらも顔を上げて強く前を向いた。泣くのは全てが終わった後でも良い、今はその時に流される涙を減らす努力をしよう。その姿にジャンゴは、両親を失って太陽少年として戦う事を志した時の自分の姿を重ねていた。

「じゃあ……帰ろうか」

そう言って差し出されたジャンゴの手を、僅かに微笑んでなのはは掴んだ。

十分後、一機のヘリがキャンプ・オメガを飛び立った。ウルズの国籍マークが付いたヘリの中から二人は基地を見下ろし、スイッチを押してC4を遠隔起爆させる。直後、基地の至る所が爆発し、紅蓮の炎に飲み込まれていった。

「これでスカルズが新たに生み出される事は無くなったはず。時間の猶予はあまりないけど、事態の解決には一歩前進って所か」

「直接じゃないけど仕返しができて、プレシアさんの無念も少しは浮かばれたかな」

雨で濡れた身体をタオルで拭きながら、ジャンゴは先のことを考えて気が遠くなりそうな感覚を抱き、なのははヘリ内に運び込んだプレシアの遺体が入ったベクターコフィンを見つめて冥福を祈った。プレシアが生前に為した事はこれからの未来で多くの悲劇を生み出しかねないだろうが、それでも必死に生きた一人の人間である以上、葬儀を行ってちゃんと弔うべきだと、あの基地でジャンゴが提案したのだ。
なのはとしては本能では家族の下へ連れて帰してあげたいが、理性ではそんな事をしている余裕はない、というせめぎ合いに苦悩していた所にこの提案が出てきたので当然、彼女は全面的に賛成し、残存する敵の目を逃れながらヘリまでプレシアを運びきった訳だ。なお、彼女に埋め込まれていた爆弾は、実はトドメを刺した後にビーティーが強引に腕を刺して抜き取っていた。
おかげで傷跡や出血が凄まじい事になってなのはの血の気がサァーっと引いたりもしたが、ともかくプレシアの遺体が爆破される心配は無かった。一方でジャンゴはあの時ビーティーが言っていた“お返しの品”の正体に気付き、サイボーグの義体が爆弾一つに負けるとは思えないが、それでも彼女の安否に若干の不安を抱いた。

「それにしても……一刻の猶予もないこの時期にスカルフェイスを逃がしたのは痛いけど、あの一瞬で硬化するナノマシンは厄介だ。あの防御を突破できなければ、スカルフェイスを倒す事は不可能だよ」

「あれほどの力を与えてるんだからナノマシンの駆動には膨大なエネルギーが必要だろうけど、ある意味永久機関が体の中にあるようなものだから、エネルギー切れは狙えないね」

「サバタなら暗黒チャージでエネルギーごと暗黒物質を奪い取れるとは思うけど、いない以上は僕達でやるしかないか」

ため息をつきながら肩を下ろすジャンゴ。何だかんだで兄が好きな弟である。

「ところでふと気になったんだけど、任務に向かう時からおてんこさまの姿を見ないのはどうしてなの? もしかして、連れてくるの忘れちゃった?」

おてんこ!

「コラァ! 私は別に忘れられた訳じゃないぞ! ずっと姿を消してただけで、近くにはいたんだぞ!」

「世紀末世界でもダンジョンの攻略中は基本的におてんこさまは姿を見せないよ。なにせ僕達が必死にステルスしてる後ろに浮いてしゃべるひまわりがいたら、目立つ事この上ないだろう?」

「あ、すごく納得……。でも初めて局員相手のミッションをした時は、普通に姿を見せてたような?」

「あの時はまだ物陰にいたから、姿を消さなくても問題無かっただけだ。実際、行動を開始してからは姿を消してたのを忘れたのか?」

「そういえばそうだったね。でも姿が見えないのにずっと傍にいるって、よく考えたら幽霊みたいでちょっと怖いかも」

「いや、幽霊は世間が言う程怖くないと思うよ? ゴーストは憑りつかれるとエナジーを奪われるから面倒だけど、幽霊は大した事はしてこないし。そりゃあ場合によっては思念が強くて心霊現象を起こしちゃうのもいるけど、アンデッドと比べたら実害はかなり少ない。むしろ助けてくれた事の方が多いかもしれない、カーミラみたいに」

「ああ……確かに彼女のおかげで今の私達があると言っても過言ではないからな。彼女には返しきれない恩がある、だからこそ私達はそれに報いねばな」

「幽霊って私達が思うより割と活動的なのかもね。だけど……確かにその通りだよ、このままだとカーミラさんだけでなくサバタさんの想いまでも踏みにじられる事になっちゃう。二人とも、アリシアちゃんが酷い目に遭うのはきっと望んでないもんね。だから……絶対に助けよう……!」

想いを託して死んでいった者達、未来を繋いだ者達に報いようとするなのはの気持ちに、ジャンゴ達は強く頷くのだった。


うぉ~は~♪
ピッピッピッピッピピピピピピピピ……ピピピピッピッピッピ。


ジャンゴ達を乗せたヘリがウルズ、ブレイダブリクに到着したのは12時過ぎ、日もてっぺんを通り過ぎた時刻だった。砂漠の熱さが冷えた身体を温めてくれて心地よいが、どうにもウルズ中が妙に騒がしかった。上空から見る限り、とりあえず自分達がいない隙を狙って襲撃されたわけではないらしい。
ヘリポートに到着すると、わざわざ出迎えてくれたジョナサンがジャンゴ達の運んでいる棺桶の中のプレシアを見るなり、多くを語らずとも事情を把握して正式に弔うための棺桶の手配をしてくれた。

「ありがとうございます。この人を悼んでくれて……」

「まだ部隊が再編中で依頼してばかりの俺達としては、これぐらいしかお前達にしてやれないからな。あと報酬はいつも通り部下から受け取ってくれ」

「わかりました。ところでジョナサン隊長、何だか国中がずいぶん慌ただしいようですけど、何かありました?」

「ああ、実はな……管理局から停戦協定、および相互不可侵条約の申し出が来た。自分達の横暴を認める、などという文も見せてな」

その内容になのはは目を丸くして驚いた。つまり管理局は自らの非を認め、敗北の苦渋を飲む決断を下したという訳だ。スカルフェイスによって内側から大打撃を受けたのが裏にあるとはいえ、この決定は全次元世界における歴史的重大ニュースである事は間違いなかった。

「今後、お前達が助け出してくれたミーミルの首脳陣と我がウルズの重鎮の方々が会談を行い、管理局の姿勢に対するフェンサリルの意思を決める。過酷な環境から戻って早々に会談は辛いだろうし、ノアトゥンにいるレジスタンスとの連絡も必要だが……彼らの身体を療養させる時間は残念ながらまだ無い。当然サポートはするが、とりあえず今は正式な回答を出すまでフェンサリル、管理局共に武力衝突を禁じる運びとなった」

