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魔界転生(幕末編)

作者:焼肉定食
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第70話 龍馬の思惑

 龍馬は沖田と別れてから、その足で長崎へ向かった。
「久しぶりじゃの、お慶さん」
 龍馬は以前から信仰があった茶商の大浦慶に会いに行った。今では、長崎では有名な豪商となった慶にはやってもらいたいことがあったからだ。
「え?龍さん、本当に龍さんなのか?」
慶も初めはびっくりして手放しには喜べなかった。
「龍さん、あんた、京で死んだって聞いたけど、生きていたのかい?」
慶の問いに龍馬ははにかんだ様に笑った。
「う、うん。まぁ、そんなところじゃ」
龍馬はその問いに答えるのも面倒くさくなっていた。
「ところで、お慶さん。弥太郎は元気にしてかね?」
「あぁ、元気にしているよ。岩崎さんになんか用があるのかい?」
大浦慶は頭のいい女性である。龍馬の意図を組んですぐさま答えた。
「そうか、達者か。では、お慶さん、弥太郎に連絡を取りついで貰いたいのだが。それと、グラバーさんにもお願いしたいぜよ」
今では九州内での大企業と呼び声が高いグラバーと岩崎弥太郎。その二人と連絡が取りたいということは途轍もない狙いがあると慶は察した。
「わかった。まぁ、二人とも忙しい身だから、うまく取り次げるかどうかわからないけど、やってみるよ」
「お慶さん、苦労をかけるが、よろしく頼みます」
 龍馬は慶に深々とお辞儀をした。
「何言ってんだい。龍さんの為ならお安い御用さ」
 慶は何故が気持ちがわくわくしていた。昔、志を高く以て時代を駆け抜けた志士たちを世話していたことの自分に戻っていくかのような感じがしていた。

 数日後、龍馬に慶の使いだという小僧が訪れてきた。
 グラバー邸にて岩崎弥太郎とグラバー氏との会談が整うとのことだった。
 龍馬は慶にお礼を言ってくれと小僧に言って駄賃を渡した。
小僧はにこりと微笑んで急ぐように龍馬の元を去っていった。
(さて、これからぜよ)
 龍馬はにやりと微笑んだ。