「それじゃあこの世界の戦争は……!」

「まだそうと決まった訳ではないが、上手く事が運べば終息に向かうだろう。どちらにせよ当分は色々と忙しくなるが……今の内に一つだけ言わせてくれ」

そう言うとジョナサンは、かしこまった姿勢でジャンゴ達に頭を下げた。

「感謝する。お前達のおかげで、我々ウルズだけでなくフェンサリルの魂と誇り、そして存在を失わずに済みそうだ。お前達が来てくれなかったら、今頃この国はもう……」

「待って、そういうのは全部終わってからにしよう。まだ……僕達にはやるべきことが残っている。この世界を覆う危機は、まだ去っていないんだから」

「……そうだったな、確かにその件についても対策を取らねば、全てが水の泡となってしまう。俺とした事が少々気が緩んでしまっていたようだ、すまない。とにかくこの恩はいずれ返す。……では、自分はこれにて失礼する」

ビシッと敬礼をして立ち去る近衛隊長。国元を離れられなかったとはいえ、彼には情報などの後方支援でよく助けられた。ジャンゴ達は前線で戦う自分達にバックアップが付いてくれる事がどれだけありがたいか、この世界に来て改めて学べたと実感していた。

という訳で、なぜか物凄く久しぶりに帰ってきた気がするウルズの家にジャンゴ達はようやく戻ってきた。そこまで広いって訳でもないが、だからこそ心地よくて住みやすい雰囲気の漂うマンションの一部屋。オートロック式の錠を開けて中に入ると、

「あ、おかえり~」

「おかえり、それと同時にただいまって感じだな」

いつの間にかノアトゥンから帰って来ていたマキナとアギトが手を上げて挨拶してきた。私服姿でくつろいでいた二人を見て、いつも通信越しで直接会ってなかった事もあり、心から信頼できる仲間と合流できてジャンゴとなのははこの上ない安心感を抱いた。

おてんこ!

「お前達も無事で良かったぞ。紆余曲折あったが、こうしてマザーベース出発時のメンバーがまた集まれて私も嬉しい」

「確かにこうして揃うのは随分久しぶりだね。ところでビーティーの姿が無いけど?」

「あぁ、彼女は……」

ジャンゴはビーティーがスカルフェイスの戦闘機に飛び移って、そのまま次元転移に巻き込まれた事を話す。するとマキナは少し呆れたような表情で、「ビーティーらしいね」と口にした。

「まぁ、ビーティーなら虚数空間に放り込まれても自力で何とかしそうだし、私達が心配するだけ無駄かもね。そういや二人ともサバイバル飯食べたりした?」

「いやいや、食費に困らないように色んな依頼を受けたよ。おかげでヘビやカエルをキャプチャーしなければならない事態にはならなかったな」

「そりゃあ何よりだ。食事さえ困窮しなけりゃ、人生大抵何とかなるもんさ。まぁアタシ達は事情があって酒場で飯食ってたけど」

「あはは……未成年にお酒は駄目だよって言いたいけど、アギトは未成年の枠に入るのかわからないや。ところで二人はいつ戻ってきたの? ミーミルからウルズまで結構距離あるから、前回の通信をしてからすぐ出発したとすれば、深夜の中をずっとバイクで走ってきた事になるよ? 私が言うのもなんだけど身体、大丈夫なの?」

「あぁ~それは心配いらない。ここまでタクシーに乗せてもらって、その移動中に寝てたから」

「タクシー? 戦時中の国家間を移動してるタクシーなんてあるの?」

「いやいや、タクシーはただの比喩表現で……っと、どうやら来たみたいだ」

ピンポ~ン♪

唐突にインターホンが鳴って玄関に向かうマキナに、なのは達は誰か客でも呼んでたのかと首を傾げる。しかし、ガチャっと扉を開けて彼女が迎え入れた者達を目にした瞬間、なのはは天地がひっくり返らんばかりの衝撃を受けた。

「お、お邪魔しま~す……」

「邪魔するで~。おぉ~マジで生きとったんやな、なのはちゃん。おひさ~♪」

「な、なのは! ちゃんと生きてるんだよな!? 幻や幽霊なんかじゃないよな!?」

「落ち着け、ヴィータ。高町が生きてる姿を見れて喜びを抑えきれないのはわかるが、ベルカの騎士としては取り乱し過ぎだ」

「だってよ……だってよぉおお!! う、うぅ……うわぁぁぁぁんっ!!」

「まぁまぁ、シグナムも今回ばかりは許してあげたら? 普段仏頂面のあなただって顔がほころんでるわよ」

「うぐっ! こ、これは……その……謝るから私に追求しないでくれ……」

「嬉しい事は嬉しい、それで良いではないか。ベルカの騎士だろうと関係ない、喜びたい時は素直に喜んでも構わないだろう」

「はいです。あんなに嬉しそうなヴィータちゃん、久しぶりに見たですよ」

フェイト、はやて、ヴィータ、シグナム、シャマル、ザフィーラ、リインというなのはの友人達が大挙してやってきたのだ。いくら一時的に武力衝突を禁止してるからといっても、管理局に所属している彼女達がウルズに堂々とやってきて大丈夫なのかとか、管理局もゴタゴタしてるのに来る余裕なんてあるのかとか、次から次へとなのはの頭に疑問が浮かんだ。しかし泣きながら胸元に飛び込んできたヴィータの頭を優しく撫でている内に、なのははやっとこの友達の輪に戻れたのだという喜びが段々湧いてくるのだった。

「お初にお目にかかります、私は八神はやてと言います。おてんこさま、ジャンゴさん、こうして挨拶出来て何よりです」

「君が八神はやて……あのサバタが面倒を見てた子か。口調はひまわり娘と似ているな……これからよろしく頼むぞ」

「僕達も君とは一度挨拶したいと思っていたんだ。まだまだ予断を許さない状況だけど、今後は君達も味方だと思えるようになって良かった」

なのはとヴィータの抱擁の隣で、はやてがジャンゴとおてんこがに拶する。サバタに色々世話になったはやてはジャンゴの姿を見て「やっぱ双子だから正直に言って一瞬驚いたわぁ。まぁ、似てるだけで実際会ったら結構違うとこあるんやな~」と冗談交じりの苦笑を見せた。

「これなら姿を重ねずに済みそうや……(ボソッ)」

「?」

その時、パンパンっとマキナが手を叩いて注目を集める。

「はいはい、感動の再会も良いけど、全員昼飯がまだでしょ? それでこれから作ろうと思うんだけど、材料は用意してあるから誰かちょっと手伝ってくれる?」

「じゃあ私が手伝ったるよ。八神家の台所を預かっとるモンとして、再会を祝して精いっぱい腕を振るいたいしな~」

「なら私はぶぶ漬けを作ってあげるよ」

「再会して早々帰れとはパンチの効いたおもてなしやな!」

「だったら汁物はそっちが担当したらいいじゃん。代わりにこっちはサラダをやらせてもらうよ」

「ええよ。でもパインは入れんといてな~」

「なんでパイン? でも入れるなと言われると、つい入れたくなるね」

「まぁ、食べ合わせが悪いっちゅうわけでもあらへんし、別に入れてもかまへんけど、フラグっても知らんで」

「う~ん、何だか二人だけじゃちょっと不安だし、私も手伝おうかしら?」

「「シャマルは来んな」」

「グスン……! 二人そろって言わなくてもいいのにぃ……!」

参加を一蹴されて涙目になるシャマルだが、彼女を除く八神家一同は二人の言葉に心から賛同していた。彼女達の胃に深く刻まれたケミカルダイナマイトウェポンの傷跡は、本人が思うより根深かった。
色んな意味で若干の不安要素はあるものの、とりあえず二人は調理を開始する。メインの方はというと、マキナはゴーヤチャンプル、はやてはトムヤムクンという両方とも暑さ対策に向いた料理であり、調理中は「ソレ取って」や「アレ見てて」といった片言だけで意思疎通を行いながら調理を進めていた。メインと並行して汁物やサラダも用意しながら進める、その見事な連携と手際の良さに、フェイトはなのはに思う所を呟く。

「ノアトゥンでもそうだったけど、二人ともケンカ腰なのにあれだけ息が合ってるから、本当は仲が良いんじゃないかと思えちゃうよ」

「ああいうのをライバル関係って言うのかもね。好敵手と書いて“とも”と呼ぶみたいな感じ?」

「うん、あの二人は相手を傍で見ていないからこそ、相手の実力をイメージで補ってわざと過大評価し、それを乗り越えようと努力を重ねているんだと思う。だから二人は最大のパフォーマンスをしようが、相手もそれに対応できると信頼……ううん、この場合は追い付いて来いと挑発してるのかな? ともかく、想像力がヒトの進歩を促すって言葉を行動で体現してる訳だ」

「あ……」

「どうしたの、急にハッとして?」

「想像力の話、ビーティーも似たような事言ってたなって。まぁ、スカートの中に神秘性を見出すのは色んな意味でどうかと思うけど」

「ビーティーが……」

ここにはいないが自分の分身とも姉とも言える存在の名が出て、フェイトは複雑な表情を浮かべる。そんな彼女の顔を伺いながら、なのはは真実をいつ伝えようか苦悩していた時、

「でもあんなに活き活きしてるはやてちゃん、久々に見れたわ」

シャマルを始めとしたヴォルケンリッターも会話に混ざってきた。

「そうだな。管理局にいると人付き合いはおろか、仕事や任務などでひと時も肩の力が抜けない場面に陥る事がままある。私達は闇の書の罪を背負い、かつ主はやてはファーヴニル事変の際にもらった称号を拒否したからか、恨みや妬みを向けられることがしばしばあってな……時には回りくどい手段を講じられて四面楚歌な状況に追い込まれた事もあった」

「それでも亡き兄上殿に誓った以上、膝を屈する訳にはいかなかった。主もそれがわかっておられるから人一倍努力を続け、困難な状況になろうとも決して諦める事は無かった。何度も苦境を越えていくと、徐々にだが我らを敵視していた者達にも主の誠意と意思の強さが認められていった。しかし……」

「アタシがなのはを守り抜けなかった4ヶ月前のあの日から……はやてはあんまし笑わなくなった。アタシも後悔に押し潰されて、自分の身を省みない無茶を頻繁にやらかすようになった。皆慰めてくれたけど、アタシは自分が許せなかった。それは、はやても同じだったんだ」

「ヴィータちゃんが前線でどれだけ傷つこうと構わなかったように、はやてちゃんも任務や鍛錬、情報収集で毎日身体を酷使していた……それこそ睡眠時間を削ってでもね。皆の前では見せないように努めてたけど、はやてちゃんはなのはちゃんを含む皆を守るという意思を貫き通せなかった事をずっと後悔していたの。その無力感は、サバタさんが消えてしまった時に匹敵するぐらいだと思うわ」

「その無力感ははやてちゃんに“仮面”を被せました。どれだけ辛くて泣きたくても、悲しくて嘆きたくても、それが弱みにならないように周りから隠す仮面……それは家族である私達の前ですら外してくれない、強固な接着剤で無理やり作ったみたいな表情でした。でも、これまでずっと外さなかったその仮面は、マキナさんと会えた途端に外れました。被った所ですぐに見破られるとわかっているから、はやてちゃんも“素”に戻れたんです。なのでああいったやり取りが出来るのは、マキナさんなら全てをさらけ出してもいいと信頼してるからなんですよ。できうる事ならマキナさんには、はやてちゃんの傍にいてほしいとさえ思うです」

「おいバッテンチビ、そんな事を姉御に言ったら絶対ブチキレるぞ。あんたらみたいな知人連中がいるから表に出さないだけで、姉御の管理局に対する恨みは消えてなんかいないんだからな」

アギトのツッコミはともかく、4ヶ月前からあまり知らなかったはやての真実……騎士達から語られたそれになのはは責任を感じ、フェイトも友達として支えていたつもりだったが、はやての境遇を知らなかった事に心を痛めていた。そして騎士達も、はやての心が疲弊していくのを傍にいながら支えきれなかった事を悔やんでいた。だからこそ、マキナの存在は彼女達にとって一つの救いでもあった。

そんな事を話してるうちに料理が完成し、食卓に並べられていく。料理から漂う香りが皆の空腹を刺激し、どこからともなく腹の音が響き渡った。

『いただきます』

全員で手を合わせて挨拶をし、食事を始める。ゴーヤチャンプルはゴーヤの苦味を抑えながらガッツリした味付けで、トムヤムクンは食材の旨味が引き出されながら程良い辛さが堪能でき、見てるだけでご飯が進む料理の隣でサラダは口の中がさっぱりできるようにみずみずしかった。皆が美味しい美味しいと感想をこぼす中、ふと視線を感じたジャンゴは気付いた。

「「じぃ~」」

マキナとはやてが妙に鋭い目でジャンゴを見つめていた。二人の様子はどことなく、合格発表を控えた受験生に似ていた。なぜ自分を見ているのかわからずジャンゴは首を傾げるが、隣で見ていたなのはは色々察してため息をついた。

「はぁ……ジャンゴさん、この料理は美味しい?」

「うん、美味しいよ。どれも食べた事のない料理だからすごく新鮮だ」

「じゃあさ、どっちの方が美味しい?」

「どっちって……せっかく美味しく出来た料理をわざわざ比べる必要なんてあるの?」

「あ……そっか、世紀末世界出身だからコンテスト的な事をする感覚が無いんだね。せいぜい回復効果の差で分ける程度?」

「何の話?」

「つまりね、マキナちゃんとはやてちゃんは料理対決をしてるんだよ。ジャンゴさんを審査員として、どっちが美味しく出来たのか判断してほしいんだよ」

「なんだ、それぐらい言ってくれればすぐやるのに。……え~っと、どっちの料理が美味しいのか決めれば良いんだよね」

状況を理解したジャンゴはう~んと腕を組んで熟考する。周りも静かに見守る事でちょっと緊張した空気を漂わせながらジャンゴの審査を待ち、しばらくすると彼は腕組みを解いて結果を発表した。