 新政府軍と会津が睨みあっているころに、龍馬、岩崎弥太郎そしてグラバーの三者会談が始まった。
 岩崎は初め、この会談に乗る気ではなかった。
 大浦慶から龍馬が生きていたと聞いた時、信じられなかった。
 龍馬暗殺の一報をもらった時、小躍りしたものだった。龍馬や勤王党の連中には、関わりたくなかったし、土佐にいたときの事を思い出すたびに腸が煮えくりかえる。そして、特に目の上のたんこぶが、各いう、坂本龍馬その人だった。
 何故なら、つねに自分より先に走り出している龍馬に嫉妬し、妬み、憤りを感じていたからだ。その反面、認めざるを得ないことに岩崎は龍馬を疎ましく思っていたのだった。
 だからこそ、これからは自分の時代と思い、踊りたい衝動に駆られてしまったのだ。が、その龍馬が生きていたとなれば、またかと砂を噛む思いで本人と会うことなんか考えもしていなかった。
「ひ、ひさしぶりじゃの、弥太郎。元気してたか?」
 龍馬は岩崎に手を差し出した。
「あぁ、なんとかな。おまんも元気そうでなによりじゃ」
 岩崎は龍馬と握手を交わした。が、その手の冷たさに驚いた。
「りょ、龍馬、おまん、なんぜよ。その手の冷たさは?」
 岩崎の言葉に龍馬はいつものごとく屈託のない笑顔で答えた。
 岩崎だけではなく、グラバーも龍馬の手の冷たさに驚きを感じていた一人だった。
(もしや、やはり本当に龍馬は死んでいて、どういう訳か蘇ったのではないのだろうか?)
 岩崎はすぐにそう察した。そして、やはり、会うべきではなかったと後悔し始めた。
「さて、早速なんじゃが、弥太郎、グラバーさん、おまんらの力を貸してほしいんぜよ」
 龍馬は椅子に座る前に深々と頭を下げた。
「な、なんぜよ、龍馬。唐突に」
 岩崎は話もしていないのに、いきなり頭を下げてきた龍馬に驚いた。
「そうですよ、ミスター・坂本。話もなく力を貸せと言われても、何をどうすればいいのかわかりません」
 グラバーは龍馬を諭すように片言の日本語で言った。
「そうじゃのぉ。グラバーさんの言う通りじゃな」
 龍馬は大声で笑った。一同は席に付いたのと同時に龍馬は話始めた。
「実はのぉ。わしは日本から離れようと思う」
 龍馬の突然の話に岩崎とグラバーは驚きを隠せないようにお互いの顔を見つめあった。
「日本を離れるってどういうことぜよ、龍馬?」
 先に口を開いたのは岩崎の方だった。あまりにも突拍子のない話ではあるが、龍馬らしいと感じた。
「まぁ、坂本さんらしいと言えばらしいが、なぜ、今なのです?」
 グラバーは訝しげに龍馬に聴いた。グラバーと龍馬は確かに親しい関係にはあるが、岩崎よりは長くはない関係ではない。
「そじゃのぉ。この戦いは誰が見ても薩長の勝ちぜよ。おそらく、政権はその二藩がになうじゃろう。そうなれば、わしの出番はもう終わりじゃ」
 龍馬の言葉に岩崎とグラバーは頷きながら聞き入った。
「それにのぉ、わしは政治なんか興味ないきに。世界に飛び出して面白い商売をしちゅっと思ってる。その時は、弥太郎、グラバーさん、おまんらにもおいしい思いをさせちゃるけ、協力してくれんかの?」
龍馬は意味深に笑ってみせた。
「ほぉ、面白い商売ねぇ。それはどんなもんぜよ」
 岩崎は龍馬を疑い深そうに眼を細めた。
「それはまだ言えんなぁ。じゃけ、おいしい思いは出来ると思うがねー」
 龍馬は顎を撫でで笑った。
「何故言えないのです?私たちは商人です。列記とした根拠がなければ手は貸せませんよ」
 グラバーの言葉はもっともだというように岩崎は大きく頷いた。
「あぁ、まぁ、いいんぜよ。おまんらが駄目なら、別の者に協力をしてもらうだけじゃき。まぁ、まずは、米国にも持っていこうかのぉ。飛びついてくると思うけ」
 龍馬は席を立ち、くるりと後ろを向いて歩き出そうとした。
「ま、まって、龍馬」
 岩崎とグラバーはアメリカという言葉を聞いて焦りだした。勿論、これは龍馬の戦略であるのだけれど。
「うん?どがいした?」
 龍馬は後ろ向きで立ち止まった。そして、にやりと笑った。
「今のおまんのプランは聞かない事にしよう。おまんなら、きっと面白い事考えていそうだからな」
 岩崎は口早に言った。
「弥太郎。おまん、協力してくれると言うんか?」
 龍馬はまだ後ろ向きでいった。
「あぁ、協力させてもらおう」
 岩崎は首を上下に振ってこたえた。
「さすが、親友。弥太郎、わしはおまんを信じていたきに」
 龍馬は岩崎の肩を叩いて大声で笑った。
「そいじゃ、そういうことで二人ともよろしく頼むぜよ。連絡はこっちからするきに」
 龍馬は深々とお辞儀をして、席を離れていった。

「龍馬さん、ちょっと待ってもらえませんか?」
 岩崎と別れたグラバーが、小走りに走って来て龍馬を呼び止めた。
「うぅん?グラバーさん、なんか用かい?」
  息を整えているグラバーを龍馬はみつめた。
「龍馬さん、あなた、何を企んでますか?」
 グラバーはどうしても納得がいかないようだった。
 アメリカを出されたときは焦ったが、何の企みもない事にアメリカだって動くことはしないだろう。
「まぁ、そうじゃのぉ。グラバーさんになら言ってもいいじゃろう」
 龍馬はにやりと笑った。
(私ならいいだと?もしかして、日本の大事のことか?)
 グラバー程頭の斬れる男はないかった。すぐに、龍馬の狙いが解った。
「これはの、他言無用でお願いしたい。実はの・・・・・」
 龍馬はグラバーに耳打ちをした。
「ば、馬鹿な!!そんなことを」
 グラバーは目を大きく見開いて龍馬を見つめた。が、龍馬はにやりと笑うだけだった。 
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