「良い勝負だったけど……僅差ではやての勝ち、かな」

「よっしゃー!」

「まぁ、妥当な結果だね。料理の経験は一応、八神の方が上なんだし。そもそも私はサバイバル飯なら慣れてるけど、普通の料理はちょっとこなせるだけだし」

「なんやマキナちゃん、何だかんだ言うてるけどホントは悔しいんか?」

「八神が優越感に浸りたい気持ちは察せるが、別に料理人は目指してないから悔しくないし。……別に悔しくないし」

「二度も言うんならやっぱ悔しいんやろ、ほら正直に言うてみぃ? ほらほらほら~♪」

「(ウザッ……!)……あ~はいはい、悔しい悔しい。八神はスゴイネ~、後でとっておきのご褒美でもあげるよ」

「おぉ、マキナちゃんのご褒美! それは楽しみや~!」

満面の笑みで構ってほしげなはやてに対し、マキナは鬱陶しそうなのを笑ってごまかしていた。ちょっと気まずい感じがしたが、料理対決の決着とはこういうものなのだろうと、ジャンゴはとりあえず納得しておいた。

『ごちそうさまでした』

昼食が終わって皆が満腹感を抱いてくつろぐ隣で、マキナとはやてが台所で皿を洗い始める。流石に皿洗いの速さ勝負まではしなかったようで、カチャカチャとリズミカルな音が鳴っていた。

「そういえば疑問なんだけど、リインフォースさんは今どこにいるの? 私はてっきり、はやてちゃん達と一緒にいるものだと思ってたけど……」

「アインスお姉ちゃんはミーミル、ノアトゥン管理局支部の混乱をクロノ提督や118部隊の人達と抑えてるです。と言っても、絶対兵士プログラムで昏倒した局員の治療や代理作業にほとんど当たる羽目になってますが、どういう訳かレジスタンスが反撃を企ててこないので、今の所とりあえず向こうは大丈夫みたいです」

「言ってなかったけど、はやて達は対外的にはフェンサリルとの停戦協定と不可侵条約の使者として来たんだ。それで私はとある事件で先走った事で隊長達からキツクお説教された後、この世界に通じた特務捜査官として、はやて達と同行する任を受けたの。でも密書を渡してからは今の所返答待ちで、実質フリー状態かな」

「あと、私達に交戦の意思は無いと示すべく非武装のS級次元航行艦に乗って来たんですが、やっぱり視界に管理局の戦艦があるのは国民の不安を煽るだろうという事で、ブレイダブリクの外に停泊させてるです。ちなみにマキナさんとアギトはこの艦に便乗して、船賃代わりに皆さんの掴んだ情報などを教えてもらいました」

「ちなみに“裏”がほとんど壊滅して動けない今なら、交渉次第で戦争を止められると考えたのはクロノなんだ。もちろん今回の戦争の責任は管理局にあるから、賠償金や捕虜の釈放金などはちゃんと支払うらしい。とにかく戦火の拡大を防ぐ事を優先したんだ。実際、この世界の兵器開発力は凄まじいから、下手すれば“次元跳躍弾頭”なんて代物まで開発してしまう可能性がある。戦争は兵器の開発を一気に進めるから、そんなものが作られて本局が射程内に入ってしまうぐらいなら、いっそのことさっさと戦争を治めて不可侵条約を結び、何とか友好関係に持ち込んで衝突しないようにした方が将来的に次元世界の平和に繋がると判断した訳だよ」

「それでもし条約を先に破った側は信頼を失い、全次元世界から一斉に制裁を受ける結果となる。未来の事も考えに含めて判断を下せるなんて、やっぱりクロノ君は凄いね」

「私達も同じくそう思っているのですが、残念なことにタカ派の局員達からは否定的な声も出てるです。彼らは『次元世界の守護者たる管理局の絶対権威性が損なわれる』、『次元世界に質量兵器の力を示す格好の材料となってしまう』、『管理世界のエネルギー資源不足の問題が解決できなくなる』などといった反対意見を掲げています。その辺りはハト派も含んだ偉い人達が会議で折り合いをつけるそうですけど、どちらにも譲れないものがあるので相当長引くでしょうね」

フェイトとリインから管理局側の事情を説明してもらった事で、なのはとジャンゴはこの問題の複雑さを改めて実感した。この戦争が止まった所で、原因が取り除かれた訳ではないのだ。

フェンサリルから見れば管理局が横暴な態度で一方的にエネルギー資源を奪おうとした事に反感を抱くのは至極当然で、一見すればフェンサリル側に義がある。それは管理局の真実を目の当たりにして、“裏”と戦い続けてきたなのは達もそう思っている。実際、こちら側で戦ってこなければスカルフェイスの計画に気付く事もなく、知らぬ間に世界が終わっていたのは明白だった。

しかし管理局も治安維持組織としてのプライドがあり、早急に管理世界のエネルギー資源不足を解決しなければ広範囲で経済が滞り、財政難などで大量の失業者を生み出してしまう。そうなれば彼らが生きるために犯罪行為に手を染める羽目になって、最悪治安の悪化を招いてしまう事情があった。出会い頭にやらかした交渉人を擁護する訳ではないが、要するに管理局側も焦っていた訳だ。

「地球だろうが次元世界だろうが、資源が有限って事に変わりは無いんよなぁ~」

「魔導技術でも永久機関は作れないんだから、そればかりはどうしようもないね」

皿洗いを終えたはやてとマキナが話に合流し、率直な意見を述べる。

「魔力の性質は熱に割と酷似している。例えば熱力学第一法則。これはエネルギー保存則としても有名で、『内部エネルギーの増加量は、与えた熱量と加えた仕事と一致する』。まあ要するに、全体のエネルギーの総量は変わらないってこと。次に熱力学第二法則。こっちの説明は難しいから簡単に言うと、『熱はそれ単体で低温から高温へ移動することは不可能』。わかりやすいイメージで言うなら、あったかい飲み物をそのまま放置したら当然冷めちゃうけど、逆に飲み物をあったかい状態に戻したり、空気をより冷やすには外部から何らかの仕事が必要ってわけ」

「永久機関を作ろうと思ったら、これらの法則を越えなあかんねん。んで、これを魔力で言い表せば、外的要因が何もない場所でいきなり魔力が集まって天然の魔導炉になったりしないし、ましてや砲撃が勝手に飛ぶわけがないって話になるんよ。もしこれがあり得てしもうたら、なのはちゃんのSLBが世界中の至る所でいきなりブッパされる訳や。……うん、一瞬で世界終わるわ~」

「ちょっとそれどういう意味かな!?」

いきなり自分をネタにされて、たまらずツッコミを入れるなのは。しかしこの場にいる友人達、特にフェイトは神妙な表情で深く頷いていた。なお、冷や汗を流しながら身体が小刻みに震えてるのはご愛嬌。

「話を戻すけど、今の所管理世界はオイルショックみたく、魔導結晶などのエネルギー資源の価値が一気に跳ね上がっとるのは皆も知っとる通りや。管理局も聖王教会も企業も使用量の削減で何とか維持しとるけど、当然長く耐えられるもんやない。彼らが限界に達した瞬間、最悪で次元世界規模の世界恐慌が起きる可能性があるんよ」

「今回、管理局が停戦に踏み切った理由はそれだけじゃなく、私達アウターヘブン社も関係している。とうに限界間近であったからこそ管理局は一ヵ月以内の勝利を目標とした短期決戦を挑み、“裏”の謀略で首脳陣が空白化したミーミルを瞬く間に陥落、後はウルズの首都を占領すれば豊富な資源が手に入ると思ったその矢先に、私達が抵抗に加わった」

「アウターヘブン社がフェンサリル側に付いたら、当然ながら短期決戦なんて不可能や。それを察した上層部の一部は、これ以上戦い続けたら先に管理世界の資源が枯渇し、経済が崩壊すると理解した。それならいっそ恥を忍んででもエネルギー資源を購入できる環境を整えて、経済を立て直した方が良いという結論を出したんよ」

「とはいえフェンサリルの返答はまだ不明だが、もし交易関係を結べたとしても購入する場合は当然ながら高い金額を吹っかけられるだろう。ま、管理局が先に手を出した以上、自業自得だからしょうがない」

「やれやれ、他人事やと思ってからに……確かに管理局より安く買えるかもしれへんけど、資源が必要なのはアウターヘブン社も同じやろ?」

「ところがどっこい、私達アウターヘブン社、マウクランのマザーベースは王様の大胆かつ的確な判断のおかげで資源を購入する必要がなかったりするんだな、これが。なにせ王様、いつの間にかマウクラン中に地熱発電施設、惑星の外縁軌道に太陽光発電施設を設立してたから、エネルギーは半永久的に全て自給できるのさ」

「ぶッ!? す、全て自給やと!? しかも半永久的!? 流石王様……何というぶっ飛んだ計画性や。世界規模どころか宇宙規模の発電施設とか、目の付け所や発想のレベルが違う。ヒイヒイ息切れしとるこっちからしたら喉から手が出る程羨ましい話やっちゃな。なぁ、余ったエネルギーとか売ってくれへんの? というかPMCじゃなくてエネルギー製作会社としても十分やっていけるんちゃうか?」

「悪いけど、諸事情でエネルギーは売れない。というのも私達は確かにPMCだけど、それだけで将来もやっていけるとは思っていなくてね。私が医学に加えて薬学の知識を身に着けてるように、会社も事業の拡大をしてるのさ。余ったエネルギーはそれらに使ってる」

「拡大って、具体的には何しとるん?」

「滅ぶ直前だった頃のニダヴェリールのように、管理世界が搾取し続けて資源も作物も何もかもが無くなった土地で一次産業の復活や廃棄都市の再開発などを試みたり、次元世界というフロンティアを知った管理外世界同士の交流を進めるために貿易商を担ったりと、色々やるつもりらしい。その辺は私じゃなくて王様かユーリに聞いて」

「まるで滅亡寸前の世界を緑溢れる世界に蘇らせかねない勢いやな……」

「私から言わせてもらえば、むしろ管理局や管理世界が内政を色々放置し過ぎ。なんで管理世界の中心地であるミッドチルダにすら廃棄都市群やスラム、ストリートチルドレンが存在しているのさ? 治安維持組織だからこそ積極的に土地を再利用する政策とか法案を出せば、食い扶持に困って犯罪に手を出す人も少なくなると思うんだけど」

「そこは返す言葉があらへんなぁ。まぁ、高度経済成長の弊害って奴やね」

「おかげでうちがスポンサーやってる孤児院とか大盛況だよ? カリムが聖王教会の支援を取り付けてくれたけど、子供が多すぎて人手が全然足りない上、経営が火の車なんだと。持つ者と持たざる者、両者の間が開き過ぎじゃないかな? 違法行為を行う魔導師の捕縛とか、ロストロギアの確保とか、確かにそれも平穏には必要だとは思う。でもさぁ、もっと優先すべき事があるはずじゃない? ……ってか優先と言えば何で私、こんな話をしてるの。今優先すべき事はスカルフェイスの対策なのに、気付けば管理局の内政怠慢に話が移ってる……」

「あ~せやな。なんかもう色々とアレやけど、とりあえずこの話は一旦閉じるで」

という訳で若干脱線していた本筋を戻し、はやて達も含めて各自がそれぞれの報告を行う事にした。

ノアトゥンでの連続殺人事件の真相、アンデッド・リニス、ヴァランシアのイモータル・辺境伯ライマー、スカルズの管理局襲撃、テスタロッサ親子の行方不明。ついでにマキナが生成したアンデッド化を抑制する薬でフェイトが借金を負った事も話した。

「あぁ、フェイトちゃんも私達と同じ穴のムジナになったんだね……」

同じ人間(マキナ)相手に借金を持った者同士という意味ではその通りだけど、正直認めたくないよ!」

「この流れで私らもマキナちゃんに借金負ったら、幼馴染~ズ=借金仲間っちゅう事になるんかな?」

「なんか嫌だなぁ、そんな仲間。でもそのカテゴリだと僕は入らないし、ちょっと好都合かも」

「どう考えた所で借金そのものは消えないがな、ジャンゴ。せめてリンゴと同じ道は辿らないでくれよ」

「それよりもマキナちゃん、あなたそんな凄い薬を調合してたの!? 言ってくれたら私もお手伝い出来たかもしれないのにぃ!」

「旅の傍らで作った物だから相談するタイミングが無かったんだよ、シャマル。だからそんな頼られなかった悲しさの余りに泣きそうな顔しないでよ。……まぁ、特許が入ったら収入一人占めできるって理由もあったけど」

「うわっ、がめつい!?」

「あわわ、人数が多すぎてカオスですぅ……」

リインが困惑してるように、人数が多くなると会話が一斉に起こるが、「それは仕方がないだろう」とアギトは心の中で冷静にツッコんだ。

「とりあえずマキナが持ってきた棺桶に入れっ放しのライマーの浄化は後で行うとして……なのは。あれを」

「うん。……フェイトちゃん、これを受け取って」

ジャンゴの合図を受け、なのはがプレシアの杖をフェイトの前に置く。母のデバイスを見間違えるはずもなく、彼女は眼を見開いて全身が冷たい感覚に飲み込まれ、続いておおよその事情を察してしまった。

「ごめんね……フェイトちゃん、プレシアさんは助けられなかった」

「…………」

「プレシアさんはアリシアちゃんを人質に取られ、更に人間爆弾にされていた。私達ではもう、どうしようもなかったの……」

「……………それじゃあ……母さんの遺体は爆破されたってこと……?」

「それは大丈夫、爆弾はビーティーが取り除いてる。だから、ここに連れて帰ってきたよ。ウルズの人にお願いしたら、ちゃんと埋葬してくれるってさ……」

「わかった……後で会いに行くよ。……それで、なのは。優しく誤魔化そうとしてるけど……お願い、正直に答えて。もしかして母さんを直接殺したのは…………ビーティー?」

「……………………うん」

「そう……。そっか……復讐、果たされちゃったんだ……」

母のデバイスを手に取り、フェイトの昏くなった目から喪失の涙が零れ落ちた。そのしずくは母の遺品を濡らし、とめどない悲しみを彼女の心に生み出した。

「わかっては、いたよ……。行方不明になったと聞いた時から……なんとなく、そうなるって予感はしたんだ……。予感は……してたんだ……。でも……やっぱり辛いよ……。辛い、よぉ……! う、うぅ……!!」

涙をこらえようと歯を噛みしめるフェイトだが、どうしても抑えられなかった。こらえきれなかった。サバタのおかげで再び優しくなってくれた母を今度は永遠に失った現実を受け入れようにも、彼女の心にはまだ時間が必要だった。そして家族を失った辛さは、ここにいる全員が理解できていた。

だからこそ、なのはは動いた。

「フェイトちゃんは……これからどうしたい?」

「ぐすっ……な、なのは……?」

「プレシアさんはね、『あなた達は十分立派になった、これからは自分達の足で歩きなさい』って言ってたよ。だからもう一度訊くね。フェイトちゃんは、これからどうしたいの?」

「これ、から……? これからって言われても……」

「厳しい事を言うから先に謝っておく、ごめん。……あのね、フェイトちゃん。今この瞬間もスカルフェイスの計画は着々と進んでる。哀しくて仕方がないのはよくわかる、だけど私達にいつまでも落ち込んでいられる余裕はないの。だから……」

「ううん……大丈夫。最後まで言わなくてもいいよ、私も……わかってるから。うん、リニスの件でよく思い知った……泣くのも落ち込むのも、全部終わらせてからだよね……」

哀しみは消えていない、今も苦しくて胸が痛い。それでもなお、フェイトは目元を濡らしながら顔を上げた。

「お兄ちゃん達だって、この悲しみを経験したんだ。なら私だって……負けられない。私達が生きてるこの世界を……お兄ちゃんが守ってくれた未来を、過去の亡霊に壊されないために、立ち上がって見せるよ……!」

「フェイトちゃん……うん! 今度は私も傍で支えるから、一緒に頑張ろう!」

「おぉ~なのはちゃんのその告白、惚れ惚れするわぁ~」

「って、はやてちゃん!? 今の別に告白じゃないよ!?」

「八神に賛同するつもりは無いけど、そんな台詞を素で言うなのはにも多少の責任はあると思う」

「マキナちゃんまで!? もう、なんで皆いつも私ばっかりからかうの!?」

「「反応が面白いから」」

「こんな事に意気投合しないでよ!?」

むきゃー、とプンスカ怒るなのは。だがその時、フェイトが吹き出した事で彼女達はそのやり取りを中断し、フェイトに注目した。

「ふふ……今の何だか……懐かしいや。はやてとなのは、私の三人が揃った時は、いつもこんなやり取りしてたよね……」

「あぁ~そういえばその事で思い出したんだけど、はやてちゃん、前に『いつかマキナちゃんと仲直りできたら、あのでっかいおっぱいに飛び込むのが夢や~』とか言ってたっけ」

「ここでその話持ち出すか!? べ、別にええやん! だってコレ見てみぃ、バインバインやで!? ボンッキュッボンッやでッ!? そりゃあ揉みたくもなるやろ!! つか今も誘惑されてて、我慢のあまり手が禁断症状の如く震えてるんや!! もういい加減衝動が抑えきれなくてたまらへんねん!!」

「なんだろう……これまでの仲良くしたい発言に恐ろしい裏がある気がしてきた。八神の近くにいるだけで身の危険すら感じる……」

「あぁっ、マキナちゃん!? そんな汚物を見るような目で私を見んといてぇ!? 単にちょっとだけ色欲が溢れただけやん! 一時の暴走ぐらい多めに見てくれてもええやん!」

「そう言い訳していつも私やフェイトちゃんの胸を揉みまくってたのは、今更だけどやっぱりいけない事だと思うんだ」

「確かこういう時……この変態豚野郎! って罵れば良いと母さんが教えてくれたっけ」

「天然娘を女王様にするつもりだったのか、プレシア……」

「いやぁぁぁぁぁあああ~!!? ……ん? あれ、何やコレ。蔑まれるのが妙にゾクゾクして気持ちよく……」

「いけません! これ以上やるとはやてちゃんが新しい扉を開いちゃいます! ドクターストップです!!」

シャマルのドクターストップを受けたはやての姿に、マキナは何とも言えない気持ちになった。具体的には、「駄目だコイツ、早く何とかしないと……」という怒りを通り越して憐れみすら抱くほどであった。

その後、フェイトが落ち着くまで時間を置いてから、ジャンゴ達は改めて報告を再開。キャンプ・オメガでスカルフェイスと接敵し、XOFの所有していたL級次元航行艦とスカルズ生成装置の破壊に成功。しかしスカルフェイスはビーティーの妨害を受けながらもハリアー2で次元転移して逃げられてしまった。そして一時交戦した際にスカルフェイスの体内に特殊なナノマシンがあると知れた事は良いものの、ジャンゴでも攻撃が全く通らなかった事は管理局側の面子も渋面を浮かべた。

「あらゆる衝撃に対し一瞬で硬化するナノマシン……全自動防御と攻撃力増加は厄介だな」

「うむ、恐らく物理攻撃だけでなく魔法攻撃も含めて自動防御されるだろう。バインドや封印系の魔法をかけても体内の暗黒物質が自動的に分解するから、動きを止める戦術も難しい」

「それじゃあ誰にも動きは止められないし、いくらぶっ叩いても意味が無いって事かよ。チクショウ……効果自体は単純だからこそ面倒だぜ……」

「でも暗黒物質がエネルギーって事なら、それさえどうにかすれば勝ち目はあるんじゃないでしょうか?」

「太陽銃が使えればその防御も突破して暗黒物質を浄化出来たけど……もしかしてポー子爵はそれを読んでいたから、あの時太陽銃を狙ったのかもしれない。今になって太陽銃を壊された事がこんなに響くとは……」

「後手に回ってるのは皆自覚してる。むしろビーティーの妨害のおかげで時間が稼げたと思って、今はとにかく対策を考えるしかないよ」

「スカルフェイスを効果的に邪魔してるのが母さんの仇とは、ちょっと複雑な気分だよ。それにしても体内の暗黒物質をどうにかすればって話、前に同じような言葉を聞いたような……あ!」

「どしたん、フェイトちゃん? なんか思いついたんか?」

「マキナのあの薬だよ、アンデッド化を抑制する薬! あれを刺せば暗黒物質が基底状態になる、そうすればナノマシンにエネルギーを与えられなくなるんじゃないかな!?」

「お! 人間を救うための薬で髑髏を倒すとか、なかなか面白い因果やな!」

「フェイトのアイデアは良いと思うけど、アレ未完成だから確実に効果があるとは断言できないよ。それにさ、私が作った医薬品を武器にして欲しくない感情もある。だって元々人を救うために作ったのであって、敵を倒すために作ったんじゃないから……」

「あ……ごめん、マキナ。つい……」

「はぁ……別に謝る必要は無い。アンデッド・リニスの時とは違い、使わざるを得ない状況だって私もわかってるし。ただ、ダイナマイトが兵器扱いされたノーベル的な感じで、感情的には納得し難いだけって話。……何はともあれ、抑制薬を切り札にするつもりなら、しっかり完成させる必要があるね。……という訳でシャマル、仕方ないから完成させるの手伝って」

「言われなくてもそのつもりよ、むしろ薬に関しては私の方が学ぶ側かしら? 治癒魔法のスペシャリストと言っても私、薬学まで全部把握してる訳じゃないもの」

「へぇ? ちょっと面白い事を聞いた気がする。さてと……結構長く話したから皆、喉が渇いたでしょ。何か飲み物持ってくるよ」

そう言うとマキナは台所に向かい、冷蔵庫からペットボトルを取り出すと、人数分のコップを用意して注ぎ始めた。そこから若干頭の中がスッキリするような清涼感のある香りが部屋中に漂ってくる中、とりあえずジャンゴ達は次の話に移った。

「じゃあナノマシンはマキナの薬で抑えるとして、次はスカルフェイスの居場所、サヘラントロプス、核兵器、世界解放虫がどこにあるかって話をしよう。次元転移したという事は、サヘラントロプスは別の世界に隠されてある可能性が出てきた訳だけど……誰かアテはある?」

「う~ん……こっちも今判明してること以上は把握しとらんな。相手は痕跡をほとんど残さへんから正直に言って、どこかから情報を入手せな手詰まりや」

「じゃあアタシと姉御が以前潜入した聖王教会地下にもう一度行ってみないか? 確かあそこはまだ稼働してるはずだ、何か手掛かりの一つは残ってるかもしれないぞ」

「その可能性はあるね。それによく考えてみれば、キャンプ・オメガからアリシアが運ばれた場所の候補地でもある。あともう一つ、大量破壊兵器を使う場所の近くにいたら当然自分も巻き込まれるから、起爆するなら安全のためにどこか遠く離れた場所に行くはず。つまり……」

「XOFの戦艦が停泊してた事があるフェンサリルの聖王教会地下に地球の核兵器が運び込まれてる可能性が高く、このタイミングで次元転移したのは姉さんを囮にしている間に自分は核爆発から逃れるため……うん、筋は通ってる」

「ん、いい感じに方針はまとまったかな?」

台所から戻って来たマキナが苦笑混じりに言う。彼女は青に近い水色の液体が入ったコップを皆に配っていった。……はやてのコップだけ空だが。

「あれ、私の分の飲み物は?」

「聖王教会地下に核兵器とアリシア……着眼点は間違っていない。ただ、キャンプ・オメガで生成元を破壊したとはいえ、あそこにはまだスカルズがいる。エナジーも使えない魔導師では奴らに勝てないよ」

「つまりマキナちゃんはこう言いたいんか? 地下に入る潜入部隊と、外で何か異変が起きた時に対応できる部隊に分けるべきやと。それと私の分は?」

「正解。とりあえず潜入部隊に私とアギト、ジャンゴさんとなのはは必須だ。抑制薬なら今日中に頑張って完成させるつもりだし、元々核兵器解体の依頼は私達が受けたものだから、しっかりやり遂げる義務がある。これでもPMCだからね、報酬のためにも反故にはしたくない」

「なるほどなぁ。誰に依頼されたのかは気になるけど、そこは重要やないから置いておこうか。せやけど……私らにも管理局員としての意地がある。少なくとも一人は局員を同行させてもらうで。それと私の分……」

「じゃあ……私が行くよ」

「フェイトが?」

「確かにフェイトちゃんならエナジーが使えるし、スカルズが相手でも不足は取らへんな。あとお願いやから私の分……」

「なのはが行くならアタシも一緒に……!」

「いや、ヴィータや騎士達に来られても意味が無い。ぶっちゃけあんたらエナジーが使えないし、ただでさえ多いのにこれ以上増えると人数過剰だし、外の監視が薄くなる。大人しく八神の傍にいてくれた方が助かるよ」

「クッ……! なんでだよ……なんでアタシ達はエナジーが使えないんだ……!」

「ヴィータ、その悔しさは私も経験があるからよくわかるで。まあ今回はマキナちゃんがおるし、中は任せとけば大丈夫や。それとも……先代主の娘は信じられへん?」

「その言い方は卑怯だよ、はやて……。ああもう、しゃあねぇ! 悔しいがマキナ、アタシの代わりに絶対なのはを守れよ!? もう目の前で大事な仲間がやられるのは見たくないんだからな!」

怒鳴りつけるように、しかし真摯に頼み込んだヴィータに、マキナは苦笑して「その依頼、受領しとくよ」と答えた。

「それとマキナちゃん、いい加減意地悪しないで私にもドリンク入れてや! そもそも皆が飲んでるドリンクも、私初めて見るけど何なん? 変なモノとか入ってたりせえへん?」

「そんな事はねぇぞ、はやて。飲んでみたらコレすっげぇ美味いぜ、でも市販品じゃねぇよな?」

「説明しよう、これは私が薬学の知識を基に開発した“アクアソル”というドリンクだ。大海原をイメージした清涼感た~っぷりの爽やかなドリンクで、疲れた時でもゴクゴク飲める。しかも飲むだけで身体に溜まった疲労を取ったり、全身の緊張を適度にほぐす効果があるから、体力の回復には超うってつけ。美味くて回復に良い、最高のドリンクである!」

「宣伝か! まぁ要するに、地球にあるポピュラーなスポーツ向け飲料水みたいなドリンクって事なんやね。でもいくら美味くても飲み過ぎるとカロリーが……」

「しかもゼロカロリー」

「ゼロ……? 耳を疑うで!」

「この飲み応えでゼロカロリー! 耳を疑うのは飲んでからだ。他では替わりが利かなくなるぞ。そう。やがて世界中のスタイリッシュな男女がこいつを手放せなくなる時代が来る。憧れが憧れを生み、それはやがて全人類を巻き込む巨大な渦となるだろう!」

「そこまで言うんなら私にも飲ませてぇな! まさか私だけ有料なんか!? っていうかよく考えたら、市販の健康ドリンクはどれも高いやん。いくら味が良くても値段が高いと、皆買ってくれるかは微妙やで?」

「その心配は無用。材料も簡単に調達できる物しか使ってないから、値段もワンコインで買えるほど安い。小さなお子様も健康のために飲みやすい“アクアソル”、戦闘中でもお手軽に回復ができるドリンクとして、アウターヘブン社で特許申請中」

「うぉい! これだけ宣伝しといて、まだ販売しとらんのかい!」

「ちなみに別バージョンとして“ローズソル”もある。こっちは薔薇風味の上品な味付けが特徴で、アクアソルより少し高い分、なんとなく魔力の回復作用があったりする」

「だから販売開始してから宣伝せぇ! ちゅうか魔力の回復作用って、何気に凄い便利やん!」

地味に世界中の魔導師が喜びそうなドリンクを開発したマキナに、実の所はやては内心で脱帽していた。そんな彼女にマキナは収納領域から一本のペットボトルを取り出し、はやてのコップに注ぎだした。

「そして、そんな二つのドリンクの効果を最大限発揮できるようにしたのがコレ。“オメガソル”、さっきの料理対決で八神が勝ったご褒美だよ」

「なんで私のコップだけ空なんやろ、と思ってたらそういう事かいな……」

「値段はアクアソルやローズソルの倍以上だけど、効果はお墨付き。某国の皇子(ロック)ツインバタフライの看板娘(リスベス)も絶賛しておりま~す」

「フェイトちゃんのお気に入りの店の子が絶賛してるってことは、味の心配はいらへんか? まぁええわ、飲めばわかるだけの話や。……それじゃあいただくで」

はやてはコップを手に取り、オメガソルをゴクゴクと飲み干す。すると彼女は次第に微笑んでいき、周囲に天使が舞いながら天に昇るかの如く幸せそうな表情を浮かべ……、

バタッと倒れた。

「は、はやて!?」

「はやてちゃん!?」

突然の事態にヴィータの血の気が引き、慌ててシャマルが検査魔法をはやてにかけようとして、ふと気づく。呼吸の乱れは無く、体調が崩れた訳でもない。目を閉じて、規則正しい呼吸を繰り返している安らかな状態……つまり、

「ね、寝てる……。はやてちゃん、ぐっすりと眠ってるわ……!」

「な、なんだ驚かせるなよ……。おいマキナ、睡眠薬を盛るイタズラは心臓に悪いからやめてくれ……」

「睡眠薬なんて入れてないよ、人聞きの悪い。私としてはオメガソルを飲むだけで八神が眠ってしまった事の方が驚いたよ。でもまぁ……これだけの疲れをずっと隠していれば、そりゃあ寝落ちもするか」

「どういうことだ?」

「八神はこれまでの疲労が一気に癒される感覚を味わって、気持ち良さのあまりつい眠りに陥った訳だ。ほら、マッサージされてると心地良くて眠くなるでしょ? あれと同じだよ」

「はぁ……理屈はわかったけど、じゃあなんでマキナは呆れてるんだ?」

「未熟とはいえ、これでも治癒術師だ。不健康な生活をしてる奴が目の前にいれば呆れもするよ。……シャマル、ちょっと尋ねたいんだが、八神はちゃんと睡眠時間取ってる?」

「え? ええっと……それは……その……」

「言いよどむって事は、やっぱり取ってないんだね? 八神の奴、全然寝てないんだね?」

「……じ、実は4ヶ月前からはやてちゃんの睡眠時間は段々短くなっていって、最近では1日で1~2時間ぐらいしか眠れないらしいし、仕事や調査などで徹夜とか夜勤も頻繁に……」

「道理でさっきの相談中、たまに八神の頭がアッパラパーになってたわけだよ。つぅか寝てないにも限度があるわ! 不眠症か! まだ十代なのにこんな生活習慣だと、遠からず過労死するよ!?」

はやてにあまり良い感情を持っていないマキナも、流石のコレには目も当てられなかった。ヴォルケンリッターも忠告や静止はしたのだが、はやての意思を優先した結果、このように限界ギリギリまで身体を酷使させてしまったという事だ。

「ノアトゥンで会った時から『あれ、コイツ地味に限界じゃね?』と内心感じてたけど、まさかそこまで眠ってないとは……睡眠時間削り過ぎだっての。なのはの時も思ったが、管理局は若手を食い潰して当然の体制なの? ブラックにも程があるよ……」

「ま、マキナちゃん……私の過労は自己責任だし、はやてちゃんがそうなったのも見方を変えれば私の撃墜が原因だから、あまり皆を責めないであげてくれるかな?」

「別に責める気もない。八神も八神だが、騎士も騎士ってだけの事さ。それよりなのは、ビーティーの使ってたベッドの上に布団乗せてくれる? 八神を寝かすから」

「ここに寝かすの? わかった、ちょっと待っててね」

すぐさま言われた通りになのはは布団の用意をしていく。ジャンゴとアギトも手伝ったおかげで、すぐに用意が整い、マキナは起こさないようにはやてをサイボーグ用のろ過装置を兼ねたベッドに寝かせた。掛布団をかけた後、マキナは静かに呟く。

「……癪だけど、あんたもサバタ様の心を受け継いでる。無理して倒れられたら、あの人に助けられた命を無駄にすることになる。そんな事になったら私、一生許さないから」

「マキナちゃん……あの……」

「シャマル達は八神の傍にいて、オメガソルは飲んだから一晩しっかり寝れば体力は完全に回復する。私はライマーの浄化に行くから、ジャンゴさん、おてんこさま、一緒に来てくれる?」

「もちろん構わないよ。じゃあちょっと行ってくるね」

「浄化しなければイモータルはいずれ復活してしまうからな。早めにしておくべきだろう」

という事でマキナとジャンゴ、おてんこは家を出て少しばかり街から離れた場所まで棺桶を運び、そこでパイルドライバーを召喚して浄化を始めるのだった。なお、ジャンゴはマキナがはやてにオメガソルを飲ませた真意に気付いていたが、直接尋ねはしなかった。尋ねたところで彼女は必ず否定するとわかっていたから。

「(ジャンゴ、こういう時は『ツンデレ乙』と言うんだ)」

「(あまりからかうのは止した方が良いと思うな)」

 
 

 
後書き
ハリアー2:MGS2 ボス戦でソリダスとヴァンプが乗っています。しかし撃破後のシーンで思うのですが、あの状況でソリダスが左目を損傷することはともかく、RAYに咥えられたまま水中に消える際、コクピットにまだソリダス乗ったままですよね。
壁走り:MGR 序盤のシーンで雷電がンマニ首相を追いかけてる時やRAY戦時にやってるので……。
タクシー:プジョー406を走らせる大塚さんボイスの爆走映画が好きです。
スポンサーやってる孤児院:なんとなく繋がりを持たせてみました。ただ、本編に本格的に関わったらガチの命の危機になるので……出すとしたらせいぜい脇役か小話まで?
アクアソル:ゼノギアス アイテムの一つ。HPを50回復します。この小説ではFFのポーション的なものにしました。ボクタイにも回復薬と魔法薬がありますが、それの次元世界バージョンという感じです。
ローズソル:ゼノギアス アイテムの一つ。EPを10回復します。実は美肌効果あり?
オメガソル:ゼノギアス アイテムの一つ。非戦闘時、使ったキャラのHPとEPを全回復します。値段と効果が釣り合ってない、便利すぎるアイテム。


VividStrike[略してVS(?)]4話はマジ衝撃的でした。しかし一方で、そりゃ性格変わるしコミュ力育たないわ、などと納得する部分もありました。ちなみにふと、FFTのディリータとちょっと境遇似てる? とも思いました。権力者の家に引き取られてお金の心配は無くなったけど、大事な家族を失ったとか、生まれで差別されてる所とか。むしろラムザのような理解者がいないので、余計アレかもしれませんね。 
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